イアーズ・ストーリー 作:水代
武器屋、防具屋、というのは基本的に『売る側』だ。
つまり売れる物を取り揃えて、売れる努力をし、商品を売って生活している。
故にそこにある商品は『売れる物』なのだ。
オーソドックスな片手剣、両手剣、槍、槌、こん棒、メイス、弓、など種類こそ色々ありはするが、初心者でも使えるような安くて、それなりに丈夫、といういわゆる『量産』品がどうしても多くなる。
別にそれが悪いわけでは無い。街と街の間の街道に出てくるような魔物は魔力濃度の関係でそれほど強い相手がいない。一部本当に例外的な存在もいる*1が、それは本当に例外的なだけで、大半の魔物は濃度の高い森や山、川、湖、海と言った自然の色が濃い場所に隠れ住んでおり、住処を荒さなければ滅多に表に出てくることはないので街道を歩くくらいなら素人に剣一本持たせる程度で十分なのだ。
言ってみれば量販店なのだ、通常の武器屋や防具屋、というのは。
街道に出る人が護身用に買って行ったり、冒険者に成りたての新人が安い物を買って行ったりするくらいで、基本的に中堅以上の冒険者はあまりこういう店を利用しない。
中堅以上の冒険者になると自分が潜るダンジョンに合わせた装備、というのを考えるようになる。
今俺たちが攻略しているのは洞窟型のダンジョン故に槍などの長物は道幅の狭さの関係で取り扱いが難しくなるし、体の一部が結晶化した敵のせいで剣などの切断系の武器よりも槌やメイスなどの打撃系のほうが使い勝手が良かったりする。
他にも水中型ダンジョンや火山の中にあるダンジョン、森のダンジョンや遺跡型のダンジョンなど様々なダンジョンが世界にはあり、深く潜れば潜るほどそれぞれに対応した装備というものが必要になってくる。
そうした時、汎用性の高い通常の店の武具より特化性能の高い武具のほうが重要性が高くなってくる。
だが特化しているということは需要が限定されるということであり、通常の武器屋、防具屋にこういった類の物が並ぶことというのは余り無い。
ではそういう時にどうするかと言われれば。
一つは専門店を探す。
大都市に行けば案外こういう専門の店というのはあるものだ。剣専門、槍専門、斧専門、槌専門、弓専門……武器の種類を一種類に限定する代わりにその武器種に限って言えば非常に幅広いラインナップを揃えている。
まあ逆に言えば、人が相当数多い大都市くらいにしか無いとも言えるが。
ペンタスも交易都市としてそれなりの規模になってきていはいるが、まだ成長途中といったところで規模的には中規模が良いところだ。
多分あと十年か二十年もすれば大都市へと成長するのではないか、と思われるがそれはまだ未来の話であり、現状のペンタスでこういう専門店というのは存在しない。
だから二つ目。
工房に直接注文する、だ。
* * *
「こっちの工房はメイスやハンマー専門ですね……えっと、ルーさんは」
「剣だな」
「なら、あっちですね」
茶色の髪の少年の案内に従って工業区を歩く。
少年、アルはまだランク2の冒険者らしいが、こちらの想像以上に手広く伝手を作っているらしく、こちらが一つ条件を出すたびに次から次へと工房を案内してくれる。
「この街に専門店なんてあったのか?」
「正確には剣専門の工房ってだけで色々なところに売り出してるみたいですけどね」
表にあるのは見本みたいなものです、と告げながらアルが一件の店に入って行く。
通りに面したショーウィンドウに並べられた幾本もの剣を横目で見ながらその後を追って店に入る。
レウィス工房と銘打たれた看板が掲げられた工房は内装だけ見れば武具店に似ている。
店のあちこちに掲げられたこの工房で打ったらしい剣の数々が並べられ、奥にはカウンターテーブルが置かれている。
テーブルの前には店員らしき男が一人不機嫌そうに座っており、店に入って来た自分たち二人へと視線を向けた。
「いらっしゃい」
不愛想に一言告げて、視線を逸らす男に、けれどアルは気にした様子もなく店の中を歩く。
その後をついて店の中を見て回り、なるほどと頷く。
「良いな」
「ですよね」
短く呟いた一言に、アルが何度も頷く。
剣の良し悪しについてそこまで造詣が深いわけでは無い。
自分はあくまで剣士であって、職人ではないのだ。見ただけで分かる情報など大した物ではないし、実際使って見なければ分からないことのほうが多い。
それでも、だ。
シンプルで、尚且つ実直なその剣を見れば作った人間の腕も見えてくる。
この剣を作った職人の根底にあるのはきっとそれだ。
徹底的なまでに凡庸な素材だけで剣を作っている。その上で極限まで剣を実用的に鍛え上げている。
単純な量産品ではない、一本一本丁寧に作ったのだろう。
ダンジョン産の素材を使うことによって、物質に特殊な能力をつけることができる。
それは武具も同じで、そうやって鍛え上げられた一品は時に伝説の武具として語り継がれることもある。
聖剣や魔剣、魔槍、聖槌、他にも数々の曰く付きの一品こそあれ、そういった物は作るのにも修理するにも特殊な素材が必要になる。
確かに能力は凄い。下手な魔法よりよっぽど強力な一撃を出せる物だってある。
だからそれを求める冒険者は多い。
冒険中の切り札として持っておくのもあるし、何よりも魔剣を所持している、という事実自体が超一流の冒険者のステータスのような風潮があるからだ。
別にそこまで強力な物でなくとも、例えば水晶魔洞で掘り出された魔水晶を武器に使えば極めて有用な魔力伝導体になるだろう。
つまり魔法の威力を底上げしてくれたり、魔法を使う際の媒介になってくれたりするのだ。
冒険中の荷物は少ないほど持って帰れるドロップの量も増える。複数の効果を一つの武器に纏めれるならその分持って行く物が減る。
そういう打算的な部分も含めて、武器や防具に特殊な能力を『付与』した物を求める冒険者は多く、それに合わせて職人側もそう言った武器や防具を作る。
だが、だ。
どれだけ凄い武器や防具だろうと、所詮は武器や防具なのだ。
使えば少しずつ摩耗するし、小まめに手入れをしてやる必要もある、時には修理に出す必要もあり、やがていつかは折れるし、破損する。
修理の際には部位によっては希少な素材を要求されるし、激しい戦いを繰り返す冒険者からすれば武具の摩耗なんてしょっちゅうのことであり、その度に少なくない金額をすり減らして修理を頼むことになる。
確かに強いのだ、だが同時にとんでも無い金食い虫でもある。
まあ作ったり修理したりの際の素材を自力で用意できるのならばまた話は別だが、大概の場合、職人が『最高の一本』を打とうとして素材に妥協をしないので世界各地の素材を発注することになる。
輸送費だけでとんでも無い額になるし、遠くから素材を運んで来ればその分時間もかかることになる。
そんな一長一短な特徴を持つのが魔剣などの特殊な武器であり。
この店はその真逆だ。
どこにでもあるような素材しか使わない、その代わり、その素材で作れる最高の物を一本一本作り上げている。
確かに魔剣などと比べれば所詮は『ただの剣』ではある。
だが純粋な武器としての性能は十分だし、修理などの際にも使っているのはどこにでもあるような素材だからこそ買うに安く、集めるのも早い。
そして何より、摩耗して折れたとしても換えが効く。
いつ何時、何があるか分からない冒険者業である。
大枚叩いて買った魔剣が、突如足元に開いた落とし穴に落ちていった……なんてことがあった日には、大損害である。下手をすれば明日の生活にも困るような有様になるかもしれない。
だから換えが効くというのは冒険者にとって割と重要なことである。
同時にダンジョンの中では簡単な手入れくらいしかできない。
だからこそ頑丈さ、そして信頼性が必要になる。大金叩いて不良品を掴まされた、では話にならないのだ。その時代償となるのは自らの命なのだから。
ひたすらに頑丈で、丈夫で、丁寧。
ここの店の剣を簡単に言えばそれだけだ。
だがそれだけだからこそ、良い。
丈夫で、頑丈で、信頼できて、直すに容易く、いざという時捨てるに惜しくない。
ある種理想的な武器とすら言える。
ある意味量産品なのだが、剣一種類に絞っていることによって、剣に限っては必要な需要を満たしていると言える。
まあ水晶魔洞というダンジョンが目の前にあるからこそできる話ではある。
このペンタスの街に集まった冒険者などほぼ大半が水晶魔洞が目的となるのだからそれに合わせていれば確かに売れる。
オーダーメイドのようなフィット感は無いが量産されておりいざという時に使い捨てができるのならばそれはそれで需要も多いだろう。
正直名剣や魔剣といった物にそれほど興味が無い自分としては使えれば良い頑丈な剣があれば十分なのでまさにこういう店こそ需要があった。
「一本3万ゴールドか」
普通の武器屋で剣を買えば安い物で一本5000ゴールドくらいか。
ちょっと高い物を買っても1万ゴールド前後なので高いか安いかで言われれば高い。
だが魔剣など最低が数十万、高性能品なら数百万となるのでそれに比べれば随分と安いと言える。
手持ちは十万ゴールドほどあるが二週間前後はダンジョンに入れないことを考えれば余裕も残しておきたい。
「取り合えず一本で良いか」
並べられた剣の中から適当に一本、無造作に掴み取り、握りを確かめる。
少し重いか、と思えば別の一本を取り、しっくりくる物が見つかるまでその繰り返し。
十数回同じことを繰り返して。
「……これにするか」
重さ、長さ、握り。その全てがちょうど良い一本が見つかったのでそのままカウンターに持って行く。
不愛想な店員はこちらを一瞥し、寄越せと言わんばかりに手を伸ばす。
剣を渡し、金を払うと後ろの箱に大量に刺さっている鞘から一本掴んで取ると剣を収める。
無造作に一本掴み取ったように見えたが、長さや幅などピッタリに収まっていることに少し驚きながらも礼を告げて店を出た。
「うん、良いな」
握って、放して。まるで新しい玩具を手に入れた子供のようだったが、それでも剣を新調するなど久々のことだったので思わず童心に帰ってしまっていた。
「アルも、ありがとうな」
「いえ……こちらこそ、助けてもらいましたから」
笑みを浮かべて一礼して去って行くアルを見やりながら、さて目的は達したしどうるうかと考える。
防具を買うという選択肢も考えたのだが、剣が想定より高くついたため、これ以上の出費は生活にも差し障る可能性も考えてしまう。
まあ高かった分、出来は良い。プラスかマイナスかで考えれば間違いなくプラスなのだがそれはそれとして金がかかったのも事実だ。
「どっかに安い防具売ってねえかな」
なんて、都合の良いことを口にして。
「防具お探しですか?」
真後ろから聞こえた声に、背筋をぴんと伸ばし、思わず振り返る。
驚いた、街中であるが故にそれほど警戒していたわけでは無いが、それでも真後ろに誰かいて気づかないというのは本当に驚いたのだ。
そうして後ろを見て、そこにいた水色の少女を認識して、ため息を吐いた。
「フィーアか」
「はい、良く分かりましたね」
鉄を打つ騒音ともうもうと上がる煙。騒々しく熱い工業区にまるで似合わない冷ややかな印象の少女がそこにいた。
昨日見た時は一日中被っていたはずの白いローブも無く、顔を曝け出していた。
「まともに顔見たの初めてだな」
「仕事中は基本的にローブ被ってますので」
十五、六くらいかと思っていたが素顔を見るとそれより幾分か幼く見えることが分かる。
目鼻が整った小顔の美少女だった。髪色だけでなく、瞳の色まで水色……アイスブルーとでも言うのだろうか。
ノーヴェはそれなりに北のほうに位置する国だが、それでもこういう色は見たことが無い。
印象ではあるがもっと北の……ディッセンあたりの出身だろうか、と思った。
「今日は私用なのか?」
「休日ですので」
私服らしい、真っ白なシャツに淡い青のスカート。伸びた足には真っ白なソックス。
全体的に寒色が好きなのかもしれない、という印象。
全体的に小柄なので、お洒落というよりは背伸びといった感じだが。
「……何か?」
「いや、なんでも?」
アイスブルーの眼がふっと細められる。まるで見透かされているような態度に、思わず視線を逸らした。
そんな俺をじっと見つめながら、やがてため息一つ。
「まあいいです……それで、防具がご入用ですか?」
「まあ探してはいたけど……知ってるのか?」
言っては何だが、ポーターというのは基本的に戦わないので武器も防具も持たない。
まあ護身用にナイフを忍ばせるくらいはするかもしれないが、基本的にポーターがより多くの荷物を運ぶために身軽になるのが基本だ。
「まあそれなりに。この街も長いですから」
告げて、ふっと微笑む。
「んー、じゃあ良かったら教えてもらっていいか?」
休日と言っているのに頼むのも悪いか、と思うがけれど他に宛ても無いのでダメで元々と頼んでみれば。
「構いませんよ……そもそもそうじゃなかったら声かけてませんから」
あっさりとそう返したのだった。
次回「もしかして:デート」?
だがフィーアちゃんはヒロインでは無いのだ。いや、将来的にヒロインになる可能性は微レ存ではあるが。
その場合この小説ハーレムタグがつくことになりそう。まあ異世界ファンタジーだし複数ヒロインくらい別におかしくも無いけど。