今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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風が・・強い・・


第42話

 

「あーなるほど、今月中に購入か終了の判断をして欲しいという事ですね」

「ええ。今月末で5ヶ月になりますので、ご意思は確認しておきたいのです」

「あと10日という事ですね・・解りました」

「よろしくお願いします・・ところで如何ですか?商いの方は」

「少し前までは椅子が良く売れてたのですが、最近はこんな感じですね」

マスターはそう言って、客の居ない店内を指さした。

「なるほど」

「ところで、ご存知なら伺いたいことがあるのですが」

「なんでしょう?」

「この店についての噂は何か耳にしていますか?」

「んー・・」

不動産屋はしばらく顎に手をやって唸っていたが、首を傾げた。

「店員さんが可愛いとか、高いけど良い椅子を売ってるとか、あぁ、あとは・・」

「あとは?」

「噂がデタラメじゃないか、というのがありましたな」

「噂、ですか?」

不動産屋は遠くにいる加古をちらりと見た後、マスターに小声でささやいた。

「恐らくあちらの方だと思うのですが、居眠りしてないじゃないか、と」

「居眠り?」

「その、なかなか刺激的な格好でお休みだとの噂がですね」

「えぇ・・」

げんなりしたマスターの様子を見て、不動産屋は肩をすくめた。

「まぁ、そういうお姿を期待されていた向きには期待外れだったようですな」

「うちはいかがわしい商売ではないので」

「でしょうな・・正直言えば話題になるほど聞こえてはきていません」

「なるほど」

「ご心配であれば、もう少し営業活動をなさっても良いかもしれません。ここらは競争が激しいですからね」

「解りました。その辺も含めて10日以内に返事を出します」

「お願いしますよ。では、私はこの辺で」

「ありがとうございました」

「あぁ、ちなみにですけど・・」

「なんでしょう?」

「表のMRAPって、営業車なんですか?」

「ええ。遠方にも届ける必要があるので・・」

「砂漠でお店を開かれていた時から乗ってらっしゃるんですか?」

「いえ、その頃乗ってたMRAPは吹き飛ばされましてね。新しく買ったんですよ」

「ありゃあ、それじゃあローンですか。うちの分もあるし大変ですねぇ」

「あっちは即金で買いましたよ。金利が高かったんでね」

「えっ?・・あれ、本格的な装甲車ですよね・・よほどお値打ちだったんですか?」

「普通の中古相場位だと思いますが・・」

「はぁ・・そうですか。あ、いや、すいません色々聞いちゃって」

「いえ」

「では、よろしくお願いいたします」

「ええ。それでは」

不動産屋を見送ったマスターは少し考えていたが、玄関を閉めるとclosedのプレートを下げた。

そして加古に目で合図をし、二人で地下に下りていったのである。

 

「なるほど。それでは借りたままだと来月は撤収準備にかからねばならないのだな」

ホワイトの発言に、マスターは頷いた。

「ええ。どうするかの意思を今月中に、返すなら撤収後に原状回復をすることになります」

加古は肩をすくめた。

「もういいんじゃない?上で利益出てるんだから、こっちは適当に終わらせても・・」

MP40はそっとホワイトの方を見ながら言った。

「ですが、ホワイトさんの測定結果ではまだまだ出そうなんですよね?」

ホワイトは渋い表情のまま口を開いた。

「現に、採掘分を除いてもまだ地下から多数の反応がある。だが鉱脈とは言い難い分布図なんだ」

「どういうことです?」

「地点によって反応の強弱があるのはともかく、あまりにも直線的で立体的なんだ・・・」

「人工的という事ですか?」

「うむ。あと、関連があるか解らないのだが、反応のある周辺に空間がありそうなのだ」

「空間ですか・・」

「それもかなり大規模なもののようにも見える。だが地下にそんな空間があるものなのか・・」

マスターが続けた。

「触媒石が測定の邪魔をしているのでは?」

「確かにその他のセンサーに比べて触媒石の反応は優先して表示されるのだが・・」

「それでも疑問が残る、と」

「あぁ。どうにも不可解な反応の仕方なのだ」

「ふうむ・・」

ホワイトは頬杖をついた。

「本当の所はともかく、私としては損を出すくらいならここで手を引いても良いと思う」

MP40は触媒石をつまみながら言った。

「なんかこれって、コンクリートみたいですよね」

ホワイトは頷いた。

「言われてみれば・・確かに細かな石を混ぜて押し固めたようにも見えるな」

マスターは首を傾げた。

「地下にそんなものがあるという事は、古代建物の基礎でも残ってたんですかね」

「いや、さすがにそんな時代の物が残ってはいないだろう・・」

「ですよね。ですが、この辺りは古くからある街だとリーリャも言ってましたよ?」

「うむ。この家も時間が経っている。ただ、それよりは採掘した石の方が年代が経っているようだ」

「どのくらいだと思われます?」

「結晶化の具合から見て6~7千年・・というところか。触媒石自体はもっと古いようだが」

「今から7千年前というと・・古代戦乱期末期ですか」

「あるいは停戦直後、だな」

「・・・考えにくくないですか?そんな時期に地下に何を作ったというんです?」

「最終戦争に備えて、人類軍がシェルターを作っていたのかもしれないな」

「それと触媒石反応とのつながりが解らないのですが」

「簡単な話だ。我々にとって触媒石は人類で言う食料と思えばいい」

「つまり長期に渡って立てこもるために備蓄していたと?」

「そういうことだ。これさえあればアンドロイドはエネルギーを充填させられるからな」

「なるほど・・では地下空間があって、その中に備蓄資材として触媒石が眠ってる可能性がある、と」

「完全な推定だがな」

「ふーむ」

MP40と加古は、それぞれ2つずつ湯呑を持って1Fから戻ってきた。

「マスター、お茶だよ」

「うーん・・おぉ、ありがとう」

「ホワイトさん、どうぞお召し上がりください」

「すまないな」

加古から受け取ったお茶を一口すすったマスターは、ホワイトに声をかけた。

「ホワイトさんは掘ってみたいですか?」

ホワイトは苦笑した。

「推定が多すぎるから、以前の司令官としてであればここで止めただろうと思う」

「ええ」

「だが、感情を持つ今の自分という意味であれば、確かめたい気持ちはある」

「なるほど」

「だが、マスター殿に金銭的、体力的に負荷をかけているのではないかと心配している」

「うーん、この際ですから1つ伺いたいのですが」

「あぁ」

「楽しみを、見つけられてますか?」

「ん?どういうことだ?」

「ホワイトさんは今、自主的に家事や私の手伝いをしてくださってますが」

「うむ」

「元々は砂漠で出会っただけですから、無理にして頂く必要はないのです」

「・・」

「ですからうちにいる間も、楽しんで頂ければなと思うんですよ」

「それはその・・一緒に居るだけで毎日楽しいぞ?」

「そうですか?」

「あぁ。私は皆と違って起動してからの時間が短いから、趣味とかそう言う物を持ち合わせてはいない」

「でしょうね」

「だから今は見聞きする物事が全て新鮮で興味深い。ルールを解除した自分の反応も含めてな」

「なるほど」

「ただ、あまり何もかもが変わってしまうとそれはそれで戸惑うと思う」

「そうでしょうね」

「だからマス・・皆と暮らす今の生活がちょうど心地良いと、お、思っているのだが・・」

ホワイトはそっとマスターの方を見た。

マスターは笑顔で頷いた。

「それなら気の済むまで居て頂いて良いですよ。ずっとでも構いませんし」

「ほ、本当か?ずっとでも良いのか?」

「ええ。むしろ手を貸して頂いて助かってますし」

「そ、そうか・・そうか・・それならそうさせて頂く」

MP40はずずっと茶をすすりながら内心溜息をついていた。

ホワイトさんがあれだけ勇気を出して言ったのに、マスター様は全くお気づきじゃないですね・・

ふと、加古と目が合った。

二人は目で同じ事を思っていたことを確認しあうと、互いに小さく肩をすくめたのである。

 

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