掲載は話の冒頭部分までとなります。
『病室に来て、話をしてくれた事は、大体全部、憶えています』
『大事な人の話す話ですから、忘れようがありません』
『そして話を聞く中で感じた、言いようの無い感情』
『それが何だったのか、当時は解りませんでした』
『もどかしいような、悲しいような、嬉しいような……』
『しばらくしてその正体に気付いた時、わたしは悩みました。
悩みぬいた末、ある行動を起こすことにしたのです』
蒼ちゃんが本当の意味で目を覚ましてから、一週間ほど経ちました。
まだ身体の自由がきかない蒼ちゃんは、わたしと同じこの病室でベッドを並べて横になっています。
「う、うぅん……」
どうやら蒼ちゃんが目を覚ましたようです、寝起きの声も可愛いです。
「おはようございます、蒼ちゃん」
「ん……おはよう、藍」
わたしが挨拶をすると、蒼ちゃんも笑顔で答えてくれます、可愛い。
「蒼ちゃん。起き抜けで申し訳ありませんが、一つお願いがあります」
「ん?何、藍?」
わたしは、隣で寝ている蒼ちゃんに話しかけました。
蒼ちゃんはきょとんとした顔でこちらを見ています、とっても可愛いです。
「羽依里さんを一日貸してください、デートします」
「あぁ、いいわよその位……って、はぁぁぁぁぁっ!?」
「勘違いしないでください、デートと言ってもテストのようなものですから」
「て、テスト!?」
目をぱちくりさせている蒼ちゃんも可愛くてずっと眺めていたいのですが、それでは話が進まないので、ここは心を鬼にして話し続けます。
「はい。こうしてわたしが目を覚まし、蒼ちゃんも目を覚ましましたので、そろそろ決着をつけたいなと思いまして」
「決着……って、いったい何の?」
「どちらの方が蒼ちゃんを大好きか、です」
「う、うぇぇぇぇ!?」
あぁ、予想外の話に驚いて目を丸くしている蒼ちゃんも素敵です。
「え、えっとぉ……なんか色々突っ込みどころはあるけど、それでなんでデートにつながるわけ?」
「はい……羽依里さんには、わたしを蒼ちゃんに見立てて、恋人とのデートの時にどんなことをするかを実演してもらおうかなと。それでわたしが満足させられれば、羽依里さんの勝ち。満足できなければ私の勝ちという事で」
「あのー……それって、あたしが直に羽依里とデートするんじゃダメなわけ?」
「ダメです、羽依里さんは良い人ですがヘタレで奥手ですから。変なデートコースやプランを組んで蒼ちゃんを幻滅させるなんて許せませんから」
「た、確かに羽依里はそういうの得意そうじゃないけど……でも……」
「それに、将来義理とはいえ弟になるかもしれない人ですから、今のうちからよく知っておきたいんです」
「へ、義理のって…や、やだ藍、それはちょっと気が早いわよ!?」
頬に手を添えて真っ赤になる蒼ちゃん……至高です。
そうなるまでに惚れているのが羽依里さんなのが、複雑ですが。
「……認めたくはありませんが、蒼ちゃんはそこまでのつもりで羽依里さんと付き合っていると思っていましたが?」
「そ、それは……そぅ、だけどぉ……」
もじもじしながら認める蒼ちゃんを見ていると、とても可愛いのですが複雑な感情が芽生えます。
「それにですね、蒼ちゃんに聞かせたくない話も、あるので」
「な、なに……なんかそこまで言われると滅茶苦茶気になるんですけど」
もう一息というところでしょうか、これは。
「……ダメですか?」
「ぐぅっ……そ、そんな顔して頼まれたら……ことわれないっ、じゃない……わかったわ、良いわよ!一日だけよ!?」
困ったような泣きそうな顔でじっと蒼ちゃんを見つめながら頼むと、蒼ちゃんが折れてくれました。
蒼ちゃんは可愛いだけじゃなくとても優しいです、まるで女神です。
「ありがとうございます、蒼ちゃん」
「どうせなら、しっかり楽しんできなさいよ?羽依里にも念押して言っとくから」
「……はい」
そう言って屈託なく笑う蒼ちゃんを見て、少しだけ、心の奥がちくりと痛みました。
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