Summer Pockets 小説集   作:京四郎

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なかなか見かけない、久島鴎と空門藍のSSです。
見かけないなら自分で書いてみよう…と思い書いて見ました。

背景的には、蒼を救い藍が目覚めた後、蒼がまだ眠っている辺りと、ざっくり考えていただければ。
細かいところは荒があるかもしれないので、もし見つけても突っ込まないでもらえたらありがたく…


『檻の蝶は迷い鳥と大空を舞う夢を見る』

 

「……貴女は誰ですか?」

「あ、私?私は久島鴎。あなたは?」

「……空門藍です。」

開いた窓を挟んで、訝しげに私をじっと見つめながら、目の前の女の子が言う。

それに対して私は、何だかばつが悪くて、誤魔化すように笑いながら答えた。

私達の出会いは、そんな感じだった。

 

 

 

 

コンコン。

 

「どうぞ。」

返事を聞いてから、ドアノブを握ってゆっくりと回しながら、部屋の戸を開ける。

開かれた部屋の中には、もう何度も見慣れた光景があった。

「こんにちは!アイアイ。」

「……その呼び方は、お猿さんみたいでどうも慣れないと前に言いましたけど。」

「えへへ……ごめんごめん。でも可愛くないかなぁ?」

文句を言いながらも、アイアイが寝ているベッドの横にあった椅子に、一瞬だけちらっと目線を移して、座るように促してくれる。

アイアイって、ぶっきらぼうだけど優しいんだよね、うん。

「あんまり可愛いとは思いませんが、久島さんがどうしても呼びたいと言うのなら、まぁ……」

「やっぱり、アイアイは優しいねぇ。」

「……おだてても、何も出ませんよ?」

そう言って、ぷいっと反対側の窓の方を向いてしまう。

「もしかして……照れてたり?」

「……」

これは……図星かな?

怒ってる感じじゃぁないとは思うんだけど……

「……で、今日はどんな話を聞かせてくれるんですか?」

少し沈黙が流れた後、アイアイが向き直ってくれた。

ちょっと笑ってる。うん、怒ってはなさそうだね。

「うん、今日はね……」

私は今日も、私が今までしてきた冒険の話を、アイアイに語りだした。

 

 

 

 

あの日……私は道に迷って、彷徨っていた。

日差しが凄く暑くて、あんまり暑いものだから、日陰を探してた。

そんなこんなでうろうろしてたら、ちょっと他の家とかよりは大きめな、診療所っぽい建物があって、そこの壁際がちょうど良い日陰になってて、私はそこにもたれかかる様にして、休憩する事にした。

「うーん。さすがにスーツケースじゃ頭に乗っけて日傘代わりに……なんて、できないよねぇ。困ったなぁ。」

一緒に壁際に避難してきた、愛用のスーツケースを撫でながら、独り言が出てしまう。

……スーツケースを開いて、中に骨組みを挿して、スーツケース型の日傘……なんてのも、結構面白いかもしれないけど!

あ、でもさすがに重過ぎるかな……うーん。

 

コツ……コツ……コツコツ……

 

そんな事を考えていると、近くから何かを叩くような物音が聞こえてきた。

周りを見渡すと、壁にあった大き目の窓が、音に合わせて小さく揺れているのが解った。

音の元はあそこかな?

「何の音だろう……気になる!」

気になったら、確かめない訳にはいかないよね!

私は身体を起こして窓に近付いてみる。

「うわぁ!?」

窓を覗き込んだ私は、思わず声を上げてしまった。

だってそこには、窓を挟んでものすごく近い距離に、人の顔があったから。

 

カラカラカラ……

 

見た目とは裏腹に、意外と軽い音を立てて、窓が開いた。

「こんにちは。」

そして、窓の反対側から、とても落ち着いた声と一緒に、女の子が顔を出した。

 

 

 

 

「……って事があったんだよ。」

「ふふっ……そうだったんですね。」

私が話し終えると、アイアイは少しだけ笑った。

あ、これは結構楽しんでくれてる時の反応だね。

あの暑い夏の日に出会ってから、お互いに自己紹介して、話をして……仲良くなって、今はこうしてアイアイの話し相手に来てる。

アイアイは、長い間寝たきりだったらしくて、今は良くなったみたいだけど、まだ起き上がって外に出るとかまでは出来ないって事だった。

だから、私がする話の内容はとっても新鮮みたいで、いつも喜んで聞いてくれる。

こうして話を聞いて喜んでくれる人が居ると、私も冒険するのがより楽しくなってくる。

いつしか、こうしてアイアイに話をしにくるのが、私にとっても楽しい事になってきていた。

「ありがとうございます。今日の話も面白かったですよ。」

「うん!それなら良かったよ!」

そう言って二人で笑い合う。

アイアイに面白いと言ってもらうのは、私にとっても嬉しい事だからね。

「……久島さん、少し聞いてもいいですか?」

「ん?うん、良いけど……何だろう?」

急にアイアイが、私の目をじっと見つめて真剣な表情になった。思わず私もちょっと緊張してしまう。

「冒険は、楽しいですか?」

「うん!とっても!」

「冒険は、誰でも出来るものですか?」

「うん!私でも出来るんだもん!」

「じゃあ……いつか私と一緒に……冒険、してくれますか?」

「うん!」

最後の質問をする時だけ、アイアイが少し目を逸らしたのが気になったけど、私は即答した。

アイアイはもう大事な友達だし、一緒に冒険できるなら、したいよね!

「ふふふっ……ありがとうございます、久島さん」

「うん。あ、でも一緒に冒険するんだったら、それじゃダメだよ?」

「えっ?」

アイアイが少し驚いたような、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をする。

「一緒に冒険するなら、久島さんじゃなくて、鴎って名前で呼んで欲しいな?」

「……そう、ですか……」

今度は何だか安心したような顔で笑顔を浮かべてる。

最初の頃に比べると、アイアイの表情のレパートリーが増えて、何だか嬉しいな。

「じゃあ、いつかよろしくお願いしますね…鴎。」

「うん!……あ、でもなんで急に冒険したいって思ったの?」

「それは……ただ、唐突に冒険したいと思っただけですよ。」

何だかちょっと拗ねた感じで、また顔を背けてしまう。

あれ?アイアイどうしたんだろう?

「そうなんだ。」

「そう、ですよ?」

ちらっとこっちを向いて答えたアイアイの顔は、ちょっとだけ赤くなってた。

 

 

 

 

その後も、他愛の無い話をしたりして二人で過ごしてたら、あっという間に外は夕暮れ時になってた。

「じゃあ、また来るね」

「はい……あ、くし……かも、め?」

「なに?」

椅子から立ち上がった私に、アイアイが呼びなれない感じで、声を掛けてきた。

「帰る前に、私の方へもう少し、寄ってもらえませんか?」

「うん、いいよ。」

「あ……出来たら少しかがんでもらえると良いですね。」

「ん?こう?」

アイアイが寝ているベッドの横に立って、少し身を屈めると、突然目の前が淡いうす紫に染まった。

「え、あ……アイアイ?」

「……絶対、一緒に冒険しましょうね?」

声を掛けられてからようやく、アイアイが私に抱き着いてきていると言う事に気付いた。

なんでなのか解らないけど、少し震えてるみたいだった。身体も強張ってるみたい。

「あっ……」

「うん、一緒に冒険しようね……アイアイ。」

だから私も抱き返して、ゆっくり背中をさすってあげた。

なんだか怖がってるようにも見えたから。

ちょっとの間、そうしてから離れると、アイアイがぼーっとした様な、熱に浮かされたような顔で私を見ていた。

「……鴎は、ずるいです」

「なんで!?」

しばらくしてからアイアイが呟いた言葉に、私は反射的に答えていた。

 

 

 

 

「……帰ってしまいました、ね。」

私の独り言が、寂しくなった部屋の中に響く。

久島鴎さん。最初に出会った時は、奇妙な闖入者だったはず。

でも友達になって、何度もお見舞いに来てくれて、話を聞いて、一緒の時間を過ごして……だんだんと。

勿論、蒼ちゃんには及びません。敵いません。

でも、蒼ちゃんへのとはまた違ったドキドキが、鴎と話している時に感じられる様になって。

「……一緒にしたいのは、冒険だけじゃないんですよ?」

またしても出てきた独り言が、宙を舞う。

目覚めてからは、この部屋が私の世界の殆どとなってしまいました。

蒼ちゃんや、島の少年団の皆や……蒼ちゃんを奪ってしまった、でも蒼ちゃんや私を助けてくれた、にっくき鷹原さんや。

そういう皆とはまた違った存在。

冒険好きの女の子で、引っ張っていってくれそうな……引っ張って新しい世界へ連れ出して欲しいと、思った存在。

「想いは、上手く伝わらないものですね……」

今度は独り言と一緒に、溜息まで出てしまいました。

 

こんな想いを抱いていると知られたら、気持ち悪がられたり、引かれて去ってしまうでしょうか?

様々な不安も有りながら、それでも鴎なら、笑って「うん、いいよ!」と言って手を引いて連れ出してくれる……そんな気がするのです。

だから私はこれからも、この世界に迷い込んできた、元気で明るくて可愛い迷い鳥さんが来てくれるのを、外の世界を眺めながら待っています。

 

 

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