今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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祝、令和元年ということで、本日から5月6日までは通常の朝6時の配信に加え、お昼の12時にも配信する、1日2話体制とします。
どうか、現実は戦争の無い世の中が続きますように。




第8話

MP40は自分の頬をマスターの頬に摺り寄せた。

マスターは二人の甘く仄かな香りを無視しつつ、いつ離れたら良いものかと思い口を開いた。

「あー、えっと、あまり男の私と触れたら嫌な記憶を思い出すんじゃないのかい?」

MP40はしっかり抱き着いたまま、目を閉じて答えた。

「その嫌な記憶に今の幸せな感覚が上書きされていくんです」

「あ、そう」

「むしろマスター様なら、私の全てを触って頂いて構いませんよ?」

「え、全て?」

「どこもかしこもマスター様に触れて頂いたという記憶で埋め尽くしたいなぁ・・」

 

ガシッ。

 

いやにしっかりと自分の手首が握られたことに、MP40はぎくりとした。

そっと手首を掴んだ手から辿っていくと、驚くほど無表情な加古の顔がそこにあった。

 

「あ、こ、これはね加古」

「協定ライン超えてる。艤装に火が入っちまうよ?」

「はい。すみません。撤退します」

「よし」

 

MP40のしなやかな肢体が離れた事で、マスターは安堵の溜息をついた。

意識しないようにはしているが、MP40にしろ加古にしろ美しい少女なのである。

こういう時、自分に中途半端に残されたオスの習性を持て余してしまう。

性的興奮を覚えたところで生殖機能は無いんだが。

「ほらほら、ご飯にしよう二人とも」

そう言って、マスターは誤魔化すように手を叩いた。

 

 

-----

 

 

「お世話になりました」

バギーに荷物を積み終えたMP40は、二人に深々と頭を下げた。

マスターはにこりと笑った。

「またおいで」

加古はニッと笑った。

「お泊り代の金のインゴットは次回来た時にくれればいいよ」

「そんな契約認めてないですよ!?」

「マスターの手作りご飯を食べられたうえに散々お触りしてキャッキャウフフな時間を過ごしたよね?」

「うっ・・」

「気持ちよかったよね?」

「それはもう」

「いくら砂山退けたからって差し引きが合わないでしょー」

「そっそう言われると・・そんな気も」

「だよねぇだよねぇ・・いにゃっ!?」

加古が変な声を上げたのは、マスターが加古の頭に拳骨を落としたからである。

「いい加減にしなさい」

「はぁい」

「MP40も、遠慮しないで良いからな」

「・・・マスター様は、私がこんな汚れた女だと解っても突き放さないんですね」

マスターは加古の頭から手を下すと、MP40の頭を自分の肩に引き寄せた。

「あっ」

「むしろ私としては、君を酷い目にあわせたクソ人類の仲間である事を恥ずかしく思うよ」

「・・・」

「地球の片隅で命をつなぎあう仲間ってことで、許してくれないかな」

「・・」

ふいに、MP40がマスターの肩から離れ、加古を見た。

「?」

キョトンとする加古にニヤリと笑った後、MP40はマスターの唇に吸い付いた。

「うむっ!?む!?むむう!?」

「・・あ?何してんの?ちょ・・ちょっと何してくれやがってんのMP40!・・・ああ・・あーあ」

 

多分人生の中で一番長い10秒だったと思うと、マスターは後にぽつりと呟くほど。

MP40の想いが凝縮されたキスだった。

 

・・・きゅぽ。

 

MP40はこくりと喉を鳴らしてマスターの唾液を飲み込むと、満足気にほほ笑んだ。

「また来ます。私の全ては永遠にマスター様の物ですから」

 

呆然としたままの二人を他所に、MP40を乗せたバギーは砂漠へと消えていった。

 

 

-----

 

 

「・・よし、もう少し・・・だ・・くんぬうぅぅ!」

散乱する物を潜り抜けたアンドロイドは、鉄の棒をゲートに差し込んでこじ開けようとしていた。

このまま電源の落ちた倉庫に居るのはまずい。

全体の被害状況を知る為にも・・・早く・・出ないと・・・

「・・・っだああああ!」

 

ガコン!

 

「・・・なん・・・だと?」

 

こじ開けたゲートの先にあったのはエレベータの昇降路ではなく、風に砂が舞う暗闇の砂漠だった。

アンドロイドの手から鉄の棒がするりと落ち、カランカランと音を立てた。

アンドロイドはぽかんと口を開け、呆然とした表情で立ち尽くしていた。

たっぷり1分はそうしていたが、アンドロイドは記憶を確認し始めた。

自分は司令官モデルC型3番目のアンドロイド、名前はホワイト。

衛星軌道上にあるヨルハ部隊の基地「バンカー」の格納ケースでコールドスリープされていた。

それは万が一先代指揮官である「2C」にトラブルが起きた時に速やかに交代するため。

・・・うん、メインメモリに異常はない。

ならば視覚情報が狂っているのか?

バンカーの通路へつながるエレベータシャフトにしては広すぎる気がするが?

恐る恐る、ホワイトは倉庫ユニットから砂漠に足を踏み出した。

しゃがみこんで砂を掬う。

・・・うん、視覚情報と手足の接触センサーの反応は同期してる。

ふと、近くの砂に埋もれた太陽電池パネルが見えた。

バンカーの電力供給用太陽電池パネルと似ているように思われたが、傷み方が酷い。

軽く触ったにもかかわらず、脆くも崩れ去った。

 

ふいに、風が止んだ。

 

舞い上がっていた砂が次第に落ち着いてくると、周囲の景色が明らかになっていく。

「・・・まさか・・・そんな」

暗視モードのホワイトの目がとらえたのは、崩れ去り、砂に埋もれたバンカーの姿だった。

とっさに大気成分を調べながら、ホワイトは空の星を確認した。

この恒星の配置、かつ、この速度で移動しているという事は。

「・・地球に墜落したというのか」

なるほど。

これならバンカーのシステムが応答しないのも、前任者の記憶をダウンロード出来なかったのも解る。

サーバーなぞ大気圏突入時に溶けてしまっただろう。

「ははっ・・格納ケースの耐久性には恐れ入るな」

ホワイトは手で後頭部を掻いた。

引き継ぎ情報はない、現状も解らない、周囲に人影はなく、バンカーは砂漠で瓦礫と化している。

・・・そういえば皆は、どうしているのだろう?

ヨルハ部隊は、レジスタンスは、機械生命体どもは?

現在地だけは星の位置から割り出せた。

随分遠いが、レジスタンスのキャンプに行ってみよう。

バンカーを振り返り、溜息をつく。

「無傷の飛行ユニットが残っている可能性はゼロだな。さらばだ」

ホワイトは踵を返し、砂漠をまっすぐ歩き始めた。

 

 

-----

 

 

キュルキュルキュル・・・ドルンドルンドッドッドッ・・

 

ぶるりと巨体を震わせ、一瞬真っ黒な煙を吐いて目を覚ましたのは耐地雷装甲車(MRAP)。

マスターの店の輸送車である。

人類同士の世界大戦、鉄血人形と戦術人形、アンドロイドと機械生命体。

地球は様々な者同士が戦い続けてきた。

そなわちそこら中に不発弾が転がっているし、もとより砂漠である。

更に言えば配達先によっては鉄血製の多脚戦車等と出会う事もある。

軍払い下げのMRAPくらい持っていなければ話にならない。

 

「よーし加古、店のシャッターは閉めたな?」

「うん!トラップもバッチリだよ!」

「それじゃ、ジャンクパーツ屋に出発だ!」

「ゴー!」

 

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