今日も地球の片隅で。   作:銀匙

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第9話

サングラスをかけたマスターが運転する横で、助手席の加古はまどろんでいた。

景色は砂丘と砂煙しかない単調な物が既に数時間も繰り返されている。

MRAPの超大型ディーゼルエンジンはお気に入りの子守歌だ。

シートは大きくて柔らかいし、ウサギ程度の物が動いても検知してくれる広域レーダーを備えている。

すなわち加古が寝ていても問題ないのである。

もし何らかの動く物体が周囲4km圏内に現れたら・・・

 

ピーッ!ピーッ!ピーッ!  ピーッ!ピーッ!ピーッ!

 

そう。ちょうどあんな風にアラームが・・・鳴った!?

加古はバチリと目を覚ますと、マスターの方を向いた。

マスターはMRAPを停止させ、モニタのコンソールキーを叩いている。

「多脚戦車?」

「いや・・もっと小さいな・・人型だ。4km弱先だな」

「鉄血ハイエンド?戦術人形?」

「解らん・・・MRAPのAIはハイエンドかアンドロイドだと推定してるが」

「・・でもさぁ」

「あぁ、どちらにしても、こんな辺境の無人地帯に何の用だ?」

「そしてあたし達がもっとも気にしなきゃいけないのは」

「敵か味方かって事だな」

「ハズレ」

「うん?」

「関わるか関わらないかってことだよ」

「関わったとして敵だった、が最悪か」

「正解。でもどうせ関わるんでしょ?」

「解ってるじゃないか」

加古は肩をすくめた。

「じゃああたしは荷台に隠れるよ。艤装展開しないとだし」

「良い子だ。よろしく頼む」

「一応コイツに徹甲弾入れとくよ」

「そんな物を発射する事態になってほしくないがな」

「全くだね。じゃ!」

後部座席から取り出したXM109を手に、加古は天井のハッチを開けた。

MRAPの天井から外に顔を出した加古は、レーダーが示した方角にスコープを向けた。

「さすがに・・見えないか」

そのまま屋根に上り、後部荷室を覆っているビニールカバーを剥がしてもぐりこむ。

申し訳程度の迷彩だが無いよりマシだ。

加古はインカムをつまんだ。

「マスター聞こえる?所定の位置についた」

「聞こえる。レーダーの探知結果を転送する」

「ありがとー」

「周辺警戒しながら2kmまで近寄るが、奴さんが攻撃しない限りは撃つなよ」

「解ってるー」

マスターはサングラスをかけ直すと、MRAPを微速で前進させた。

 

 

「・・・・」

ホワイトは歩行ペースを変えることなく進んでいたが、内心うんざりしていた。

風に舞う砂塵は体中に絡みつき、口にも、鼻にも、目にも入ってくる。

途中で制服の裾を千切って鼻から下に巻き付けたが、日が昇るとますます状況は悪化した。

そんな中、ホワイトの聴覚センサーはそれまでにない種類の音を探知した。

「なんだ・・この音は」

 

ズシン・・ズシン・・ズシン・・フシュッ

ウィィィン。

 

足を止めたホワイトが砂塵の隙間から見えたもの。

それは、機械だった。

だが、ホワイトの機械生命体データベースにあるどの型とも違った。

4本の足を持ち、高さは自分の2倍以上、足の上には赤い光を放つカメラのようなものと・・

「・・・!くっ!」

 

ドン!

 

ホワイトが砂丘の陰に飛び込むのと、ホワイトがそれまで居た場所が爆発したのはほぼ同時だった。

もちろん多脚戦車が放った榴弾が着弾したからである。

 

「なんだ・・一体・・なんだというのだ!新型の機械生命体か!」

ぐずぐずしてはいられない。ここもすぐに危なくなる。

左手には崩壊したビル群が続いている。

「とりあえず身を隠す・・・か!」

 

ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!

 

ホワイトが駆け抜けるすぐ後ろに榴弾が着弾しては地面を抉っていく。

 

「・・・はっ、はっ、はっ、くそっ!全力でギリギリか!」

 

ホワイトはビルの中に飛び込み、狭い階段を駆け下りると、物陰に隠れた。

あの巨体では入っては来れないだろう。しかし上のビルごと破壊してくるかもしれない。

気づかれないように移動するしかない。

 

「加古、悪い知らせと良い知らせ、どっちから聞きたい?」

「悪い方」

「先程探知したのはアンドロイドだと確定したが、瓦解ビル群の地下に移動してる」

「げ。あの巨大迷路かよ。で、良い知らせは?」

「喜べ。俺達が買いに行こうとしてたMシリーズ多脚戦車が3体もアンドロイドを追ってるぞ」

「・・・それってもしかしてさぁ、ガラクタじゃない奴?」

「あぁ。ピンピンしてる。胴体部のカメラ周辺を壊すなよ」

「レンズ中央にピンホールショットじゃダメ?」

「目的のパーツの配置が解らない。胴体から露出してるレンズユニット部分だけ壊すならOKだ」

「わーい、超めんどくさーい」

加古は涙声で返事した後、XM109のチャンバーに徹甲弾を送り込んだ。

「ハンティングの時間だ。まずは11時の方角、距離1803m、無風」

「あいよ・・アホめ、横向いてやがる」

 

ターン!

 

425m/sで押し出された徹甲弾は、一瞬で多脚戦車のレンズを木っ端みじんにした。

だが、発射元を特定したのか、こちらに旋回し始めた。

 

ターン!

 

加古の2発目は前足の関節部を正確に撃ち抜いた。

脚を1本失い、前のめりになった多脚戦車は地面に向かって迫撃砲を撃ってしまった。

 

ドォーン・・・

 

「あーマスターごめん。あのバカ地面撃って自爆しやがった」

「月まで吹っ飛んだな。じゃあ次。1時の方向、距離1920m」

「風は?」

「3時から9時に2m/s、1300m付近」

「あいよ」

 

 

-----

 

 

ホワイトは地下空間をさらに進もうとしたが、周囲の景色を見て舌打ちをした。

四方八方に伸びる通路がどれも似たようなガレキであり、これでは確実に遭難してしまう。

立ち止まって思案した途端、空間を揺るがすような大きな爆発音がした。

パラパラと小さな破片がホワイトに降り注ぐ。いつまでもつか解らない。

「くっ」

進むも戻るもハイリスク。

こういう時、人間ならどちらに未来を託すのだろう。

 

ターン

 

悩むホワイトの耳に届いたのはライフルの音。

「・・・ライフルだと?」

ホワイトは首を傾げる。先程見えた機械の兵装は機銃と迫撃砲だった。

そして自分の居る地下通路に向けられていた砲撃がピタリと止んだ。

つまりライフルの狙撃は先程の未知なる機械生命体に向けられたと考えて良いだろう。

・・・ライフル銃の持ち主は自分にとって敵かもしれない。

それでも。

「問答無用で押しつぶしてくる瓦礫より、ライフルを持つ者の方が話し合える可能性はある」

ホワイトは慎重に、元来た道を戻り始めた。

 

それからも爆発音とライフルの音が続いていたが、急に静かになった。

ホワイトはそっと階段から表を見ると、そこには大きなタイヤを持つ機械と人影が2つ。

戦意がない事を示しておいた方が良いだろう。

 

ホワイトはそっと両腕を上げつつ、二人に声をかけることにした。

 

 

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