Summer Pockets 小説集   作:京四郎

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つい出来心で書いてしまいました。
いや、この名前ネタは初プレイ時から想っていたんだけど、まさかこういう形になるとは自分でも想わなかった。





ヴェンダース・オリジナル

あの70年分の夏の次の年の夏。

わたしとハイリさんとシズクは今年も灯台で一緒に過ごしていました。

 

「ハイリさん、実は面白いものをみつけたんです」

シズクが買い物に出かけて、二人きりで過ごしていた時のことです。

わたしは少しドキドキしながら、あるお菓子の袋をハイリさんに見せました。

「えっと……なんか紬の名前に似てる名前のお菓子だな。これは、飴?」

「はい、とっても美味しいんですよ。ハイリさんもおひとつどうぞ」

そう言ってわたしは袋の中にはいっている飴をひとつ、ハイリさんに手渡します。

まるで夏の日差しのような……そして、わたしの髪の色のような、金色の包装紙を開けるハイリさんを見ていると、よりドキドキが大きくなります。

「うん。美味しいな、これ」

「そーなんです、甘くて美味しいんですよ!」

この飴をハイリさんにあげた意味を伏せているのが、少し心苦しく思ってしまいますが、美味しいと喜んで笑顔を浮かべてくれたハイリさんの顔を見ていると、まるで自分の事のように嬉しくなります。

「あら、二人だけで何をしてるのかしら?」

「むぎゅっ!?」

「あ、静久。この飴を紬がくれてさ」

突然のシズクの出現にびっくりしてしまいました。

当のシズクは、わたしが持っている飴のお菓子の袋をじっと見て何かを考え込んでいます。

「……そっかぁ、そういう事なのね。紬ったら、奥ゆかしいんだから」

「むぎゅーっ!?」

これはいけません、シズクにはばれてしまったようです。

大変です、シズクがとても良い笑顔をしてわたしを見ています。

これはわたしにとって、とんでもなく恥ずかしくなるようなからかわれ方をされる時の前触れです、きっとそうです、何回もこの笑顔を見てます。

「どういうことだ?静久」

よく解らないといった顔でハイリさんがシズクに聞いてしまいました。

「あのね、パイリ君。このお菓子のキャッチフレーズはね、『こんな素晴らしいキャンディーを貰えるのは、貴方が特別な存在だからです』なのよ……ね、紬?」

先程より良い笑顔を浮かべてシズクが答えます。

やっぱりシズクは知っていました。

そしてこういう時のシズクはやっぱりちょっと意地悪です……むぎゅぅぅぅ……

「え?あ、つまり……紬さん?」

ようやく意味がわかった……わかってしまったハイリさんは、わたしを見ながら顔を少しずつ真っ赤にしていきます。

わたしも、もうすでに、ハイリさんに負けないくらい、きっと真っ赤になってしまっています。

「それも、ねぇ?私が居ない時にこっそりパイリ君にだけなんて……仲が良いのは良い事だけど、寂しいわぁ。でも、それだけパイリ君の事が特別な存在だって」

「むぎゅぅぅぅぅー!」

わたしはいたたまれなくなってしまって、思わずお菓子の袋を落としながら、シズクの話の途中でその場から逃げ去ってしまいました。

 

 

 

「あっ、紬!?」

「あらあら……ふふふ」

「えっと……この反応って事は、紬も意味を知ってた、んだよな?」

「そういう事になるわねぇ」

「特別な存在、か……」

「まぁ。パイリ君も浸っちゃって……妬けちゃうわねぇ?」

「あ、いや……うん、そんなんじゃなくて」

「ふふふ。あぁ、そういえばそのお菓子……昔は別の名前だったらしいわよ。今通ってる大学のドイツの留学生が、あのお菓子が好きで、前に貰った事あるの。その時聞いたんだけどね……」

 

 

 

どれくらい走ったでしょうか。

灯台からはそこまで離れていないはずですが、なんだかとても気恥ずかしくて疲れてしまいました。

わたしは近くにあった少し大きな木の下で座って一休みする事にしました。

 

ちょっと冷静になって考えてみます。

すでにハイリさんとわたしは、特別な存在……なんですから、恥ずかしがる必要なんてないはずです。

ただ、少しだけ、ハイリさんに、特別な存在ですよって伝える事になるのかなって考えたら、恥ずかしくなってしまっただけです。

そもそも、それはシズクの言っていた通り、ただのキャッチコピーなので、深く考える必要もなかったのではないでしょうか?

味が美味しかったから、ハイリさんにもあげたいと思ったのもあります。

「……紬?」

きっとそれで押し通せば、シズクの意地悪にも胸を張って反論できたはずです。

……いいえ、シズクが意地悪だったのではなくて、わたしが考えすぎてしまったのが良くなかったんです。

シズクは悪くありません。

「……紬さーん?」

そうです、すでにハイリさんとわたしは、恋人なんですから、これくらいで恥ずかしがっていてはいけません。

堂々と、「そうです、特別な存在なんですよ!」と胸を張って言えば良かったんだと思います。

いえ、これからは胸を張ってそう言います。

「……つーむーぎー?」

「むぎゅっ!?」

自分を呼ぶ声に気付いて顔を上げると、そこにはハイリさんが心配そうな顔をして立っていました。

「ハ、ハイリさん!いつの間に!」

「いや、だいぶ前から居たんだけど。ずっと呼んでたし」

「そ、そですか。それはもうしわけないです……」

もう、今日は恥ずかしい事記念日です、今決めました。

「えっとな。はい、これ」

「むぎゅ?」

ハイリさんがわたしの手を取って何かを手渡しました。

これは……私がさっきハイリさんにあげた飴です。

「あ……これって……」

「そういう事だよ。俺にとっても紬は特別な存在だからさ」

ハイリさんはずるいです。

時々、すごい事をさらっと口にしてしまいます。

ものすごく真剣な目で、わたしを見つめながら。

「は、はい…ありがとございます、ですよ?」

きっとさっきより真っ赤になりながら、そして恥ずかしさに一瞬だけ目をそらしてしまいましたが、ちゃんとハイリさんの目を見つめ返して答えます。

恥ずかしいけど、すごく、すごく、うれしいです。

「それと、さっき静久から聞いたんだけど、この飴って昔は、オリジナルの部分が……え、えひと?……とか言う名前だったんだってさ」

「えひと、ですか?」

「うん」

首をかしげるわたしにハイリさんは微笑んで答えます。

「意味はドイツ語で、『本物の』……って感じらしい。だからさ、これをあげた紬は、俺にとって特別な存在で、『本物の』、紬・ヴェンダースなんだよ。改めてそれを伝えたくて、さ」

「あ……」

やっぱりハイリさんはずるいです。

わたしの事を知ってる上で、大好きな恋人にこんな事言われたら、もっともっと好きになっちゃうに決まってるじゃないですか……

「って訳で、今日からこのお菓子の名前は、俺達の間ではヴェンダース・オリジナルって事にしよう」

「な、なんですかそれ……わたしは飴じゃないですよぉー?」

思わず二人で顔を見合わせて笑ってしまいます。

「紬ー!パイリくーん!」

「あ、静久も来たな……行こうか?紬」

「はい!」

ハイリさんが差し出した手を掴んで立ち上がります。

そしてそのまま、手をつないだままで、ハイリさんとわたしは静久の方へ走っていきました。

 

 

 

 

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