今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第40話

 

店の引き渡しから1ヶ月が過ぎた。

 

「ふぅ、今日の分はこれで最後だ。ほれホワイトさん、納品書だ」

「いや、毎日これだけの物を作るデラ殿の方がお疲れであろう。さ、水を用意したぞ」

「やぁありがたい。頂こう」

そう。

仮住まいの庭先に停められたデラの飛行機からマスターのMRAPへと次々移されている物。

それはリクライニングチェアだったのである。

 

「美少女が隙だらけの格好でリクライニングチェアで寝てる店があるらしい」

 

出所は今となっては解らないが、噂はあっという間に町中に知れ渡った。

ゆえに店先の扉の陰から、そうした姿を期待して頬を染めて覗きこむ男が今日も現れる。

そのたびに内心青筋を立てた加古が音もなく背後に忍び寄るのである。

その後の経過を見てみよう。

 

「いらっしゃいませ」

「ひっ!あ、かわ・・い、いえ、店員さんですか?」

「はい。さぁどうぞお入りください」

「あ、いや、あ・・・あぁはい・・・もしかしてあの子かなあ・・」

「何をお探しですか?」

「へっ?あ、え、ええと・・あ、そうだ。リクライニングチェアをですね」

「それでしたらこちらなんていかがですか?機械生命体の方でもお使いいただけますよ?」

「へえ、サンプルですか」

「いえ、私が買った物なんですけど、他にサンプルが無くて。良かったらおかけになりませんか?」

「良いんですか!?」

「ええどうぞ」

「・・うわ・・うわわ・・うわぁ」

「座り心地は如何ですか?」

「はい・・とっても・・いい匂いです」

「このスイッチでリクライニング出来ますよ。横になってみてください」

「あー・・いいですねえ・・柔らかくてハリがあって・・膝枕されてるような・・」

「如何ですか1台?」

「いいですねえ・・」

「仕様はこちらと同じでよろしいですか?」

「いいですねえ・・」

「ではこちらにサインを。納期は今ですと1ヶ月頂きます。お届け先もご記入くださいね」

「いいですねぇ・・えっ?」

「お買い上げいただき、ありがとうございました」

この加古の「まさか今更買わないなんて言わないよな?」という満面の笑顔にぐうの音も出ない。

そして請求書を見て真っ青になるのである。

 

そんなわけでデラは必死になってリクライニングチェアを作っている。

そしてマスターとMRAPは完全に宅配便と化しており、最近はホワイトも同行するようになった。

MP40が自分の商売を休んで手伝うと申し出たが、マスターは真面目な顔で首を振った。

「君とお客様の間で信用問題が起きてはいけないからね。大丈夫、何とかするさ」

「は・・はい・・マスター様の仰る通りです・・うぅぅ」

がくりと床に手を着くMP40と、小さくガッツポーズを取ったホワイトである。

今日も届け先は20件。

それはデラが日に20脚作るのが限界であるが故だったが、マスターの限界でもあった。

ゆえに掘削の方は1cmも進んでいない。

 

慣れた手つきでMRAPにチェアを積み込んでいくマスターに、加古が声をかけた。

「マスター」

「ん?今日も悪いが夕飯は各自で食べておいてくれ。数件、遠いお客さんが居るんだよ」

「しばらくさぁ、店休みにしない?」

「なんでだよ」

「だって・・せっかくチェア買ったのに・・私が座る暇ないんだもん」

「自業自得という言葉を知ってるか?」

「ひどすぎる」

「オリファイ開店以来というか、空前絶後の売り上げなんだぞ?」

「だってぇ・・私のチェアが傷む・・・」

「じゃあ加古、これから20台売るごとに金貨1枚ボーナスをやろう。それで新しいチェアを買え」

「やる!」

「よし」

やり取りを聞いていたホワイトは、水を飲むデラの傍に寄って囁いた。

「相変わらず・・過酷なオーダーのような気がするんだが・・」

「うむ。この豪華仕様のチェアを1台売るとマスターの懐には金貨1枚の仲介料が入る契約だ」

「20台で1枚という事は・・」

「5%キックバックという事じゃが、それを一瞬で決めるというのがの」

「さすがだな」

「じゃが、オーダーの数は徐々に減っておるからのう」

「どういうことだ?」

「今作っておるのはバックオーダー分じゃが、追加分は製作分より少ない」

「最近は?」

「日に3件くらいかのう。金貨5枚もするチェアとしてはまだまだ異常な売れ行きじゃが」

「1ヶ月の賃料なみだからな・・ところでデラ殿」

「うむ?」

「家賃と言えば、この家の家賃は誰に支払えばよいのだ?気になっていたのだ」

「あぁ・・いらんよ」

「どういうことだ?」

「この家はワシのじゃよ。使っとらんかったがな」

「なぜ?」

「ここらは職人が多いから大丈夫かと思って買ったんだが、結局怖がられての」

「あぁ・・そういうことだったのか」

「化け物屋敷と呼ばれて価値も下がったから放っといた。だから別に金など要らん」

「解った。マスターには言っておくか?」

「いや。マスターがここに住み続けるならその時言えばよい。迷わせては可哀想じゃ」

「デラ殿は、本当にマスター殿に色々配慮されているのだな」

「このくらいどうという事はない。本音を言えば、ここは住みよい土地じゃがね」

「住み始めてからの経験だが、私もそう思う。治安も良い」

「こっちで決めてくれればとは思うがの。いや、そこはマスターの好きにすればよい」

「・・そうだな。ではまだ内密にしておこう」

「わしに聞いたら大丈夫だと言われたとでも言っておいてくれ」

「解った」

 

マスターがMRAPから降りてきたので、二人はさりげなく離れた。

「デラさん」

「なんだ?」

「あの椅子って、オーバーホールできるかな?」

「どういうことだ?」

「加古が買った椅子、ほぼ客向けサンプルになっちゃったでしょ」

「うむ」

「だから消耗部を取り換えてやりたいんだけど」

「もちろん可能じゃよ。骨格の矯正も行える」

「おいくらで?」

「あの仕様なら表皮の張替えと軽微な修理込みで金貨1枚かの」

「じゃあ予約しといてもらえるかな」

デラはマスターの目をのぞき込んだ。

「加古ちゃんがもう1脚買えるほどはボーナスが出ない見込みだな?」

「多分そう・・今の時点でも売れすぎだよ。いくらなんでも」

「元々年間2台の予定だったからの。ではわしの方もあと20台前後の追加と見込んでおく」

「そういうことで。とはいえ、バックオーダーがまだまだあるからなあ・・」

「やっと残り400台を切ったくらいじゃよ」

「最初は1日で50台以上売れたからねぇ」

「あの時は本気で加古ちゃんの隣でチェアを作ってやろうかと思ったな」

「どういうことです?」

デラはくすくすと笑った。

「そしたら客は店に入る前に逃げるじゃろう?」

「デラさん・・それはもう少しリスクが減ってからだよ・・」

「そうじゃの。武器を持ってる客が居らんとも限らんか」

「デラさんが安心して来られるように、住まいと店を分けたんだしさ」

「解っとる解っとる。冗談だよ」

「まぁ、皆が目の前の現実を普通に認識してくれたらとは思うけどね」

「ここに居る面々で充分じゃよ。さて、わしはまた今日のノルマを作りに戻る」

「ペース落して良いし、休みも取って良いから、体調優先で」

「この体は燃費と頑丈さが取り柄だからの。大丈夫だ」

「何かあったらすぐ相談してくださいよ?」

「わかっとる。ではな。あぁ、ホワイト殿・・またな」

デラから声をかけられたホワイトは小さく頷いた。

 

 

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