Summer Pockets 小説集   作:京四郎

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2020年の、鷹原羽依里誕生日のSSです。
…書いてから読み返してみたら、羽依里SSというよりはうみちゃんSSになってる気がしないでもないですが(何)

内容としては、本来の本編からかなり逸脱している&ネタバレ要素満載なので、背景等は後書きで。
そうしてまでも書きたかった、羽依里の物語があったという事で…


それでは、また後程後書きで。
あ、それと勿論内容はネタバレ要素を含んでいますので、原作未クリアの方は出来れば原作プレイ・クリア後に読んでもらえるとありがたいですね。


羽依里の一番長い日

「おはようございます!羽依里さん!起きてください、羽依里さん!」

「……あ、うみちゃん。おはよう……」

俺は、もはや聞きなれた声に促されるように、目が覚めた。

「……って、まだ夜じゃないか?」

だけど寝ぼけ眼で周りを見ると、外はまだ暗いように見える。

「はい、今は午前四時です」

「やっぱり……と言うか、何でこんな時間に起こしに?」

「何を言ってるんですか!今日が夏休みの最終日なんですよ!?」

言われて、部屋に掛かっているカレンダーを見る。

そうだった、今日が夏休みの最終日……つまり、この島で過ごす生活も最後の日、か。

明日は本土に戻って、家に戻って……また、あの日々が始まる、のか。

「……羽依里さん?ねぇ、羽依里さん?」

「……ん、あぁ、うみちゃんどうしたの?」

「もうっ、まだ寝ぼけてるんですか!?」

「いや、この時間に叩き起こされれば普通の反応だとは思うけど……よっと」

明日からの日常……戻りたくない日常に想いを巡らして憂鬱になってた、なんて言えないよな。

俺は上手く答えてはぐらかして、それ以上何か言われる前に布団から起き上がる。

「……羽依里さん、今日は何か予定はありますか?」

「予定?うーん……これと言っては無いけど……」

「じゃ、じゃあですね。ふたつほどお願いがあるのですが……」

珍しく弱気そうな、というか少し照れたような感じで、うみちゃんがおずおずと言う。

どうしたんだろう?

「うん、良いよ」

「まだ何も言ってないんですがー!?」

「あ、いや……何となく」

「もうっ、そういういい加減なところは直さないとダメですよ?」

なんだろう、このお母さんに怒られているような感じ。

……いや、本物はここまで暖かい感じはしないけど……

「え、えっとですね……」

こほん、と一つ咳き込んで、改まってこちらに向き直って、うみちゃんがじっと……とても真剣な眼差しで見つめながら言った。

「今日一日中、わたしと遊んでくれませんか?」

 

 

 

 

「いってきまーす!」

「行ってきます、鏡子さん」

「はい、いってらっしゃい。お夕飯までには帰ってくるのよ?」

俺とうみちゃんは、鏡子さんに挨拶をして加藤家を出た。

時間は午前七時。あれから今日一日のうみちゃんとの予定を組んで、ちょうど起きてきた鏡子さんに伝えて了解をもらい、朝御飯を食べて今に至る。

「じゃあ、まずは駄菓子屋だな」

「はい!食料調達です!」

昼御飯の時間も外で遊びたいといううみちゃんの要望に答える為、俺達はまず駄菓子屋に向かった。

鏡子さんが『お弁当でも用意しましょうか?』と言ってくれたが、それは俺もうみちゃんも全力で丁重にお断りした。

「よっと……」

俺はバイクにまたがる。その後ろにうみちゃんがしがみつく形で乗る。

「ゆっくり行くけど、危なくなったら言うんだよ?」

「はい、羽依……お、おとうさん」

うみちゃんのお願いの二つ目と言うのが、これだった。

『今日一日おとうさんと呼んで良いですか?』と。

 

 

『な、なんでおとうさん……?』

『え、えっとですね!あの……お恥ずかしい話ですけど、わたし、おとうさんとあまり仲が良くなくて……』

『うん』

『……は、羽依里さんは、なんかおとうさんみたいな感じがして……』

『仲が良くないってこと?』

『ちがいます!羽依里さんの事は嫌いじゃありません!』

『え、あ……あり、がとう』

『もうっ!こんな事くらいで照れないでください!』

『い、いや、男子校だと女の子からそんな事言われる機会無くて、うん』

『は、話を戻しますよ!……なので、夏休みの最後の思い出に、お、おとうさんと一日中一緒に、遊べたらなと……思い、まして』

『うん、良いよ』

『即答ですか!?』

『ちゃんと考えてるよ。今年の夏はうみちゃんには本当にお世話になりっぱなしだったしね。お礼も兼ねて、それくらいは……それに、うみちゃんと遊ぶのは俺も楽しいからさ』

『!……はい、わたしも楽しいです!それじゃあ、よろしくお願いしますね!』

 

 

今朝のやり取りをまとめると、こんな感じだった。

どうやらうみちゃんは、おとうさんとあんまり仲が良くないらしい。

でも、おとうさんと遊びたい……と言うか、構ってほしい、気にかけて欲しい、って感じかな?

そういう感じみたいだった。

それで、何となくおとうさんに近い感じの俺に、おとうさん代わりになって欲しいと……そういう事だった。

……仲が良くないおとうさんに似ているってのは、俺としてはちょっと複雑な気分だったけど。

「……おとうさん、ひょっとして後悔してます?」

「ん?」

多分黙ったままだったからだろう。うみちゃんが後ろから心配そうに聞いてきた。

「いえ。もし気が乗らないのでしたら、今からでも朝のお願いは無しにしても」

「そんな事ないよ、朝も言ったろ?俺もうみちゃんと遊ぶのは楽しいからさ。今日一日、どうなるかなって色々考えてたんだ」

「そ、そうですか……よかったです」

心の底からとても嬉しそうな声を、背中で聞きながら、俺はバイクを走らせ続けた。

 

 

 

 

「いらっしゃーい……あら、今日は二人一緒?」

「おぉ、蒼。今日は寝てないのか」

「おはようございます!」

駄菓子屋に着くと、既に店に居た看板娘の蒼が出迎えてくれた。

「いくらあたしでも朝っぱらからは寝ないわよ……なんて、ちょっと言いがたいけどね。実は少し眠い」

「毎日おつかれさまです、空門さん」

「あはは、まぁ、これも看板娘の務めってやつかしらね」

そう言ってうみちゃんに返しながら、蒼がニヤニヤしながらこちらを見つめてくる。

「これくらいの気遣いがすっと言えるようだと、嬉しいわよねぇ」

「お疲れ様です、蒼」

「ふふふ、ありがと。でも、言われて気付くくらいじゃ、女の子にはモテないわよ~?」

からかい気味に楽しそうに言ってくる蒼と俺の間に、うみちゃんがすっと割り込んできた。

「そんなことありませんよ。おとうさんは本当はとっても優しくて色々気にしてくれる人なんですから」

「うみちゃんのおとうさんってそんな感じの人なんだ……って、おとうさん?」

「はい、羽依里さんです!」

あ、これは……

「え、羽依里がおとうさん……?うみちゃんの、え、えぇぇぇぇぇ!どういう事なのよー!?」

「どうもこうも、羽依里さんはおとうさんなんです」

「え、ちょ……ちょっと待って理解が追いつかないわ、うみちゃんの年齢の子供が居るってことは羽依里は本当はもっと年上なの!?」

「いや、俺は高校生だってば」

「高校生で子持ちとか、そうか、相手の子ね!?って事は学生結婚でいわゆる若いツバメとのみだらであまい生活ってやつを」

「おーい、そろそろ戻ってこーい」

「空門さん、羽依里さんは本当のおとうさんじゃなくて、おとうさんの代わりになってもらってるんです」

「あ、うみちゃん、その説明は多分火に油を注ぐと思う」

「おとうさんの代わり……だ、だめよそんなことっ!うみちゃん、自分を大事にしないとダメよ!その歳で、え、え、援助とかなんとかとか……交際するならもっと清く正しい交際をしないと!」

……その後、誤解を解くまでに小一時間かかった。

 

 

 

 

「空門さん、今日もすごかったですね」

「あれはうみちゃんの説明も悪かった気が……」

「なんですか?」

「……いや、なんでもないよ」

背中越しにちょっとした圧力を感じて誤魔化す。

ちなみに、後ろからは圧力を感じるだけじゃなくて、がさがさと袋の擦れる音も聞こえてくる。

「でも、こんなにサービスしてもらっちゃって良かったんでしょうか?」

「蒼が良いって言うんだし良いんじゃないかな?」

あの後、今日は一日うみちゃんと遊んで、夏休み最後の思い出を作りにいくところだと何とか蒼に伝えると、時間を取らせたお詫びも含めて、沢山の菓子とかをくれた。

「空門さん、本当にいい人ですよね」

「ちょっと妄想が過ぎるけどな」

そんな話をしつつ、二人で笑いながらバイクを走らせる。

もう夏休みも終わりだというのに、まだまだ日差しも強くて暑い。

バイクで走ると風が気持ちよくてちょうど良かった。

「あ、羽依里だ!おーい!」

聞きなれた声を耳にしてバイクをゆっくりと止めると、通り過ぎた民家横の路地裏から、ガラガラと音を立てながらスーツケースを引いて、鴎が姿を現した。

「久島さん、こんにちは!」

「うみちゃんこんにちは!」

「お疲れ様です、鴎」

「え、別に今日はそこまで疲れてないけど」

「もうっ、おとうさんったら……それは空門さんのところでやったやりとりじゃないですか」

「おぉ、よく気付いたな」

「あたりまえです、さっきの事なんですから」

そう言いながらちょっと誇らしげに胸を張るうみちゃんと、俺を交互に見て、鴎がぽかんとした顔で言った。

「おとうさん?」

 

 

「なるほどねぇ~、それで羽依里がおとうさんかぁ」

「はい、そうなんです。なので、今日はおとうさんがおとうさんなんです」

「うみちゃん、それは説明になってないと思う」

「あんですとー」

そんな俺達のやり取りを見て、鴎がくすくす笑う。

「なんだろうね、羽依里とうみちゃんが本当の親子みたいだねぇ」

「そ、そう見えますか!」

急に身を乗り出して、鴎に詰め寄るうみちゃん。

「う、うん……うみちゃん、結構ぐいぐい来るねぇ」

「そうだぞ、うみちゃんはこれでも結構ぐいぐい来る派だ」

「へぇ、そうなんだね」

「ちょっと待ってください、なんですかそのぐいぐい来る派とか!」

「いや、だって朝なんてほぼ毎日叩き起こされてたし……」

「あ、あれは!おとうさんがなかなかちゃんと自分で起きないからです!」

「ふふふ、二人とも仲がいいねぇ。やっぱり本当の親子みたいだよ」

「そ、そうですか!?」

俺に対してちょっと怒ったかと思ったら、鴎の言葉に目を輝かせて嬉しそうにするうみちゃん。

今日はまだ半日くらいしか経ってないけど、うみちゃんの表情がころころと変わって、色々なうみちゃんの表情が見れてとっても面白い。

「と言うか、羽依里が良いおとうさん役なのかもしれないねぇ。よーし、私も羽依里におとうさんになってもらおうかな?」

「だ、だめですー!おとうさんはあたしのおとうさんなんです!」

そう言って、必死にしがみついてくるうみちゃん。

こ、こんなに甘えたがりな子だったっけか?

「そっかぁ……それは残念。私はおとうさん居ないからさ」

「あ……ご、ごめんなさい……」

少しだけ寂しそうに笑う鴎を見て、申し訳無さそうに謝るうみちゃん。

「ううん、良いんだよ。私の分まで、羽依里おとうさんとの楽しい想い出をいっぱいつくってね?」

そんなうみちゃんに、鴎は微笑みかけて言った。

「は……はい!」

少し戸惑い気味に、でも満面の笑みを浮かべながら、うみちゃんも答えた。

 

 

 

 

「お昼はあの灯台で食べましょう!」

バイクを走らせていくと、道の向こうに灯台が見えた。

うみちゃんは少し身を乗り出して、灯台の方を指差す。

「そうだね。もうちょうどいい時間だしな」

「はい、行きましょうおとうさん!」

 

 

灯台に着くと、そこには日向ぼっこをしている見知った姿があった。

「こんにちは!」

「あ、ハイリさんに……むぎゅ?どなたでしょうか」

「はじめまして、加藤うみです」

「はじめまして、紬・ヴェンダースです。よろしくおねがいします」

挨拶しあって二人で同時に会釈をする。

なんだかタイミングがぴったりで面白い。

「俺が泊まってる家の親戚の子なんだ。今日は一緒に遊んで回ってるんだよ」

「おぉ!それは楽しそうですね」

「はい、楽しいです!」

ニコニコとしているうみちゃんに、それを見て同じようにニコニコしている紬。

そんな二人を見ていると、俺も自然とにやけてしまう。

「ちょっと灯台のベンチを一つ貸してくれないか?お昼御飯にしようと思ってさ」

そう言って、お菓子とかがいっぱい入った袋を見せる。

「大丈夫ですよ。でも、ベンチも良いですが、もし良かったら、せっかくですので灯台の中で食べませんか?」

「いいのか?」

「はい、今日はシズクが来れないので、ちょっと暇をもてあましていましたので」

「でしたら、ヴェンダースさんも一緒に食べませんか?お菓子が多くておとうさんと二人だと食べきれないかもしれませんので」

「おぉ!それは嬉しいお誘いですね!……むぎゅぅ?おとうさん、ですか?」

喜んだ後に少しして、違和感に気付いていつもの口癖と共に首をひねる紬。

朝から言われ続けてるから、俺自身はもうあんまり違和感無いけど、やっぱそうなるよなぁ。

「はい、羽依里さんは今日はおとうさんなんです!」

「今日だけ、ですか?」

「えっと……はい、今日だけです」

「ですか……でも、ハイリさんは優しい方なので、ずっとおとうさんだと良いですね」

「!……はい!」

最初は嬉しそうに、でもそのうちちょっと悲しそうに、うみちゃんが言う。

それに対して紬がくすぐったい事を言ってくれると、満面の笑みでうみちゃんが答える……なんだろう、これ。

「あの、二人とも……嬉しいんだけど、なんかこのやり取り、変に褒められてるみたいで俺がすごく照れくさい」

「みたいじゃなくて、ほめてるんですよ!」

「はい、ハイリさんはとても良い人です」

「あの、なんか……その、やめて……」

恥ずかしそうにする俺を見て、二人はずっと笑っていた。

 

 

 

 

周りは、もう暗くなってきた。

俺がバイクを運転する間、ずっと後ろで抱きついていたうみちゃんも、さすがに疲れたのかうとうとしだしたので、俺はバイクを降りてうみちゃんをバイクに載せて、手押しで進みながら家路についていた。

「……おとーさん……」

「うん?うみちゃん?」

「……ごめんなさい……ありがとう……」

不意にうみちゃんの方を見ると、バイクの前のほうに寄りかかって眠っていた。

「寝言か……」

 

色々な出会いがあった夏。

蒼や、鴎や、紬と……良一や天善やのみきと一緒に、よく遊んだ夏だった。

そういえば、この島に来た最初の頃に、プールでの衝撃的な出来事もあったっけ。

すっかり忘れていたけど……何故今、思い出したんだろう?

 

「……この夏が、永遠に続けばいいのにな」

星が綺麗に見える夜空を見上げながら、ぽつりと呟く。

「……はい……」

眠っているうみちゃんが、返事をする。

寝言だろうと解ってはいるけれど、妙に言葉やタイミングがかみ合っていて、うみちゃんもそう思える夏を過ごせたのならなと、そうあってくれれば嬉しいなと、ふっとそう思った。

 

 

 

 

              羽依里の一番長い日 ~少女の一番長い夏~ 「終」




…と言うわけで、うみちゃんSSでした(何)
い、いや、主役は羽依里だし!羽依里視点だし!


真面目に説明すると…
今回羽依里の誕生日という事で羽依里のSSを書いてあげたくなったのですが、どうしても前から書きたかったのが、うみちゃんとの絡み。
それも、しろはを絡めた親子の絡みとかではなくて、あくまで羽依里とうみちゃんの、父と娘の物語と言うか…
原作では、大人になった羽依里と、うみちゃんとの間は…ね、あれなので。

しかし滅茶苦茶悩む羽目になったのが、しろはの存在と、うみちゃんをどう羽依里に近づけていくかの過程。
色々考えたけれど、時間も無かったので、安易ではあるけど、取った手法が「夏休みの最終日」という舞台設定。
しろはが出てこないのは意図してのもので、この最終日に至るまでの間に、この夏では羽依里としろははほとんど接点が無く、他のメンバーと楽しい夏を過ごしていました。
その中でも、特にうみちゃんと…ですね。
毎日ログインボーナス貰いに行ったり、島モンで遊んだり…等々。

うみちゃんの方は、初日からしばらくはやっぱりお母さんの事が気になっていましたが、羽依里がなかなかしろはと接触していかないのを見て、それこそチャーハン伝説のように、「そうだ、せっかくだから今回はおとうさんとの夏を楽しもう」と割り切り、そこからは羽依里との夏休みを楽しむようになり…って感じで。

なので、本来の本編大筋とは大きく離れてますし、紬がハイリ呼びなのも、ルートに入らなかったけれど、紬ともそれなりに親密になっていて…という感じで、しろは以外の他メンバーとは、ルートに入れるくらいに親密にはなっている感じです。
ただ、今回は言ってしまえば「うみちゃんルート」的な物であるから、そこに派生しなかったという感じで。

…そう、今回これを書こうと思った理由の一つが、6月26日にリリースされるサマポケRBで、うみちゃんルートが公式に追加されるからなんです。
俺なりに、二人が仲良く楽しく過ごす姿を書いてみたいと、前から想っていたのを、この機会に消化したというのがあります。
だって、公式で本格的にルートを追加されたら、どうしても、意識しないつもりでも、そこに縛られてしまうような感じがしたので…まだフリー(?)なうちに、書いてみようかなと。

サマポケ本編では、母と娘の愛情が描かれていますが、きっとその夏のいくつかの中には、父と娘の物語もあったのだろうなと、そうであって欲しいと願いつつ…
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