今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第36話

 

「鉄血の連中に襲われたんですか?そりゃお気の毒に・・」

「なので、どうしても1台MRAPが至急必要になりまして」

「なるほど・・ただ、8輪タイプは数が少ないんですよね・・」

 

マスターはMP40の運転する装甲車で、以前MRAPを買った店に来ていた。

加古を連れてきていないのでマスターは心配していたが、店員はマスターの顔を見るなり思い出した。

MP40はそっとマスターの隣に立ち、周囲に目を配っている。

マスターはさすがに鉄血に報復を行ったことは伏せたものの、店員にはほぼ事実を伝えた。

ゆえに気の毒そうな表情のまま、店員は店の裏のストックヤードにマスター達を案内したのである。

「うちにあるのは2台なんですが、実質は1台ですね」

「なぜ?」

「もう1台はマスターさんから下取りした車だからですよ」

「あぁ・・あれ直せそうですか?」

「いや、あれはフレームも割れてたので部品取りにしましたよ」

「そうですか・・」

「本当にハードな用途にお使いなんですね」

「ええ」

「10輪や12輪でもダメですか?」

「あまり長いとUターンしにくいので」

「では6輪では?6x6は機動力と取り回しが良くて選択肢も多く、値段もお手頃ですよ?」

「鉄血製の大型多脚戦車が3体くらい乗れば良いんですが」

「え?そうなるとむしろ10輪じゃないですか?たとえばこれとか」

「あー・・」

マスターの表情を見た店員は苦笑した。

「では、1台だけある8x8を御覧になりますか?」

「ええ、見せてもらえますか」

 

「なるほど・・なるほどなぁ」

「一応、8輪ですがね」

マスターが案内された1台は、確かに8つのタイヤを持っていた。

しかし以前に乗っていたMRAPに比べると明らかにタイヤが小さく、細い。

全体の大きさも小さく、積載容量も比例して小さい物だった。

マスターは首を振った。

「これじゃない・・こう・・違うんです・・」

「では前回納車した8x8に近いイメージの6x6をご紹介しますよ。幾つかありますので」

「えぇ・・お願いします」

 

「!」

3台目を見せた時のマスターの表情に、店員はくすっと笑った。

なるほど、これがティンと来たって奴なのかな。

マスターは店員と車をせわしなく交互に見ていたが、上手く言葉に出来ないようだ。

「どうぞどうぞ、鍵は開いてますので自由に御覧ください」

あっという間に乗り込むマスターを見て、店員は頷いた。

確かに納車したMRAPと近いシリーズだから、内装も近いかもしれない。

タイヤサイズも同じだし、そうか、ライトとかアイコン的なパーツが共用か。

6x6の中でも車輪が前4に後2とかではなく、前後方向に均等配分で3ヶ所にある。

ただ、純粋な装甲車だからかなり高額なんだが・・下取りもないようだし大丈夫だろうか・・

「あの」

店員はMP40から声をかけられたので、思考を中断した。

「どうしました?」

「こちらでは車載オプション品も取り扱っておられますか?」

「ええ、ある程度、ですがね」

「例えば、小型のCIWSとかはありますか?」

「幾つかありますが、何に積載されるんです?」

「乗ってきた装甲車なのですが・・」

「あのサイズだと機銃までですね。トップヘビーになり過ぎて横転の恐れがあります」

「やはりそうですか・・あと、あの」

「はい」

「今、しゅ、主人が見ている車ですが、総額は幾ら位ですか?」

「そうですね・・前回と同じ装備と考えますと、金貨で600くらいかかります」

「600、ですか」

「今は金も相場並みですし、下取りも無いそうですから、お支払いを考えると厳しいかもしれませんね」

MP40は小さく首を振った。

「いえ、復興を手伝ってくださる方達が居まして」

「なるほど。良い商いをなさってこられたのですね」

「はい。主人はそういう人ですから」

神妙な面持ちで店員と会話をしているMP40。

だが、頭の中ではマスターの事を主人と呼ぶことに快感を覚えていた。

あぁ、これは・・これはいけない趣味に目覚めてしまいそうです・・

でも世間通念上、夫の事は主人と、主人と呼ばないといけないのです・・あぁ・・

 

「それでは、私達はこれで」

「いやぁ、私も長年取引をしてますが、金貨580枚を1回でお支払いされた方は久しぶりです」

 

そう。

中を確認し、場内を軽く走ったマスターは、ほぼ即決でこの6輪MRAPに決めた。

そして前回同様、不要な装備の解除と積載に必要な追加装備を施してもらった。

作業の済んだMRAPの運転席に乗り込むマスターに、店員は声をかけた。

 

「修理等ご相談に乗りますので、いつでもお立ち寄りください」

「良い車両を紹介してくれてありがとう。また来ます」

「今度は長持ちすると良いですね」

「全くです。それでは」

マスターは軽くクラクションを鳴らしてMP40の装甲車に合図をすると、出発した。

道半ばまで来た時、MP40から無線連絡が入った。

「マスター様、聞こえますか?」

「あぁ、どうしたMP40」

「新しいお車は如何ですか?8輪から6輪に変わりましたが」

「段差を乗り越える時、短くなったなとは思うね。あとは動力の差かなあ」

「動力、ですか?」

「デラさんに融合炉を積んでもらった8x8はそれはもうトルクの塊だったからね」

「運転しやすいですか?」

「しやすいよ。発進も停止もスムーズになるしね。MP40もやってもらったらどうだい?」

「お幾ら位かかるのでしょうか?」

「君は気にしなくていい。私もこの車に施してもらうから一緒に頼んであげるよ」

「え、でも」

「妻に別会計だなんて情けない事言わせないでくれよ」

「・・・えへへっ」

「ただ、部品を用意しないといけないかもしれない」

「部品ですか?先程のお店にはなかったのですか?」

「鉄血のMシリーズ多脚戦車から引き抜くしかないんだよ」

「どこにある部品かお分かりになりますか?」

「胴体にカメラがついてるだろう?あのすぐ傍の胴体内側だよ。オイルを作ってくれるんだ」

「何体分くらいご入用ですか?」

「私と君の車でそれぞれ1個あれば良いはずだよ」

「解りました。それではマスター様をお家まで送った後、ちょっと取ってきます」

「え、いや、そんな簡単に取れないでしょ?加古だって結構苦労してスナイプしてたし」

「Mシリーズ多脚戦車ですよね?」

「そうだけど」

「じゃあ大丈夫だと思います」

「まぁそんな火急の用件ではないし、今日は帰るだけにしておこうよ」

「解りました。マスター様の仰る通りにします」

 

そして、翌日。

 

「マスター様、おはようございます」

「あぁ、おはようMP40・・・おや、表に並べてあるのは、もしかして・・・」

「はい。散歩のついでにMシリーズ多脚戦車から取ってきました。該当する部品はありますか?」

「・・あぁっと、うん、これだ。この部品。配線も含めて無傷の物が2個あれば良いよ」

「なるほど。これとこれはちょっと傷が入ってしまいましたね。ではこちらの3つで」

「デラさんに連絡しておくよ。あ、あと15分くらいで朝食だよ?」

「解りました!では手を洗ってきますね」

「うんうん、偉い偉い」

「えへへ」

鼻歌交じりで洗面所に向かったMP40の後姿を見ながら、マスターはふと呟いた。

「・・・散歩のついで?」

どこかに多脚戦車の残骸置き場でもあったのかな?

そもそもMP40って散歩の習慣あったっけ?

まぁ良いか。食事の支度の途中だ。

 

 

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