今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第55話

「ハロー」

「誰だお前は」

「誰でも良いんだよ。どうせお前が何かを改めれば良い段階は過ぎたんだし」

「どういうことだ」

加古はヘッドセットを調整し、セーフティを解除した。

「部下は燃えた。お前達が今回裁くリストの最後なんだ。手短にやるよ」

 

トリガーに指をかけた時、スコープ越しに、窓を振りむいた男と目が合った。

 

「濁り切った目だねぇ。有罪」

 

加古は規則正しく、反動が収まるごとにトリガーを絞っていく。

スコープの先に見える機械達が、部屋が、建物が、原型を失っていく。

ガラスが砕け、柱が折れ、爆風と火炎に包まれていく。

空になったマガジンを引き抜き、装填済みのマガジンへと入れ替える。

ボルトハンドルを後方に引き、弾をチャンバーに送り込む。

スコープを眺め、無表情のまま攻撃ポイントを定める。

再び一定間隔でトリガーを絞っていく。

発砲する毎に周囲の埃が吹き飛ばされて舞い上がり、加古は白茶けた色に染まっていく。

ついに火柱は建物の屋根を突き抜け、全体が崩れ落ちていった。

その時、建物の傍に急停車した車両に気づいた加古は、スコープをそちらに向けた。

「あぁなるほど、お前だったんだ」

加古はスコープから目を離さず、ヘッドセットの通信機を操作すると、程なく耳慣れた声がした。

「・・・はっはい、ああええと、で、デボル&ポポル不動産です。ちょっと今立て込んでまして」

「ミスタ・ルザレフ。追加だ」

「ん?あ、あぁ雑貨屋オリファイさんところの店員さんですね?追加って何の事です?」

「残念だったね、小遣いの稼ぎ口がなくなってさ」

「えっ?」

「今着てるスーツも、ピンストライプのシャツも、随分高級な物じゃないか」

「えっ?」

「あいつらは直接手を下した罪を今償った。お前は奴らを導いて金を稼いだ罪を償う必要がある」

「なっ・・なんのことだか」

加古はスコープを見る目を細め、ニィっと笑った。

「あぁ見たことがある目だ・・何度も何度も見たことがある目だよぉ、ミスタ・ルザレフ」

「どっ!どこだ!どこから見てる!」

「それは嘘つきの目って言うんだよ。有罪」

加古はトリガーを引き絞り、乗車しているルザレフごと車を吹き飛ばした。

 

 

-----

 

 

「マジか嘘だろ・・いや、加古ちゃんを疑ってるわけじゃないんだ。その、ショックでさ」

「・・・そう」

加古がデボルの店を訪ねた時、デボルは普段通りに接してきた。

ゆえに加古は証拠を淡々と語っていったが、次第にデボルは顔色を失っていった。

今は両手を額にやってうめいている。

やがてデボルは薄目を開け、天井を睨んだ。

「くっそー、じゃあミーズリ一家の件も、あっくそ、じゃああれもかなぁ・・」

「何かあったの?」

「うちで大型取引するとき即金で払った連中が妙に襲われるって噂があったんだよ」

「放置する方が悪い」

「・・そうだな。ルザレフが警備会社と契約してたからそこで済ませちまった・・」

「・・一応渡しておく。これ、奴の家で見つけたから」

デボルは加古が手渡したノートをめくり、デボルは首を振った。

「おいおい、律義に売った記録つけてたのかよ・・完全に真っ黒じゃねぇか・・」

「この様子だと、今回始末したゴロツキとしか取引していないみたい」

「・・・」

「奴らも消したし、あたしはこれで手を引くよ」

「・・加古ちゃん」

「あぁ」

「ありがと。これでもう、うちに悪い噂が立つことは無いよ」

「・・別に感謝なんて要らないよ」

「汚れ仕事やらせちまったから、むしろ詫びるべきか?何か出来ることは無いか?」

「なら、この居住区内、あるいは近所で、他にこういうバカは居ない?」

「情報って事か?」

「そう」

「解った。まとめるなり気づくなりしたら伝えるよ。手段は?」

「この宛先にテキストメールで」

「・・解った。ゴロツキの事務所崩落の件はアタシからアネモネに説明しとく」

「・・そうして」

デボルはドアに向かう加古に声をかけた。

「な、なぁ」

「?」

立ち止まり、少しだけ振り向いた加古を見ながら、恐る恐る続ける。

「雑貨屋オリファイで見た時とだいぶ印象が違うんだけど、お前はどっちが本来なんだ?」

加古は光の無い目でデボルを見返した。

「マスターが居なければ、あたしはこんなもんだよ」

そして加古はそっと左手を顔の傍までもっていく。

「マスターに危害を加えようとする奴は、どこに居ようとも消す。それがあたしの出来る事さ」

デボルが頷いたのを見て、加古は店を出ていった。

ドアが閉まると同時に、デボルはどさりと椅子に腰を下ろした。

後から来た小刻みな震えが止まらない。

加古の目は、本当の戦を見てきた目だ。

敵も味方もなく撃ち合い、絶望に塗りつぶされた地べたを這いずった者の目だ。

間違いなく最終戦争に兵士として加わっていたのだろう。

土に埋もれてたあたしとは違う。

「デボルぅ、ちょっとマグカップ貸してほしいんだけど~」

ポポルの声が近づいてくる。

「デボルどこ~?あ、もう、居るなら返事してよ・・デボル?」

俯いた自分の顔を覗き込むポポルの顔が見える。

「どうしたの?」

デボルはぽつりぽつりと答えた。

「・・・ルザレフが、裏切者だった」

「んー?横領でもしてたの?」

「金持ちの客情報をゴロツキに売って、襲わせてた」

ポポルは顎に手をやった。

「・・・あー、ミーズリさん家の件?」

「それもそう。記録では7件やってる」

デボルが手渡した紙をポポルは一通り眺めた後、肩をすくめた。

「どうするの?アネモネさんに始末付けてもらう?」

「いや、始末はもうついた。いや、オリファイの加古ちゃんがつけてくれた」

「じゃあそのゴロツキの処分を手配するの?」

「それも加古ちゃんがやってくれた」

「・・そっか。じゃあオリファイさんに御礼に行かないとね」

「あぁ」

「で、デボルは何でそんなにガックリ来てるの?」

「・・・ええと」

「うん」

ひょいと屈みこみ、下からまっすぐ見上げてくるポポルを見て、デボルは理解した。

なるほど。もしポポルが殺されたら、あたしはそいつらを絶対に許さないだろう。

たとえどれだけ不利だと解ってても。

「・・・加古が言ったんだ。マスターに手を出すならそいつを殺しに行くって」

「ふんふん」

「その時の目が怖くてさ、ウイルスに冒されたアンドロイドの目より狂気に満ちてた」

「そっかぁ」

「・・・あれ?」

デボルは自分の震えが止まってる事に気が付いた。

「どうかしたの?」

「震えが・・止まった」

「話してすっきりしたんじゃない?ところでマグカップ1つ貸してくれない?」

「え?あ、別に良いよ」

「ありがと。プリン作ってるんだけど器が1つ足りなくて」

「マグカップサイズの?」

「でっかい方が美味しいでしょ!ちまちま何個も食べてられないもん!」

「ほんとポポルはプリン好きだよな・・」

「今回はカスタード風味だよ!出来たら1個あげるね!」

パタパタと台所に戻っていくポポルの後姿に、デボルは頭を下げた。

ポポルは何故か昔から、アタシが一人じゃどうにもならない時にああやって助けてくれる。

・・・プリン好きなのも昔からだけど。

 

 

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