Summer Pockets 小説集   作:京四郎

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ホワイトデーに感化されての紬SSを書いてみました。


最高のプレゼント

 

それは、俺の元に掛かってきた一本の電話から始まった。

『パイリ君、久しぶり』

『うん。静久の方は元気だったか?』

『えぇ。』

春間近と言っても、まだ肌寒い日が続いている。

けれど久々に静久の声を聞いた俺は、あの暑くて熱かった夏の日々を思い返していた。

『パイリ君……突然で悪いんだけど、今度の水曜日は空けられないかしら?』

『水曜日?……あっ……』

壁にかかっているカレンダーを見て確認すると、その日は3月の14日。

『ホワイトデーか。』

『そうよ~……紬に、バレンタインチョコ貰ったんでしょう?』

『うん、お返しに行かないとだな』

学校は休みじゃないけど、元々あんな感じで夏前くらいから休んでた訳だし、今更少しくらい休んでも変わらないよな。

って言うか、学生の本分と、紬を天秤にかけたら……そりゃ、紬だよな、うん。

そんな事を考えながら、俺は静久と共に、ホワイトデーの日の打ち合わせをし始めた。

 

 

3月14日、俺は鳥白島の港に居た。

どうしてもまた鳥白島に行かなければならないと家族を説得して、13日から15日まで学校を休む許可を取り、何とか今ここにいる。

以前だったら、家族……特に父親に、自分からそんな風に話をするなんて事は無かっただろうし、そんな気力も湧かなかったと思う。

とにかく紬にホワイトデーのお返しをしたいから……いや、もっと言えば紬に会いたいから。

ただその為だけに、これだけのやる気を出せるという事に、自分でも驚いていたりする。

(夏にここに着いたばかりの俺が知ったら、びっくりするだろうなぁ)

「あ、パイリ君」

自分のちょっとした成長?に少し感動していると、俺の後ろから聞きなれた声がした。

「静久」

「いらっしゃい、パイリ君」

「いらっしゃいって……静久も島に着いたばっかりなんだろ?」

「ふふふ、まぁね」

二人で微笑みながら、他愛も無い会話をする……たったそれだけの事で、とても楽しくなってくる。

でも、ここに……

「さぁ、行きましょう?二人で話をするのも楽しいけど、早く行かないと紬がむぎぎぎぎぎぎぎーって嫉妬しちゃうわ」

「はは、そうだな。……って、紬は俺達が来る事を知ってるんだ?」

「うん。天善君に頼んで、灯台まで手紙を届けてもらって知らせてあるわ」

「そっか……急に行って驚かせたりもしたかったけどな」

「こら、今日の主役に意地悪しちゃ駄目でしょ?」

「あー、それもそうか」

そんな風に話をしながら俺達は、見知った道を歩いて懐かしの灯台に向かった。

 

 

「さ、さすがに寒いわね……」

「だな……」

灯台は夏に来ていた頃と変わりない様子でそこにあった。

ただ、夏に比べて寒いのと、海の様子とかはやっぱり夏の頃とは違っていた。

……でも、間違いなく、あの変わり者の、灯台の女神が住んでいる、灯台だ。

俺の大好きな、恋人の住んでいる、灯台だ。

「パイリ君、入りましょう?さすがにこのまま外に居ると凍えてしまうわ」

「あ、あぁ……そうだな」

俺はコンコンと灯台の入り口のドアをノックしてから、ゆっくりとドアノブを回す。

静久が事前に俺達が来る事を連絡していたおかげか、鍵は掛かっていないようで、少しキィという音を立てて、灯台入り口のドアは開いた。

「……暖かいな」

「暖かいわね」

灯台の中は、不思議なほど暖かかった。外の寒さや風が入ってこないというだけじゃなくて、本当に、暖房でも入っているんじゃないかってほどに、暖かかった。

「紬ー、入るぞー?」

声を掛けてから、俺達は灯台の中に入っていく。少し木枠の端が欠けた窓。頑丈だけどところどころ小さなヒビが入っている階段。そうした灯台の中の見慣れた様子を眺めながらゆっくりと上の階へ上がっていくと、そこには昼間から猫の着ぐるみを着込んでいる紬が居た。

「……すぅー……」

そして、その猫は丸まって部屋の片隅で寝ていた。その表情は穏やかであどけなくて、見ているだけで自然と微笑みが浮んでしまうような、とても愛嬌のある姿だった。

「いや、猫は丸くなるって言うけど、あれって灯台の中でだっけ?」

「コタツだけど……さすがに紬でも入って丸まるのはちょっと無理よねぇ」

そんな事を言って、二人で顔を見合わせて笑う。

でも、とても可愛い紬の寝姿だけれども、寝たままだとどうしようもないので、起こす事にする。

「紬、紬……気持ちよく寝てるところ悪いけど、起きてもらっても良いか?」

なるべく優しく声を掛けながら、紬の両肩を掴んでゆっくりと揺らして起こす。

最初はむにゃむにゃ言っていた紬だったけど、少しずつ目が覚めてきたのか、寝ぼけた感じながら眼を開けて俺の方を見る。

「ハイリ……さん?むぎゅぅ~……ハイリさぁん」

まだ寝ぼけている様子の紬が、ふにゃふにゃ身体を動かしながら物凄く甘えた声を出してくる。格好といい、まさに猫なで声って感じだな……

「……はぷっ」

「!?」

「あら、まぁ!」

小さな吸い付く音、驚愕する俺、にやけながら驚きの声を挙げる静久。

……あの、紬さん……寝ぼけてるからって、大胆すぎじゃあないですかね……?

「えへへ……ハイリさんですぅ……はぷっ……ちゅっ……」

「うん、俺だけど……あの、紬さん……そろそろ、ちゃんと目を覚ましてくれない……かな?」

「あー……えっと、私、外で待っていようかしら?」

「いや、居てくれ!と言うか紬を起こすのを手伝ってくれよ!このままだと俺も歯止めきかなくなりそうで」

「は、歯止めきかなくなっちゃうんだ……」

「あ、いや……変な意味ではなくて、だな?」

我ながら、混乱しているとはいえよく解らないことを口走ったり、静久がおろおろしたりしていると、徐々に紬の目がぱっちりと開いてくる。

「……ハイリさん?……シズク……?」

俺と静久の方を何度も交互に見て、そして自分の状態も見て、今の自分の状況を把握していった紬は……

「む、むぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」

久々に、動揺した時に挙げる大音量のむぎゅぅの叫び声を、俺達に聞かせてくれた。

 

 

 

「……むぎゅぅ……」

「あー……」

「えっ……と……」

少しして……冷静になった俺達は、灯台の床の上に三すくみのような位置で座っていた。

紬は真っ赤になって顔を伏せがちにしながら、俺の方をちらちら見ている。

俺はその視線を受けて、紬同様に顔が赤くなって自然と俯きがちになってしまう。

静久はそんな俺達を交互に見ながら、少し苦笑いを浮かべている。

……なんだこの状況は。

「あ、ね、ねぇ紬?あのストーブは夏には無かったわよね?」

「むぎゅっ!?……あ……は、はい。あれは、アオさんが冬は寒いだろうからって、駄菓子屋さんの倉庫にあって使わなかったやつをもらって、持ってきてくれたんです。」

前から思ってたけど、あの駄菓子屋何でも有るな。

そんな風に思いながら、話に出たストーブの方を見る。典型的な灯油ストーブで、中で炎が燃えているのが見える。

「そうなんだ。でも、部屋の中で使って換気は大丈夫なの?」

「はい。換気はしっかりするようにとアオさんにも言われましたので、灯台のベランダに繋がる入り口や、窓を少しだけ開けて、しっかり換気していますよ」

見れば確かに窓が少し開いているし、上の方を見れば、外に出るところも開いている。

「なるほどね。……これじゃあ、紬が眠たくなっちゃうのも無理は無いわね」

そう、静久の言うように部屋の中はとっても暖かくて、とても眠気を誘う。

「はい、お二人が来るとの事だったので、部屋が寒いといけないと思い、暖めていたのですが……その、気持ちよくて、つい……」

「寝てしまった、と」

「はい、すみません……」

しょんぼりとうなだれる紬。それに合わせて、着ている猫のパジャマの耳も、ぺたんと少し倒れているのが可愛らしい。

「いや、良いんだよ。むしろありがとうな、紬」

「そうよ、あんな可愛い紬が見れたんですもの」

「むぎゅっ!?わ、忘れてください!?」

「そうだぞ、静久。あの紬を見て良いのは、二人きりになった時の俺だけなんだからな」

「むぎゅっ!?ハイリさんまでなんて事を言うんですかぁ!」

「あらあら、妬けちゃうわねぇ……ふふふ」

ばたばたと慌てふためく紬、からかう俺に、それを見てにやにやとしている静久……うん、これが俺達らしい姿だよな。

「……あ、紬、これを」

「な、何でしょうか?」

いきなり声を掛けられてびくっとしながら、紬は俺が懐から取り出した物を受け取る。

「これは……レターセット、ですか?こっちの紙は……住所でしょうか?」

「うん。静久に聞いたら、天善がここに手紙を届けてくれたって聞いてさ。手紙が届けられるなら……ぶ、文通とか、どうかなって」

「お、おぉ……これは、すごいです!これならハイリさんといつでもお話できますね!」

「そうねぇ。普段からお話とか出来れば、さっきみたいな爆発しちゃったりしないわよねぇ?」

「わ、わすれてください!あれはイッショーの不覚というやつです!」

わたわたと慌てふためきながら、紬はプレゼントしたレターセットと俺の家の住所をぎゅっと抱きしめる。さながら子供が大事なぬいぐるみを抱きしめるかのように。

「ありがとうございます、嬉しいです……でも……」

「ん?」

「どうしたの?」

何かを言いかけた紬に、俺と静久は首をかしげる。そんな俺達に向かって紬は顔を上げて……

「お二人がここに来てくれた事が、会えた事が……一番嬉しいですし、一番のプレゼントですよ」

そう言って満面の笑みを浮かべた。

 

 

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