今日も地球の片隅で。 作:銀匙
「ええと、要するにトンデモナイ物を掘り当てちゃった的な状況ですか?」
恐る恐る訊ねたマスターに、ホワイトは小さく頷いた。
「あぁ。反応のある塊を集めただけだから不純物も多いだろうが、軽く5kg以上あるからな・・」
MP40が蒼褪めた顔で呟いた。
「アネモネ総司令官の話で考えれば・・金貨5000万枚分ってことですよね・・・」
ホワイトは首を振った。
「どの程度の不純物割合までを原石と言うかが解らない。実質1/100くらいかもしれない」
「それでも50万枚分ですよね・・・もう天文学的数字で想像がつきません・・」
加古は肩をすくめた。
「更に言えば、世界で、もうそれしかないかもしれないってやつでしょ」
マスターは頬杖をついた。
「ええっと、うちら以外でここに触媒石があるって知ってるのは・・・」
「デラさん、リーリャさん、デボルさん、アネモネ総司令官、かな?」
「うっかり喋りそうなのは・・」
ホワイトが軽く手を振った。
「アネモネとデボルは価値を解ってるから心配はいらないだろう」
「となると・・・リーリャさんか」
「あぁ・・職人だから世間の相場とか興味なさそう・・」
「そういう意味ではデラさんも危ないかもな」
「二人には明日、そういう物だと言いに行こう」
「そうだな。まずは最優先で話をしてこよう。二人の身の安全のためにも」
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翌日。
「へー、良かったじゃないですか」
ホワイトから説明を聞いたリーリャは、ビスを締め終えるとホワイトに向かってニッと笑った。
「それはそうなのだが、あまりに高額過ぎて雲をつかむような話でな・・正直現実感が無い」
「まぁそうでしょうね」
ホワイトは記憶をたどり、リーリャには最初に見つけた塊しか見せていない事に気が付いた。
なのであの塊が金貨数万枚の価値がありそうだ、と説明したのである。
リーリャは数万枚という単語を聞いても特に反応しなかったので、むしろホワイトが驚いた。
「その、リーリャは大金に慣れているのか?」
リーリャは頷いた。
「私の実家って、アンドロイドの階級の中でも上の、貴族と呼ばれる立場まで上った事があるの」
「ほう」
「だからそこそこ長い期間、不自由なく暮らしてたことがあるんだけど」
「・・」
「途中でクーデター起きちゃって、家族は散り散り、両親は殺されちゃった」
「なっ・・」
「それでも逃げ延びる時に母が持たせてくれた金貨はまだまだ万単位で残ってるの」
「なるほど」
「だから金持ちはもうこりごり。強奪しようとか夢にも思わないから安心して?」
「いや、そうではなく、誰かに話してしまうと身の危険が生じるという話だ」
「大丈夫。アンドロイドにとって触媒石がどれだけ貴重かは良く知ってるもの」
「ちなみに、最近の相場を知らないか?」
「最近?相場表には「産出無し、見つかった都度応談」って書かれてるよ」
「大変なことになったな・・」
頭を抱えたホワイトを見て、リーリャはくすりと笑った。
「面倒だったらFOLMEに引き取ってもらったら?」
「どういうことだ?」
「今、世界で触媒石の粒子を保有してると噂があるのはFOLMEの総本部だけだから」
「・・・・」
「アンドロイド最後の希望って言われてるしね」
「・・良く解った。あぁ、朝食の準備を邪魔してすまなかった」
「気にしないで」
「では、くれぐれも内密に頼むぞ?」
「はーい」
ホワイトがMP40の装甲車に乗り込むのを、リーリャは見つめながら呟いた。
「・・危険な秘密を知ってしまったアンドロイドは殺せってのがバンカーの掟だったのになぁ・・」
リーリャはフフッと笑った。
「さてはマスターと付き合って、ホワイトさん丸くなったのかしら?」
同じ頃。
「マスターは何かそういう神に祟られてるんじゃないか?」
「そういう神って?」
「疫病神か、トラブルの神か、騒動の神か、ボケとツッコミの神か・・」
「・・・納得出来る根拠が豊富過ぎて悲しくなってくるよ」
「いきなり迫撃砲で撃たれるとか、ダミーで店を開けば商品がバカ売れして本業が進まんとか、なぁ」
「そうだね・・」
「で?わしが誰かに喋るなよって念押しにでも来たのか?」
「危険だからね。一応」
「その前にわしがごく一部の職人か、お前さん達を除いて会話が可能かどうか考えてくれんか」
「・・えっ?待ってくれデラさん」
「なんだ?」
「じゃあどうやって生活物資とか仕入れてるの?」
「宅配兼集金をドローンがやってる通販しか頼めないんだが?」
「あぁ・・そういう・・」
「そこまで限定しても最近は業者が豊富にあるからの。特に困らん」
「まぁDIYの材料は戦場で拾ってくればいいもんね」
「外装や骨格とかならそうじゃな。壊されやすい部材は運次第だが」
マスターはふと気づいた様子でデラに訊ねた。
「そういえばデラさん、鉄血とか戦術人形のコアは備蓄あるって言ってたでしょ」
「あぁ」
「ブラックボックスも備蓄してるの?」
デラは一気にジト目になった。
「あんな2個重ねただけで周囲3km吹き飛ばす危険物なぞ誰が持つか」
「随分具体的だね」
「実体験に基づいとるからの。おかげで住まい1つ丸々消し飛んだわ。厄種以外の何物でもない」
「なるほど・・だからなのかな」
「なにがだ?」
「ブラックボックスとして備蓄出来ないから、ニーズがあるのに戦場に放置されてるのかもって話」
「1度使われたら別の者が使うのは不可能らしいからの。危ないだけの代物を持ち帰るバカは居らん」
「安全なブラックボックスの備蓄方法とブラックボックスからの粒子抽出方法かぁ・・」
デラがジト目でマスターを見た。
「うっかり加古ちゃんが取り落として起爆って未来しか見えんぞ?」
「・・・あー・・・ボケの神の本領発揮って感じだなあ」
「止めておけ止めておけ。とりあえず金はあるんじゃろ?」
「なぜか知らないけどトラブルの度に金が増えてくよ」
「あと5回くらいトラブルが起きれば貴族になれるかもの」
「引き換えのトラブルのレベルがシャレにならない気がする」
「HCB誤起動とかかの」
「宇宙のチリにはなりたくないよ」
「ともかく、わしの方は話す相手が居らんが、まぁ状況は分かったから万が一機会が来ても話さんよ」
「ありがとう。あ、そうそう。結局あの店の周囲も丸ごと買ったんだよ」
「あの1ブロック全体をってことか?あぁ、採掘用か」
「いや、採掘は前も言った通り店の地下に垂直方向だけだよ」
「じゃあどうしたっていうんだ」
「店舗兼住宅にしようと思ってさ」
「住まいなら今の所を使えばよかろう・・何かあったか?」
「ん、まぁ、ちょっと音の関係でご意見を頂いちゃってね」
「ほう・・どこのどいつだ?話をつけてきてやるぞ?」
デラの目のハイライトが消えたので、マスターは慌てて首を振った。
「良いの良いの。それにデラさんの飛行機も来にくいでしょ」
「・・まぁな」
「店の方なら洞窟の外だし、1ブロック買えば店と住まいをきっちり離せるし」
「ふむ?」
「そしたらデラさんいつでも気兼ねなくうちに来れるでしょ?」
「・・わしの飛行機の為か?」
「まぁ、私が気兼ねなく工作やりたいってのもあるし、どうせならデラさんが来やすい方が良いじゃない」
「・・・・」
「・・何か変なこと言ったっけ?」
「・・・いや」
マスターは唇を噛んで小さく震えるデラの様子を見て首を傾げていたが、
「そんなわけで、申し訳ないけど採掘が終わって、新しい建物が出来るまであの家を貸してほしいんだよ」
「・・構わんぞ」
「で、何度も聞いてるけどあの家の家賃大丈夫なの?今なら普通に払えるけど」
「いらん。大丈夫だ。何度も言っとる」
「・・そう。じゃあ用事はこれだけだから。今は営業してないからいつでも遊びに来てよ」
「解った」
デラはマスターの乗ったMRAPが遠くに去っていくのを、ただただ見つめていた。