今日も地球の片隅で。 作:銀匙
「あー!肉の一番美味しい部分全部持ってったぁ!」
「名前でも書いてあったか?俺っち見えなかったぜぇ」
「半分返せぇ!」
「・・・ほらよ」
「どう考えても半分じゃな・・あー食べたぁ!」
「うめー」
「ラザニアの残りもらうわよ~」
「あー待って待ってぇぇ!」
その後の披露宴も、結婚式以上に賑やかな雰囲気で。
テーブルのあちこちで笑い声と喧騒が生まれていた。
ホワイトはそっと、マスターの肩に頭を乗せた。
「どうしました?疲れましたか?」
「・・いや」
マスターはホワイトの肩に、そっと手を乗せた。
「ずっと、こんな明るい毎日だと良いですね」
「あぁ。私は最初、自分の役割の無い世界で起動したことを嘆きもしたが・・」
「・・」
「マスター殿と出会えて、皆と出会えて、本当に良かった」
「・・」
「きっと前任者は、バンカーでここまで幸せではなかっただろう」
「解りませんよ?意外に楽しかったかもしれません」
「・・ふふ。そうだな。解らないな」
「ええ」
「私が解るのは、今の私が幸せだという、ただそれだけだ」
「・・ずっと、仲良くしていきましょう」
「あぁ」
ますます盛り上がる喧騒の中、マスターはそっとホワイトの肩を撫でていた。
「うーい、飲んだ食った。こんな楽しい宴席は久しぶりだったぜ!」
「ちゃんとアルコール分解してくださいよ?」
「大丈夫!デラさんが送ってくれるぜ!」
フラフラしているラショルフと、それをジト目でみるデラ、見送るマスターという図である。
「すいませんデラさん、ラショルフさんをお願いします」
「任せておけ。どうせ飛行機ですぐだ」
「・・・うぷ・・吐いて良い?」
「パラシュートなしのスカイダイビングをやりたいんだな?」
「なら離陸前に放出しとくぜ・・ゲロ袋ある?」
「どっかにあるじゃろう・・やれやれ・・」
「お、お気をつけて・・今日は来てくれてありがとうございました」
「またなぁ、マスター」
「では失礼するよ。また明日な」
「はい。また明日」
MP40はリーリャを見送っていた。
「じゃ、あたしも帰るね~」
「リーリャさん、今日は来てくれてありがとうございました」
「いいのいいの。ラショルフも言ってたけど楽しい宴だったし!じゃーね!」
「また遊びに来てくださいね!」
加古はデボルとポポルが営業車に乗り込む所まで付き合っていた。
「じゃ、アタシ達も帰るな?」
「うん。あー・・デボルさぁ」
「おう」
「後任見つかった?」
「そう簡単には居ないよ。けど、だからと言ってアイツで良かったわけでもない」
「・・」
「そんな顔すんなよ。こっちは気にしてないからさ」
「・・そっか」
その時、後部座席の窓を開けて、ポポルが顔を出した。
「そうそう、私も言い忘れてました」
「えっ?」
「うちのお店を救って頂いて、面倒な連中も奇麗に片付けてくれたこと、本当に感謝しています」
「・・」
「私達は治療用のアンドロイドだから、ほとんど戦闘力はないんです」
「・・」
「だからあなたがやってくれなかったら、アネモネさんにお願いしなきゃいけなかった」
「・・」
「またお店に来てくださいね。今度はお菓子をご馳走しますから」
デボルがニッと笑った。
「高確率でプリンだけどな」
ポポルが頬を膨らませた。
「プリン美味しいじゃない!」
加古がくすっと笑ったので、デボルは頷いた。
「それで良いんだよ加古。あんたは何も間違っちゃいねえんだからさ」
「そうですよ。私達が困った事になる前に助けてくださったんですから」
加古は数回、小さく頷くと、そっと営業車から離れた。
デボルはそれを合図に営業車のエンジンをかけた。
「じゃあな、たまには遊びに来いよ!」
「お待ちしてますからね!」
「うん。またね」
二人の乗った営業車が小さな砂煙を上げて去っていくのを、加古は小さく手を振って見送った。
ホワイトはアネモネと別れを告げていた。
「これに懲りず、また遊びに来るといい」
「あぁ。今度はデラ殿と来るかもしれん」
「デラさんと?どういうことだ?」
「なに、私は総司令官という立場上、自分から遊びに行くとは言い難いのだ」
「・・そうだろうな」
「だから所用を作ってもらう役を、デラ殿にお願いしたのだ」
「なるほど」
「その・・皆にとって、デラ殿の外見は今でも受け入れがたい物か?」
ホワイトは首を振った。
「私も最初は怖かったが、1度話せば大丈夫だった。加古やMP40も怖がっているようには見えん」
アネモネは頷いた。
「それならいい。デラ殿ご本人が一番気にしてる感じだったのでな」
「そうか。私達は平気だと伝えてやってほしい」
「解った。では、部下を待たせているので、これで失礼する」
「・・・アネモネ」
「なんだ?」
「ありがとう。アネモネの一押しが無ければ、今日という日は無かった」
「それが友達というものだ。違うか?」
アネモネはパチリとウインクすると、軽く片腕を上げながら去っていった。
-----
翌日。
「いよいよ、ですね」
「あぁ。いよいよだ」
マスターとホワイトが見上げる先には、高密度かつ整然と配された管と大小さまざまなタンク。
幾つものランプは全てグリーンの明かりが点いており、モーター類が静かな回転音を立てている。
そして、二人の前の操作パネルには大きくREADYの文字が灯っていた。
満面の笑みを浮かべ、何度も頷く二人の後ろでは、呆れ顔のMP40と加古が居た。
「初夜に精錬装置の構造考えてるマスターもマスターだけどさぁ・・」
「お二人揃ってパジャマのまま夜通し突貫工事で作り上げるって・・」
「初夜とかムードとかまるで無いよな」
「まぁその、似たもの夫婦ってことなんでしょうね・・」
「でも、あたしはあぁはなりたくない。譲れないラインはある」
「そうですか?私はマスター様の言う通りにしますけど」
「もうちょっとでイケる~って時に閃いたとか言って研究室へ飛びこまれても良いの?」
「・・・そっ・・それ・・は・・・」
「無理しない方が良いよぉ~?ほれ?ほぅれ?どーなのよぅ」
「・・・うー」
「あたしは絶対嫌だ。マスターの後頭部張り飛ばしてベッドに連れ帰る」
「そこまで出来る加古が羨ましいです。私は多分研究室の柱の陰に居るだけです」
「柱でイっちゃうの寂しくない?」
「そういう意味じゃない!加古のバカ!デリカシーゼロ!」
騒がしくなりつつある二人を他所に、マスターは触媒石の入ったバケツを手に取った。
ホワイトはマスターから幾つか触媒石の原石を受け取り、計量した後に投入口へと落とした。
そして二人は再び操作盤の所に帰ってきたのである。