イアーズ・ストーリー 作:水代
「「あっ」」
それは偶然の産んだ邂逅だった。
と言えば詩的ではあるが、実際はただギルドの前でしばらく出会うことはないだろうなあと思っていたはずの二人がばったり出会っただけのことである。
俺からすればポーターの仕事が無い以上フィーアは拠点にしている宿かどこかに戻っているのだろうと思っていたのだが、多分フィーアからすればダンジョンが閉鎖されている以上、昨日の今日で俺がギルドに来るとは思っていなかったのだろう。
互いに会うことになると思っていなかっただけにこの出会いは偶発的だった。
だからどうした、と言われればその通りではあるのだが、昨日のことを思い出してしまい、思わず言葉に詰まってしまったままギルドの入口で二人して硬直していた。
「ルーさん? どうしました?」
その後ろからひょっこりやってきたアルが視線を向ければ。
「あ、フィーアさん、おはようございます」
声をかけられ、まずフィーアが硬直から抜け出す。
「え……あ、はい。おはようございます」
言葉を返したことで少し冷静になったのか、こちらをみやり。
「早速依頼探し、ですか?」
「え……あ、ああ。まあ、そうだな」
硬直から動き出した自身の口から吐き出されたのは、少し濁したような言葉だった。
ほとんど無意識的な判断だったが、アルからの依頼はおいそれと口にできるようなものではない。
というか知られると止められるだろうし、何より告げ口でもされたら完全に目を付けられる。
だからフィーアが相手であっても簡単には言えない。
そう、思っての判断だったのだが。
「あの、ルーさん。あのこと、フィーアさんにも話しても良いですか?」
後ろからそう言うアルに思わず振り返る。
「……本気か?」
「はい……言っておいたほうが良いと思うんです。その……勘ですけど」
「…………」
また勘か。と言いたくなるが、そもそもこの依頼の大本だって夢である。
アル自身の勘の良さについてはある程度聞いている。というか昨日紹介された武具工房もその勘で見つけたものらしい。
曰く、外から見てピンときた、らしいがそれでこの街に多くある工房の中からピンポイントであの店を引き当てているのだから、その勘も一概に否定できるようなものではないとは思っている。
少し悩む。
もしこれがフィーア以外だったら絶対に断っていた。止めておけ、と言うところだったがフィーアならば話は別だ。
と言っても昨日ので情が湧いたとかそういうことではなく。
フィーアは物事をシンプルに判断する。
『必要』か『不必要』か、だ。
そしてこの話をフィーアが信じれば『必要』と判断するだろうし、もし信じず『不必要』と判断されたとしてもそれを他人に話す可能性は極めて低い。
別に俺たちが勝手にダンジョンに行って何をしようとフィーアからすれば
自分に関係のないことはシンプルに『不必要』と判断するだろうから、話がそこでストップする。思考から切り捨てられて他人に言い触らすことも無い、そんなことをする『必要が無い』だからだ。
そういう意味でフィーアは信用できる。
ただこれはあくまで俺が見た限りのフィーアであり、俺はフィーアではないので、もしかすると俺の知らないフィーアの一面がある可能性もある。
さらに言うならば必要無ければ言い触らすことは無いだろうが、逆に『必要』ならば俺たちの口止めなどあっさり無視してフィーアは内容を他者に漏らすだろう。
昨日色々ありはしたが、結局俺たちとフィーアはまだ出会って一日、二日の関係なのだから。
ただし。
「依頼主はアル、お前だ。判断はお前に任せる」
結局はそこに尽きる。
俺が俺の意思で動いているのならばともかく、今はアルから依頼を受けてアルの意向に沿って動いている状況だ。
俺としてはメリットデメリットが半々と言ったところなので、最終的な判断はアルに任せることにする。
そんな俺の返答にアルがフィーアのほうへと向き直り。
「少し、聞いて欲しいことがあるんですが」
告げる言葉にフィーアが首を傾げた。
* * *
「ちょうど良いかしれませんね」
アルが俺に話したのと同じ内容をフィーアに告げると、フィーアは考え込むように少し黙し、そう言った。
「ちょうど良い?」
今の話を聞いて何故そんな言葉が出てくるのか分からず問い返すとフィーアが頷く。
「冒険者ギルドに討伐隊から応援要請がありました。高位の『シーカー』が必要とのことで、ギルド長から私に依頼が来ました。その依頼でこれからダンジョンに向かうところだったので、私の裁量でルーとアルの二人を連れて行くことは可能だと思います」
「本当か!」
降って湧いたような話だ。確かにそれは『ちょうど良い』。
そう思い思わず声が大きくなったが。
「って、ちょっと待て。『シーカー』が必要ってどういうことだ」
冒険者は基本的に複数人で『パーティー』を組んでダンジョンに行くわけだが、ただ単純に徒党を組んだだけでは烏合の衆である。
パーティを組む、つまり人数を増やすならば人数を生かす立ち回りというものが必要になるわけで。
だからこそ冒険者たちはパーティを組むのに際して『役割』を作った。
敵の殲滅や戦闘の際の遊撃を担当する『アタッカー』。
敵の攻撃から味方を守ったり、敵の注意を引きつけたりする『ディフェンダー』。
味方の支援や敵の妨害を行う『サポーター』。
ダンジョン内の索敵や宝箱の発見を主な仕事とする『シーカー』だ。
固定パーティであるチームやそのチームの集合であるクランなどを組むとさらに役割が細分化し、『マッパー』*1『フロントブロッカー』『サイドディフェンダー』『バックブロッカー』*2『スティーラー』*3『ディーラー』*4『メカニック』*5『トラッパー』*6などもあったりするのだが今は置いておいて。
この中で『シーカー』の役割はダンジョン内の索敵、つまり味方に先行して周囲の様子を確かめたり、いち早く敵を発見して味方が奇襲されることを防いだり、ダンジョン内にある危険な罠や宝箱を発見したりと言った『探索行為』全般である。
『シーカー』はパーティにおける『目』と『耳』だ。
『シーカー』抜きでダンジョンに挑むなど、目隠しと耳栓して戦闘するに等しい自殺行為である。
当然討伐隊にも『シーカー』はいる。というかいないなんてほうがあり得ない。
にも関わらず『シーカー』……それも上位レベルが求められているとなると。
「やられたのか、あの化け物蜘蛛に」
「……半壊しているそうです」
「それ、不味くないですか」
思わずと言った様子のアルにそうだな、と頷く。
周囲を見渡す。ギルド隣のポーター広場は今は誰も居ない閑散としたスペースと化している。
幸いここにいるのは自分たち三人だけ。今の話は誰も聞かれていないようで安堵の息を零した。
まあフィーアも誰もいないからこそ話したのだろうが。
「それでフィーアが派遣、と」
ぶっちゃけフィーア、かなりの実力者だ。
まあ俺の見立てでは、というカッコ書きがつくが。
戦闘しているのを見たわけでは無いので実力の底は知らないが、少なくとも動きを見ればかなり高位の実力を持っているのは計れる。
ダンジョン内で的確に敵を避けながらナビゲーションしてくれたことを考えると『シーカー』技能のほうもかなりの物だと予想できる。
何でポーターやっているのか謎なくらいではあるが、人選には納得できる。
「ルーも『シーカー』技能、ありますよね?」
「そら当然な」
そもそも役割自体は冒険者がダンジョン内でやらなければならない仕事を明確化した上で振り分けた物であって、ソロ冒険者ならばその全てをやらなければならない。
と言っても実際に必須と言えるのは二つ。
『アタッカー』としての強さと『シーカー』としての探索能力だ。
基本的にこの二つがあれば単独でもダンジョンに潜ることはできる。
とは言え一人でなんでもかんでも、というのは中々に難しいからこそ皆パーティを組むわけだが。
「別にソロ専門ってわけじゃないが、ソロで潜ることも多いしな、一通りの『シーカー』技能はあるよ」
「それで問題無いです。今回の場合、特に必須なのは『強さ』でしょうし」
一口に『シーカー』技能と言っても、内容は多岐に渡る。
単純に言って敵を見つける技能と罠を見つける技能は全くの別物、ということではあるが今回に限って言えば必要なのは『敵を見つける技能』と『見つけた敵に殺されない強さ』の二つだ。
何せ『シーカー』というのはレベルが上がりにくい役割なのだ。
レベルというのは種としての存在の格ではあるが、どうやってこれを上げるかと言われればモンスターと戦うのが一番手っ取り早い。
要するに危機を乗り越えるなどをして『自らを高める』ことによってレベルは上昇する。
だが敵と戦って直接倒す『アタッカー』や激しい敵の攻撃を防ぐ『ディフェンダー』は重装備に身を固めるが、とにかく探索探索で動き回る『シーカー』は身軽な装備になりやすい。
当然ながら大剣や大槌、盾や重鎧などを装備した『アタッカー』や『ディフェンダー』と比べて戦闘向けかと言われるとどうしても否である。
故に戦闘中は『シーカー』は『サポーター』の役割を兼用することが多い。
敵の妨害や味方のアシストが主な仕事であり、戦闘を行った際に得られる経験は前衛で戦う両者より格段に低くなる。
経験が薄いとその分レベルが上がり辛い。レベルが上がらないから余計に戦闘で活躍できない。そして戦闘で活躍できないからレベルが上がらない、その負の連鎖である。
『シーカー』がレベルを上げようとするならば、ある程度安全マージンを取ったダンジョン上層で単独で戦い、経験を積むのが一番良いのだが、そもそも役割を振り分けている以上パーティを組んでいるわけで、他のパーティメンバーがいるのに単独行動なんてできるわけも無い。
これもまた負の連鎖。
だからレベルの高い『シーカー』というのはかなり少ない。
実際、戦闘においても『アタッカー』のレベルが高ければ敵を殲滅できるし、『ディフェンダー』のレベルが高ければ安定して敵を引き付けて味方を守れる。
だから『シーカー』や『サポーター』は別にレベルが上がらなくも良い、と考えるパーティは多いのだ。彼らの目的はレベルを上げることでも、強くなることでも無く、金を稼ぐことなのだから、レベルを
なので高位、つまりレベルの高い『シーカー』はソロ冒険者に偏っている。
正確には『シーカー』でなく、『シーカー』技能のある冒険者ではあるが。
ただ『クラン』規模になってくると『シーカー』の育成のためにレベルを上げることをしたりもする。
『レグヌム』は決して大きい規模のクランではないが、それでも酒場で見た限り、誰も彼もが一角の実力者であるように見受けられた。
その『レグヌム』はメインとなった討伐隊の『シーカー』たちが半壊するほどとなると必要とされるレベルは最低で40……いや、もっと上と言ったところか。
「聞いて良いのか分からないから、嫌なら答えなくても良いんだけどさ」
一応個人情報になるので基本的に聞くようなことでは無いのだが、この場においては重要なことなので前置きをしてからフィーアに問う。
「フィーアって、レベルいくつなんだ?」
冒険者にとってそれは強さの『底』に直結する数値でもある故に本来は聞くべきではないのだろう。
だがこれから向かう先は文字通り『命』を賭けた場所である。
何より、ギルド長から直接依頼を受けた、とフィーアは先ほど言っていた。
果たしてそこまでの待遇を受けるフィーアの強さとは一体どれほどの物なのか、そんな興味が確かにあって。
「私ですか?」
別になんて事の無いような表情で、フィーアが少し首を傾け。
「今……86と言ったところですかね」
あっさりと、そんなことを言ってのけた。
因みにルーくん60! ルーくんは60!
でも前回のダンジョン探索で蜘蛛ちゃんと遭遇してるので少しは上がってる。