今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第38話

「マスター、「測量」が済んだぞ」

マスターがホワイトの目を見ながら声をかける。

「やぁお疲れ様、上手く行きそうかい?」

ホワイトは頷いた。

「やってみる価値はある。「半年」ほど借りてはどうだろうか?」

マスターはホワイトの意図に頷くと、不動産屋の方を見た。

「貸してもらえますか?」

不動産屋は首を振った。

「こちらは売却専用の物件となっておりますので」

「では例えば、我々が返済中に行方不明となった場合は?」

不動産屋は一気に嫌そうな顔になった。

「履行不能と同じ・・それまでのお支払金額を賃貸料として頂き、権利は差し上げません」

「分割支払金が賃貸料として没収されるのですから、その後の返済義務はありませんね?」

「うぐっ」

「事業が軌道に乗るかどうか様子を見たいのですよ。半年だけ貸して頂けませんか?」

「・・月額おいくらで?」

リーリャが両手を自分の後頭部に当てながら口を開いた。

「この辺の相場は月に金貨2~3枚かなあ」

不動産屋が一層渋い顔になったので、マスターは頷いた。

「では、月に金貨5枚お支払いするので如何?」

「その後は?」

「買うか諦めるか、6ヶ月後を目途にお答えします」

「それまでにお支払い頂いた分は?」

「お納めください。購入する場合は別途全額お支払いしますよ」

「ふーむ・・・」

不動産屋はハンカチで汗を拭きながらしばらく考えていたが、

「それだけお支払い頂けるのなら、まぁ良いでしょう。最長半年ですよ?」

「ちなみにライフラインは?」

「電気と上水道は引いてあります」

「下水は?」

「処理施設がありますよ」

「それらは使えるように点検整備頂いてから引き渡しですね?」

「ぐっ・・まぁ、賃貸ですからそうですな」

「なるほど。では最初の月の分は引き渡しの日にお支払いですな?」

「えっ・・手付として1回目の家賃は本日頂きたいのですが」

「返却時にお返しいただける敷金としてなら構いませんよ?あと、整備期間はそちら持ちということで」

「お客さんにはかなわないなあ・・解りましたよ。では引き渡しの日から6ヶ月ですね」

「ええ」

リーリャは面白そうにマスターを見ていた。

なるほど、人間はこういう風に交渉を運ぶのか。

 

「えー、では契約書にサイン頂き、敷金として金貨5枚をお預かりした証文がこちらになります」

「ありがとうございます」

「ではライフラインの整備が済みましたらご連絡いたします」

「家の鍵はその時頂けるんですね?」

「その通りです」

「解りました。それではよろしくお願いいたします」

 

 

-----

 

 

帰宅後。

 

ホワイトが珍しくリーリャの袖を引っ張り、仮住まいへと招いたのである。

マスターはその様子を見て頷くと、リビングへと案内した。

 

「・・それで?ホワイト、何がありそうなんだい?」

「こんなものがあった」

そう言いながらホワイトは、手の中の物を二人に見せた。

リーリャはその欠片をつまんで首を傾げた。

「なんですかこれ?ただの石じゃないの?」

マスターが欠片を手に取ると、ホワイトはいたずらっ子のような表情を浮かべた。

「どうだ、マスターは解るか?」

マスターはくるくると欠片を全方向から眺めていたが、ハッとした顔になった。

「これ、触媒石か!?」

ホワイトは頷いた。

「正解。下半分はかなりの高純度だ」

 

触媒石。

 

アンドロイドや機械生命体のエネルギー源として必要な鉱石である。

しかし、ニーズに対して全く足りない程度の産出量しか確認されていない。

これまでの大規模な紛争地域は例外なく触媒石の産出地であるといえばお分かりだろうか。

マスターはホワイトを見た。

「どうしてこんなもんがあると外から見て解ったんだい?」

ホワイトは肩をすくめた。

「我々アンドロイドにとっては継続的に必要となるものだからな」

「で?」

「その、リーリャは解らないが、私には専用の探知機が備わっているんだ」

二人の視線を感じたリーリャは首を振った。

「アタシにはついてないよ。ホワイトさんとは違う型だからかなあ?」

「その辺は解らないが、まぁ、掘れるだけ掘ってみないか?」

「掘る先に問題は無かったのかい?」

「ああ。地下室の下には水脈等は確認されなかった」

「どれくらい埋まってそう?」

「少量でも十分だ。少し前の相場表だったが、この塊で金貨250枚の価値はあるらしい」

リーリャとマスターは、マスターの手のひらの上にある石の欠片をじっと見た。

たったこれっぽっちで金貨250枚?

はっと顔を上げたマスターは、ホワイトを見た。

「じゃあ、あの地下室はまさか・・」

ホワイトは首を振った。

「採掘して埋め戻したといった形跡はなかった。純粋に物置として作ったのだろう」

「隣接住宅でも出るのかな?」

「いや、あの地下室でも鉱脈になりそうな場所はごく一部で、それも垂直方向だ。隣接地では出ないだろう」

「じゃあ縦方向に掘り進めるの?」

「地下室のほぼ中央をな。ただしそれほど埋蔵量はないようだから半年程度と言ったのだ」

「・・リーリャ先生」

「な、なによ、いきなり先生呼ばわりして」

「採掘機作りません?」

「私の専門は制御プログラムなんだけど・・」

「制御プログラムですよね?」

「ロケットエンジン式の採掘機なら手を貸せるかも」

「どう考えてもありえない」

「デラさんに作ってもらえば良いじゃない。動力系全般なんだから」

「推進システムはそれで良いとして、採掘機本体がなあ」

「マイクロHCBで採掘してみる?それなら制御プログラム作ってあげるよ?」

「1発で上の建物ごと豆粒になりそうなんですが?」

「ばれた?」

その時。

「ふあぁー、マスター、ぉはよぅ」

「おはよう加古。まぁ、パジャマ着てるからよしとしよう。そもそもここは住まいだしな」

「何の話?悪だくみ?」

「採掘機が必要なんだが、掘削部分を作れそうな職人に心当たりが無くて困ってるんだよ」

「なんでそんな物が居るの・・デラさんにでも頼んだら?」

マスターは首を振った。

「あんまりなんでもかんでも頼るのは悪いからさ」

「他に手が無ければ仕方ないじゃん」

「まぁそうなんだが・・なぁ」

リーリャは肩をすくめた。

今の話程度、仮にマスターがデラさんをアテにしたところでデラさんは気にも留めないだろう。

けど、そうやって頼りすぎないところが良いんだろう。人間のつながりって複雑。

マスターは頷いた。

「・・・よし!じゃあ久しぶりにDIYしてみるか!」

その途端、加古がジト目になった。

「良いけどさぁマスター」

「なんだ?」

「また研究室に籠ったまま丸3日出てこないとかやめてよ?」

ぎょっとした顔になるホワイトとリーリャを横に、マスターは肩をすくめた。

「今回は掘削機だからなあ。それほど目新しい仕組みが要るものでもないだろう」

「だって前回籠りっきりになったのってネズミ捕り作った時だったじゃん」

「あれは納めた先のネズミがあっという間に学習して引っかからなくなったとか言うからだな」

「だからって自走式ユニットとAI積むとか完全にデラさんと悪ノリしてたじゃん」

「悪ノリじゃないぞ。他に解決手段が無かったからじゃないか」

「他の家のネズミまで捕まえちゃって始末に困るって苦情来たじゃん」

「それは管理エリアの概念を失念してたからであってだな」

ホワイトの「そういうものなのか?」という視線を受け止めたリーリャは首を振りながら囁いた。

「そもそもネズミ捕りが自走する時点でおかしいです」

「やはりそうか」

 





2019/5/28 触媒石の説明について訂正を入れています。本作には影響しませんが、原作と照らし合わせると説明に誤りが含まれたためです。
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