やはり俺の隣の席に紙袋が居るのはまちがっている。   作:ト——フ

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第6箱 「あぁ。だから、」

「おっ、この鶏肉柔らかくて良いなー。美味い」

 

「わーありがとうございますっ。舞茸と一緒に煮込んだら酵素がどーたらで柔らかくなるんですよねー!」

 

「お前も分かってないのかよ……」

 

「あー舞茸のたんぱく質分解酵素が肉に作用したって訳か、納得。それにしても小町ちゃん、しっかり勉強してて偉いな」

 

「えへへ。作る側からしたら出来るだけ美味しいご飯を食べて貰いたいですからねー。ってこれ小町的にポイント超高いな」

 

 現在、食事中

 名瀬を加えて三人で夕食を囲んでいる。

 なんでこうなったのか疑問に思う方も居るだろう……俺もそう思う。なんでこうなった。

 

 あんな気恥ずかしい別れ方しといて名瀬と今飯食ってる状況に疑問を覚えんなって方がおかしい。

 まぁ、時間はあいつが帰った辺りから遡るんだが──

 

 ─

 ──

 ───

 

「じゃ、また来週な。お邪魔しました」

 

 バタン、と扉の閉まる音が玄関に静かに響き渡る。

 

「……帰った、か」

 

 それにしても、俺としたことがらしくないことを口走ってしまった……。その所為か今も顔が熱い。さっきの光景を思い返すとヤバイ。なにがヤバイって長らく人との親しい交流を断ってきたぼっちに初っ端からあんな小っ恥ずかしいのは耐性が無いんだよ。現に今蹲って頭抱えてるしな俺。

 

 ダメだ……一旦落ち着こう。このままだと帰ってきた小町になんて揶揄われるか分からん。

 

『おぉ──っとお兄ちゃん。えぇー?お兄ちゃん(ニヤニヤ)なになにその真っ赤なお顔は(ニヨニヨ)ほれほれ一体名瀬さんと何があったのか小町に話してみそ』

 キョロキョロと俺の周りを回りながら、口に手をあてニヒヒと笑みを浮かべて絡んでくる。

 

 うぜぇ……。脳内の小町でさえこれだ。本物はもっと凄いかもしれん。

 まぁとにかく急ぐんだ。取り敢えず布団に潜って思いっきり悶えて吐き出すもん吐き出して冷静になるんだ。

 

 小町がいつ帰ってくるのか分からない以上、可及的速やかにことを済ませたい。という訳で、急ぎ足でドタドタと階段を駆け上り、自分の部屋に転がる勢いで突入することに。というか勢いあまって転んだ。

 

 だが直ぐにでもベッドへ駆け込もうと、はやる気持ちで顔を上げ動き出そうとするが……思わず自室の光景に目を奪われる。

 

 カーペットは歪み、ゲーム機やらブルーレイレコーダーが散乱している等、普段より散らかっている自室の様子に思わず思考が止まる。続けて視線を彷徨わせると、小町が持ってきてくれた木製のお盆が目にとまる。そのお盆にはお菓子が載っていたのだが、既に何も無い。

 

 それらを見ていると名瀬が……友達が帰ってしまったのだと実感してしまい、なんだか感傷的な気持ちになってしまう。

 数時間前まではここで一緒に遊んでたのか……と言い表せない何か物悲しい気持ちに囚われて、顔の赤みも引いていくのが分かる。

 

 楽しかったけど、なんか、終わってしまえば寂しいもんだな。

 感傷的になった心を紛らわすようにボフッとベッドに身体を預ける。

 

 まぁ、だけど。思い返してみれば楽しい時間だった訳で、思わず笑みが溢れてしまう。思い思いに過ごした今日の一日の思い出はきっと、初めて名瀬と……友達と自分の家で遊んだこの思い出はきっと、これから先の未来でも思い返しては、こんなこともあったなと、これまた笑みを溢してしまうのだろう。

 そう思うと、さっきまでの感傷的になった心も落ち着いていくのを感じる。

 

 友達と遊ぶ時間は楽しいが、それ故に早く感じてしまう。逆に、友達が帰ってしまった後はなんとも言えない気持ちが残り、若干センチな気分で時間が長く感じるだろう。

 確かに終われば辛い時間だが、もう金輪際ずっと遊べないというわけでも無い。

『また遊ぼうぜ』

 名瀬も言ってくれたことだが、また友達と遊べることを、会えることを考えると、自然と頬が緩んでしまう。

 

「ということは……また来週、か」

 

 名瀬と会えるのは来週の学校。普段、金曜日のこの時間は土曜日と日曜日のことを思い、ワクワクとした気持ちに満たされているのだが、今日はどうやら月曜日に友達に会えることをちょっぴりとだが楽しみにしている自分がいるみたいだ。

 月曜日なんて忌むべき曜日を少しでも楽しみにするなんて、今までの俺ならば浮かびもしない考えだっただろう。

 全く、前までのプロぼっちをしていた俺は何処に行ったのかと思わなくもないが、それでもこの心境の変化を悪くないと思っている自分もいるわけで。

 

 それだけ初めての友達の存在は俺の中で大きく居座って……いや、あいつのことだから頭の後ろで腕組みをして踏ん反り返ってそうだが……まぁ、こんな想像もつく程、あいつとの関係を好意的に思ってるんだろうな。

 

 

 

 ま、色々と思案を巡らせて気持ちも落ち着いたことだ。

 風呂でも沸かしに行くかな、と行動しようと瞬間、ふと気付く。先程までは考えごとで他のことには気が回らなかった為、この緊急事態には気が付かなかったらしい。

 自分は周囲に敏感な方だと認識していたのだが、これは少し改める必要があるのかもしれない。

 そう──なぜ気が付かなかったのだろうか。

 布団から名瀬の匂いがすることに。

 

 自覚した途端、またもや顔が熱くなるのを感じる。

 そういやそうだったな、あいつこのベッドに寝っ転がりながらクウガ観てたなそういえば。

 はぁ……マズイな。こんなん気になって今日俺寝れねぇじゃねぇか。

 床で寝るしかない、のか。ぐぅ……。

 

 そんな思いを抱きながらも風呂を沸かすべく一階に降りていくと、ちょうどガチャッという音が聞こえたので、小町かと思い玄関へと向かう。

 

「ただいまー」

 

「おかえり小町、遅かったな。ちょうど今風呂沸かそうとだな……ん?」

 

「よ、よーハッちゃん」

 

「お、おう。どうした?なんか忘れもんでもしたのか?」

 

「い、いや……まー、そのな」

 

 なにやら歯切れが悪い名瀬の様子を見て、側にいた小町が前に立ち話し始める。

 

「やー、途中で名瀬さんとばったり会っちゃってねー。一緒に夕飯食べていきませんかって話になって、快諾してくれたの!だから今日は三人でご飯だよ!」

 

「いやお前な……名瀬にも都合ってもんがあるだろうに……」

 

「あー……ハッちゃん。小町ちゃん責めないでやってくれ。実際俺も暇だった訳だし、厚かましいかもだが食事にお呼ばれされて嬉しかったのは本心でな……」

 

「……そか。ならいいんだが……ま、取り敢えず上がってくれ」

 

「おう、サンキュな。お邪魔します」

 

 こうして今夜は名瀬を交えて食卓を囲むことになる。

 

 

 

 リビングへと入り、真っ先に小町は厨房へと向かおうとするが、くるっと後ろを振り返り

 

「ではでは小町は料理に取り掛かりますので名瀬さんはそこらでゆっくり寛いで待ってて下さい!」

 

「あ?いや、小町ちゃんだけにやって貰うのはわりーって。俺もなんか手伝わせてくれよ」

 

「なんと……!ですが名瀬さんはお客様ですのでお手を煩わせる訳にはですね……」

 

「まーまー堅苦しいことは置いとこーぜ。それにこんななりだが一応自炊もしてて料理は出来るんだよ。力になれる自信はあるぜ?」

 

「な、なんとそれは頼もしい!で、ですがしかし……」

 

 中々首を縦に振らない小町に、変なとこ頑固なのは兄妹揃って一緒なのな、と苦笑いを浮かべ溜息をふうっと一息つく名瀬。

 

「あっそうだ、なんならお兄ちゃんに聞いてみな。最近の昼食は俺が作ってきた弁当食べてるからよ」

 

「ッッ!!そ、そのことについて是非是非詳しく!!」

 

「う、おぉ、おい。なんだよ、なんで急に?」

 

 先程までの様子から一転して目をギラギラと光らせた小町は名瀬の背中をグイグイと押し、厨房へと連れて行く。

 小町の変わりように名瀬も驚いているのか珍しくあたふたしてる様子だ。

 

 一方俺の方はというと

 

「……TVでも観るか」

 

 取り残され手持ち無沙汰になったのを解消するべくTVの電源を点けるのであった。

 

 ─

 ──

 ───

 

 ま、そんな感じで今夜の夕飯は名瀬と囲むことになった訳だ。因みにお察しの方もいるかもしれんが一応言っとくと、今食ってるのはシチューである。この料理は小町の得意料理ベスト5(俺の中の)にも入る程の出来で、正に絶品と言う他ない。かく言う俺も大好物だ。

 

 口の中でとろけるかの様な柔らかな鶏肉、ほくほくとした新ジャガに、スープの旨味が染みた白菜と「美味しく食べて欲しい」という妹の愛情が俺のお腹を満たしてくれる。そして目の前の小町の笑顔が俺の心を癒してくれる。

 まさしく食の極致だな。

 心体共に癒してくれる小町の料理は完璧だと言わざるを得ない。食べてると日頃の恨み辛みも晴れていき温かな気持ちになる。

 もうあれだな、小町の料理が世に普及したら争いなんか無くなるんじゃねーのかな。

 

 まぁ脱線したが、この得意料理は主に誕生日やらの祝い事等で振舞われることが多いのだが……小町の奴もしかして最初から名瀬を誘う腹積もりだったんじゃ……

 

 そんな疑惑を浮かべながらも、大好物に舌鼓を打っている中、件の妹が口を開く。

 

「いやー、それにしてもお兄ちゃん。まさかお弁当作って貰ってたなんてねぇ」

 

「っ、ま、まぁ色々あってな」

 

「ふふふ、よいのですよいのです……みなまで言わなくても分かります。ふふふ……これはお義姉ちゃん候補として有力ということ……小町がしっかりサポートしなきゃ

 

「なんなんだよその無駄に悟りきった様な言動……」

 

 あとこいつ何か企んでんな。小声で何言ってんのか聞こえなかったから分からんが、あの笑顔は碌なこと考えてない時のやつだ。

 なにもなければいいんだが……。

 

「で、どうなのお兄ちゃん!名瀬さんの手料理は」

 

 キラキラとした目で詰め寄ってくる小町に鬱陶しくも感じながらも心のままに応えてやる。

 

「まぁ、美味いな。バランスとかも取れてるし、非の打ち所がないって感じで」

 

「ほほーなるほどなるほど……料理方面もバッチリときたか……

 

 またもや妖しい笑みを浮かべる妹になんとも言い難い気持ちになるか……そういえばまだ大切なことを言っていないことに気づく。

 

 重要なことなので真剣な面持ちで、滅多にする事のないキリッとした表情を作り、口を開く。

 

「あー、だけど安心しろ小町。俺は小町の料理が一番だからな」

 

「えぇ──……ここでそれ言っちゃうのはポイント低いよお兄ちゃん」

 

 小町的には嬉しいけど……うーん……むむ、複雑だなぁと頭を抱えて唸る小町を他所に、掬うスプーンの手を緩めず食べ続けていると、ふとぽつりと溢れた言葉が耳に入る。

 

「ほんと……仲良い家族なんだな。まさに幸せって感じの

 

 名瀬のその呟きに反応し、ちらっと目を見やる。

 表情こそ笑みを浮かべているが、その瞳は何か迷いでもあるかのような、何かに想いを馳せているかのような、俺には推し量れないようなことを考えている雰囲気があり、何故か少し、不安に感じる自分がいた。

 

 ─

 ──

 ───

 

「今日はありがとな。何から何までと」

 

「ん。ま、偶にはこういうのもな」

 

 食事が済み、いい時間だからということで帰ることにした名瀬を玄関まで送ることに。

 

「じゃ、また学校でな」

 

「おう。また来週な」

 

 別れの挨拶も済ませ、帰るべく名瀬が扉に手を掛けようとした瞬間

 

「なーにやってんのお兄ちゃん。もう外も暗いんだから送ってあげなきゃだよ」

 

 ただでさえ名瀬さんは美人さんなんだから、変な人に絡まれるかもで危ないよと続け、俺に諌めるように視線を送ってくる。

 ……ま、言われてみれば確かにその通りか。ここは小町の言う通りにしておくとしよう。

 

「や、俺なら大丈夫だぜー。気ぃ遣ってくれんのは嬉しいけど流石にそこまでして貰う訳にゃいかねーよ」

 

 別段気にもしていないかの様に言う。まぁ多分本当に気にもしていないし、何とも思っていないんだろう。

 勝手な思い込みだが、名瀬なら不審者相手でも上手く立ち回り無事に帰宅するだろうと思ってしまう。

 

 まぁ、しかし

 

「……ま。万が一にもってこともあるからな。ここは送らせてくれ。ほら、あと小町に免じてってことでどうか」

 

「……んー。ま、断る理由もねーしお言葉に甘えるとするか。じゃーハッちゃん、夜のデートと洒落込むとするか」

 

 にやり、と揶揄うように言いのける名瀬に驚きつつも冷静に返すべく口を開く。

 

「ばっ、いや、お前……冗談でも妹の前でんなこと言うの勘弁してくれ……」

 

「わ〜〜!!」

 

 口に手を当て、星でも幻視してしまうかの様に瞳をキラキラと輝かせ、ずずいっと此方に寄ってくる小町。

 

「どぞどぞ!どーかごゆっくりと兄を使ってやって下さい〜〜!あ、なんなら今日一日貸し出しでも全然構いませんので☆」

 

「俺が構うんだよ……んじゃ、行ってくるわ」

 

「じゃーな小町ちゃん、色々ありがとな。お邪魔しました」

 

「いえいえ!どーかまた遊びに来て下さいねー!」

 

 ─

 ──

 ───

 

「今日は大分遊べたなー。良い息抜きになった」

 

「ま、ざっと半日は遊んでるからな。俺も大分息抜きになったわ」

 

 修学旅行とかは除くにしても、こんなにも長く誰かと関わったのは久しぶりだ。大抵いつもなら心身共に疲れるだけだが、今回はそんなこともなく。言った通り大分息抜きになったと言える。

『お兄ちゃんは日頃から息抜きしてるようなものじゃん』と妹の声が聞こえた気がするが気にしない。

 

「しっかし、中々パワフルな子だなーハッちゃんの妹はよ。まさか俺が言いくるめられて回れ右で同じ家に2回も邪魔させて貰うことになるとはなー」

 

「あー、すまんな。うちの妹が……あいつ基本人当たりはいいんだが、偶に頑なに譲らない部分があってだな」

 

「いや、まー俺も納得した上でのことだから全然いいんだけどな」

 

 それに楽しかったしな……と続ける言葉に、少し返答に詰まってしまう。

 

「お、そっか」

 

「あぁ。だから、今日限りかな。こんな幸せとは

 

「?」

 

 なにか最後に言った気がしたんだが……いかんせん消え入りそうな声で聞き取れなかった。しかし、その時見た名瀬の表情からは少し薄暗い雰囲気が感じ取られ、漠然とした嫌な予感が胸に引っかかった。

 

 ─

 ──

 ───

 

「直に家着くからここらでいーよ。送ってくれてありがとな」

 

「そうか。了解」

 

 横断歩道を渡りきった後、そう声を掛けてくる。

 

「じゃ、2回目になるが……また来週な」

 

「……そーだな。また、だな」

 

 何かスッキリとしない曖昧な物言いに対し不審に思いながらも、言及してもしょうがないかと思いつつ後ろを振り返り、そのまま帰路に着く。その筈だったが──

 

 対面の方向から犬が此方に向かい飛び出してくるのが見える。首輪もつけておらず、恐らく野生の犬かと呑気に推測するが、はっと気づき信号に目を向けた。

 

 赤

 

 それも今色が変わった所で、横からだんだんと車の音が近づいてくるのが聞こえる。

 間に合うかどうか、考えている暇もなく、気がつけば俺の足は動いていた。

 

 そして──最後に見た光景は友達の顔が涙で酷く歪む、見たくもない光景だった。

 




ヒッキーは果たして無事に復活するのだろうか……?
不穏な感じで締めましたが、これも箱庭学園編へと進む為の必要な足がかりですので。



それと今回のお話、シチューを食べてる際に母から聞いた舞茸のウンチクから閃きました。実際に鶏肉が柔らかくなって美味しいんでね。絶品です。作者の好物です。


因みにカットしましたが、前回のちょっとしたお話載せときますね。

「さて、んじゃ帰る前に片付けとしますかね」

「ん?あぁ、気にすんな。後で自分でやっとくから」

「いや、そーいう訳にはいかねーって。これも人ん家に上がらせてもらった礼儀ってもんだろ」

「その心掛けは素晴らしいんだが、すまんな。比企ヶ谷家ではお客さんは丁重に持て成せってのがあってだな。まぁ、ほぼ俺には関係ないものだったんだが……。
とにかくここは頼まれると思ってそのままにしてくれると助かる」

「はー、そりゃ立派な家訓ってもんだな。……ま、じゃあ悪いけど今日はこのまま帰らせてもらうわ」

「おう、助かる」
(先週メロンブックスで買ったブツがベッドの下に放り込んだままだったからな……片付けに乗じて物色されたらヤバいし、なんとか助かった……)
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