Summer Pockets 小説集   作:京四郎

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彼と彼女の望むもの

 

「こんにちは、今日もいらしたんですね」

「はい」

見慣れた顔の、彼女の担当看護師さんの挨拶に、俺は微笑んで答える。

「今日も元気ですよ」

「……みたいですね」

看護師さんに言われて、俺は彼女の顔を覗き込む。

その表情はとても穏やかで、時々笑っているような風な変化を見せる。

そんないつもの様子に安堵しつつ、これもまたいつもの様に、漠然とした不安にも襲われる。

「……大丈夫ですよ!検査結果は以前よりとっても良くなっていますし、そのうち目を覚ましますよ!」

「そうですか……そうですよね!」

変に気を使わせてしまったようで、少し困ったような微笑を浮かべながら、無理して明るく振る舞っているのが物凄く伝わってくるテンションで、看護師さんが俺を励ましてくれる。

俺は、看護師さんにまで心配させてしまっているなと、内心苦笑しながら、同じように敢えて明るく答えて笑う。

「お優しいですね、いつも助かります……ありがとうございます」

常日頃、彼女の事を熱心に世話してくれている看護師さんに、俺は感謝の意味も込めて、笑顔のままお礼を述べる。

「え、あっ……ありがとうございましゅ!」

一瞬呆けた様な顔をしていた看護師さんが、急に慌てたように顔を赤くして答える。余程テンパっていたのか、少し語尾を噛んでるのが、看護師さんの幼気な容姿と相まってとても可愛らしい。

「そ、それじゃあ何かあったら呼んでくださいね!」

まだ少し赤みを帯びた頬を緩めながら、嬉しそうにそう言って看護師さんは部屋を出ていった。

「さて……おやぁ?」

彼女の方を向き直ると、先程とは違った表情……まるで拗ねた子供の様な表情で、すーすーと寝息を立てていた。

「ふふふ、もしかして妬いてるのかー?鴎……」

そう言って彼女……鴎の頬に手をやってゆっくりさすると、だんだん頬が緩んでいき、終いにはとってもだらしない表情で『えへへ……』とか寝言を言い出す。

「……妬くくらいなら、早く起きて一緒に居ような、ずっと」

自分でも解るくらい、寂しげな俺の独り言が、医療機器の発する音だけが響いている部屋の空気に混ざって消えた。

 

 

 

 

 

 

「羽依里ー!ほらー、早く早く!」

「慌てるなって、宝物は逃げないんだからさ」

「でも、私達以外にも宝を探して冒険してる人が居るかもしれないよ?」

「そんな……いや、無いとは言えないけどさ」

「でしょでしょ!だから急がないと!」

今日も私は羽依里と一緒に冒険してる。

今は伝説の海賊が残したお宝を求めて、宝の地図を片手に、私達の船で出港したところだった。

「そういえばさ、今度の宝物は何なんだ?」

「えーっと、それはね……」

すぐにいつものやり取り……『教えてあげないよ、じゃん♪』と言おうと思ったけど、ふっと急に冷静になって思った。

……あれ?私、何の宝を目指してたんだっけ?

「……教えてあげないよ、じゃん♪」

「おーい、何を手に入れに行くか解らないと探しようがないぞー」

困った顔で、でも楽しそうに言う私の相棒にして、恋人の羽依里。

いつも冒険に付き合わせちゃって悪いなって思うけど、羽依里が居ない冒険なんて、今じゃ考えられないくらい、私にとって大事な存在。

「でも、一緒に冒険してくれるんでしょ?」

「……当たり前だろ?そんなの」

ウインクして唇の前に人差し指を添えて、自分でも少しあざといかなぁって思う仕草をしながら、羽依里の顔を覗き込む様にして言うと、羽依里は少し照れたような表情でそう答えた。

「えへへ……ありがと、羽依里!」

そんな羽依里に私は思わずにやけて返事をする。やっぱりずっとずっと、羽依里と一緒に冒険していたいなぁ。

 

『なら、そろそろ目覚めないとだね』

 

うん、そうだね……って、あれ?何か聞こえたような……気のせいかな?

それに何だか懐かしいような……

 

 

 

 

 

 

病室の窓から見える景色の中では、早咲きの桜がちらほらと見える。

ここで季節の移り変わりを窓から眺めるのも何度目だろうと、自分で自分に問い掛けながら、俺は窓の外と鴎の顔を交互に見る。

外で咲いている桜に負けないくらい、血色良くふわふわとしたほっぺた。

手入れをしてなくても整っているまつげは、鴎のわりと大きめな眼と合わせて、とても可愛らしい。

そして何より長く伸びた、綺麗な艶のある濡羽色の髪……鴎なのに鴉の羽色みたいだよなぁって、何度も思っては一人で笑ってる。

「なぁ、鴎……今お前は、どんな夢を見てるんだ?」

眠っている鴎の表情は、少なくとも俺が見ている時はいつも楽しげで、ころころと変わる。

看護師さん達に聞いた感じだと、俺が居ない時は殆ど無表情らしい。

安易に喜んで良い状況じゃないけど、それは何だか俺が鴎の中で凄く特別な存在なんだなと実感できる事で、どうしても嬉しくなってしまう。

「……桜、綺麗だぜ……いつか一緒に見に行こうな」

その少しほっそりとした手を握りながら、窓の外の景色を目に映し、俺は鴎にそっと語りかけた。

 

 

 

 

 

 

「うぅー……羽依里とはぐれちゃったよぉ」

罠にかかって羽依里と離れ離れになってしまった私のつぶやいた声が、洞窟の中に反響する。

地図を信じるならお宝まではあと一歩のところまで来てるけど、羽依里の事が心配だし、何より凄く心細い。

「……あれ?……扉がある」

とぼとぼと歩いている私の前に、急に頑丈そうな金属の扉が現れた。

金属製だし、洞窟の中だから、多分誰かが作ったやつだよね。

「なんか書いてる……えーっと?」

洞窟の中には光る苔かなにかが生えてるらしくて明かりには困らなかったから、扉に書かれたそれを読むのは簡単だった。

 

【この扉へ真に望むものを叫んだ時、宝物への道は開かれん】

 

「望むもの?」

読んだ後に、私は首をひねって考え込む。

望むものって…海賊の財宝、とかかな?

「海賊の財宝ー!」

しーん……何も反応しない。

違うのかぁ、それじゃあ……

「じゃ、じゃあ……絵本に出てくるような冒険!」

こういう抽象的なやつってことなのかな?

でも、それでも扉は何にも反応を示さない。

「どうしたらいいんだろう……ね、羽依」

羽依里と言いかけて、そういえばはぐれてたんだったなぁと思い出す。

……ずっと羽依里が一緒の生活だったから、いつもの様に普通に声をかけようとしちゃったよ。

「……」

途端に物凄い不安感と寂しさが襲ってくる。

「……羽依里ぃ……」

自分でもとっても情けないと思うくらい弱々しい声が、私の口から漏れ出てきた。

 

 

 

 

 

 

「こんにち……あら、今日はお祝い事か何かあったんですか?」

「え?あぁ……いえ、実は俺の誕生日なんです。せっかくだし今日は鴎にも祝ってほしいなと思って」

「そ、うですか……誕生日だったんですね、おめでとうございます!」

そう言ってわりと上等なケーキの入った箱を手に笑う俺を見て、担当看護師さんが一瞬だけ悲しげな表情をした後、すぐに満面の笑みを浮かべてお祝いの言葉をくれる。

もう鴎のところに見舞いに来るようになって何年だろう。この看護師さんも、最初に会った頃は新人さんだったのが、もうすっかりベテランの域に入るみたいだ。

……つまり、それだけ長い間、鴎はまだ眠ったままってことなんだけど、な。

「あ、お引き止めして悪かったですね……きっと久島さんも喜んで祝ってくれますよ!病室へ行ってあげてください!」

「はい、ありがとうございます」

半分は励ますように、半分はそうあってほしいと願うように、看護師さんは明るく言って病室に向かう俺を見送る。

(……鴎、お前の分もあるんだからな?)

病室に向かう俺の、手にした箱の持ち手を握る手に、少し力が入る。

去年までは仕事とかでどうしても来れなかったから、これが初めての、鴎と一緒に過ごす誕生日。

例え鴎がこのまま目覚めなくても、これから毎年、ずっと、こうして二人で祝っていけたらなと、俺は思った。

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……もうっ!……どうしたらいいんだろう?」

私は扉の前で立ち尽くしていた。

あれから思いつく限りの言葉を扉にかけ続けたけど、うんともすんとも反応しない。

……こんな時、羽依里が居てくれたらなぁ。

「……やっぱり、羽依里が居ないと楽しくないよ……羽依里ぃ……」

 

『そうだね、一人は寂しいね』

 

「!?……だ、誰!?」

急に聞こえた、あの懐かしい声に周りを見渡すけど、誰の姿もない。

 

『鴎が望むものって、一人で手に入れて嬉しいものかい?』

 

「……え?」

なんで私の名前を知ってるんだろう、とか、そんな疑問も頭に過ぎったけど、それよりもその問い掛けが私の心に突き刺さった。

……冒険も、宝探しも、スーツケース片手にあっちこっちあるき回るのだって……羽依里が居ないと、多分寂しい。

ううん、とっても寂しい!

「……そっか、望むものって、形のあるものだけじゃないよね」

不思議と、今度は確実に扉が開くって自信があった。

でもちょっと勇気がいる……と言うより、口にするにはとても恥ずかしい事だから、一度深呼吸をしてから、私はしっかりと大きな声で言った。

「私が望むものは、羽依里と一緒にする冒険、羽依里と一緒にする宝探し、羽依里と……羽依里と一緒に……羽依里と一緒に居る事!」

言い終わった後、一瞬の静寂が流れて……

 

ごごごごっ!

 

凄い音を立てて、扉がゆっくりと開いた。

「やったぁ!……うわぁっ!?」

喜んだ私の背中を、誰かがそっと押すような感触がした。

そのまま押された勢いで、開いた扉の中に飛び込んでしまう。

体勢を直した後ですぐ振り向いたけど、そこには誰の姿も無かった。

代わりにまた、あの懐かしい声がどこからか聞こえる。

 

『鴎、お前はまだ来ちゃダメだよ。あと……お母さんによろしくね』

 

その言葉で私は確信した。

「待って、おとうさ……」

私が言おうとした言葉は、急に視界いっぱいに広がった眩い光に飲まれて、掻き消されてしまった。

 

 

 

 

 

 

「……」

俺は夢でも見ているんだろうか?

「……おはよう、羽依里……ううん、ただいま、かな?」

弱々しい声で、でもこれ以上無いくらい明るく元気な笑顔を見せて、昨日までは俺がどんなに見つめていても見返すことはなく眠っていた鴎が、目を開き俺を見て声をかけてくる。

「……っ……」

「……やだなぁ……泣かないでよ、羽依里ぃ……」

無茶言うな、何年待ったと思ってるんだよ。

それに、言ってるお前も泣いてるぞ……鴎?

「……かも、め……おかえり……」

俺は涙でぐしゃぐしゃになった顔を腕で乱暴に拭い、まだ泣きそうになりながらも笑顔を浮かべて鴎に言う。

鴎は、寝たきりだったせいで身体が動かないんだろう……涙で濡れた顔をそのまま拭わず、でも同じように笑顔を浮かべて、とても嬉しそうに答えた。

「ただいま……羽依里……」

そう言って二人で笑い合い、しばらく見つめ合う。

医者や看護師に言わないとなんだろうけど、今だけは、まだもう少しだけ、こうしていたい……そう思いつつ俺は、ずっと待ち望んだ、愛する人の「ただいま」を聞けたという、最高の誕生日プレゼントを噛み締めていた。

 

 

 

 




今年の羽依里誕生日SSです。
…また、何故か鴎がメインっぽくなってますが(苦笑)

去年は羽依里&うみちゃんの事を書きたかったので良かったのですが、
今年はネタがない…というか、羽依里単体の話だと書きにくいんですよね。
地の文は原作で一番出てくるので、心理の把握や描写は楽なんですけど、
他のキャラと関わらないと話しが広げにくいという、個人的にはそう感じる、致命的な欠点が。


…なら、毎年ヒロインと絡ませた話を、誕生日要素と合わせて書けばいいじゃない。
そんな自分の中の誰かの声に「その手があったか」と乗ったのが、今年のSS。
今回は、いうなれば鴎アフターで、パラレル的な要素込みですかね。
あと、個人的にあの人を出したかったんです、あの人を。
俺はサマーポケッツを、母と子の話でもあるし、父と子の話でもあると思っているので…

そんなわけで、これから毎年、ヒロインと絡ませたSSを、
羽依里の誕生日には掲載していく予定です。
…これで、とりあえずヒロイン一周するまで、9年はもつな(何)
うみちゃんと鴎は去年今年で終わったから、実際は後7年か。

…え?ヒロインの数と合わないって?
しろは・蒼・紬・のみき・静久・識・天善。
ルートが有るヒロインはあと7人でしょう?(最後)
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