今日も地球の片隅で。 作:銀匙
「というわけで、次のDIYは精錬施設にするよ~」
「は?」
ホワイトとMP40、マスターと加古の揃った食事時。
マスターは良い笑顔で言いきった。
「ホワイトさんが精錬プラントの構築方法も知ってるっていうからさ、作ってみようかと思って」
ホワイトが頷いたので、MP40はおそるおそる口を開いた。
「あのぅ、触媒石を高純度の状態で持っても、あまり良い事が無いように思えるんですけど・・」
「小さくなるから隠しやすくなるよ?」
「今もせいぜいバケツ半分くらいですし・・」
「もっと出るかもしれないじゃない?」
「それはそうですが・・そもそも現状をふまえても採掘を続行なさるんですか?」
「逆に、するしかないって結論なんだよ」
「逆に?」
「今採掘を止めて、掘った分をFOLMEに売るとするだろう?」
「はい」
「でも地下からは反応が続いてるわけだよ」
「はい」
「それが知られたら、店はどうなると思う?」
「あっ」
「その通り。夜討ちか打ち壊しか特殊部隊突入か知らないけど、絶対平和な展開はない」
MP40はこくりと頷いた。
「だったらもう掘りつくしてしまって全部FOLMEに渡しちゃう方が良いでしょ」
「なるほど!さすがマスター様です」
「そうだろうそうだろう」
加古がジト目で呟いた。
「精錬プラントなんて大物作れるとなると腕が鳴るよねぇ」
「黙秘します」
「うっきうきですって顔に書いてあるよ。黒マジックの極太で」
「極太か」
「極太です」
「知られてしまっては仕方ないな」
「なによぅ」
「FOLMEへの売却益の2%でどうだ?」
「えっ」
「アネモネ司令官情報を思い出せ。鉱石より精錬状態の方が単位重量当たりの値段が高かっただろ?」
頷くホワイトを横に、マスターは続けた。
「鉱石なら1グラムで1万枚だが、精錬状態ならなんと1ミリグラムで2万枚だ」
「えっちょっと待って、2000倍も違うの?」
「そうだ。仮に鉱石で売って加古の取り分が100枚だった場合・・」
「いちじゅうひゃくせん・・にっ20万枚!?一生遊べるじゃん!」
「協力してくれるかな?」
「やる!」
「よし」
MP40は静かに紅茶をすするホワイトに耳打ちした。
「ええと・・精錬によって何%くらい廃棄扱いになるんです?」
「実績記録としては80~99.8%だな」
「2000倍が最悪4倍まで下がるわけですね」
「元々2000倍はありえない。最大でも400倍だな」
「勝手に誤解した加古が悪いと」
「ノーコメント」
MP40は肩をすくめた。最悪の割合でも損はしないけど。
「私、予定では明日出発なんですが、もう少し居た方が良いでしょうか?」
ホワイトは首を振った。
「出来れば早めに戻ってきて欲しい。精錬施設が出来上がる頃に戦力が必要になるはずだ」
「なるほど。では早く帰ってきます」
「どれくらいかかる?」
「最後の配達もあるので、頑張っても2週間から2週間半くらいですかね」
「解った。それ以上早く完成しないように手を回しておこう」
「よろしくお願いします」
「無事に帰ってきてくれ。頼む」
「はい」
MP40はにこりと笑った。なんかホワイトが指揮官っぽい。
「では、行ってまいります」
「気をつけてな」
「早く帰ろうと焦るなよ。ちゃんと待ってるから」
気遣う様子のホワイトとマスターに対し、
「さくっと行っといで~」
と、加古はひらひらと手を振るのみであった。
MP40はジト目で加古を見返した。
「本当に最後まで心配してくれないんですね」
「あんたがやられるなんて想像もつかないからね」
だが、MP40はスッと背筋を伸ばすと、
「私の居ない間・・・マスターをよろしくお願いします」
そう言って頭を下げたので、加古は目を細め、
「任せな」
と、短く答えた。
「ほう、精錬プラントか。7千年ぶりくらいに聞いたな」
「古代戦乱期末期になんでそんな単語を聞いたんです?」
「うん?」
マスターの問いに、遊びに来ていたデラはふと顎に手をやった。
「はて、そういえばどこでじゃったかなぁ・・」
「まぁそれはそうと、あの自走ユニットって何mくらい掘れます?」
「うん?どうせこの狭い範囲じゃから100mくらいは楽に行けるじゃろうよ」
「なら採掘ユニットはそのまま行けますね」
「どういうことじゃ?」
「ホワイトさんは25m付近まで掘ってみたいそうなんですよ」
デラはホワイトに訊ねた。
「そうじゃ、先日の探査結果で描いたイメージ図面を見せてもらえんかの」
ホワイトは書棚から図面を入れたケースを取り出した。
「・・・これか?」
「あぁそうじゃ。これ、もう少し深い所まで描けるかの?」
「深い所?今回掘削する所はこれよりもっと浅いが・・」
「この辺りの形に何か見覚えがあるような気がしての」
「解った。少し待ってくれ」
ホワイトは地下室の採掘ポイント付近に立ち、じっと目を瞑って数分間動かなかった。
やがてゆっくり目を開けて作業机に戻ってくると、真っ白な紙にさらさらとペンを走らせる。
「およそ深度200mくらいまで探知したんだが・・・こんな感じだ」
書き上げられていく図面を見て、マスターとデラは目を見張った。
「デッ、デラさん・・・」
「マスター・・これは間違いないな・・・」
最後の1辺を記したホワイトは首を傾げた。
「なんだ?知ってるのか?」
デラが頷いた。
「これは核シェルターの構造じゃな。物資の保管も可能な大きいものじゃ」
マスターは腕組みをしながら呟いた。
「でも、それにしては地上へのアクセス手段がないね・・・」
ホワイトは眉を顰めた。
「深さ方向は200mくらいだが、水平方向は500mくらい探知しているぞ?」
「ええ。シェルター全体が書き切れてますからね」
デラは首を傾げた。
「地上にアクセス出来ない核シェルター?昇降路が土に埋もれたか?」
「その可能性はあるけど、この辺り見て。さらに下に続いてそうじゃない?」
「確かに・・・地下方向に通路がありそうじゃな。どういうことだ?」
その時、ホワイトがパタリとペンを落としたので、マスターとデラはホワイトに向き直った。
「どうしたのホワイトさん?」
「まっまさか・・いや、そうか・・・なんてことだ」
「どうしたんです?」
「・・・機械生命体の建造物・・かもしれない」
「なぁるほど。確かに理屈は通るよね」
マスターは頷きながら続けた。
「最終戦争が近づいてることを悟った機械生命体は生き残り策を立てた」
「まずは触媒石を掘れるだけ掘り集め、それを地下シェルターに埋めた」
「戦争が終わってから地上に引き上げる操作をし、自分達の補充に使いつつ新たな産地を探す、か」
ホワイトは頷いた。
「機械生命体は地下に大規模な建造物を作ることが多いからな・・」
「でも確かに独占する意味のある物質ですからね」
「ああ。地上の触媒石を掘りつくせば、我々アンドロイドは世代を問わずエネルギー補充が出来なくなる」
デラも頷いた。
「兵糧攻めを兼ねたという事なら、地下の異常な備蓄量と地上の現状も納得できるのぅ」
マスターはぴくりと眉をはねた。
「ってことはさ、もしかするとシェルター内に警備兵とかいるんじゃないの?」
ホワイトが頷いた。
「その可能性は十分にあるな。個体かシステムかは別として」
デラはにやりと笑った。
「ならば戦闘の準備も必要じゃな」
マスターはホワイトに訊ねた。
「機械生命体の警備兵を簡単に一掃出来る方法ってあるんですか?」
ホワイトは頷いた。
「簡単ということならEMPだろう。電磁波だ」
「電磁波・・・うん?それならHCBで良いんですよね?」
「強すぎるだろう。買った敷地どころかこの町丸ごと炭になるぞ?」
「あのサイズじゃなくて、シェルター程度の威力に小型化したら?」
ホワイトは首を振った。
「触媒石まで小さくなってしまうが?」
「あっ・・・」
「EMPだけで十分だと思うぞ・・」
デラは肩をすくめた。
「シェルターの外側から用いてもEMPは効かんじゃろう。触媒石を考えればHCBも使えんしな」
「とすると?」
「シェルターの一部を壊して入ってみて、敵が居ればEMPで片付ける、かのう」
「ホワイトさん」
「なんだ?」
「これがシェルターだとして、触媒石はこの中にあるという位置関係で合ってますか?」
ホワイトはややあってから頷いた。
「一番強い反応は確かにその辺りだ・・まぁ、他は反響ノイズなのかもしれんな」