もし氷川姉妹に弟がいたら   作:タクティくす

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おまたせ。書ける時間に寝落ちするのを3回繰り返しました。遅くなってしまってしまい申し訳ありません

アンケートに回答頂きありがとうございました。700人以上もの方にお答え頂けるとは思ってもいませんでした。4割が全部書けよオラァでした。主人公視点のみが想像以上に多かったです。

日菜視点なのに彩ちゃんの方が濃いかも•••


罪悪感──日菜視点②

駅から降りて目的地である事務所へと歩みを進める。たった5、6分程度の距離のはずなのにこのうだるような暑さの中で歩いているとふつーより長い気がするのは何故だろう?短い時間でも外に出ると汗がブワーって出てくるから嫌だ。夏は海やプールやスイカとかアイスとかカキ氷とか色々楽しいものもあるけれどムシムシして暑いのはやだな〜•••あっ!でもでも今年から夏は大好きになった。だっておねーちゃんと仲直りできたから!

 

この間あった商店街の七夕祭りでおねーちゃんとばったり遭遇。そのままいっしょに短冊を追いかけて、その後一緒にお祭りを回った。後で暁斗にその話をしたら「知ってた」って言われたのは不思議だったけど、その日以来おねーちゃんとは仲良くやれてる。一緒にギターを弾いたり、CiRCLEでライブしたり、ポテト食べたり、遊びに行ったり沢山るんってすることができた。七夕の短冊に書いた願い事の半分は叶った。

おねーちゃんと暁斗とまた仲良く過ごせますように

おねーちゃんとは叶えられたんだから、きっと暁斗と上手くいくってあたしはそう思う。だというのに、おねーちゃんはどうして苦虫を噛み潰したような顔をしていたんだろう?

 

考え事をしていたが、いつのまにか事務所前まで到着していた。考え事ごとをしながら無意識に辿り着ける程度には通い慣れていた。飽きっぽいあたしにしては本当に珍しい。

自動ドアが開くと「ようこそおいでくださいました。暑い中ご苦労様」と言わんばかりに冷気が瞬く間に全身を慰撫する。火照った身体から熱が引いていく。ヒンヤリして気持ちいい。先ほどまで炎天下にいたのがまるで嘘みたいだ。ここに来るまでの重い足取りとは打って変わりルンルンとした足取りで練習ルームまで向かう。

 

今日はどんなワクワクすることが待っているのだろうか?みんなみんなあたしとは違う個性を持っていて、「わからない」ことを、未知の世界をあたしに魅せてくれる。その中でも彩ちゃんは特別だ。暁斗とよく似たその在り方で以てあたしにとって「()()()()()()()()()()()()()」をどうか、どうかあたしに魅せて欲しい。

 

扉を開く。そこは日常と非日常の境目。この瞬間にただの女子高生氷川日菜からアイドルバンド Pastel*Palettesのギター担当氷川日菜へと切り替わっていく。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おはようございまーす!」

 

挨拶は大事って千聖ちゃんが口を酸っぱくし言ってたし。おねーちゃんも挨拶は大事にしなさいって言ってた。

 

「おはよう日菜ちゃん」

 

噂をすればなんとやら、綺麗なブロンドの長い髪にアメジストの瞳、それに加えて口ではうまく説明できないブワーってした彩ちゃんや麻弥ちゃん曰く「芸能人オーラ」、あたし達にとっては芸能界の大先輩であり、同僚の白鷺千聖ちゃんだ。パスパレで活動しながら女優さんもしている。いや、経歴で考えたら女優業の傍らアイドルバンドをやっている。と言った方が正しいのかも。

 

「おはよう千聖ちゃん。今日は最後までいるの?」

 

「ええ。映画の撮影も一昨日クランクアップしたから、しばらくはパスパレに専念するつもりよ。」

 

映画は数年前にそこそこ売れた学園伝記モノを実写化だそうだ。千聖ちゃんはラスボス役らしい。なんか「みょうなる」って言ってた。よくわからないけど千聖ちゃんはちっちゃいのに結構迫力あるし悪くないキャスティングなんじゃないかと思う。

 

「お疲れ様ーやっぱ映画撮影って大変?千聖ちゃん全然練習来れなかったし」

来ても途中参加か途中で抜けるかその両方かばかりだった。

 

「ええ。監督によって多少は違うんだけどタイトなスケジュールだったわ」

 

「うへぇー朝早くからとか嫌だなぁ」

 

別に朝が苦手というわけではないけど、朝早く起きるのは辛い。思わずしかめっ面になる。そんなあたしの様子がお気に召したのか千聖ちゃんはクスクスと笑っている。

 

「も〜ひどいよ千聖ちゃん」

 

「ふふ•••ごめんなさい日菜ちゃん」

 

 

「おはようございます。千聖さん。日菜さん」

 

「おはようございまーす」

 

そのまま千聖ちゃんと雑談を続けていると麻弥ちゃんと彩ちゃんがやってきた。あとはイヴちゃんだけだけど今日は雑誌の撮影があるらしいから終わった後に合流する。

 

「千聖ちゃん、何の話をしていたの?」

 

「この間の映画の撮影の話をしていたの。朝起きるのは大変ねって」

 

「確かにロケで撮影とかってなると朝早くに出たりしますからね」

 

「だね〜この間の無人島も早かったもんね。私起きられず妹に起こされちゃったよ」

 

そういえばこの2人には妹がいるんだった。いい機会だし色々聞いてみよう。

 

「ねー彩ちゃん千聖ちゃん。下の兄弟がいるってどんな感じなのかな?」

 

「•••え?」

 

「日菜さん弟さんいましたよね!?」

 

「そうだよ!この間のCiRCLEのライブ手伝ってくれたよね!?」

 

言葉足らずだったかな?

 

「•••えっと、普段の私たちがどんな様子か?ってことかしら?」

 

「うん!さっすが千聖ちゃんだね。それでどうなの?」

 

「そうね....そろそろ時間だわ。話の続きは休憩の時にしましょう」

 

流石千聖ちゃんは真面目だね•••

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2人から普段の生活を聞いた。彩ちゃんにはしっかり者の妹がいて、千聖ちゃんには少しおっとりした妹がいるらしい。どちらも姉妹仲は良好なようだ。

 

「そういう日菜ちゃんはどうなの?」

「う〜ん微妙。かな」

 

暁斗は朝早く家を出て夜遅くに帰ってくるから殆ど顔を合わせないこと。そうするようになってからおねーちゃんと呼んでくれなくなったこと。どことなく避けられていること。CiRCLEでのライブの翌日以来音信不通で家に帰ってきてないこと、親はそれらについて何も言わないことを掻い摘んで話した。

 

「えっ暁斗くん帰ってきてないの?それはちょっとマズイよ!?」

「いや彩さん、ちょっとじゃなくてかなりマズイですよ!捜索願は出してるんですか?」

 

「•••うん。昨日おねーちゃんと一緒に出しに行ったよ」

 

最近の写真が一枚もなくて苦労した。なんとかつぐちゃん達が最近撮った写真を借りることができたけど、改めてあたし達と暁斗の間に距離があることを実感した。とはいえ捜索願を出したのが未成年の姉だけで親が来ないということを考慮したらただの家出と片付けられてしまう可能性が高いと思う。

 

「でも、なんで急にいなくなったりしたんだろう?日菜ちゃん、心当たりってある?」

 

「•••それが全然わかんないの。みんなから見てCiRCLEのライブのとき変なところってあった?」

 

多分あたしは他人のことをろくに理解できてない。だから素直に周りに聞いてみる。

 

「•••と言われましても、ジブン達は弟さんとは初対面でしたから....」

 

「話した感じだと普通に良い人そうだったよ?色々手伝ってくれてたし」

 

やっぱりほぼ初対面だったから手がかりになりそうな情報はないか。彩ちゃんたちが悪いわけでもないし、しようがない。話を切り上げて練習を始めようとしたその時──

 

「•••そうね。私にはずっと何かを抑えてるように見えたわ」

 

 

「ほんと!?その何かって何かわかる?」

 

「流石にそこまではちょっと....でも、そうね日菜ちゃん?」

千聖ちゃんがあたしに問いを投げつけてくる。

 

親御さんと弟くんは仲が良くなかったのよね?

仲が良かったら、暁斗の夕飯だけなかったり、暁斗だけハブって旅行に行ったりなんてしないよ。あたしとおねーちゃんは暁斗も当然一緒に来るものだと思ってたけど「話すタイミングがなかったから連れて行かない」とかふざけてるよね?結局暁斗本人が気にしないから行ってこいって行ったから渋々行ったけど、いくらなんでもアレは酷いと思うんだ。

 

仲の悪い理由に心当たりは?

えーっと•••お父さんとお母さんは暁斗のことを「出来損ない」とか「姉の出涸らし」とか「氷川家の恥」とか言ってたけど、理由ってこれかな?

 

両親のことなんてどうでもいい。今は気にしている場合じゃない。正直両親はあまり好きになれないからあまり話題にもしたくない。

 

「それでね、暁斗はどうしていなくなっちゃったんだろう?」

 

「「「•••」」」

「?」

 

数秒、謎の間があった。

 

•••え?嘘よね?日菜ちゃんまさか気づいてないの?

どうやらそうみたいですね•••

確かに日菜ちゃんだし•••あり得るわね

 

????なんだろう?

 

「えーっとですね日菜さん。とても言いにくいんですが•••」

「なーになーに?遠慮なんてしなくていいよ」

寧ろ暁斗のことなのだから早く教えてほしいぐらいだ。

 

「•••では失礼ながらジブンが。日菜さん。弟さんが出ていった本当の理由は正直ジブン達にはわかりません。ただ、•••その、色々と限界だったのではないかと思います」

 

「限界?どういうこと?」

 

「あのね日菜ちゃん。ご両親が弟さんにしてることは、えっとその•••虐待と言えるものなの」

 

暁斗がまるで気にする素振りを見せていなかったから実感がなかったが確かに千聖ちゃんが言う通り。もう虐待と言ってもいいと思う。暁斗はずっと表面上は平気な顔をして溜め込んでいたってことなのかな?それで精神的に追い詰められて耐えきれなくなっちゃった?でもそうすると1つわからないことがある。

 

「•••あれ?なら何でライブの打ち上げの後にいなくなっちゃったんだろう?」

 

そう、何故あのタイミングでいなくなったのだろうか?それがわからない。何がきっかけで家から出て行くって決断を下したのかがはっきりとわからない。

 

「ねえ日菜ちゃん。私さ、自分で言うのも悲しいけどおっちょこちょいで鈍臭くて、何やっても最初は失敗続きで全然ダメダメでさ」

 

先程からずっと沈黙を守っていた彩ちゃんが口を開いた。

 

「それでやっぱり周りと比べられて色々言われることも多くてね?例えば日菜ちゃんとか、千聖ちゃんとかとはやっぱり比べられること多いんだ。私の場合はそこも含めて丸山彩だ。ってファンの人達もみんなも言ってくれてるけど、自分の中ではやっぱり思うところはあって•••」

SNS上だと彩ちゃんは確かに色々言われてることが多い。理由は多分エアバンドの中で一番不評だったのは口パクだったからだと思う。

確かに彩ちゃんはやっても全然できない不思議な人だけど、何度も挑戦し続けるし諦めない。そしてなんだかんだで最後には美味しい結果を出してるからすごいと思う。

 

「その悔しさ•••なのかな?をどうにか解消したくて我武者羅に色々やって、なんとかそれが周りに認められて、それが嬉しくて、でもやっぱり周りとは比べられちゃって•••また我武者羅に•••っていつもそんな繰り返し」

 

何も言えない。あたしとは全然違うから正直努力がどうこうと言われても全く共感できない。彩ちゃんの軌跡を私は十全に理解することは決してできないだろう。でも、暁斗も同じなのかもしれない。あたしやおねーちゃんと比べられていて、落伍者の烙印を押されて、その中で苦しんで、それでも足掻いて•••あれ?

 

「気がついた?私の場合はパスパレとしての今や、ファンの人たち、そしてすぐ近くにいる家族が応援してくれるし、今までのことも認めてくれている•••でも」

 

────暁斗くんの頑張り(今まで)()()()()()()()()()

 

•••あたしはそれに対する答えを口にできない。口にしてしまったらそれに耐え切れる自信がない。

 

「私はそんな状況、絶対に耐えきれない。自分でも努力家な方だって自覚はあるけど、やっぱりどうしたって見返りを求めちゃうから」

 

彩ちゃんの場合はそれが承認欲求という形で表に出ているのだろう。

•••そう、そうだよね。あたしは正直努力がどうこうって全然わからないから暁斗のことを理解できてるとは言えないし、おねーちゃんはそんな余裕がなかったからちゃんと暁斗を見て、暁斗を肯定してくれた人ってもしかして1人もいなかったんじゃ•••

 

「ねえ•••もし、もしもだよ?何かを頑張っても誰からも顧みられずにいられるだけじゃなくて周りから認められない。更にずっと自分自身を否定され続けてたらさ•••」

 

•••もういいよ彩ちゃん。それ以上言わなくていい。いくら人の心がよくわからないあたしでもそのぐらいの想像はつくから。もう罪悪感で胸が一杯だ。取り返しはつきそうにない。それが嫌になるぐらいよくわかった。

 

•••暁斗はあたしのせいでいなくなっちゃたんだ。暁斗が辛い思いをしてたのも元を辿ればあたしとの差が原因だ。あたしと比較されて、それが理由で理不尽な目に遭って、更にあたしは何も気付かずに心ないことを言ってた。「今までもなんとかなってた」?どこが?ただ耐え忍んでただけだ。これからも頑張れとか無責任にも程がある。

 

どうしよう•••どうすれば暁斗は帰ってきてくれるのかな?会いたい。会って話がしたい。今までごめんなさいって謝りたい。でも、許してくれるかな?暁斗に酷いことをしちゃった。でも会いたい。でも•••

思考の渦はとどまることを知らず、螺旋を描き無限の回帰を繰り返す。

 

言うまでもなくこの後の練習は全く集中できず、精彩を欠いていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

同日、日本国内の某所

 

「ここから先は道が狭いし、広い道はかなりの遠回りになるから送れない。申し訳ないが歩いていってくれ」

「いえ、ここまで連れてきてくれてありがとうございました」

気をつけてな。という声を最後に車と運転手は走り去っていった。

車を見届けた後に自分も目的地へと足を進める。目的地はこの山の奥にある。あまり人がいないところなので鬱蒼とした草木による天然の要塞•••なんて想像してたけど、山道は思ったより整備されていたから拍子抜けだ。ここに来るのに1週間近くかかってしまった。なんせ正確な住所がわからなかったからだ。ある程度まで絞り込んだらヒッチハイクしたり、近くにいた人に聞きまくって、対価として労働力を提供してここまで辿り着いた。

十数分で開けた場所で出た。この場所にはあまり似つかわしくないような気がする大きな家。表札は氷川──そう、ここは氷川家始まりの場所だ。




長くなっちゃいました。日菜ちゃんが色々なことに気づいたのはこのタイミングです。①でイジメやら色々に気づいたのは②より後になります。ややこしくてごめんね。
彩ちゃんの闇が深い気がしてきたけど彩ちゃんの承認欲求の根幹って色々考えると割とこんな感じなんじゃないかなって思います。

今後のネタバレ:主人公は割とメンタル強いです。

次回羽沢つぐみ視点(予定)。今回出番のなかったイヴはこっちで出す予定です。

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