今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第37話

 

雑貨店「オリファイ」が襲撃されてから1ヶ月が過ぎた頃。

 

「・・・ですからこの物件は大変お得で引き合いも多いんですよ、見てくださいこちらの・・」

 

マスターはこの土地に詳しいリーリャに相談し、仮住まいとは別の場所に店を構えることにした。

仮住まいを店にすると人が出入りしすぎてデラが来られなくなる、というのが理由である。

マスターはリーリャとホワイトを連れて不動産屋を訪ね、こうして案内を受けていた。

なおMP40は元の商売に復帰して留守にしており、加古は自室ですやすやと眠っている。

 

マスターは不動産屋から窓の外に目を向け、リーリャに囁いた。

「なぁ、ここに来る1本手前の通りを右に折れる方向で客が流れてないか?」

リーリャはこくりと頷く。

「正解。FOLMEがあっちだからね。商店街に近いけどここは誰も通らないよ」

「なるほどなあ」

「こんなとこなら安く買い叩いて所有物件にしないと釣り合わないけど、この大家は貸したがるのさ」

「継続的かつ安定した収入って奴だな?」

「うん。しかも強欲だから家賃が高くてさ、入った店は次々潰れてるよ」

「いわくつきじゃないか」

「ほとんどそうだと思う。まぁ敷地は周囲より倍以上広いんだけどさ」

「どんな店が来たんだ?」

「デザイナーズブランドとか高級レストランとか、ちょっと来客人数が少くても良さそうな感じの奴」

「あー、静けさも売りって奴が挑んだんだな?」

「そういうこと。大衆食堂とかの薄利多売系は最初から避けてたよ」

「で、全滅か。よっぽどだな」

「大変だよね、こんなとこ委託されちゃあ」

ふと、室内に視線を戻した二人と目が合った不動産屋は、満面の笑みで話しかける。

「いかがですか!素晴らしい物件でしょう!これが1年でたった金貨145枚ですよ!」

「いかがわしい物件?」

「いやいやいやいやいやご冗談を」

「売る気はないんですよね?」

「オーナー様は賃貸をご所望でして」

「じゃあ次行きましょう」

「ええっ!?貸店舗をお探しではなかったので?」

「売り上げに見合えばどちらでも良いです。少なくともそんな賃料では予算オーバーですから」

「・・具体的には?」

「立地が良くて高いよりはお手頃で僻地の方が良いですね」

「砂漠の真ん中でも?」

「前はまさにそうでしたよ」

不動産屋は額に手をやった。皮肉だったのに経験済かよ。手ごわいなおい。

「・・1年くらいお続けになってさすがに大変に思われた、そんな感じですか?」

「いえ、3000年少々使っていたのですが、吹き飛びましてね」

「は?3000年?え?吹き飛んだ?」

リーリャが肩をすくめた。

「冗談みたいだけど本当の話さ」

不動産屋の表情が曇った。

「吹き飛ぶとは、その、そういった危険のあるご商売なんですかね?」

「ただの雑貨屋ですが?」

「えぇ?」

不動産屋は理解不能といった表情を浮かべていた。砂漠で雑貨屋が3000年も続けられるのか?

その時、ホワイトが通りの奥まったところにある1軒を指さした。

「すまない、あの建物にforSALEの看板があるが、売り物なのか?」

不動産屋はパッと表情を切り替えた。訳の分からない話題はそっとしておこう。

「はいはい!ええと・・あぁあれですね!ええ!うちの売り物件ですよ!ご案内しましょう!」

どたどたと向かって行く不動産屋を追いながら、マスターはホワイトの背後から囁いた。

「あそこじゃもっと客が来ないんじゃないか?」

ホワイトは小さく首を振った。

「ちょっと面白い物があるかもしれない。どうにかして地下を探知する時間をもらえないか?」

「床とか剥がさないでくれるかい?」

「もちろんだ。最下階に立てればいい」

「どのくらい?」

「静かな状態で5分は必要だ」

「解った」

頷いた後、ふとマスターはホワイトに訊ねた。

「ところで1つ聞いてもいいかな」

「あぁ」

「どうして不動産屋はアンドロイドなのに昔を訊ねたりしないんです?」

「知り合いの可能性があるアンドロイドとは識別コード体系が異なる。彼は私よりずっと新しい個体だ」

「なるほど。そういう事も分かるんですね」

「あぁ」

 

 

-----

 

 

「こちらの物件は1階が店舗、2階が住居となっておりまして、あぁ地下の物置もありますね」

マスターはホワイトと目配せを交わすと、不動産屋に告げた。

「じゃあ下から順に見せてもらえますか?」

そして不動産屋が物置のドアを開けている間に、マスターはリーリャにも要点を伝えた。

「けほっけほっ・・えー、このくらい埃が舞うほど湿度は低いのでまさに冷暗所として最適で・・けほっ・・」

「・・なるほど。広さもありますね」

「そっそうでしょう!あちらが車庫と地続きの出入り口なので大きな物もラクラクで・・げほっげほっ!」

「ちょっとうちの店に必要な機材があるんですが、入るかどうか彼女に測量させてもいいですか?」

「ええ、もちろんですとも!」

「では私達は1階に上がりましょうか」

不動産屋は手に持ったカンテラを掲げながらホワイトに尋ねた。

「お一人で大丈夫ですか?今、電気が来ていないので、私が離れると真っ暗になりますが・・」

ホワイトは頷いた。

「暗視モードも持っている。心配無用だ」

「なるほど、それなら大丈夫ですな。では上へ参りましょう」

マスターとリーリャはホワイトに頷いた後、不動産屋の後を追って行った。

「・・・」

ホワイトは3人が立ち去った後、暗い地下室をうろうろと歩いていたが、やがて一ヶ所で足を止めた。

「・・・うむ。やはりそうか。む?これは・・」

 

「いかがです?2階の住居エリアだけでも5人家族が住めますよ!」

「いや、それはかなりギュウギュウ詰めじゃないですか?」

「ここにお一人、隣に上下2段のベッドを2つ並べて、という感じで」

「この部屋にベッド3セットですか!?それだけで部屋が埋まりません?」

不動産屋はちっちっちと首を振った。

「今日び都市に住むというのはそういう物ですよ」

「はぁ」

リーリャが頷いた。

「残念だけど不動産屋さんが正しいよ。今じゃ広くてもベッドが自分の部屋ってパターン多いし」

「広くてもって・・アンドロイドさんでも横になる場所は要るでしょ?」

「理想は横だけど、支える物があれば立ったままでも何とかなるから」

「うわぁ・・」

不動産屋は擦り切れる勢いで両手を揉み合わせた。

「いかがでしょう!こちらお安くなってますよ?」

「参考までにいかほどです?」

「金貨1250枚!」

「砂漠ならシェルター込みで住居付き店舗を建てられますよ・・」

「ローン可ですよ!」

「ローン?どうやって?」

「毎月分割分の費用を頂きに伺います。お支払いが終わればこちらの物件の証文をお渡しします」

「あぁ、こちらでは年月の概念が生きてるんですね」

「えぇ。ですからご心配なく、無理なくお支払い頂けますよ!」

「お互いに支払額の累計を証明できる仕組みは?」

「割符です」

「ふーむ・・支払い中に金相場が下落した場合は?」

「そっ・・それ・・は」

「それは?」

「・・・お客様の責任で追加金を最終回にお支払い頂きます。こちらもローン可能です」

「支払い途中で履行不能になった場合は?」

「・・・・・それまでに頂いたお金は賃貸料として充当し、契約は破棄となります」

「それじゃあだいぶ不動産屋さんが有利ですねぇ」

「・・・」

「リーリャ、やっぱり砂漠にシェルター建てて住む方が良いような気がしてきたよ」

「そんなお客様!都市の生活は豊かですよ!砂漠とは比べ物になりませんよ!」

「金貨500枚くらいならなあ・・買っても良いんですが・・」

「それじゃ土地代にもなりませんよ・・更地でも金貨800枚はしますから」

探るような目でマスターを見る不動産屋。

そっと窓枠に溜まった埃を指でなぞるマスター。

興味津々の目で二人の間に立つリーリャという構図である。

その時、ホワイトが皆の背後にある戸口に現れ、声をかけた。

 

 

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