詳しい事は前書きでは触れませんが、
読み終わった後に、再度タイトルを見てもらえばと思います。
「おかあさん、これなに?」
「あぁ、これはね……紫陽花って言うの」
「あじさい?」
「うん、そう。綺麗でしょ?」
「うん!」
「これはね、お父さんが私にプレゼントしてくれた花なんだよ」
「そうなんだ!でもあじさい、ほんにはさまれてくるしそうだよ」
「ふふふ、大丈夫。これは押し花って言って、お花を栞にしたものなんだよ?」
「へー、そうなんだ。すごいね!」
「うん、そうだね」
「ねぇ、おとうさんはなんでおかあさんにあじさいをぷれぜんとしたの?」
「え?……ふふっ……それはね?」
*
俺は、しろはに内緒で鳥白島にやってきていた。
今日はしろはの誕生日、それを直接お祝いする為に。
そしてそれと同時に、しろはに結婚を申し込む為に。
「でも、どうしよう……」
接岸したフェリーから降りながら、俺は空いた両腕を組んで悩んでいた。
「……花……とか、やっぱり要るよな」
結婚を申し込む際に一緒にプレゼントしたいと、本土の方で船に乗る前に花屋を巡ったのだけど、何故か行く先々の花屋でそれらしい花が売り切れていた。
誕生日のお祝いもあるので、出来れば綺麗な花の一つでも持っていきたいのだけど。
「……やっぱりあいつに相談してみるか」
考える前から、そうするしかないとは思っていたけれど、もう一度考えてみてもやっぱり良案が思いつかなかったので、俺は一縷の望みをかけてある場所へ向かった。
しばらくして、俺は駄菓子屋の店先に居た。
「なるほどね。……って言うかあんた、そういうのは前もって用意しておきなさいよ?」
「いや、枯れたりしおらせちゃったらダメかなって思って……花の手入れなんて解らないしさ」
俺の事をジト目で見つめる蒼の視線が痛い。
「まぁ、羽依里が花の取り扱い方とか詳しかったら、確かに気味悪いわね」
「そ、そこまで言うか!?」
「ふふふ。冗談よ、冗談」
そう言って一頻り笑った後、蒼が急に真顔になる。
「でも、この島には花屋なんて無いし、この駄菓子屋でもそういうなま物はさすがに常時取り扱ってはないわね」
「そうか……まぁ、そりゃそうだよな」
「そもそも、誕生日やプロポーズに花を送ろうなんて考える男の方が、この島では珍しいわ」
「え、でもそんな事は無いんじゃ」
「……良一や天善だったら、送ると思う?」
俺は、蒼に問われてしばし考えて、
「……釣り用具とか卓球のラケットとかだろうな」
「でしょ?さっすがシティボーイよねぇ」
俺の答えにしたり顔で頷く蒼。ただ、シティボーイとかはあんまり関係ない気がする。あいつらが特殊なだけだろう。
「となると……後は、自分で用意するしかないわね」
「自分で、って……この島にこの時期咲いてる、プレゼントに適した花なんてあったっけ?」
何度かこの島には来ているけど、そんな話は聞いた事が無い。
「あぁ。そんな大層なものじゃないけど、うってつけのはあるわよ?鳴瀬神社の境内の端に色取り取りの紫陽花が咲いてる所があるのよ。それなんか良いと思うわ」
「紫陽花…確かに綺麗で良さそうだな」
「でしょ?あれなら花束とかも作りやすいし…ほら、花束用の紙ならあるから持っていきなさい」
「……相変わらず、品揃えが変に豊富だよな、ここ」
「まぁ、この島の駄菓子屋だからね」
花束用と渡された紙を受け取ってそう言うと、何処か誇らしげな感じで両手を小さく広げ肩をすくめて蒼が言う。
「そうだな……ありがとう、蒼!」
「えぇ、上手くいく事を祈ってるわよ……って、焦って走ると転ぶわよ!気を付けなさいよー!」
しろはへのプレゼントの目処がついた事で、居ても立っても居られなくなった俺は、蒼の言葉を途中まで聞いた辺りで走り出していた。
*
「はぁ……はぁ……」
全力で走って鳴瀬神社の境内に着いた俺は、息を整えながら早歩き程度の速度で、蒼に教わった紫陽花の咲いている一角へ急ぐ。
少し奥の方へ入った辺りで、視界の端の方に、色鮮やかに紫陽花が咲き誇っているのが目に入った。
「こ、ここか……よし、えっと……どの色が良いだろう?」
赤、青、紫…緑や白色のなんてのもある。
「……やっぱり白、かな?」
俺は白い紫陽花の傍まで行ってそれを手に取る。
……別に『しろは』に送るから白を選んだって訳じゃない。さすがにそんな駄洒落た意味じゃなくて。
「うん……やっぱり綺麗だな」
白の紫陽花を紙で包んでまとめた手製の花束を見て、俺は自然と微笑む。
純白の花束って感じでプロポーズには丁度良いし、何よりしろはみたいに純粋で綺麗な感じで……うん、良いな。
「よし……行く、か」
自然と表情が引き締まる。
あの夏以来、毎度この島に来る度に、小鳩さんにも認められてるみたいで、最初の頃のような刺々しさもない。
しろはとの関係も年々良好になってきて、あとは俺が勇気を出すだけ……だ。
「……たかはらぁぁ!はいりぃぃぃ!」
いつかもやったような気がする、自分に気合を入れる為にあげた俺の叫び声が、静まり返った神社の境内に響き渡った。
*
「はーい……え、羽依里?……なんで此処に居る!?今年は来れないんじゃなかったの!?」
鳴瀬家の玄関戸を開けて顔を出したしろはの表情が、驚きに染まる。
「えっと……誕生日を直接祝いたくて、来たんだよ」
「そ、そう……そうなんだ……えへへ……ありがと、羽依里」
俺の説明を聞いたしろはの表情が、徐々に驚きから喜びに変わる……やっぱり可愛いな、しろはは。
「誕生日おめでとう……それと……しろは」
「う、うん、なに?」
急に真面目な表情をした俺につられてか、しろはも神妙な顔付きになる。
そんなしろはの目の前に、俺は後ろ手に持って隠していた白い紫陽花の花束を出して、此処に来るまでに何度も心の中で練習した言葉を口にする。
「……お、俺と、一緒になってくれないか、しろひゃ」
……噛んだ、最後に盛大に噛んだ。
沈黙が流れ、黙って見つめ合う俺としろは。
そのまま数秒ほど見つめ合った後、俺達は二人同時に吹き出していた。
「は、羽依里……緊張しすぎ……ふふふ」
「そ、そりゃ緊張するだろ!……ははは」
笑いつつ、少し涙を浮かべながら、その笑顔のままで俺の方をまっすぐ向いて見つめて、しろはが言った。
「……うん……いいよ」
そう言って、俺の差し出した花束を受け取るしろはの頬を、一筋の涙がこぼれ落ちていった。
*
「……って言う事があったの」
「うわぁー、ろまんちっくだぁ」
「うん、私みたいに綺麗だったからって、お父さん言ってくれたんだよ。それが嬉しくてね?あと、お父さんは知らなかったのかもしれないけど、白い紫陽花だったのがとっても嬉しかったんだよ」
「しろいのだと、なにかちがうの?」
「花言葉、って言うのがお花にはあってね?白い紫陽花はね……『ひたむきな愛情』」
「おぉー!おかあさんとおとうさん、らぶらぶです!」
「ふふふ、ありがとう。……でもね、紫陽花の花自体に、他に、とっても素敵な花言葉があってね」
「えー、なになに?」
「それはね……」
~おしまい~