もし氷川姉妹に弟がいたら   作:タクティくす

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つぐみ視点開始

過去主人公のメンタルが凄まじくボロボロな件。巴視点は一番主人公がヤバい状態の話になります。

優しさって難しいですよね。作者もお節介焼いて痛い目を見たことが何回かあります。

追記:口調に違和感があったとのコメントを頂いたため修正しました。


それはいつだって突然に──羽沢つぐみ視点

それは突然のことだった。私の友人の氷川暁斗が突然姿を消したらしい。

 

先日彼の姉である日菜さんが私の家に来た。「捜索願を出すために今現在の写真が欲しい」とのことだった。

暁斗君が家族と上手くいっていないのは知っていた。最初にうちに来た時に巴ちゃんが説明してくれたし、彼自身からも話は聞いている。

 

優秀な姉たちと不出来な弟。

 

暁斗君が置かれた状況を大雑把に説明するとこうなるのかな?

日菜さんは中等部の時から「テストは全部満点が当たり前」とか「急に陸上部に入って大会で優勝してすぐ退部した」とか色々と逸話のある有名人で、紗夜さんも文武両道、品行方正な美人っていう天が二物どころか三物も四物を与えた凄い人。紗夜さんのことは花女にいる沙綾ちゃんが教えてくれた。

 

たしかにこんなに凄い人たちと比べられたら霞んでしまうと思う。

私は一人っ子だから、実際はどうなのかは理解することはできない。でも、「氷川日菜、氷川紗夜の弟だから•••」と期待されていたんだと思う。その期待に氷川暁斗は押し潰された。磨耗し疲弊し、その果てに無残にも打ち棄てられた。

 

暁斗君と初めて会ったのは確か2年前の5月末ぐらいだったかな?。向かいにある沙綾ちゃんの家から朝の早い時間に男の子が出てきたところにばったり遭遇して驚いたのは今でも覚えている。

 

光をも吸い込みそうな真っ黒な髪、綺麗な緑だけど光の消えた目、生気のない顔。どことなく幽世の人間じみた印象を纏った翳りのある男の子。正直な第一印象は「不気味」「怖い」「理解不能」といった良くないものばっかりなのに、何故か目が離せない。記憶にこびりつく。そんな不思議な存在だった。

 

そんなファーストコンタクトから数日後、巴ちゃんがうちのお店に件の男の子を連れてきた。巴ちゃんから彼の現状を聞いて同情を隠せなかったよ。

 

名前は氷川暁斗。私たちと同い年の中学二年生。色々と家庭の事情で相当追い込まれているらしい。たまに店に連れてくるから話し相手になってやって欲しいと頼まれた。普通に考えたら意味がわからないし、何故そんなことをしなくちゃいけないの?ってなるけど、おかしいことに彼を放っておけなかった。同情?憐憫?始まりは何だったのか今となってはよくわからない。とにかく私の日常に突然、暁斗君は姿を現した。

 

それからというもの、暁斗君は巴ちゃんに引き摺られて時々うちに顔を出しにくるようになった。初めのうちは物凄く警戒されていたよ。巴ちゃんが半ば力ずくで引っ張って来て連れて来ていることを考えたら当然の反応なのかもしれないけど、最初はギクシャクしてたなぁ。

 

とはいえ私もお客さんがいないときは暇だから、話しかけてみることにした。意外なことに受け答えは普通にしてくれた。でも、今と違って敬語だったし声は悍ましいほどに無機質で冷たくて、こちらの存在を認識すらしていないんじゃないかと錯覚するほど空っぽなお人形さんみたいで。何もかもを諦めてしまったようで、自暴自棄なようだった。

この時から彼の危うさにはなんとなく気がついていた。放っておいたら今にでも消えてしまう。きっとこの人は自分自身に頓着せずあっさりと自殺する。そう確信しました。

 

自分でもかなりのお節介だと思ったそれを見過ごせるほど私は無感動な人間じゃない。

とはいえ私は弁が立つ訳じゃないし、暁斗君の心を揺り動かせる熱い何かがあった訳じゃない。いつだって頑張っているつもりだけど、できないものはできない。いつだって現実は無情だよ。だから気を紛らわせることぐらいしか私には出来なかった。一緒にお母さんから料理を教わったり、別のお客さんと話しをさせたりとかそのぐらいしか出来なかった。

 

でも、何がきっかけかは、はっきりとはわからないけど暁斗君は少しずつ元気になっていった。出会った当初の危うさもすっかり無くなっていたし、巴ちゃん抜きでもちょくちょく顔を出すようになっていた。ここでずっと勉強してたり、その途中で息抜きと称して店の手伝いもしてくれるようになったし、本当にすごく変わった。前より笑うことも増えたし楽しそうだった。

 

お客さんと仲良くなるのは私より上手いぐらいだった。花音さんなんかいい例ですよ?商店街で迷ってた所を捕まえてうちの店に連れてきて籠絡してるぐらいですし?

それと、Afterglowの蘭ちゃんやモカちゃんとも打ち解けるのはかなり早かったね。ひまりちゃんは誰とでも仲良くなるのは早いけど蘭ちゃんは照れ屋で気難しいし、モカちゃんは不思議な子で会話が難しい時があるんだけど、すぐ2人と仲良くなっていた。

 

その時期くらいに暁斗君の口から直接彼自身のことを教えてくれるようになった。

姉が2人いること。その姉2人が途轍もなく優秀なこと。あの2人と比べられている毎日が辛いこと。色々と教えてくれた。ほぼ全部巴ちゃんから既に聞いていたことだった、自分自身で言葉にしてくれたことにきっと意味があると思う。確か言霊っていうんだっけ?

 

だから、立ち直ったって、これからは大丈夫だって。そう思ってた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「•••とりあえずこのぐらいでいいでしょうか?」

 

「•••うん。ありがとう。つぐちゃん」

 

少し冷めてしまった紅茶を口に含む。とりあえず話し終えたら喉が渇いた。

此処は羽沢珈琲店。お客さんは1人だけ。先ほどまで話の中心にいた暁斗君のお姉さんの日菜さんだ。千聖さんと花音さんがお茶をしている時に店にやってきて「つぐちゃんが知ってる暁斗のことを教えて欲しい」と頼まれた。ひとまず必要そうな所を掻い摘んで説明した。本当はもう少し色々あるのだが、日菜さんが此処に来ている理由を考えたら必要のない情報だろう。

例えばコーヒーはブラック一択なこととか。麻雀とかポーカーはモカちゃんと同じぐらい強いのにUN○とか双六には物凄く弱くていつもビリなこととか。

 

「暁斗•••そんなに追い詰められてたんだ•••」

 

日菜さんはショックを受けている様子だ。•••まさか知らなかったとは思わなかった。暁斗君は「日菜姉は俺なんて眼中にないよ。紗夜姉のことばっかり」と笑って言ってたけど、これはどうなんだろう?そんな軽い問題じゃないと思う。わたしは氷川家の人間じゃないから人様の家庭の事情に首を突っ込みはしないけど、もう少し暁斗君のことを大事にしてあげてほしいとは思う。

 

「•••暁斗絶対あたしたちのこと憎んでるよね?•••」

 

「日菜さん。そんなことありません!師匠はいい人です!」

 

「•••イヴちゃん」

 

 

「いつも私に色々なことを教えてくれましたし、とっても優しい人です!だから日菜さんのことを憎んでるはずないです」

 

イヴちゃんは良い子だなぁ。でも今回はその通りだと思う。

 

「イヴちゃんの言う通りだと思いますよ?」

 

「•••でも」

 

日菜さんは不安そうな顔だ。現に暁斗君はいなくなってしまっているから無理もない。でも──

 

「前に暁斗君が言ってたんです。『姉は悪い人じゃないから普通に接してやって欲しい』って。それに、暁斗君は日菜さんのことを嫌ってもいないと思いますよ」

 

多分暁斗君は比べられることそのものが嫌いなだけでお姉さん自体は嫌っていない。姉の話をする時の彼は間違いなく敬意を払っていたし、尊敬もしているのは明らかだったから。

 

それを伝えると日菜さんは少し嬉しそうな顔をした後にお礼を言い、お会計して帰っていった。

 

ああは言ったものの、私だって不安なのだ。もう帰ってこないんじゃないかなって思ってしまう。意外と対人能力は高いから、どっか遠くへ行ってそのままそこで暮らす。なんてことがないって言い切れないのが怖い。出来れば早く戻ってきて欲しい。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そんな願いも虚しく無情にも時は流れ、夏休みは終わってしまった。あれから暁斗君は帰ってこず、電話やメールにも出てくれない。一体どこへ行ってしまったのか?そう思いながら登校する。

 

正門を通り抜けたその時、ある男子生徒に見覚えがあった。間違いない。暁斗君だ。嗚呼•••良かった。本当に良かった。帰ってきたんだ。こんなに心配させたんだ。文句の1つや2つくらい言っても許されるだろう。

 

「暁斗君!」

 

おかえり。心配したんだかr──「何か用ですか?()()()()

•••え?想像していなかった言葉に思考が停止する。どうして?••え?

何も言わない私を一瞥した後彼はそのまま私を置いて教室へ向かってしまった。

 

 

今の暁斗君はまるで初めて会った時みたいな冷たい目だった。2年前の彼に戻ってしまった。一体暁斗君はどこで何をしていたの?何があったの?

 

そう聞きたくても答えてくれる人は誰もいない。

二学期の始まりは、暗雲立ち込めたものだった。

 




つぐみの人の良さは異常。流石は聖天使ツグミエル•••って言いたいんですけどエルはヘブライ語で神を意味し、和訳すると神のつぐみになるからなんか嫌だわ。


次回「可笑しなお菓子と犯した瑕疵」タイトルと話数ででわかると思いますが紗夜回です。

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