今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第45話

 

それから数日後。

 

「・・ここだな」

ホワイトは一人、商店街の外れの方にある1軒の店の前で立ち止まった。

看板には「デボル&ポポル不動産」と書かれていた。

 

「いらっしゃいま・・あれ、ホワイトさんじゃないか。何かあったか?」

店では奥の方にデボルが一人座っており、ホワイトに気づいて近寄ってきた。

ホワイトは軽く首を振った。

「いや、契約の方ではない。先日話に出ていたアネモネの仕事場を知りたくてな」

「アネモネの?行くのかい?」

「そのつもりだが、何か問題があるか?」

「えーっと、徒歩で?」

「距離によるが・・」

「間違いなく車で行った方が良いよ、後はアポイントも取っといた方が良いね」

「・・どういう意味でだ?」

訝しがるホワイトに、デボルは肩をすくめた。

「簡単な話、アネモネが居る所はこの居住区を守る前線基地だ。鉄血と間違われたら50口径で撃たれるよ?」

「なるほど」

「それに、視察とか行ってたら会えないかもだからね。話は通しておいた方が良い」

「そういう事なら納得だ」

「良かったら連絡してあげるけど?」

「頼めるか?ついでに連絡先も知っておきたい」

「OK、どれを教えて良いかも聞いとくよ。そこにかけてて」

デボルは応接セットを指さすと、耳に手を当てて通信を始めた。

ホワイトは勧められた席に腰かけ、店内を見回していた。

所狭しと並ぶ物件情報を興味深そうに眺めていく。

「なるほど、耐荷重的にアンドロイドなら1名まで居住可能、か。そういう配慮も必要なのだな」

その時、デボルが近づきながら声をかけてきた。

「なぁホワイトさん。都合の悪い日はあるかい?」

「特には無い」

「解った・・あぁ聞こえてたか?特に無いってさ・・あぁ解った。連絡先は・・」

そんなやり取りを幾つか交わした後、デボルは数枚の紙を手に応接セットのソファへ座った。

「お待たせ。アネモネは明日は日が昇ってる間ならいつでも良いらしい」

「解った」

「場所の地図がこれ。ちょっと小さいけど」

「あぁすまない。今はここだと思うのだが良いか?」

「あってるよ。この道は荒れてる。このルートの方が行きやすいかな」

「解った」

「で、アネモネの連絡先はこれ。戦闘中とかだと繋がらないけどね」

「それはそうだろうな」

「移動手段はある?良かったら車出してあげるけど」

「そこまでしてもらうのは気が引けるな」

「私も久しぶりにアネモネの顔見とくのも悪くないなと思ってさ」

「明日の都合は良いのか?」

「あぁ」

「では、頼もう。よろしくお願いする」

「良いの良いの。こないだは久しぶりに儲けさせてもらっちゃったし・・・あっ」

途端にジト目になるホワイトに、ごくりとつばを飲み込むデボル。

「・・・やはりあれでもだいぶ儲けは出ていたな?」

「あははは・・でないと経営出来ないよ」

「・・・まったく、それなら最初の値段は何だったんだ」

「この辺りでは大きな金額の取引では普通に値引き交渉あるし、その為に手厚く利益乗せておくんだよ」

「そういうものか。ならば遠慮せずもうあと1時間くらい話せば良かったか?」

「いや、あれはもうあれ以上交渉の余地はなかったよ?」

「まだ儲けたと言ったではないか」

「儲けなきゃ商売続けられないよ」

「ふむ。それもそうか。では明日は何時にする?」

「内部時計の現在時刻は1325時で合ってる?」

「あぁ」

「じゃあ明日の0900時にここで待ち合わせで」

「解った」

「ホワイトさん一人?」

「そのつもりだ」

「ん。じゃあ営業車用意しとく」

「頼んだぞ。ではな」

そう言って出ていったホワイトを目で追いながら、デボルは肩をすくめた。

「アネモネに、記憶はあまりないみたいと伝えとくよう頼んどいたけど、どうなることやら・・」

 

その日の夕食時。

 

「えっ、じゃあホワイトさんの知人とお会い出来そうという事ですか?」

「そうなる。だからすまないが、明日も現場を離れて良いだろうか?」

「あぁ、大丈夫ですよ。まだ設計図に基づいて測量とマーキングしてるだけですし」

そう。

加古が笑顔の接客で高級リクライニングチェアを売っていた店舗は綺麗に片付けられた。

表のガラスには養生シートが張られ、玄関のドアノブには店舗改装中と掲示されている。

それでも日に数名は店を訪ねてきて肩を落として帰っていく男達が居たりするが・・・

そして店の中では地下から地上へと突き抜けるほどの採掘施設がまさに建てられようとしていたのである。

加古も頷いた。

「まだまだホワイトさん居てもすることないから何日か抜けても大丈夫だよ」

「そうか」

「あたしやMP40は外に知り合いとか友達居るけど、ホワイトさん一人だったし」

「・・」

「旧交を温められると良いね」

「・・あぁ。ありがとう、加古」

「にひひ」

マスターはふと、顎に手をやりながら言った。

「えっと、そのアネモネさんの所まではどうやって行くんです?MRAP出しますか?」

ホワイトは首を振った。

「いや、デボル社長が同行してくれる。営業車を出してくれるそうだ」

「道案内という事ですか?」

「社長もアネモネに会うのは久しぶりらしくてな、付き合ってくれることになった」

「そうですか・・じゃあ」

そう言ってマスターはキッチンに取って返すと、小さな木箱を1つ持ってきた。

ホワイトは首を傾げた。

「それは?」

「お酒ですよ。積もる話もあるでしょうから手土産にされては?」

「私は自身の体験ではなく、記録にあるだけなんだ。前任者の引継記憶さえもないからな・・」

ホワイトはそう言うと、寂し気に微笑んだ。

マスターは木箱を紐で結わえ、持ち手を作りながら続けた。

「それならそれで、そう言ってしまいましょう。その上でそこから始めれば良いんですよ」

「・・それで良いのだろうか」

「それでも共有出来る物があれば話は始まる。たとえ同形式のアンドロイドだという事だけでもです」

「・・」

「だってホワイトさんは、かつての仕事仲間だったという為だけで会いに行くんですよね?」

「・・あぁ」

「そういうことです。誰もが、仲間を見つけたいんですよ。ゆっくり話してきてください」

ホワイトはマスターを見た。

マスターはにっこり笑って箱を差し出した。

「もし想像と違って、仮に拒絶されても私がここに居ます。決して一人にはなりませんから」

ホワイトは箱を抱えてうつむいた。

そして少しした後、小さく頷いたのである。

 

 

翌日。

 

 

「ねぇマスター」

「なんだ」

「尾行するのにMRAPは不適当だと思うんだけどなぁ」

「MP40の装甲車の方が良かったか?」

後部座席に居たMP40は首を振った。

「大して変わらないと思います。むしろ武装がある分見つかった時に厄介かもしれません」

「なんで?」

「アネモネさんて確か、この道の先にある司令部の総司令官だったと思うんですが・・」

マスターはMRAPを急停止させ、MP40に振り返った。

「ちょっと待て。アネモネさんは自警団のボスと聞いてたんだが?」

「ええ。彼女達は自らを自警団と名乗ってます。合ってますよ」

「・・・えっ、自警団ってせいぜい10人とかそれくらいのイメージなんだけど?」

「少なくともこの先にある自警団の総司令部だけでも200名は常駐してますよ?」

「・・・加古」

「んー?」

「俺は進むべきかな、引くべきかな?」

「どっちでも。マスターに撃ってきたら殲滅するだけだし」

MP40も頷きながら言った。

「ええ。そんなふざけた真似をしたらどうなるか、しっかり学んで頂かねばなりませんね」

マスターは二人の目を見て頷くと、MRAPのギアをバックに入れた。

こいつらはやる。絶対に。

ホワイトさんも心配だが、それ以上に間違いがあってはいけない。

 

 

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