見かけないなら自分で書いてみよう…と思い書いて見ました。
背景的には、蒼を救い藍が目覚めた後、蒼がまだ眠っている辺りと、ざっくり考えていただければ。
細かいところは荒があるかもしれないので、もし見つけても突っ込まないでもらえたらありがたく…
「……貴女は誰ですか?」
「あ、私?私は久島鴎。あなたは?」
「……空門藍です。」
開いた窓を挟んで、訝しげに私をじっと見つめながら、目の前の女の子が言う。
それに対して私は、何だかばつが悪くて、誤魔化すように笑いながら答えた。
私達の出会いは、そんな感じだった。
*
コンコン。
「どうぞ。」
返事を聞いてから、ドアノブを握ってゆっくりと回しながら、部屋の戸を開ける。
開かれた部屋の中には、もう何度も見慣れた光景があった。
「こんにちは!アイアイ。」
「……その呼び方は、お猿さんみたいでどうも慣れないと前に言いましたけど。」
「えへへ……ごめんごめん。でも可愛くないかなぁ?」
文句を言いながらも、アイアイが寝ているベッドの横にあった椅子に、一瞬だけちらっと目線を移して、座るように促してくれる。
アイアイって、ぶっきらぼうだけど優しいんだよね、うん。
「あんまり可愛いとは思いませんが、久島さんがどうしても呼びたいと言うのなら、まぁ……」
「やっぱり、アイアイは優しいねぇ。」
「……おだてても、何も出ませんよ?」
そう言って、ぷいっと反対側の窓の方を向いてしまう。
「もしかして……照れてたり?」
「……」
これは……図星かな?
怒ってる感じじゃぁないとは思うんだけど……
「……で、今日はどんな話を聞かせてくれるんですか?」
少し沈黙が流れた後、アイアイが向き直ってくれた。
ちょっと笑ってる。うん、怒ってはなさそうだね。
「うん、今日はね……」
私は今日も、私が今までしてきた冒険の話を、アイアイに語りだした。
*
あの日……私は道に迷って、彷徨っていた。
日差しが凄く暑くて、あんまり暑いものだから、日陰を探してた。
そんなこんなでうろうろしてたら、ちょっと他の家とかよりは大きめな、診療所っぽい建物があって、そこの壁際がちょうど良い日陰になってて、私はそこにもたれかかる様にして、休憩する事にした。
「うーん。さすがにスーツケースじゃ頭に乗っけて日傘代わりに……なんて、できないよねぇ。困ったなぁ。」
一緒に壁際に避難してきた、愛用のスーツケースを撫でながら、独り言が出てしまう。
……スーツケースを開いて、中に骨組みを挿して、スーツケース型の日傘……なんてのも、結構面白いかもしれないけど!
あ、でもさすがに重過ぎるかな……うーん。
コツ……コツ……コツコツ……
そんな事を考えていると、近くから何かを叩くような物音が聞こえてきた。
周りを見渡すと、壁にあった大き目の窓が、音に合わせて小さく揺れているのが解った。
音の元はあそこかな?
「何の音だろう……気になる!」
気になったら、確かめない訳にはいかないよね!
私は身体を起こして窓に近付いてみる。
「うわぁ!?」
窓を覗き込んだ私は、思わず声を上げてしまった。
だってそこには、窓を挟んでものすごく近い距離に、人の顔があったから。
カラカラカラ……
見た目とは裏腹に、意外と軽い音を立てて、窓が開いた。
「こんにちは。」
そして、窓の反対側から、とても落ち着いた声と一緒に、女の子が顔を出した。
*
「……って事があったんだよ。」
「ふふっ……そうだったんですね。」
私が話し終えると、アイアイは少しだけ笑った。
あ、これは結構楽しんでくれてる時の反応だね。
あの暑い夏の日に出会ってから、お互いに自己紹介して、話をして……仲良くなって、今はこうしてアイアイの話し相手に来てる。
アイアイは、長い間寝たきりだったらしくて、今は良くなったみたいだけど、まだ起き上がって外に出るとかまでは出来ないって事だった。
だから、私がする話の内容はとっても新鮮みたいで、いつも喜んで聞いてくれる。
こうして話を聞いて喜んでくれる人が居ると、私も冒険するのがより楽しくなってくる。
いつしか、こうしてアイアイに話をしにくるのが、私にとっても楽しい事になってきていた。
「ありがとうございます。今日の話も面白かったですよ。」
「うん!それなら良かったよ!」
そう言って二人で笑い合う。
アイアイに面白いと言ってもらうのは、私にとっても嬉しい事だからね。
「……久島さん、少し聞いてもいいですか?」
「ん?うん、良いけど……何だろう?」
急にアイアイが、私の目をじっと見つめて真剣な表情になった。思わず私もちょっと緊張してしまう。
「冒険は、楽しいですか?」
「うん!とっても!」
「冒険は、誰でも出来るものですか?」
「うん!私でも出来るんだもん!」
「じゃあ……いつか私と一緒に……冒険、してくれますか?」
「うん!」
最後の質問をする時だけ、アイアイが少し目を逸らしたのが気になったけど、私は即答した。
アイアイはもう大事な友達だし、一緒に冒険できるなら、したいよね!
「ふふふっ……ありがとうございます、久島さん」
「うん。あ、でも一緒に冒険するんだったら、それじゃダメだよ?」
「えっ?」
アイアイが少し驚いたような、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をする。
「一緒に冒険するなら、久島さんじゃなくて、鴎って名前で呼んで欲しいな?」
「……そう、ですか……」
今度は何だか安心したような顔で笑顔を浮かべてる。
最初の頃に比べると、アイアイの表情のレパートリーが増えて、何だか嬉しいな。
「じゃあ、いつかよろしくお願いしますね…鴎。」
「うん!……あ、でもなんで急に冒険したいって思ったの?」
「それは……ただ、唐突に冒険したいと思っただけですよ。」
何だかちょっと拗ねた感じで、また顔を背けてしまう。
あれ?アイアイどうしたんだろう?
「そうなんだ。」
「そう、ですよ?」
ちらっとこっちを向いて答えたアイアイの顔は、ちょっとだけ赤くなってた。
*
その後も、他愛の無い話をしたりして二人で過ごしてたら、あっという間に外は夕暮れ時になってた。
「じゃあ、また来るね」
「はい……あ、くし……かも、め?」
「なに?」
椅子から立ち上がった私に、アイアイが呼びなれない感じで、声を掛けてきた。
「帰る前に、私の方へもう少し、寄ってもらえませんか?」
「うん、いいよ。」
「あ……出来たら少しかがんでもらえると良いですね。」
「ん?こう?」
アイアイが寝ているベッドの横に立って、少し身を屈めると、突然目の前が淡いうす紫に染まった。
「え、あ……アイアイ?」
「……絶対、一緒に冒険しましょうね?」
声を掛けられてからようやく、アイアイが私に抱き着いてきていると言う事に気付いた。
なんでなのか解らないけど、少し震えてるみたいだった。身体も強張ってるみたい。
「あっ……」
「うん、一緒に冒険しようね……アイアイ。」
だから私も抱き返して、ゆっくり背中をさすってあげた。
なんだか怖がってるようにも見えたから。
ちょっとの間、そうしてから離れると、アイアイがぼーっとした様な、熱に浮かされたような顔で私を見ていた。
「……鴎は、ずるいです」
「なんで!?」
しばらくしてからアイアイが呟いた言葉に、私は反射的に答えていた。
*
「……帰ってしまいました、ね。」
私の独り言が、寂しくなった部屋の中に響く。
久島鴎さん。最初に出会った時は、奇妙な闖入者だったはず。
でも友達になって、何度もお見舞いに来てくれて、話を聞いて、一緒の時間を過ごして……だんだんと。
勿論、蒼ちゃんには及びません。敵いません。
でも、蒼ちゃんへのとはまた違ったドキドキが、鴎と話している時に感じられる様になって。
「……一緒にしたいのは、冒険だけじゃないんですよ?」
またしても出てきた独り言が、宙を舞う。
目覚めてからは、この部屋が私の世界の殆どとなってしまいました。
蒼ちゃんや、島の少年団の皆や……蒼ちゃんを奪ってしまった、でも蒼ちゃんや私を助けてくれた、にっくき鷹原さんや。
そういう皆とはまた違った存在。
冒険好きの女の子で、引っ張っていってくれそうな……引っ張って新しい世界へ連れ出して欲しいと、思った存在。
「想いは、上手く伝わらないものですね……」
今度は独り言と一緒に、溜息まで出てしまいました。
こんな想いを抱いていると知られたら、気持ち悪がられたり、引かれて去ってしまうでしょうか?
様々な不安も有りながら、それでも鴎なら、笑って「うん、いいよ!」と言って手を引いて連れ出してくれる……そんな気がするのです。
だから私はこれからも、この世界に迷い込んできた、元気で明るくて可愛い迷い鳥さんが来てくれるのを、外の世界を眺めながら待っています。