今日も地球の片隅で。 作:銀匙
「鉄血の連中に襲われたんですか?そりゃお気の毒に・・」
「なので、どうしても1台MRAPが至急必要になりまして」
「なるほど・・ただ、8輪タイプは数が少ないんですよね・・」
マスターはMP40の運転する装甲車で、以前MRAPを買った店に来ていた。
加古を連れてきていないのでマスターは心配していたが、店員はマスターの顔を見るなり思い出した。
MP40はそっとマスターの隣に立ち、周囲に目を配っている。
マスターはさすがに鉄血に報復を行ったことは伏せたものの、店員にはほぼ事実を伝えた。
ゆえに気の毒そうな表情のまま、店員は店の裏のストックヤードにマスター達を案内したのである。
「うちにあるのは2台なんですが、実質は1台ですね」
「なぜ?」
「もう1台はマスターさんから下取りした車だからですよ」
「あぁ・・あれ直せそうですか?」
「いや、あれはフレームも割れてたので部品取りにしましたよ」
「そうですか・・」
「本当にハードな用途にお使いなんですね」
「ええ」
「10輪や12輪でもダメですか?」
「あまり長いとUターンしにくいので」
「では6輪では?6x6は機動力と取り回しが良くて選択肢も多く、値段もお手頃ですよ?」
「鉄血製の大型多脚戦車が3体くらい乗れば良いんですが」
「え?そうなるとむしろ10輪じゃないですか?たとえばこれとか」
「あー・・」
マスターの表情を見た店員は苦笑した。
「では、1台だけある8x8を御覧になりますか?」
「ええ、見せてもらえますか」
「なるほど・・なるほどなぁ」
「一応、8輪ですがね」
マスターが案内された1台は、確かに8つのタイヤを持っていた。
しかし以前に乗っていたMRAPに比べると明らかにタイヤが小さく、細い。
全体の大きさも小さく、積載容量も比例して小さい物だった。
マスターは首を振った。
「これじゃない・・こう・・違うんです・・」
「では前回納車した8x8に近いイメージの6x6をご紹介しますよ。幾つかありますので」
「えぇ・・お願いします」
「!」
3台目を見せた時のマスターの表情に、店員はくすっと笑った。
なるほど、これがティンと来たって奴なのかな。
マスターは店員と車をせわしなく交互に見ていたが、上手く言葉に出来ないようだ。
「どうぞどうぞ、鍵は開いてますので自由に御覧ください」
あっという間に乗り込むマスターを見て、店員は頷いた。
確かに納車したMRAPと近いシリーズだから、内装も近いかもしれない。
タイヤサイズも同じだし、そうか、ライトとかアイコン的なパーツが共用か。
6x6の中でも車輪が前4に後2とかではなく、前後方向に均等配分で3ヶ所にある。
ただ、純粋な装甲車だからかなり高額なんだが・・下取りもないようだし大丈夫だろうか・・
「あの」
店員はMP40から声をかけられたので、思考を中断した。
「どうしました?」
「こちらでは車載オプション品も取り扱っておられますか?」
「ええ、ある程度、ですがね」
「例えば、小型のCIWSとかはありますか?」
「幾つかありますが、何に積載されるんです?」
「乗ってきた装甲車なのですが・・」
「あのサイズだと機銃までですね。トップヘビーになり過ぎて横転の恐れがあります」
「やはりそうですか・・あと、あの」
「はい」
「今、しゅ、主人が見ている車ですが、総額は幾ら位ですか?」
「そうですね・・前回と同じ装備と考えますと、金貨で600くらいかかります」
「600、ですか」
「今は金も相場並みですし、下取りも無いそうですから、お支払いを考えると厳しいかもしれませんね」
MP40は小さく首を振った。
「いえ、復興を手伝ってくださる方達が居まして」
「なるほど。良い商いをなさってこられたのですね」
「はい。主人はそういう人ですから」
神妙な面持ちで店員と会話をしているMP40。
だが、頭の中ではマスターの事を主人と呼ぶことに快感を覚えていた。
あぁ、これは・・これはいけない趣味に目覚めてしまいそうです・・
でも世間通念上、夫の事は主人と、主人と呼ばないといけないのです・・あぁ・・
「それでは、私達はこれで」
「いやぁ、私も長年取引をしてますが、金貨580枚を1回でお支払いされた方は久しぶりです」
そう。
中を確認し、場内を軽く走ったマスターは、ほぼ即決でこの6輪MRAPに決めた。
そして前回同様、不要な装備の解除と積載に必要な追加装備を施してもらった。
作業の済んだMRAPの運転席に乗り込むマスターに、店員は声をかけた。
「修理等ご相談に乗りますので、いつでもお立ち寄りください」
「良い車両を紹介してくれてありがとう。また来ます」
「今度は長持ちすると良いですね」
「全くです。それでは」
マスターは軽くクラクションを鳴らしてMP40の装甲車に合図をすると、出発した。
道半ばまで来た時、MP40から無線連絡が入った。
「マスター様、聞こえますか?」
「あぁ、どうしたMP40」
「新しいお車は如何ですか?8輪から6輪に変わりましたが」
「段差を乗り越える時、短くなったなとは思うね。あとは動力の差かなあ」
「動力、ですか?」
「デラさんに融合炉を積んでもらった8x8はそれはもうトルクの塊だったからね」
「運転しやすいですか?」
「しやすいよ。発進も停止もスムーズになるしね。MP40もやってもらったらどうだい?」
「お幾ら位かかるのでしょうか?」
「君は気にしなくていい。私もこの車に施してもらうから一緒に頼んであげるよ」
「え、でも」
「妻に別会計だなんて情けない事言わせないでくれよ」
「・・・えへへっ」
「ただ、部品を用意しないといけないかもしれない」
「部品ですか?先程のお店にはなかったのですか?」
「鉄血のMシリーズ多脚戦車から引き抜くしかないんだよ」
「どこにある部品かお分かりになりますか?」
「胴体にカメラがついてるだろう?あのすぐ傍の胴体内側だよ。オイルを作ってくれるんだ」
「何体分くらいご入用ですか?」
「私と君の車でそれぞれ1個あれば良いはずだよ」
「解りました。それではマスター様をお家まで送った後、ちょっと取ってきます」
「え、いや、そんな簡単に取れないでしょ?加古だって結構苦労してスナイプしてたし」
「Mシリーズ多脚戦車ですよね?」
「そうだけど」
「じゃあ大丈夫だと思います」
「まぁそんな火急の用件ではないし、今日は帰るだけにしておこうよ」
「解りました。マスター様の仰る通りにします」
そして、翌日。
「マスター様、おはようございます」
「あぁ、おはようMP40・・・おや、表に並べてあるのは、もしかして・・・」
「はい。散歩のついでにMシリーズ多脚戦車から取ってきました。該当する部品はありますか?」
「・・あぁっと、うん、これだ。この部品。配線も含めて無傷の物が2個あれば良いよ」
「なるほど。これとこれはちょっと傷が入ってしまいましたね。ではこちらの3つで」
「デラさんに連絡しておくよ。あ、あと15分くらいで朝食だよ?」
「解りました!では手を洗ってきますね」
「うんうん、偉い偉い」
「えへへ」
鼻歌交じりで洗面所に向かったMP40の後姿を見ながら、マスターはふと呟いた。
「・・・散歩のついで?」
どこかに多脚戦車の残骸置き場でもあったのかな?
そもそもMP40って散歩の習慣あったっけ?
まぁ良いか。食事の支度の途中だ。