今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第46話

「ようこそ、自警団へ。それとデボル社長、お久しぶりです」

「調子はどう?」

「最近は落ち着いてますよ。さ、こちらへどうぞ」

 

デボルの運転する営業車がそびえたつ門に近づくと、門は軋んだ音を立ててゆっくりと開いた。

そして駐車場で待っていたアンドロイドとデボルはそんな言葉を交わした。

ホワイトは周囲を見渡した。

 

アンドロイドと戦術人形が混じった部隊のようだ。

皆武器を携行しているが、地対空ミサイルといった大型の兵器は無さそうだ。

せいぜいロケットランチャーか対物ライフルまでか。

そうなると先日の遊撃大隊相手では苦戦しただろうな。

「ホワイトさん、よそ見してると置いてくよ~?」

ふと声の方に振り向くと、少し先にある建物のドアを開けて待っているデボルの姿が見えた。

「すまない。すぐ行く」

ホワイトは急ぎ足でデボルの元に向かった。

 

 

「こちらでお待ちください」

「悪いね」

案内された一室は壁一面に大きく地図が映し出されており、様々な記号が地図上で動いていた。

ホワイトは一瞥しておおよその状況を理解した。

特に脅威はなく、定期巡回のみというところか。

 

「待たせたな。私がアネモ・・ネ・・」

背後から聞こえた声が途切れたので、ホワイトはゆっくりと振り返った。

そこには記録されていたプロファイルの顔写真とそっくりな女性型アンドロイドが立っていた。

ただし、こちらを見て呆然とした表情である。

ホワイトは苦笑いをした。どこから説明したものだろうか。

「まぁとりあえず自己紹介しようか。あたしはデボル。不動産探す時に思い出してくれ」

デボルの気軽な声で我に返ったホワイトは、アネモネに微笑みながら口を開いた。

「私はホワイトだ。実を言えば初めましてなのだが、記録上は久しぶりともいえるな」

ホワイトの一言を聞いたアネモネはぴくりと眉を跳ねたが、すぐに頷いた。

「私はアネモネ。自警団の総司令官だ。今日の用向きは何だろうか?」

デボルに視線で促されたホワイトは、そっとマスターが持たせてくれた箱を掲げた。

「その、私の経緯を説明したいのと、おかしな話かもしれないが旧交を温めたいと思ってな」

デボルはアネモネを見て、自制心を働かせてくれたことに感謝していた。

もしホワイトが当時の事を記憶していたら、到底今のようなセリフは出てこないからな。

 

 

「・・・なるほど。では貴方は地球に墜落した後の記憶しかないのだな?」

「その通りだ」

アネモネは頷いたホワイトを見て、じとりとした視線をデボルに向けた。

私にどうしろというんだというアネモネの非難するような視線を受けたデボルは肩をすくめた。

「それとは別にもう1つ、アネモネさんには知っておいて欲しい事があるぜ。最近の話さ」

「なんだ?」

「近頃は鉄血の連中、来なくなっただろ?」

「あぁ。どういう風の吹き回しか知らないがな」

「追い払ったんだってさ、ホワイトさんと愉快な仲間たちが」

「・・・は?」

デボルはホワイトの方を向き、壁面の地図を指さした。

「あれでどの辺りをどうやったのか、教えてあげてよ」

ホワイトは頷いた。

「あぁ。少し地図が狭い。もう少し広域の物に切り替えられるか?」

「「・・・・はい?」」

デボルとアネモネの声がピタリと重なった。

 

 

「・・・そして最後にこの拠点へMOAB1発を発射し、西半分も消した。以上だ」

「・・・・」

ホワイトは言い忘れたことは無かったかと思い返していたが、ふと、全く声が聞こえないことに気が付いた。

そして二人を見てびくりとなった。

二人とも、ぽかんと口を半開きにして呆然とした表情でこちらを見ていたからである。

ホワイトはとっさに、自分が根本的に技術用語を間違えて用いたのかと考えた。

そして恐る恐る訊ねた。

「え、ええと、その、今の時代では用語の使い方が変わったとかがあるかもしれない」

「・・・・」

「解らなかった事があったら言ってくれ・・なんでも説明する」

 

しばらくの沈黙の後、アネモネがゆっくりと頷いた。

「・・いや、解らなかったわけではない。強いて言えば、今日の今日まで謎だった事が全て解った」

ホワイトはアネモネの言葉の続きを慎重に待っていた。

アネモネは続けた。

「貴殿の作戦決行日、うちの部下が移動中の鉄血の大隊が爆発で消し飛んだのを目撃している」

「空のあちこちに白い線のような雲が出来て、その先ですさまじい爆発が次々起きたことも」

「莫大な兵力を有していた鉄血の基地が真っ黒に抉り取られた大地に変わり果てたことも」

「なにより、その日を境に鉄血の小型戦車1台すら見かけなくなったこともだ」

「我々はこのあまりにも不可解な出来事をずっと調査していたが・・・そういうことだったのだな」

ホワイトは恐る恐る訊ねた。

「オペレーターとは密にやり取りをして着弾位置を調整したが、貴殿側に被害があったのか?」

アネモネは首を振った。

「いや、こちらの損耗は無い。むしろ何故無かったのかと疑問を持つ程の威力だったがな」

「鉄血以外に損耗を出すなと命令したからな・・良かった」

ほっと胸をなでおろすホワイトを見て、アネモネは初めて苦笑を浮かべた。

「貴方は間違いなく、バンカーのホワイト司令官ではないな」

ホワイトは眉をひそめ、アネモネを見返した。

「い、いや、私は確かにバンカーで運用される筈だったコマンダーモデルなんだが」

アネモネは首を振った。

「そうじゃないんだ。バンカーで指揮していた鬼司令官とは性格が違うといえば良いか?」

「鬼司令官?」

アネモネは目を細めた。

「バンカーで指揮を取っていた貴方の前任者はな」

「ああ」

「カアラ山で私も含め、降下作戦に従事したアンドロイド部隊全員を見殺しにしたんだが」

「!」

「我々の救援要請に対して「派遣する為の損耗に対するメリットが無い」から許可出来ないと言ったんだ」

「・・・・」

アネモネはふっと笑った。

「多分、「貴方」はそんな答えにならないんじゃないか?」

ホワイトはややあってから、頷いた。

「時に非情な決断をしなければならないだろうが、それでも・・私には言えないだろうな」

デボルはニッと笑って頷いた。

「だろうね。この前の交渉見ててそう思ったよ」

ホワイトは疑わし気な目でデボルを見た。

「どうしてそう思った?」

「あの時ホワイトさんはアタシの嘘を見抜くセンサーを持ってたんだろ?」

「今も持ってるが?」

「だったら最後に3000枚って言った時にも、まだ反応があったはずだ」

「あぁ」

「どうして値下げの追及を止めたんだい?」

「それは・・マスターがもういいと言ったからだ」

「あん?マスターって、あの男だろ?ホワイトさんの部下じゃないのか?」

「違う。マスターは私の恩人で、私がお仕えするお方だ」

「・・・えー、すっかり騙されたなぁ」

デボルは両手を自分の後頭部に持って行きつつ唸った。

「騙したとはどういうことだ?」

「あたしはてっきり、ホワイトさんがGOサインを出さないと買わないんだと思ってたよ」

「ほう」

「でも意思決定者はあのマスターだったとはね。一杯食わされたよ」

ホワイトはデボルに向けてニイッと笑った。

「食わしてくれたのはそちらも同じだろう?金貨何枚儲けた?」

デボルも意地の悪い笑みを返した。

「それは企業秘密となっております」

アネモネはじっと二人のやり取りを聞いていたが、小さくため息をついた。

「・・うむ、それなら話は別だ。ホワイト殿」

「あ、ああ。すまない、話の途中だった」

「いや、先程の話の通り、貴方はバンカーのホワイト司令官と瓜二つの外見だが、中身はまるで違う」

「・・」

「そして何より、貴方の作戦によって我々の部下が多数救われたのは事実だ」

「・・」

「私はデボルと違ってホワイト司令官との記憶も持ち合わせているが、折り合いをつけていこうと思う」

「・・」

「私の部下を救ってくれたことに感謝を。そしてこれからの友人として迎えたいが、どうだろうか?」

ホワイトは頷き、すまなさそうに首を傾げた。

「ありがとう。それと、貴方にそんな仕打ちをした者と一緒の外見で、惑わせてしまってすまない」

アネモネはくすくすと笑った。

「大丈夫だ。絶対に同一視出来ないほど違う性格だから間違えないよ」

デボルはホワイトが床に置いていた木箱を取り上げ、ポンと叩いた。

「ところで、これの中身は何だい?」

「マスターがくれた酒だ。中身は私も解らないんだ」

「へぇ。じゃあこれで3人で固めの杯と行かないか?」

二人はしっかりと頷いた。

 

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