今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第43話

 

数日後。

「ごめんくださーい、デボル&ポポル不動産ですけど~」

「あっ、いらっしゃいませ。マスターですね?」

「ええ、お願いします」

加古は応接セットへ案内した後、地下へと降りて行った。

「マスター、不動産屋さん来たよ。ただ、今日は2人いるよ」

「ほう。んー・・ホワイトさん、一緒に来てもらえますか?」

「人数合わせ以外に何か役割はあるか?」

「条件交渉の時に適当に振りますので、難色を示してください」

「解った」

 

 

「いやぁどうも。ご連絡頂いたので伺いました。こちらは手前どもの社長のデボルです」

そういって不動産屋は傍らの女性を示し、デボルがニッと笑った。

「デボルだ。よろしくな」

「本日はよろしくお願いします。こちらは・・・ホワイトさん?」

マスターは簡単に紹介しようとホワイトの方を見て驚いた。

ホワイトが目を見開いて固まっている。

その様子に不動産屋は戸惑っていたが、デボルは小さく頷いた。

「ヨルハ部隊の生き残りかな?特徴が似てる」

ホワイトはゆっくりと頷いた。

「すると、貴方はレジスタンスの生き残りか」

「あぁ。アネモネのキャンプに居た。コアだけね」

「コアだけ?」

「私は停戦後、酷く壊れた状態で発掘されたんだが、アネモネがコアだけ別の義体に移植してくれたんだ」

「ほう」

「だからコアだけは昔からの物さ」

「・・」

「ただ、コアも埋もれて長い間停止状態だったもんでね、レジスタンスの頃の記憶は途切れ途切れなんだ」

「そう、か」

「そんなわけだけど、あなたは?」

「ヨルハ部隊のバンカーで司令官をやっていたよ、私の別個体がな」

「そう、か。コマンダーモデルね・・ん?別個体?」

「あぁ。実際に指揮を執っていた個体はバンカーの墜落時に運命を共にしたようだ」

「・・・」

「私は予備個体として保護ケースに入っていたから助かった。目覚めたのはつい最近だ」

「どのくらい・・前任者から記憶を引き継いだんだい?」

「個体同士の直接の引継ぎはない。私が知るのは西暦11945年3月に第243次降下作戦が始まる前までだ」

デボルが目を細めた。

「11945年、ね。あの年は無茶苦茶だった。私の元の義体が数十万トンの瓦礫に潰された年だよ」

「どういう経緯だ?」

「機械生命体が山のようにデカい砲台を作ったんだけど、その最下階の入り口をこじ開ける手伝いをしたのさ」

「ほう」

「開けた時点で瀕死だったんだけどさ、最終的にその砲台が崩れてきてぺっちゃんこさ」

「・・その記憶があるのは気の毒だな」

「いや、そうでもないんだ」

「なぜ?」

 

「あのぅ、とりあえずおかけになりませんか?」

 

4人が声の方を向くと、加古が苦笑しつつ飲み物を置いた盆を持っていた。

「あぁ、ありがとう加古。ではあちらのテーブルへどうぞ」

マスターに促され、3人は静かに応接コーナーへと向かったのである。

 

「話の腰を折ってしまってすみませんでした」

冷茶のグラスを4人の前に置いた加古がぺこりと頭を下げた。

ホワイトが首を振った。

「いや、いつまでも立ち話では失礼だったから丁度良かった。こちらこそ申し訳ない」

デボルはひらひらと手を振った。

「良いよ。今となってはこんな化石のような話を分かってくれるのはアネモネ位だからな」

「アネモネは生きているのか?」

デボルは頷いた。

「ああ。自警団のボスやりながら隠居したいとか寝ぼけたこと言ってるよ」

「自警団か、彼女らしいな。レジスタンスと何か違うのか?」

「相手が機械生命体だけじゃなくなったってとこかな?最近は鉄クズ追い払ってるよ」

「鉄血の事か?」

「そう。追い返すたびに規模が大きくなるって頭抱えてたよ。ここ数ヶ月は見ないけど」

「最後に見たのはいつだ?」

デボルは腕組みをして少し考えたあと、傍らの不動産屋に向いて尋ねた。

「・・・5ヶ月くらいか?ルザレフ」

「ええ、こちらの物件をご紹介する1ヶ月くらい前だったかと思いますので」

ホワイトは頷いた。

「なら当分来ることはないだろう」

デボルは眉を顰めた。

「なぜ解るんだい?」

「このエリアを占領していた鉄血は、我々が壊滅させたからな」

 

部屋に数秒間、奇妙な沈黙が流れた後。

 

「・・・は?」

最初にそう呟いたのはデボルだった。

ホワイトは肩をすくめた。

「我々は砂漠に店舗兼住まいを構えていたが、鉄血に襲撃されてな」

「・・」

「まぁ色々協力を取り付けることが出来たから、殲滅した」

「・・・いや待ってそれおかしい」

ようやく正気を取り戻したデボルはブンブンと勢い良く首を振った。

「なぜだ?」

「あのさ、鉄血の連中は最後に500体規模で来たんだよ?大型戦車とかハイエンドも混じってたし」

「遊撃大隊かもしれんな。こんな奴が居なかったか?」

ホワイトはペンを持つと、テーブルに置いてあったペーパーナプキンにデストロイヤーの似顔絵を描いた。

デボルが何度も頷いた。

「そう!そう!こいつ!迫撃砲バンバン撃ってきやがってさ、うちの物件が7件も台無しにされたよ!」

「それなら消しておいたから心配しなくていいぞ」

「いやだからどうやって?」

ホワイトは肩をすくめた。

「どうと言われてもな・・MOABで、という事になるな」

「は?モアブ?・・・MOABって人類史にある化け物みたいな爆弾?」

「あぁ」

「えっ現存してるの?生まれてこのかた見たことないんだけど」

「知り合いが趣味で再現したのを提供してくれてな」

「趣味で・・再現?大型爆弾を?」

「あぁ」

デボルはルザレフと顔を見合わせ、にへらと笑いながらホワイトに向き直った。

「そ、そいつは・・豪気だね」

「だから心配しなくていい」

「あ、あは、あはははは」

じっと様子を見ていたマスターは軽く咳払いし、デボルに向かって話し始めた。

「それで、こちらの物件なんですがね」

「へっ?あっ、あぁ、むっ、無理して買わなくていいからな?」

「無理はしてないのですがお願いがありまして」

「お、お願い?」

「ええ。このブロックの周囲5軒って空き家ですよね?」

デボルに視線で尋ねられたルザレフは頷いて答えた。

「はい。いずれも売り物件となっておりますが」

「じゃあまとめて6軒買うとしたらお幾らになりますかね?」

「「まとめて!?」」

デボルとルザレフが声を揃えて叫んだので、店内の少し離れた所でやり取りを聞いていた加古はくすくす笑った。

マスターはほんと、切り出すタイミングが上手いなあ。

完全に不動産屋の二人はホワイトさんにビビってるからねえ。

 

「・・従いまして、えー、6軒を合計しますと金貨7332枚です」

「・・・・で?」

マスターに促されたルザレフはごくりと唾をのんだ。

「で・・・と、おっしゃいますと?」

「まとめて買うとお幾らに値下げしてくれますか?」

ルザレフが青い顔で見てきたので、デボルは溜息をついた。

「ええと、マスターさん」

「はい」

「パンじゃないんだから5個買うと1個サービスなんてことは無いんだよ?」

「ほう。値引きなしですか」

「まぁ、手数料でちょっと手間が省けるから、端数の32枚切って7300枚くらいかなあ」

マスターは伺いを立てるかのように、恐る恐るホワイトの方を向いた。

「あの、ホワイトさん・・・」

声をかけられた途端、ホワイトはスッと目を細めた。

「ダメだ。もっと交渉しろ」

「はっはい・・かしこまりました」

マスターに上目遣いに見返されたデボルは背中にきゅっと力が入った。

これは・・ホワイト司令官はかなりお怒りだね。

まぁこの街区は全部塩漬け物件だから、全部で2000枚くらいの買値だった。

今までかかった手数料と維持費が500枚くらいかな。

後々を考えれば機嫌を損ねない方が良いけど・・・もうちょっと交渉してみよっかな。欲しそうだし。

「あーじゃあ大バーゲンで6500枚だ!どうよ?」

デボルの答えを聞いた後、無言でそっとホワイトを見るマスター。

ジト目でマスターを見返した後、ハイライトの消えた目でデボルを一瞥したあと、首を振るホワイト。

デボルは様子を伺いながら一呼吸置いた。

「えっと、金貨6000枚が買取値だからさ・・・それ以上は勘弁してくれよ」

ホワイトは目を瞑り、口を開いた。

「・・・デボル社長」

「はい?」

「コマンダーモデルには幾つか珍しい機能が備わっていてな」

「はぁ」

「その中に、アンドロイドの嘘を検知するセンサー、というのがある。尋問用にな」

デボルがびくりと跳ねた後、滝のような冷や汗を流し始めた。

「へっ・・へぇ・・そ、そ、そうなんですか・・」

デボルは隣のルザレフを肘でつついたが、完全に置物と化していたので、この役立たずと心の中で叫んだ。

「・・・まだまだ、潤沢な利益を乗せているな?」

「ひいっ」

「私も鬼ではないが、高掴み出来るほど金持ちでもないのでな」

「あっあの」

「幾らだ?」

「えっ」

「幾らの利益まで妥協すると聞いている」

 

加古は店の奥でそっと頷いていた。

確かにホワイトさんは先日貰った金貨千枚も全てマスターにあげてしまった。

だからホワイトさん「は」せいぜい金貨数枚しか持ってない。

嘘は言ってないけど、限りなく確信犯だよねぇ・・まぁ黙ってよっと。

しかし普段のホワイトさんとはかけ離れた振る舞い・・それも堂々としたもんだわ。

やるねぇ、演技派だねえ・・

 

それから2回提示した値段を突っぱねられたデボルは、涙目で告げた。

「3000枚。もう本当に赤字なんで勘弁してください」

「んー?」

目を瞑ったまま、なおも疑わし気に眉を吊り上げて返事を返したホワイトに対し、マスターが口を開いた。

「あーいや、そこまでしてもらうつもりはないので・・じゃあ3300枚で利益出ます?」

デボルはホワイトの眉から目を離さずに答えた。

「でっ・・出来れば・・3600枚・・くらい・・だと良いなって・・・」

ホワイトがうっすらと目を開けて自分を見たので、デボルは震えだした。

「ひぃぃぃっ・・やっややややっぱりいいですぅ」

マスターは机の下でホワイトの膝を軽く手で押さえながら返事をした。

「じゃあ3500枚で良いですかね?」

「えっ?はい!結構です!」

「では契約書だけ交わしてしまいましょう。権利書は対価と引き換えで良いですから」

「ありがとう・・ございます・・」

デボルは契約が成立した事よりホワイトが殺意交じりの視線を止めたことに感謝していた。

1583年ぶりにチビるかと思ったよ!コマンダーモデル怖いよ!

ポポルに言いつけてやる!

 

 

-----

 

 

その、帰り道。

「やぁ、生きて出られましたねぇ。シャバの空気はウマいってやつですか」

「あんた何もしてないでしょ」

店から見えなくなる角を曲がったところで、腰を叩きながら言うルザレフを、デボルはジト目で見つめた。

ルザレフは肩をすくめた。

「でも私だったら交渉決裂とするか、泣きながら原価提示するかどちらかでしたよ?」

「泣くなよみっともねぇなぁ」

「それにしても、さすが社長ですねえ。あの状況でなお金貨1000枚の利益を確保するなんて」

「フン」

デボルは煙草に火をつけ、ゆっくりと紫煙を吸い込み、吐き出した。

そしてにやりと笑った。

「でなきゃ社長なんてやってられねぇよ。帰るぞ」

「はい、社長」

「ところでさ、ルザレフ」

「はい」

「珍しく私を連れてったのは、ああなることを分かってたのかい?」

ルザレフは営業車の後部座席のドアを開けながら頷いた。

「私は・・そういう勘が働きますのでね」

デボルは乗り込みながら苦笑した。

「お前も大概だな」

「でなきゃこの地で不動産屋などやってられませんて。さぁ、帰りましょう帰りましょう」

「よっし!久しぶりにがっぽり儲けた大商いだからな!ケーキ屋行くぞケーキ屋!」

「はいはい、かしこまりました~」

頷いたルザレフはドアを閉め、運転席へと向かったのである。

 

 




ここでお知らせです。
登場するアンドロイドには世代間でエネルギー供給方式が微妙に異なるなど、やや込み入った設定になっています。
ただ、そうした設定をあれこれ書いてあるのは邪魔という方も居るかと思いますので、活動報告の方で解説することにしました。

私の活動報告に「(ネタバレ)種族別のエネルギーに関する解説」という表題で記していますので、興味のある方はご一読ください。
(解説なので、新着活動報告には出さないようにしています)
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