今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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6月6日6時投稿です。
特に意味はありません。



第50話

それから数日後。

「ふーい・・こんなもんかな」

「マスター殿、そっちも一段落か?」

「ええ」

「では一休みとしないか?コーヒーを淹れようかと思うのだが」

「良いですね、お願いします」

「あぁ、解った」

ホワイトはサイフォンの用意をしつつ、ふふっと笑った。

ようやくマスター殿が一休みしたい時の体調的特徴が割り出せたようだ。

心拍数、呼吸数、周囲湿度、脳波・・・センサーフル活用だ。だが使える物はすべて使う。

その時、ホワイトの通信装置が呼び出し音を鳴らしたのである。

「誰だ・・ん?アネモネか・・・こちらホワイト、どうした?」

「先日話したが、マスター殿との面会はいつ頃可能だろうか?」

「ちょっと待ってくれ・・」

ホワイトは保留モードにして一瞬考えた後、マスターに声をかけた。

「マスター殿。アネモネ総司令官が一度会いたいと言っているのだが」

マスターはキョトンとした顔で答えた。

「構わないですが・・・なぜ?」

ホワイトは頷いて答えた。

「我々アンドロイドは、人類をエイリアンから守るために戦うという名目で作られたからな」

「へぇ・・」

「だから、自分達が命を賭して守った証、つまり現存する人類と会いたいのだ」

「それは、アイデンティティの証明として、という事ですか?」

「うーん・・もっと単純な気持ち・・敬愛する主人という感じが近い」

「そんなもんですか・・私で良いんですかね?」

「良いと思う。そして、少なくともこの居住区に居る人類は貴方だけだ」

「なるほど。私で良ければいつでもお越しくださいとお伝えください」

ホワイトは回線の保留モードを解除した。

「待たせたな、マスターはいつでも良いとのことだ。就寝時間以外ならいいのではないか?」

「では、早速ですまないが小1時間ほど後でも可能か?」

ホワイトは1時間後程度では夕食時にはまだ早いと判断した。

「構わないだろう。1~2時間は時間が取れるはずだ」

「あぁ・・解った。そうか、私はついに人類に会えるんだな・・楽しみだ・・」

「気を付けて来るんだぞ。位置情報は送っておく」

「うむ。あぁっと、一人で行った方が良いか?」

「そうだな。一人なら・・見せられる物もあるだろう」

アネモネは一瞬でピンと来たらしく、少し声色がこわばった。

「あぁ、解った。それでは一人で向かうとしよう。では1時間後に」

「1時間後に」

通信が終わったことを確認したホワイトは、マスターに向かって言った。

「アネモネは1時間後に来るそうだ」

「1時間後?随分早いね」

「・・まぁその、それだけ楽しみにしてて待ちきれないのだろう」

「ほんと私なんかで大丈夫なのかなあ」

「大丈夫だ。少なくとも私は出会ってから1度も落胆したことは無い」

マスターはにこりと笑った。

「ありがとう、ホワイトさん」

 

 

「おっ・・おおおおオリファイ雑貨店はここでしょうか?わ、わわっ、私はアネモネで」

「少し落ち着こうか。色々台無しだぞ?」

ドアを開けたホワイトの姿を認識したのか、一気にアネモネの両肩ががくりと下がった。

「なんだホワイトか・・脅かすな」

「ただ単にドアを開けただけだ。緊張しすぎだ。さぁ入ってくれ。お茶を淹れよう」

「ありがとう」

その時。

「やぁ貴方がアネモネ総司令官ですね?いつもお世話になっております」

「!!!!!!!!!」

部屋の奥から出て来てアネモネに頭を下げたのは他ならぬマスターであった。

アネモネは凍り付いたように動きを止めていたが、たっぷり10秒ほどしてから再起動した。

「あ、ああ、ああああアネモネいいます。よろしくある」

そんなアネモネを見て、ホワイトはジト目になっていた。

おいおい、総司令官とか全て脇においても今の君は完璧にポンコツだぞ?

そんなホワイトの思いを他所に、マスターはつかつかとアネモネに歩み寄る。

「さぁさぁ、玄関ではなんですから。どうぞ応接間に。さぁどうぞこちらへ」

「はっはい!お邪魔しましゅ!」

 

 

「どうぞ、お口に合うか解りませんが」

そう言いながらマスターは紅茶とクッキーをアネモネの前に置く。

ソーサーごと持ち上げたアネモネだったが、傍目にも明らかなほど震えており紅茶が見る間に零れていく。

カチカチと音を立てているのはカップとソーサーか、それともアネモネの歯か。

「ええと、私程度にそんなに緊張しないでください・・大丈夫ですよ」

マスターは、そっとアネモネの手に自らの手を添え、カップを机の上に戻させた。

そして濡れ布巾を持ってきた加古に目配せして紅茶を拭かせつつ、アネモネの向かいの席に腰を下ろした。

「確かに私は人類ですが、元々一般市民で、今も御覧の通りただの雑貨屋の主です」

「・・・」

「むしろ私の方が、ここでの平和な生活を守って頂いてる事に感謝しなければなりません」

「・・・」

「大変だと思いますが、毎日ありがとうございます」

「・・・」

「ところで今日は、どういった御用事でしょう?」

マスターの最後の言葉で我に返ったアネモネは、しばらくの間マスターの顔をじっと見つめた。

何度か迷ったように視線を動かした後、アネモネはそっと口を開いた。

「・・マスター殿は、旧世界の記憶もお持ちなのか?」

「えっ?あぁ、旧世界ですか。断片的ではありますが」

「その、もし良ければ、人類が大勢いた頃の地球の日常を、お、教えてくれないだろうか?」

「人類が大勢居た頃の・・日常の話ですか?」

「あぁ。本当に普通の日の事を、だ」

 

 

-----

 

 

「へー、マスターって鎮守府みたいなとこで働いてたんだね」

「軍じゃないぞ、普通の民間企業だからな」

「なんていうかさ、組織の中で働くって意味」

「あぁ、そういう意味ではそうだね。今は自営業というか個人商店だもんなぁ」

 

マスターは覚えている限り詳しく、旧世界の文化、気候、食事や1日の過ごし方などを話して聞かせた。

ゆえに到底夕食前に終わらず、状況を察した加古が包丁を握った。

そして折角だからと、マスターはホワイトとアネモネも夕食の席に招いたのである。

食事をしながら話を続けるマスターに先のような感じで相槌を打っているのは当然加古である。

アネモネは目をキラキラさせていた。

旧世界の話も、人類と共にする食事も何もかもが新鮮だったからである。

 

「加古は電車は解るか?」

「電車?あぁ、大本営前とかの駅から乗るやつでしょ。早く進むでっかい鉄の箱」

「まぁそうだけど・・え?じゃあ通勤とかは?」

「ツウキン?雑菌の親戚かなにか?」

「あーそりゃそうか。鎮守府だと宿舎は敷地内か?」

「えーっと、うちはそうだったね。敷地の外に寮がある鎮守府もあったよ」

「でも徒歩圏だろ?」

「そうだね。せいぜい5分くらい。緊急出動あるし」

「鎮守府と寮がもっと離れてて、寝る所と仕事場の間を移動する事を通勤っていうのさ」

「へー・・でもなんで離すの?」

「会社に近い場所は対価が高くてな・・離れないと庶民の予算では買えないんだよ・・・」

「どのくらい離れるの?」

「電車か車で1時間か2時間位だな。電車の場合は大体立ったまま乗ることになる」

「うへぇ・・じゃああたしは永遠に「さらりぃまん」とやらにはなれないなぁ」

「まぁ、そんなんが旧世界の私が居た頃の話だよ・・あ、そうだアネモネさん」

「へっ?あ、はい」

「貴方が聞きたかった話は、こんな感じで良いですか?知りたいことがあればお話ししますけど」

「いや、どれも全く知らなかったことだから楽しく聞かせてもらっている」

「それなら良かった」

「・・・ただ、そうした世界と現在は、あまりにもかけ離れているな」

「そうですね。1日の寒暖差も昔はせいぜい15度くらいでしたが、今は70度以上ですからね」

アネモネは俯きがちに続けた。

「その・・マスター殿はもう少し早く我々が地球を奪還出来ていれば・・と思うか?」

マスターはきょとんとした。

「戦争を始めるのは一人の馬鹿者ですが、終わらせるのは一人では無理ですよ?」

「・・どういうことだ?」

「誰か一人が終わらせようと頑張っても、全体が続けようという意思を持っていれば終わらない」

「・・」

「終わらせた方が良いという機運と利害関係が当事者双方に広く伝わらない限り終われないんです」

「・・」

「だからアネモネさんお一人が背負い込む問題ではありません。皆がその時合意したというだけです」

「・・そう、言ってくれるのだな」

アネモネは小さく頷いた。

 




突然ですが、既に書き上げているパートまで今後公開し、そこで本作を終了することにしました。
まだ編集中ですから多少前後すると思いますが、およそ後10話位です。
理由につきましては最終話のあとがきで記します。

残り少なくなりましたが、お付き合い頂ける方は引き続きよろしくお願いいたします。
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