今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第44話

 

「というわけで店の周辺は全部うちになったんだけど、あっちに引っ越さないか?」

その日の夕食後、仮住まいで久しぶりに全員揃った顔を見回しながらマスターは切り出した。

MP40がそっと手を挙げたので、マスターは頷いて促した。

「え、ええと、そもそもなぜ金貨3500枚も支払って1ブロック全ての建物を購入なさったのですか?」

マスターは頷いた。

「良い質問だ。こっちの仮住まいの方が住宅地として整備されてるし、洞窟の中だから安全だ」

「はい」

「ただ、幾つか問題がある。1つはデラさんの飛行機が相当長い事タキシングしてるでしょ」

「そうですね」

「あとはご近所さんの目が多いってのもある」

「何か嫌な事がありましたか?」

「毎朝デラさんの飛行機からMRAPにチェアを積み替えてた頃、ウルサイと言われた事が、ね」

途端にMP40の目からハイライトがログアウトした。

「えっ・・いつ、どなたからですか?お聞かせ頂けますか?すぐに駆除してきますよ?」

「いや過ぎた事だから・・・落ち着けMP40。もういいの!行くなよ?良いな?」

「・・・マスター様が仰るなら仕方ありませんね」

「ま、その点店の方は外だから音は響かないし、近くにある空き地を使えば飛行機も離着陸出来る」

「はい」

「だったら居住区画と店舗を分けて、あっちで住んだ方がデメリット無くなるでしょ?」

「なるほど、さすがマスター様です!」

敬意の籠った目でマスターを見るMP40を横に、加古はジト目で呟いた。

「要するにマスターは大きな音が出る趣味の工作を夕食後にやっても文句言われたくないんでしょ?」

途端にホワイトとMP40から疑いの目で見られたマスターは明後日の方を向くしかなかった。

「やっぱりね・・そんなことだろうと思ったよ。で、建物作り直すの?」

「そのつもりだよ。まだ今ならこっちに住みながら建て直せるからね」

ホワイトがそっと手を挙げたので、マスターは頷いた。

「もし可能であれば、一旦更地にして、もう少し本格的に掘ってみたいのだが・・」

「油田並みにって事ですか?km単位で?」

「いやいや、そこまで本格的ではないが、そうだな・・25mくらい」

「掘る地点は変わらずですか?」

「あぁ」

「じゃあ店を閉じて1Fの床を抜いて、掘削機を大型化しますか?」

「なるほど。それなら露天にするより悪天候でも続けられるな」

「他の5軒もそれが終わるまでは取り壊さないでおきましょう。問題は・・」

「問題は?」

「この仮住まいをそこまで貸してくれるかどうかですね・・」

ホワイトは頷いた。

「特に問題は無いとデラさんから聞いている」

マスターは頬杖をついた。

「少なくとも賃料があるはずなんだけど、デラさん大丈夫としか言わないんだよねぇ」

ホワイトは肩をすくめた。

「特に賃料とかはかかってないらしい。好きに住めと言っていた」

「じゃあ職人さんの誰かの家なのかなぁ・・ここ出る時にデラさんに御礼しないとなぁ」

加古はフフッと笑った。

「デラさんが来やすいようにあっちに居を構えるんだって言えば良いんじゃない?」

「それはそうだが、だから何だ?」

「デラさんの事考えてるよって伝われば良いんだって」

「当たり前じゃないか」

「当たり前じゃないんだと思うよ」

「?」

首を傾げるマスターを前に、MP40は口を開いた。

「ええと、そうなると明日からお店は休みにされるんですか?」

「そうだね。ちょうどバックオーダーもないし。あ、MP40は今回いつまでこっちに居られるの?」

「一番早いお客様があっちだから・・あと7日間ですね」

「お、ちょっとゆっくりできるんだね」

MP40は苦笑した。

「お客様の絶対数が減ってるので、喜んでばかりもいられないですけど」

マスターはMP40の表情を見て、すっと真面目な顔になった。

「なぁ、それはその、客が戦死したって事かい?」

「えぇ。鉄血に殺されてるのがほとんどです。あとはミュータントと正規軍の戦闘に巻き込まれたとか」

「・・・なぁMP40」

「はい」

「新しい店舗が出来たら、一緒にここで働かないか?」

「えっ?」

「君を待ってるお客様が居るだろうから、すぐにとは行かないだろうけどさ」

「・・」

「その、私の大切な人がそういう戦地の只中に行くのは心配なんだよ」

「大切な・・ひと・・」

「もちろん。でなきゃ誓約の指輪なんて渡さないよ」

MP40はあっさり頷いた。

「辞めます。いえ、もう辞めました」

「えっ」

「お客様には資金繰りに行き詰ったと伝えておきます」

「いやいやいやいや待ちなさいMP40」

「へ?はい」

「君が配ってるものはライフラインでもあるのだから、ちゃんと代替手段を紹介してあげて」

「あぁ、その辺はご心配なく」

「?」

「戦地にお水を届ける商売は、利益率が高いので競争が結構激しいんです」

「・・ほう」

「配達中に自分の身を守れれば良いので、戦術人形、艦娘、機械生命体、アンドロイド、誰でもやってます」

「へぇ」

「ですからお客様も買える物、配達周期、お値段など色々な方向から比較して選んでますよ」

「一番多いのは戦術人形なの?」

「いえ、艦娘ですね」

「艦娘?」

「卸業者と提携して、昔から戦地での配送を業としているベテランが多いです」

「そうなの?」

マスターの視線を感じた加古は頷いた。

「だってうちら、もう海で仕事する事ないからね。兵站関連の仕事する子は多いよ」

「へえ」

「FOLMEが1次卸、2次卸全部牛耳ってるってのも艦娘に有利だし」

「贔屓目はあるんだろうね」

MP40が溜息をついた。

「はい。艦娘だと卸値で買えたりするんで価格では競争出来なかったですね・・」

「なるほどなあ・・まぁ、お客さんにちゃんと代替手段が揃うなら良いけどさ」

「解りました・・ではその確認の為にもう1回巡回してきます」

「うん。じゃあ次に帰ってきたら一緒に働こう」

「はい。すぐ戻ってきます」

「とりあえず、今回の休みを楽しむと良い。その合間に改装を手伝ってくれたら嬉しいな」

「解りました。何をすれば良いですか?とりあえず店の床を明日の朝までに全部剥がしておけばいいですか?」

「そんな酷いこと言わないから。まずは休みなさい」

「かしこまりました」

マスターは面々を見回した。

「じゃあまずは店を畳んで、床を剥がして、もう少し深く掘ってみる」

面々が頷く。

「そして良いかなとなったら6軒全部更地にして新しい店と住まいを作る、でいい?」

加古はニヤリと笑った。

「マスターは工作室作るんでしょ?私もクッション部屋欲しいなー」

マスターは何度か頷いた。

「皆、それぞれ居住用の部屋と趣味部屋の2部屋構成にしとくか。それも良いな」

ホワイトが肩をすくめた。

「それならあまり長引かせても申し訳ないな。短期間で確認しよう」

マスターが首を振った。

「日頃色々手伝って頂いてるんですから、気の済むまでどうぞ」

「そ、そうか?」

「ええ。多分その間、加古達は新しい住居の間取り図でも書いてるでしょう」

マスターが指し示した先では、既にMP40と加古が部屋配置で言い争いを始めていた。

「なるほど、な」

ホワイトは苦笑しながら頷いた。

 

 

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