やはり俺の隣の席に紙袋が居るのはまちがっている。 作:ト——フ
だから私は悪くない。悪くないんだ……。だから名瀬さんその注射器を置い─────────────
「──知らない天井、だな。今なら見える」
寝ぼけ眼だが、一度起きた時とは違い視界は良好。それに身体のだるさも消えていてすこぶる調子が良い。
医者の人の処置が凄かったのか、俺の身体の性質が上手く働いたのか定かではないが……まぁともあれ、身体の調子も直ったことと、トイレに行きたいこともあり身体を起こすことに。
その流れで壁に掛けてあった時計が目に映るが、時は既に18時を回っていた。
……俺が怪我したのが確か14時頃だったから、めちゃくちゃ寝てたことになるな。まぁあの怪我なら仕方ないけど。
「…………ふぁ、……はあぁ〜〜……」
まぁそんなことより先ずはトイレだと思いベッドから降り、スリッパを履いて廊下へと出る。
筈だったが
「っ、ぇ?」
ガクン、と歩みが停止する。感覚的に自分の右手が引っ張られていて進めないことに気づく。
振り返ってみると俺の手がガッチリと握られていた。
一体誰だよ、と寝ぼけ眼を擦りよく見ると、俺のベットの横の椅子に掛けて静かに寝息を立てている数字少女だった。
?……あー、もしかしてお見舞いに来てくれたのはいいが寝ちまったって感じか?考えてみると無理もない。彼女も相当の怪我を負っていたのだから。
──ん?というか治りが早すぎないか?俺は自分の体質上あれだが、この子は──と考えてたら時間食いそうだな。なにより今はトイレに行くことが優先なんだ。
考えは後回しで先に行動に移ろう。
「…………む」
もぞもぞと自分の手を動かし彼女の手から脱しようと足掻いたが中々上手くいかない。
……。
「……まぁ、不可抗力だから恨まないでくれ」
埒があかないため直接手を外すことに。
起こすのは悪いかと思ったのでそっと、俺の手を握る彼女の細やかな指を解くよう慎重に、先ずは小指から開けていく。────────────────────?
「マジかよ……」
つもりだったのだが……指が開かない。
此方も出来るだけ力を加えないよう配慮しているのだが、それにしても固い。全く動かない。
相当強く握りしめているのだと推測出来る──と、冷静に分析してる場合じゃねぇんだよな。早いとこなんとかしねぇと俺の膀胱が……
「……起きてくれ、頼む」
仕方なく肩を軽くゆさゆさと動かしなんとか起きてもらう強硬手段に出た。
形振りなんざ構ってられない。ここで俺の堤防が決壊して社会的に死ぬことと天秤にかければ遥かに安い。
そんな言い訳を頭で立てながら暫く肩を動かしていると
「……」
ピク、と反応が。
次第に身体を起こして、俺の方に向き直る。
寝惚けているのか、常よりもぼーっとした眼をしている。
「おぉ、起きたか。それで早速で悪いんだが、この手外してくれないか?」
「……」
俺が指で指し示すと、それを追って彼女の目も動く。
それからじっーと見つめていること暫く。
「……5556(うん)」
スッと立ち上がり、スタスタと俺の隣までやって来る。
……。
「……ぇ?いや、だな、そのだから手を……」
言うと、軽くゆらゆらと腕を振り、此方を見てくる。
「トイレ行きたいんだ。この手。外してください」
指で手を指し示してからグーパーして、なんとか〝外して〟と伝えようとする。そしてその後に、扉を指し示し、外に出たいことを伝える。
……どうだ?
「006(散歩)」
こく、と頷いた。
通じたか……?
そう訝しんでいると、此方の手を引きゆっくりと彼女が歩き始める。
多分通じてねぇな……。
静止の言葉を掛けようと足を止めるが、彼女の力には敵わずそのまま難なく廊下までひきづられた。
─
──
───
薄々勘づいていたことだが、俺が寝ていた部屋といい、この廊下といい……此処、学校じゃないか?
さっきの多分保健室だよな。つまり保健室で治療したと?
まぁこの学校のことだ。機材も充実していて可能なんだろう(感覚麻痺)と考えていると
「あ、悪い待ってくれ。そこ」
目的地のトイレを通り過ぎようとしたので一旦止まるように声をかける。すると此方を振り向き
「0664?802130(どうかした?お兄ちゃん)」
と、相変わらず数字で言葉を投げかけてきた。さらに此方へとずいっと一歩踏み込み見上げてくる。
自然と上目遣いになっていて破壊力が……ってそうじゃなくてだな、なんか距離感近くないですかね。
「いや、その、トイレ」
件の場所へと人差し指を向けて、自分の意思を伝えようと試みる。
「357。12133(了解。待ってる)」
そう言うと、パッと手を離してくれた。
やっとか……。
─
──
───
「ふー……」
それにしても、不可解な点が幾つかある気がする。見落としているのか、気付いていないだけなのか。
特に顕著なのは先程の数字少女の俺への態度だ。
確かに形上はあの子を守ったと言えないこともないんだろうが、果たしてそれだけでああも変わるものだろうか?
大体俺があの件を解決した訳でもないのだし、やっていたことといえば、ただ殴られていただけ。
他に何か彼女に対して喜ばれるようなことは……してないな。マッカンあげて道案内して少しお節介焼いたくらい。これだけのことで、あんなに態度が変わる筈も無い。
なら他にはというと…………思い当たらない。
どうしてもあの子の俺に対しての過剰とも取れる好意的な視線や態度に説明がつけられない。
せめて話が通じればやりようはあるんだが……まぁ厳しそうだよなぁ。
この件については本当に分からない。道中でも色々と考えを巡らせていたが、どれもしっくりこないものばかり。思い当たりが一つも無い。
……これ以上考えても仕方ないだろうし、次行くか。
次に不可解な点は。というか、すっげぇモヤモヤすることなんだが、助けてくれたかもしれない第三者の存在について。
お礼を言わせて欲しいからせめて名前でも分かっていたら……という悩みもある。が、それよりも何故か、本当に自分でも分からないんだが、その人についてモヤでもかかっているかのような、そんな気がする。
顔も身分も分からない人に対してモヤが〜とか思うのは違うんだろうが、その表現の方がしっくりくる気がして、でも感覚的なことでうまく説明がつかないから余計頭がこんがらがって分からなくなる。
……これも考えても分からないこと。というかそんなのばっかで頭が疲れる。
「はぁ……」
水で手を洗いハンカチで拭く。
ふと鏡を見つめてみると其処にいるのは何時もの俺。
何も変わっていない。普段通りの比企谷八幡が居て、そいつに対して何時通りの感想を浮かべる。
目が濁ってる以外は整った顔。若干常よりも目が疲れてる感じにも見えるが……まぁ誤差と言っていい。
そういったいつも通りの自分が俺を見ている。
「俺も人のことは言えんか」
きっとお医者さんの方にも何らかがある。
それでも自分も大概だよなと思った。
─
──
───
廊下へと出た瞬間、タタタタと駆け寄って来た数字少女はというとすぐ様手を繋いでくる。
「──っ、く」
道中の頭の中は考え事で埋まっていて余り意識せずにいられたのだが、先程一応の区切りがついたことで、今の俺は現在起きている事態に対して素直に向き合わざるを得ない状況になっている。
つまりめっちゃ緊張する。
どうしましょ……いや、女の子と手を繋いたことがないって訳じゃないんだ。小町とも繋いだことあるし。小学生の時もキャンプファイヤーで……くっ、忌々しい方の記憶が!!
まぁともあれ経験がないって訳じゃない。妹をカウントしていいのか分からんが、女の子と手を繋ぐのは初めてじゃない筈だ(耐性があるとは言ってない)
落ち着け……落ち着け俺。顔に出すな態度に出すな冷静に、っ、なんかもぞもぞしてきた。あぁヤバイやばいヤバイってかなんでこんな手が細いの?同じ人間なの?指なんか小さくて、だけど力強く此方の手をにぎにぎとやってくるし肌質はすべすべしてて滑らかでなんかいい匂いするしああああああああ
ダメだ無理だ意識しちゃうよこれ。こんなの無理だろ。なんなのなんでこんなことすんの?え?俺のこと好きなの?いやない。って分かってようが意識すんだよこっちは男の子だぞ仕方ねぇだろ。はああああ無理。ダメだわこれ。めっちゃやむ。
帰ったらおうちで餃子パーティーするしかないな。一人でだけど。って待てよ。小町が一緒にやってくれるんじゃね?俺は一人じゃなかった!ピンク髪のザコメンタルの彼女には悪いが俺は小町と二人で楽しくやらせてもらうとしよう。まぁCD出たら買うからさ。許して欲しい。
って、流れでふと出てきたたが、そうだ!小町だ!こんな時は小町のことを考えて余計な思考を断ち切ればいい……きっと心が落ち着くに違いない。
あの八重歯がチャーミングな妹の笑顔を……おぉ。少しずつ落ち着きが出てきたように思う。心が安定してきた……。
しかし……精神を安定させ爽やかな気分へと変えてくれるとは……まるで清涼剤のようになってくれる存在である我が妹はやはり最強なのでは?むしろ天使なのでは?
流石としか言いようがないな。ありがとうラブリーマイエンジェル小町たん……
「……802130(お兄ちゃん)」
──ッッ!!
ぞっ、と寒気がした。身体の毛が逆立つような、そんな圧を感じて額から冷や汗がひたりと流れる。
ゆっくりとその圧の発生源へと視線をやると、数字少女の鋭くつり上がった目と合ってしまった。目元まで影がさしているが、その瞳は怪しく光っている。怖い。
「81957484625948509448(こう見えて私は嫉妬深い人間だから)」
え、めっちゃドスの効いた低い声でビビるんですけど。え?いやなんでこんなに機嫌悪いんでしょうか……すげぇ怖いんですが……
「09332690、12329863376408246990。320012。(一時も考えるなとは言わないけど、せめて私と居る時は私を見てて欲しい。私に構って欲しい)」
雰囲気が変わり、少し恥ずかしそうに頬を染めて下を向き、口を引き結ぶ彼女。え、めっちゃ可愛いんですが……。
まぁ彼女のコロコロ変わる表情や雰囲気はさておき。どうするか。
彼女は何かに怒っていたようなんだが……俺自身に全く非は無いと思っているし、気に障るようなことを言った覚えもない。なんなら何もしてない。
まぁそうは言っても、彼女からしたら何か気に障ることがあったに違いないだろう。じゃなきゃあんな恐ろしい目つきにならない。
理由が分からなくて納得はしにくいが……仕方ないか。
下を向いた彼女をそのまま放っておくのもアレだし。
理由はあとで聞くとして(教えてくれるか分からないけど。というか日本語での説明なのかも定かじゃないけど)
取り敢えず謝っておこう。
「……よく分からんけど、悪かったな。ごめんなさい」
体を曲げ謝罪の意を伝えた。
すると通じたのだろうか、此方を見て一言。
「……917752893684470(……分かってくれたなら嬉しい)
そう言って少し微笑を零す。
はぁ……どうやら機嫌を直してくれたようだ。
流石にあんな恐ろしい目を向けられると此方も来るものがあるからな。2回目が無くてよかった。
助かってよかったと、胸を撫で下ろしているとぽすっと横っ腹に軽い衝撃が走る。
見ると数字少女が俺のお腹周りに手を回し、抱きつく形になっている。しかもなんか頭を埋めてきてぐりぐりしてる。
「────、────ぇ、と?え〜、……は?」
「93446(親愛の証)」
顔を埋めているため、もごもごと、くぐもった声が聞こえるが、ってそんな場合じゃねぇ。
只でさえ手を握っただけであんな取り乱してたんだぞ?そんな俺がこんな状況に立たされてどうなってると思う?
固まる。死にそう。
これでもかと好意的な態度を取られたらマジで勘違いするぞ?いいのかお前。告白して振られて俺の黒歴史が新たに製造されるぞ?比企谷八幡冷静になれ。
なんとか自分を諌めつつ隣の少女の肩に手を置き引っぺがす。彼女の顔はというと、それはそれは嬉しそうに、満足だと言いだけな表情で此方を見ている。
まったく……こっちはお前の行動で精神穏やかじゃないってのに、そんな嬉しそうな顔しちゃってまぁ。
「はぁ……」
何度したか分からないため息をつく。
この心臓に悪い少女にはどれだけ振り回されるのか……。
何を言っているのか、考えてるのかも分からんし、行動の意図が読めず疲れる。
どうしたことやらと、この少女について頭を悩ますばかりだと考えていると、後ろから
「……仲睦まじいのは結構だけど、勝手に居なくなるのは困るわね」
ボブカットの女性に声を掛けられた。
というわけでですね、雲仙姉の台詞の翻訳が本編につきました。これは彼女の心がヒッキーに開いたことの表れ〜って感じに捉えて頂ければ。
それとですね……五等分の花嫁10巻読んだんですけど……ヤバくないっすか──?いやホント神としかいいようがないんですけど。
とにかく良かった……。特に後半のもし一花と二乃の立場が違ってたらって話。一花だけが必ずしもって訳じゃなくて、誰にでもそうなる可能性があったっていうね。
そういう所が人間らしいというか、しっかりと考えられてて良かったなぁ。。
今までの表面的な部分だけ見てたらアレだけど、よくよく考えてみたらそうだよねって。
それと、伏線?というか、ここでアレが繋がってくるのぉ!?ってなって凄く驚いた。 いや〜ホント凄いなぁ。。
まぁとにかく、心理描写にストーリーに。どれを取っても今巻も魅力的で心動かされました。ホントに素敵な作品だなと改めて感じました。春場ねぎ先生ホント凄い!
え、四葉関連の話ですか?いやぁ……ね?驚いて卒倒するかと思いました……