今日も地球の片隅で。 作:銀匙
「ようこそ、いらっしゃいませ」
「やぁ、また来てしまったよ。用立てて欲しいものがあってね・・」
ホワイトを連れたマスターは、MRAPで以前指輪を用立ててくれた職人の仕事場を訪ねていた。
職人は小首を傾げた後、マスターに向かって言った。
「・・失礼ですが、こちらのご婦人はアンドロイドでらっしゃいますよね?」
ホワイトは頷いた。
「あぁ。だいぶ古いモデルになるがな」
職人の物言いたげな視線を感じたマスターは苦笑した。
「あー、えっとね、なんというかその、色々あってね」
「たしかこういう時、旧世界では「爆発しろ」といって手榴弾を投擲申し上げるのが礼儀でしたな?」
「そんな礼儀無いよ。デマだよそれ」
「左様でしたか。それで、今回のご入用の物は?」
「・・・結婚指輪を1組お願いします」
職人は二人にはっきり聞こえるように、ゆっくりと答えた。
「マスターにとっては3つ目の、ですな?」
「はい。3つ目です」
職人は一瞬ホワイトに視線を向けてから、つまらなさそうにマスターを見た。
「おや、そちら様に秘密ではなかったのですか・・そうですか」
「皆同居してるからね。・・・ん?いや、もし秘密にしてたら今頃修羅場じゃないの?」
「ですから面白い情景になるかと思ったのですが、期待外れでしたなぁ」
「酷いなぁ」
「さて、次々手籠めにしてハーレム一直線のマスター殿はどのようなデザインをご所望ですかな?」
「物凄く言い方が刺々しくない?」
「とりあえずデザインの検討前準備金として金貨33枚くらい頂きましょうか」
「もう勘弁してください」
流れるように追い詰められていくマスターを見て、慌ててホワイトが口を挟んだ。
「あ、いや、違うんだ。決してマスター殿は我々を誑かしたわけではなくてだな」
職人はホワイトを見返すと、ニヤリと笑った。
「なら、冗談はこのくらいにしましょうか。それで基本の型ですが・・・」
マスターはほっと胸をなでおろした。
「ご発注頂き、ありがとうございました」
マスターは店の外に出た後、疲れ切った表情でMRAPのドアを開けた。
「さぁどうぞ、ホワイトさん乗ってください」
「ええと・・その、大変だったな」
「あの職人さんは腕は確かなんですけど・・冗談というか悪戯が好きで・・・」
「確かに」
ホワイトはマスターと共に見た指輪の最終デザイン画を思い出した。
センスがあって普段使いにも支障がなく、きらりと引き立たせるものだった。
前金で金貨5枚も取られていたが。
「だから宝飾系ではいつもお願いするんですけどね。今日は特に酷かった」
「ふむ。なぜだろうな」
「それはまぁ、ホワイトさんが美人だからですよ」
「なっ何故だ?」
「うらやましいぞってことですよ・・私が彼だったら間違いなくそう思います」
「そっ・・そうか・・そういえばマスター殿は、以前に麗しき女性と言ってくれたな」
「ええ。見るたびにそう思ってますよ」
「・・・」
「とにかく、2週間後の出来上がりを楽しみに待ちましょう」
「そっ・・そうだな」
頬を染めてうつむくホワイトを横に、マスターはMRAPを発車させたのである。
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マスターの住まいを離れて1週間。
MP40は今日も装甲車で戦場を駆け抜けていた。
「こんにちは。MPL宅配です。お水をお持ちしました」
「おー?もうそんな時期か。こっち置いといてくれ」
「はーい」
「そんなわけですみません。商売を畳むことにしたのでこれが最後のご挨拶になります」
「お嬢ちゃんは必ず水が切れる前に来てくれたから助かってたんだが・・畳むんじゃしょうがねぇな」
「お詫びに、今回の料金はサービスとさせて頂きます」
「おっ、そうかい?悪いね」
「今までありがとうございました。ご武運をお祈りします」
「ありがとよ!お嬢ちゃんも元気でな!」
装甲車に戻ったMP40は、メモリにあるリストからまた1つ契約先を消去した。
支払い手続きが無い分、予定のペースより2日ほど短縮出来ている。
「さて、次のお客様の所へ行きますか」
MP40は装甲車をゆっくりと発進させた。
同じ頃。
「すると、この配管部分に銅の網を固定しておけば良いのですね?」
「あぁ。長さを半分にして、2枚並列で入れたほうが良い」
「直径方向に1/3ずつの均等間隔で良いですか?」
「いや、網同士の間隔を狭めて、中心に近い・・ここと、この辺りだな」
「それは何故?」
「網と網の中心部と外部で圧力の差が生じて、ここからこういう流れが生まれるのだ」
「なるほど、ベンチュリ効果ですね」
お茶を運んできた後、加古はなんとなくホワイトとマスターの会話を聞いていた。
指輪を発注してからというもの、二人は朝から晩まで寄り添って精錬プラント製作に没頭している。
ただし甘い雰囲気というより教授と助手のような会話であるが。
加古は肩をすくめた。
何言ってるかさっぱりだし、食事時に引っ張り出さなきゃならない人が倍に増えちゃった。
それでも一歩も外に出ないし。
・・・今夜は見た目普通の激辛麻婆豆腐にしてやろうっと。
・・・べっ別に寂しくないし。
その時、加古の通信機が鳴った。
「はいはーい、どちらさん?」
「望月だよー」
加古はぴくりと眉を吊り上げ、通信機を操作しながら答えた。
「およ、珍しいじゃん。どうしたの?」
「たまには茶でもしばこうかと思ってさ。暇?」
「いつ?」
「今」
「急だねぇ」
「思いたったが吉日っていうじゃん」
「まぁね。別に良いけど30分ぐらい後で良い?」
「じゃあ店で待ってる。地図送っとくから早く来てね」
「解った」
望月との通信後もしばらく通信機を操作していたが、やがて加古はマスター達に声をかけた。
「あたしちょっと出かけてくる。ここから出ないでね」
マスターが振り返った。
「ん?FOLMEか?気をつけてな」
「ちょっとね。もう1回言っとくけど、この部屋から出ないでね?」
「食事時まで出ないのは知ってるだろ?」
「念の為。じゃーねー」
そういって加古は地下へと続くドアを閉めると、ひょいと大型の棚を持ち上げ、ドアの前に置いた。
「さぁて・・早く早くぅ・・っと、獲物獲物~♪」
加古は素早く2階に上がると、押入れの隅から黒いカバンを引っ張り出した。
荒目のファスナーを開け、中の物を取り出す。
油紙を外し、取り出したXM109の動作を確認する。スコープの取り付けも・・狂いなし。
弾丸は徹甲弾系を少しと、劣化ウラン弾かな。派手に行かなくちゃね。
サブウェポンはレイジングブルのM454でいいや。カスール弾いっぱいあるし。
っと、やっとかかってきたな。
加古は通信機の受信ボタンを押した。
「ハローご無沙汰。で、相手解った?」