今日も地球の片隅で。 作:銀匙
「というわけで、今日はデラさんが加古のチェアを持ってきてくれました」
「・・・」
「どうした加古・・おいおい何で泣いてるんだ」
「おかえり・・おかえり・・・マイチェア君」
「たった2日無かっただけだろ」
「2日間もなかったの!」
そう。
リクライニングチェアの爆発的な売れ行きは、およそ2か月で収束した。
マスターが加古にキックバックを約束してから18台目である。
涙目であと2台と呟く加古に、おまけしてやると言ってマスターは金貨1枚を手渡した。
だが、一瞬晴れた加古の表情は再び曇ってしまった。
「買い直すには足りないね・・2か月分お小遣い貯めれば買えるけどさ・・」
「世の中にはオーバーホールというやり方があってだな」
加古ががばりとマスターの方に向き直った。
「あのチェアで出来るの?」
「出来るらしいよ。金貨1枚で。予約しておいた」
「やった!いやったあああああ!わーい!」
「ほら、MRAPに積んで家に持って帰るから手伝え」
「はーい!」
そしてその翌日から2日かけてデラがオーバーホールしてくれた、という訳である。
デラは首を傾げながら口を開いた。
「骨格やショックアブソーバに異常はなかったからの。表皮とクッションを新品にしといたぞ」
「クッション傷んでた?」
「いや・・痛みというより・・色々な臭いが、な」
「あーそうだった。整髪料つけてるお客さん結構多かったんだよ・・」
「そういうのは嫌だろう?クッション代は加古ちゃんが頑張ったからサービスだ」
「わーい!」
マスターは加古に訊ねた。
「で?そのチェアは店に持ってくのか?自室に入れるのか?」
「お店になくて良いの?」
「店にはちゃんとサンプル置いてもらうよ。デラさんに頼んでおいたんだ」
「ふうん・・デラさん」
「うん?」
「サンプルどれかな?表皮は同じ?」
「これだ。高耐久ファブリックじゃよ」
「クッションは硬いやつ?」
「そこまでじゃないが、サンプル用に耐久性重視だ。座り心地は異なるじゃろう」
「んー」
サンプルを撫でながら厳しい表情で考え込む加古を他所に、マスターはデラに話しかけた。
「それで、そろそろ推進装置に取り掛かれそうかい?」
「今日持ってきたぞ。チェアのサンプルと一緒にMRAPに積んでいけばいい」
「助かるよデラさん、あの店の賃借期限は半年だからね」
「もうあそこに構えてしまったらどうだ?知名度は抜群じゃろうに」
「いやぁ・・その知名度が微妙な方向だからさ・・」
「まぁ・・下心満載で覗いた客が悪いんじゃがの」
「でも、開くとしても別の場所かなあ・・看板出す前で良かった」
「まぁその辺は掘削結果から考えても良かろうよ」
「そうだね・・・おーい加古、どうするんだ?」
加古はファブリック版サンプルを撫でながら頷いた。
「・・・・うん、自分で買ったチェアは自室に入れる」
「解った。じゃあ階段上げるの手伝ってやろう」
「ありがと」
「よし、掘削部のリモート操作もOKだな」
「自走式じゃから、万一の際は強制的にここに帰るようにしてあるぞ」
「うん。でないと困るよね」
「あの、マスター様これは一体・・・ここ、お店の地下ですよね?何を始めるおつもりなんですか?」
地下の物置で突っ走るデラとマスター、久しぶりに戻ってきて事情が解らないMP40という構図である。
おろおろするMP40にホワイトがかいつまんで事情を説明した。
「なるほど、それでは賃貸期間のうちに掘りつくさないといけないんですね?」
「いや、多く見つかるなら店を買ってしまえば良いだけだからな」
「なるほど。ところで加古はどうしてこの場に居ないんです?」
ホワイトは上を指さした。
「店舗に置いたリクライニングチェアで眠っているのだろう」
「また騒ぎにならないと良いですね・・」
「そうだな」
マスターが掘削機を部屋の中央に置くと、デラが制御系の操作盤に命令を打ち込んでいく。
程なくドリル部を回転させながら、駆動装置付き掘削機は少しずつ掘り始めたのである。
-----
店を借りてから4ヶ月が過ぎた、ある日。
1Fから物置に向かってMP40が下りてきた。
「マスター様、ホワイトさん、お茶をお持ちしました」
「やぁ、ありがとうMP40。ホワイトさん、休憩にしましょう。状況はどうですか?」
「変化はないな。1回の掘削分で小さめの塊が2つ3つあるくらいだ」
物置の中央では休みなく掘削が行われ、抜き取った土をホワイトが作業机で確認していく。
触媒石と分かった塊はホワイトが足元のバケツに入れる。
確認が済み、触媒石を除いた土はマスターが埋め戻しの作業に用いていく。
掘削量に対して物置は狭いので、そうするしかなかったのである。
マスターは頷いた。
「あまり浮かない表情ですね」
「あぁ。事前調査というか、今もそうだが、センサーの反応規模に対して採取量が少なすぎるのだ」
「期待したほどじゃなかった、と?」
「そうだ。折角ここまでマスター殿に手配頂いたのに申し訳なくてな」
「気にしないでください。店の売り上げだけで機材や賃料の合計以上に稼いでますし」
「・・うーむ」
「今手元にあるので価値はどれくらいなんです?」
「そちらもちょっと困ったことになっててな」
「どういうことです?」
「先日見つけた古い相場表では金貨5千枚にはなりそうだが、最新の相場情報がどうしても見つからない」
「相場表が無いんですか?」
「ああ。不要になるわけがないんだが・・それに、産出量もこの10倍は期待してたのだがな・・・・」
「色々納得出来ないってことですね?」
「そうだ」
考え込むホワイトの傍らで、MP40がバケツに半分程入っている石の1つをつまみ上げた。
「これがそうなんですよね・・私にはどれが触媒石なのかさえ分からないです」
「うん?例えばそれは触媒石をかなり多く含んでいるぞ」
「これがですか?」
「あぁ。この辺りだな」
「へぇ・・」
ホワイトは頷きながら机の上にある石の1つを手に取った。
「それに似たような色をしているが、こっちは全く含んでいない」
MP40は2つの石を交互に見ていたが、やがて首を振った。
「同じものにしか見えません・・・」
「まぁセンサーが無いとそうかもしれないな」
マスターはMP40から受け取った茶をすすりながらホワイトに声をかけた。
「このペースで行くと、やはり後2ヶ月くらいですかね」
「うむ。1ヶ月余裕を見ての半年だったが、チェア騒動で2ヶ月消費してしまったからな」
「ですね」
「掘削分のストックがあるうちは、もう少しペースを上げよう。2週間は短縮出来るだろう」
「もう採算は充分取れてますから、無理しないでくださいね」
ホワイトはくすっと笑った。
「あぁ、大丈夫だ」
その時、1階の店に来客があった。
「ごめんくださーい、デボル&ポポル不動産ですけど~」
「あっ、いらっしゃいませ。マスターですね?」
「ええ、お願いします」
加古は応接セットへ案内した後、地下へと降りて行った。
「マスター?」
「どうした加古」
「不動産屋さん来てるよ?」
「あぁ、家賃か・・ん?それにしては早いな・・解った」
-----
その頃。
「ネェ父サン」
「ナンダイ?」
「ヤッパリオカシイヨ。断層モナイノニ地震ガ続クナンテ」
「地球ノ地殻変動ハマダマダ未知ノ領域ガ多イカラナ」
「ソウカナア・・」
「安カッタシ、アル程度ハ我慢シナイトナ」
「ソッカ・・」