今日も地球の片隅で。   作:銀匙

41 / 60
第41話

「というわけで、今日はデラさんが加古のチェアを持ってきてくれました」

「・・・」

「どうした加古・・おいおい何で泣いてるんだ」

「おかえり・・おかえり・・・マイチェア君」

「たった2日無かっただけだろ」

「2日間もなかったの!」

 

そう。

 

リクライニングチェアの爆発的な売れ行きは、およそ2か月で収束した。

マスターが加古にキックバックを約束してから18台目である。

涙目であと2台と呟く加古に、おまけしてやると言ってマスターは金貨1枚を手渡した。

だが、一瞬晴れた加古の表情は再び曇ってしまった。

「買い直すには足りないね・・2か月分お小遣い貯めれば買えるけどさ・・」

「世の中にはオーバーホールというやり方があってだな」

加古ががばりとマスターの方に向き直った。

「あのチェアで出来るの?」

「出来るらしいよ。金貨1枚で。予約しておいた」

「やった!いやったあああああ!わーい!」

「ほら、MRAPに積んで家に持って帰るから手伝え」

「はーい!」

そしてその翌日から2日かけてデラがオーバーホールしてくれた、という訳である。

 

デラは首を傾げながら口を開いた。

「骨格やショックアブソーバに異常はなかったからの。表皮とクッションを新品にしといたぞ」

「クッション傷んでた?」

「いや・・痛みというより・・色々な臭いが、な」

「あーそうだった。整髪料つけてるお客さん結構多かったんだよ・・」

「そういうのは嫌だろう?クッション代は加古ちゃんが頑張ったからサービスだ」

「わーい!」

マスターは加古に訊ねた。

「で?そのチェアは店に持ってくのか?自室に入れるのか?」

「お店になくて良いの?」

「店にはちゃんとサンプル置いてもらうよ。デラさんに頼んでおいたんだ」

「ふうん・・デラさん」

「うん?」

「サンプルどれかな?表皮は同じ?」

「これだ。高耐久ファブリックじゃよ」

「クッションは硬いやつ?」

「そこまでじゃないが、サンプル用に耐久性重視だ。座り心地は異なるじゃろう」

「んー」

サンプルを撫でながら厳しい表情で考え込む加古を他所に、マスターはデラに話しかけた。

「それで、そろそろ推進装置に取り掛かれそうかい?」

「今日持ってきたぞ。チェアのサンプルと一緒にMRAPに積んでいけばいい」

「助かるよデラさん、あの店の賃借期限は半年だからね」

「もうあそこに構えてしまったらどうだ?知名度は抜群じゃろうに」

「いやぁ・・その知名度が微妙な方向だからさ・・」

「まぁ・・下心満載で覗いた客が悪いんじゃがの」

「でも、開くとしても別の場所かなあ・・看板出す前で良かった」

「まぁその辺は掘削結果から考えても良かろうよ」

「そうだね・・・おーい加古、どうするんだ?」

加古はファブリック版サンプルを撫でながら頷いた。

「・・・・うん、自分で買ったチェアは自室に入れる」

「解った。じゃあ階段上げるの手伝ってやろう」

「ありがと」

 

 

「よし、掘削部のリモート操作もOKだな」

「自走式じゃから、万一の際は強制的にここに帰るようにしてあるぞ」

「うん。でないと困るよね」

「あの、マスター様これは一体・・・ここ、お店の地下ですよね?何を始めるおつもりなんですか?」

地下の物置で突っ走るデラとマスター、久しぶりに戻ってきて事情が解らないMP40という構図である。

おろおろするMP40にホワイトがかいつまんで事情を説明した。

「なるほど、それでは賃貸期間のうちに掘りつくさないといけないんですね?」

「いや、多く見つかるなら店を買ってしまえば良いだけだからな」

「なるほど。ところで加古はどうしてこの場に居ないんです?」

ホワイトは上を指さした。

「店舗に置いたリクライニングチェアで眠っているのだろう」

「また騒ぎにならないと良いですね・・」

「そうだな」

マスターが掘削機を部屋の中央に置くと、デラが制御系の操作盤に命令を打ち込んでいく。

程なくドリル部を回転させながら、駆動装置付き掘削機は少しずつ掘り始めたのである。

 

 

-----

 

 

店を借りてから4ヶ月が過ぎた、ある日。

1Fから物置に向かってMP40が下りてきた。

「マスター様、ホワイトさん、お茶をお持ちしました」

「やぁ、ありがとうMP40。ホワイトさん、休憩にしましょう。状況はどうですか?」

「変化はないな。1回の掘削分で小さめの塊が2つ3つあるくらいだ」

 

物置の中央では休みなく掘削が行われ、抜き取った土をホワイトが作業机で確認していく。

触媒石と分かった塊はホワイトが足元のバケツに入れる。

確認が済み、触媒石を除いた土はマスターが埋め戻しの作業に用いていく。

掘削量に対して物置は狭いので、そうするしかなかったのである。

マスターは頷いた。

「あまり浮かない表情ですね」

「あぁ。事前調査というか、今もそうだが、センサーの反応規模に対して採取量が少なすぎるのだ」

「期待したほどじゃなかった、と?」

「そうだ。折角ここまでマスター殿に手配頂いたのに申し訳なくてな」

「気にしないでください。店の売り上げだけで機材や賃料の合計以上に稼いでますし」

「・・うーむ」

「今手元にあるので価値はどれくらいなんです?」

「そちらもちょっと困ったことになっててな」

「どういうことです?」

「先日見つけた古い相場表では金貨5千枚にはなりそうだが、最新の相場情報がどうしても見つからない」

「相場表が無いんですか?」

「ああ。不要になるわけがないんだが・・それに、産出量もこの10倍は期待してたのだがな・・・・」

「色々納得出来ないってことですね?」

「そうだ」

 

考え込むホワイトの傍らで、MP40がバケツに半分程入っている石の1つをつまみ上げた。

「これがそうなんですよね・・私にはどれが触媒石なのかさえ分からないです」

「うん?例えばそれは触媒石をかなり多く含んでいるぞ」

「これがですか?」

「あぁ。この辺りだな」

「へぇ・・」

ホワイトは頷きながら机の上にある石の1つを手に取った。

「それに似たような色をしているが、こっちは全く含んでいない」

MP40は2つの石を交互に見ていたが、やがて首を振った。

「同じものにしか見えません・・・」

「まぁセンサーが無いとそうかもしれないな」

マスターはMP40から受け取った茶をすすりながらホワイトに声をかけた。

「このペースで行くと、やはり後2ヶ月くらいですかね」

「うむ。1ヶ月余裕を見ての半年だったが、チェア騒動で2ヶ月消費してしまったからな」

「ですね」

「掘削分のストックがあるうちは、もう少しペースを上げよう。2週間は短縮出来るだろう」

「もう採算は充分取れてますから、無理しないでくださいね」

ホワイトはくすっと笑った。

「あぁ、大丈夫だ」

 

その時、1階の店に来客があった。

「ごめんくださーい、デボル&ポポル不動産ですけど~」

「あっ、いらっしゃいませ。マスターですね?」

「ええ、お願いします」

加古は応接セットへ案内した後、地下へと降りて行った。

「マスター?」

「どうした加古」

「不動産屋さん来てるよ?」

「あぁ、家賃か・・ん?それにしては早いな・・解った」

 

 

-----

 

 

その頃。

「ネェ父サン」

「ナンダイ?」

「ヤッパリオカシイヨ。断層モナイノニ地震ガ続クナンテ」

「地球ノ地殻変動ハマダマダ未知ノ領域ガ多イカラナ」

「ソウカナア・・」

「安カッタシ、アル程度ハ我慢シナイトナ」

「ソッカ・・」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。