相変わらず、今回も執筆時間が計3時間と少々と言う事で、書き上げた後に見直し・確認もしましたが、粗さの残る文章かもしれません。
それでも良ければ、是非読んでいただければ幸いです。
俺は今年も鳥白島に来ていた。
そして去年同様に鏡子さんの所でお世話になっている。
一年経っても蔵の整理が終わっていないから、その手伝いも兼ねてだ。
「あらあら」
「どうしたんですか、鏡子さん」
一緒に蔵の整理をしていた鏡子さんの声に、俺は顔を上げる。
「こんなものが出てきたの」
「これは浴衣ですか?」
「えぇ、でも大きさ的には大人が着るには小さいって感じの浴衣ね。柄も、華とお魚の可愛らしい物だし」
そんな浴衣がなんでここに……と考えていた俺の目の前に、一枚の紙切れが落ちる。
「これ、何か書いてあるな」
紙切れを拾って、書いてある文字を読んでみた。
「これって……」
その内容に思い当たる事があって、俺は鏡子さんに一つ頼み事をしてみた。
「鏡子さん、もし良かったらその浴衣、俺にもらえませんか?」
*
わたしは灯台の中で掃除をしながら、今日も二人を待ちます。
ハイリさんとシズク……去年の夏、一緒に遊んで、大好きになった大事な二人です。
今年もわたしと遊びに、この島へ来てくれています。
「~~♪」
去年で最後だと思っていた、たのしい夏。その夏をまたむかえられる事がうれしくて、わたしは自然と鼻歌を歌ってしまいます。
ただの掃除も、二人をむかえる為のお掃除だと考えると、自然と顔がにやけてしまったりもします。
「あら……ご機嫌ね、紬。」
「むぎゅっ!?シズク、いつの間に……」
おどろいて振り返ると、そこには笑顔でわたしの方を見ているシズクが立っていました。
「一応ノックして入り口から入ってきたんだけどなぁ。お掃除に夢中で気付かなかったのかしら?」
「す、すみません、気付きませんでした……ハイリさんとシズクが来る事を考えてて」
「それでにやけちゃってたのね……もう、嬉しい事言ってくれちゃって」
「むぎゅっ?」
そう言ってシズクはわたしをむぎゅっと抱きしめました。
すごくうれしいですけど、ぎゅっとされるのはやっぱりちょっと照れます……むぎゅぅ。
「シ、シズク……いきなりは、ちょっと照れます」
「えー?その照れてるのがいいんじゃない?ふふふ」
あ、この笑顔は意地悪なシズクの顔です。
時々シズクは意地悪になります。でも、シズクの意地悪はあんまり嫌じゃありません。わたしの事が大好きだからするんだと、解っていますから。
「そうね……シズクは本当は私よりもパイリ君にぎゅっとされたいわよねぇ?」
「むぎゅぅっ!?そ、そんな事はありま……」
にこにこ笑顔でシズクがわたしの顔を見つめています。
「……ハイリさんにも、シズクにも……ぎゅっとされるのは、好きですよ?」
「はい、素直で結構」
嘘はいけません。観念して正直に言うとクスクスと笑ってまた優しく抱きしめてくれます。
なんだかちょっと、負けた気分です……むぎぎぎぎ……
でも、シズクに抱きしめられるのは本当に好きです。ツムギちゃんにむぎゅっと抱きしめられていた時の事を思い出して、なんだか心まであたたかくなります。
「……ずるい、俺も紬をぎゅっとする」
「むぎゅ!?ハ、ハイリさん!?」
「あらあら、ヤキモチ妬かせちゃったわねぇ、ふふ」
いつの間にかハイリさんまで来ていました。二人ともまるで忍者か何かみたいです、気配を感じさせません。
「灯台の入り口が開いていたから、もう静久が来てると思ってたけど、こんな事になってるとは」
「ふふふ、今日の紬は私が一番乗りよ?」
「負けるものか、俺も!」
「むぎゅぅぅぅ!?」
シズクと逆方向から、今度はハイリさんまでわたしをむぎゅっとしてくれます。
こ、これはシズクとは別の意味で恥ずかしいです!後ろからハイリさんにぎゅっとされちゃってます!むぎゅぅぅぅ!
「あらあら、やっぱり紬はパイリ君の方がいいのねぇ。私の時より顔が真っ赤でタコさんみたいよ?妬けちゃうわぁ……」
そう言いながら、さっきよりも楽しそうな笑顔でシズクがわたしを離します。
そうなると後ろから抱きしめてくれているハイリさんの存在がものすごく感じられて……むぎゅぅぅぅぅ……
「パイリ君、そろそろ紬、限界みたいよ?」
「え?……あ、うん」
シズクに言われてハイリさんがそっと離れます。
よかったです……あのままではわたしは本当にシズクの言うようにタコさんみたいになって、ふにゃふにゃになってしまうところでした。
「それで、今日は何をしようかしら?」
「あ、それなんだけどさ。ちょっと俺の家の方へ来てくれないかな?」
「まぁ、俺の家って……御両親に挨拶と言うやつかしら」
「ち、違う!今年もお世話になってる鏡子さんのところだよ」
「あら残念。本当に挨拶に行くなら、私は仲人よねってはりきってたのに」
「おいおい……って、紬?」
「むぎゅっ!?……す、すみません、ぼーっとしてました」
い、いけません。うれしいのと恥ずかしいのとがいっぱいいっぺんに来て、ぼーっとしてしまっていました。
「えっと……今から鏡子さんのところに一緒に行きたいんだけど、良いかな?」
「はい、ダイジョブです!」
まだちょっと頬が熱くて、自分でも真っ赤になってると解ります。
でも内心の動揺をさとられるわけにはいきません。なので少し気持ちを落ち着けて、笑顔で答えます。
そんなわたしをハイリさんとシズクがじーっと見つめてきます。
「「やっぱり可愛い」」
「むぎゅぅぅぅぅぅ!?」
またしても二人で、同時にわたしを抱きしめてきました!
うれしくて、幸せですけど、とてもとても恥ずかしいです!
*
俺は、紬と静久と一緒に蔵の中へ来ていた。
勿論鏡子さんには許可を取ってある。
「これだ」
「これは……浴衣、ね」
「そですね。とっても可愛い柄です」
箱から取り出した浴衣をまじまじと見つめる二人。
「なぁ、紬。これ、着てみてくれないか?」
「むぎゅぅ?わたし、ですか?」
手にしていた浴衣を紬に差し出して聞く俺に小首をかしげて答える紬。
「そうね、この大きさなら、紬なら着れるんじゃないかしら?」
「……確かに、シズクは無理そうですね」
紬の視線が静久のある一点に注がれている気がしないでも無いが、そこは敢えて気付かなかったふりをする。
「鏡子さんには、着れるなら紬にあげても良いって言われてるんだ」
「そ、そうなんですか……じゃあ、お言葉に甘えて着てみますね」
「あぁ。頼むよ」
手にした浴衣を紬に手渡し、俺は一旦蔵から出る。
中からは紬と静久の話し声が聞こえてくる。
俺の予想が合ってるなら、あの浴衣は多分……
「パイリ君ー!入っていいわよー!」
蔵の中から静久の声が聞こえて、俺は先程閉めた蔵の戸をもう一度開ける。
「……紬」
「ど、どうでしょうか……ハイリさん」
そこには、浴衣を着た紬が立っていた。まるで誂えたかのように良く似合ってる姿。そしてそんな紬の後ろから、明かり取り用の窓から光が差し込んで、まるで後光のように金色の髪をきらきらと輝かせて。
「女神みたいだ」
「!……む、むぎゅぅぅ……」
思わず口から出た言葉。それを聞いて頬を赤らめて目を泳がせる紬。そんな紬を見て俺も何だか恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。
「あら、目を逸らしちゃダメよ?恋人さんが可愛い彼女の綺麗な姿を見ないで、どうするのかしら?」
「あ、あぁ。そうだな、うん」
そんな俺達の様子が面白かったのか、からかいながら静久がクスクスと笑ってる。
……あぁ、でも、そうか。やっぱりこれは……
「……なぁ、静久。もうすぐ何処かで祭りがなかったっけ?」
「んー……そういえば、七夕のお祭りが街の方であったような気がするわ」
「お祭り!楽しそうですね!」
「よし、それだ」
「え?」
「紬、その浴衣を着てお祭りに行こう」
「え、あ……いいんですか?」
「あぁ。勿論静久も一緒にな?」
「えぇ、そういう御誘いなら大歓迎よ?」
「三人でお祭り……いいですね!行きましょう、ハイリさん!シズク!」
「決まりだな。楽しい七夕にしようぜ」
そう言って、三人で顔を見合わせて笑顔で頷いた。
*
七夕当日、わたしはハイリさんにもらった浴衣を着て、三人でお祭りに出かけました。
お祭りは屋台がいっぱいあったり、人も多くて賑やかで、途中はぐれそうになってしまって、でもハイリさんとシズクが片方ずつ手を握ってくれて……無事に三人一緒に回れました。
金魚をすくおうとして、何故かザリガニをすくい上げてしまったハイリさんがとても面白かったです。
射的をするのに銃をおっぱいの上に乗せて抱えて撃っていたシズクが、百発百中で景品を落とすのを見ていると、良い事のはずなのに何だかモヤモヤしました。
わたしは色とりどりのワタアメがあるのに夢中で、ちょっと一人では食べきれないくらい買ってしまって、結局三人で分け合って一緒に食べました。
「……面白かったなぁ」
「えぇ、とっても」
「ですね」
一通り見て回ったわたし達は、お祭りの会場となっている神社の境内で座って夜空を眺めていました。
「そろそろかしらね」
「……あ。ハイリさん!シズク!あれ!」
小さな光が地上から夜空に向かって上がっていきます。そして……花火が、夜空に、とてもきれいな華を咲かせました。
「すごいです!カンドーです!」
「あぁ、すごいな!」
「ふふ、まだまだこれからよ?」
夜空にどんどん花火が上がっていきます。赤、青、緑、黄色……様々な色がまたたいています。
「紬、あのさ」
「むぎゅ?」
三人で花火を見ていると、急に、ハイリさんがわたしの方へ向き直って、ちょっと真剣な顔をして話しかけてきました。
「その浴衣さ、すごく丁寧に蔵にしまってあったんだ。このメモと一緒に」
そう言ってハイリさんは、わたしに一枚の紙を手渡しました。
そこにはこう書いてありました。
『あなたはあなた。あなたの幸せを願ってこれを。いつか、これを着て、楽しい夏を過ごしなさいね』
「多分、ばあちゃんが紬の為に用意してたんだと思う。サイズもぴったりだし、柄も、紬によく似合う可愛いやつだしさ」
「カトーさんが……」
たぶん、ハイリさんの言っている事は間違いないと思います。
この紙と書かれていた文章からは、あの日に感じた懐かしい気持ちと、暖かさを感じましたから。
「だからさ、その浴衣は、元々紬の物なんだよ……って、俺は思ってる」
「そ、ですか……すごく、うれしい、です、ね」
気付いたら、わたしは、泣いていました。
悲しくはありません、実際今ものすごく笑顔です。
でも、カトーさんの気持ちと、ハイリさんの気持ちがものすごくうれしくて……どんどん涙があふれてきます。
「……紬、よかったわね」
「はい……」
いつの間にかすぐ横に座っていたシズクが、わたしを横から抱きしめて、頭を撫でてくれました。
ハイリさんも横に座って、ずっとわたしの手を握ってそばに居て笑ってくれていました。
「……そうだ。これ、配ってたからもらってきたのよ。七夕なんだし、せっかくだから皆で願い事を書いて一緒に吊るしましょう?」
たくさん泣いてしまって、ようやく落ちついたわたしと、ハイリさんに、シズクが短冊をくれました。
「はい、ペンも……もらえたのはこれ一枚だけだから、慎重に書いてね?」
「そういえば、去年も灯台で竹持ってきて七夕したよな」
「そうだったわね。竹でやる七夕も面白かったわよね」
「あぁ、そうだっ……」
「出来ました!」
願い事を書くのなら、今のわたしには一つしかありません。
すらすらと書けてしまいました。
「え?」
「早いわね、なんて書いたのかしら?」
「これです!」
わたしが二人に見せた短冊に書かれていたのは……
「『毎年楽しい夏を三人で過ごしたい』ね……あら……ふふふ、うん、いいんじゃないかしら、紬」
「そ、それは良いんだけどさ。その下のそれ」
「そこはあんまり見ちゃダメです!……む、むぎゅぅ……」
照れながらも笑顔で自信満々に書いた短冊を見せるわたしと、それを見て同じように照れ笑いを浮かべるハイリさんと、短冊とわたし達の様子を見て笑っているシズク。
そこには夜空の花火に負けない笑顔の花が、いっぱいに咲いていました。
『毎年楽しい夏を三人で過ごしたい 鷹原 紬』