もし氷川姉妹に弟がいたら   作:タクティくす

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過去話だけど久しぶりの暁斗視点。ぶっちゃけ紗夜、日菜視点の方が人気があるので、書いていいのかわからなくなってきた。
今回は前回の最後の話です。

それが彼の終焉。そして始まりでもある。って書くと厨二っぽい。
まあ、一つの転機なのは間違いないんですが。






幕間

2015年五月某日。影が伸び始め夕陽が差し込みちらほらと街灯がつき始める頃。都内某所の駅を彷徨う1人の少年の影。雑踏の中に紛れ、ふらふらと流されながら泳いでいる。

足取りは重く、それでいて軽やかにも見え、疲れているようで、楽しそうな雰囲気。沈痛そうな面持ちで、それでいて憑き物が落ちたような晴れやかな顔でゆらりゆらりと歩く様は五色を狂わす蜃気楼。どれが実像でどれが虚像か判別できない。どちらでもあり、どちらでもない境界線。

それ故に誰も声をかけられない。不味そうなような愉快そうなそれは理解不能なものとして遠ざけるのが一番無難であるのだから。

それを気にも止めず、光はほとんどない、それでいてどこか底光りするものがある目をしながら、目的の場所へと歩いていく。

 

 

──思えば走り続けてきた。日菜という、唯一無二の光輝。紗夜という、並いる雑魂を覆い尽くす闇夜。そのどちらにも憧れ、同時に恐れながら、比肩し、凌駕せんと邁進し続けてきた。一度たりとも2人に届くことはなかったが、まだだ。次こそはともがき続けてきた。

 

けれど、それは始まりから間違っていたと知ってしまった。どう足掻いても絶望...それすらも生温い。そもそも俺自身そのものが間違いだらけだった。始まりから罪セーブのデータなど、消去してしまうに限るだろう。だからこんな命など捨ててしまったって良い筈だ。というか消す。

 

今までのこととかこれから先の未来のこととか色々考えたけど、やっぱりこれが一番幸せになれる。「俺の幸せ」を第一に考えるならこれが最善策だ。それに、最期ぐらいは自分を優先したっていいだろう。最初で最後の自己主張だ。親なら親らしく子供のワガママを受け止めるがいい。

 

遺書にはそんな旨と周囲の環境についてをしたためた。多分これで世間様は俺に同情ぐらいはしてくれるだろう。色々調べてみたら、俺の取り巻く環境はどうやら劣悪らしいから。きっと「虐待」の被害者、「両親に死へ追いやられた哀れな子供」として取り扱ってくれるだろう。

 

ああ、だからこれは自暴自棄ではない。寧ろ今までで一番冷めている。大体、勝つことと生きることは別のことだろう?

()()()()()()()生かされてきた己自身を滅殺することで、クソッタレな両親や現実に一矢報いてやろうという叛逆だ。

当然死に方もなるべく遺族に迷惑がかかるやり方、駅内での投身自殺を選ぶ。精々賠償金の数百万円程度しかダメージを与えられないかもしれないが、世間体というものを気にする奴らだ。多少なりとも効果はあるだろう。おねーちゃん達には申し訳ないと思っているが、あの2人なら何処でだってやっていけるだけの才能があるだろうし、多分問題ない。

 

どうだい?実に愉快な勝ち逃げだろう?賭け金は俺のこれからの未来だ。安すぎて涙が出そうだ。...いや、本当に安すぎてお釣りが来る。

 

そもそも()()()()()()()()()()()()()こそが俺の存在意義だったのだ。これは、それに対する意趣返しでもある。お前らの人生はこんな無価値な俺に壊されたんだぞ?と嗤ってやろう。「小さな砂粒が大きな歯車を狂わせる」実に痛快な話だろう。

 

──これが俺だけの逆襲劇(ヴェンデッタ )。主役は勿論俺1人、舞台は現代。その命を撃鉄にして、一世一代の劇の幕を上げるとしよう。

 

目的地は、駅の構内。プラットホーム。ここが俺の処刑台。絞首台への階段を登る気分というのはこのようなものなのだろうか?だとすれば実に清々しい。一歩、また一歩と歩みを進めるたびに色んなことを思い出す。

 

幼き頃の尊い刹那...いつまでもあんな風でいられたらそれが一番良かっただろう。けれど、これは最早届かぬ邯鄲の夢。儚く散った幻想に過ぎない。

 

姉の背を追い続けた軌跡...ほぼ姉という天災どもが過ぎ去っていった轍の上をひーこら言いながら追いかけていった日々。何の価値もなかっただろう。何の成果もあげられなかった。その点については両親に同意する。本当に無価値で虚無だ。空っぽすぎて吹けば音が鳴るかもしれない。

 

意味のわからないことを考え出した自分に苦笑する。本当に今から死のうとしている人間の精神状態なのか?まあ、気楽なもんさね。背負ったものなど何もなく、今から喪われるものについて、俺自身すら悲しんだりしないのだから。

...ああ、でも紗夜は困るかな?無意識だろうが、俺を見下していたし、優越感を得ることで自身の安定を図っていたのだろうから、少し申し訳ないかも。

 

そして、残酷な現実...ああ、これだけは俺も両親に対して申し訳なく思っているとも。俺があの2人と同等であればあんたらも多少は苦しまずに済んだのだろう。そのことで周りから色々言われたんだろう?これについてだけはあんたらも被害者だと俺も思っているよ。

 

なんて物思いに耽っていたら改札口を通り抜け、気がつけばのりばまで来ていた。随分とあっという間だった。もう少し過去に浸るのも悪くなかったのだが•••もうそろそろ時間だ。もうじきこの駅を電車が通り過ぎる。日本の時刻表は正確だ。即ち、俺の死亡時刻も決まっている。

 

 

『まもなく、二番線を快速列車が通過します。黄色い線の内側でお待ちください』

 

聞き慣れた音声。いつ聞いてもよく通る声だ。だが、今日は従うつもりはない。今からそれと反対のことをして身を投げよう。

 

おねーちゃんに会えなくなるのは少々寂しい気もするが、どうせこれから先はどんどん嫌いになってしまいそうなのは目に見えている。ならば、そんな俺自身に幕を引いてしまおう。そう思っている自分もいて、同時に何もかもが嫌になった。こんな時でも相変わらずか。俺は姉の呪縛からは逃れられないらしい。

 

自嘲と、解放感と、なけなしの憎悪を乗せて、懐から遺書をさりげなく落とす。そのまま黄色い線を越え、足を、身を、何もかもを宙へ投げようとする。

 

 

•••ああ、強がってたけどさ、やっぱ辛かったんだ。苦しかったんだ。勿論叛逆も嘘じゃない。なるべく両親にダメージが行くように考えた。

でも、心のどこかで逃げたい。って思ってたんだろう。逃げずに立ち向かうことを選ばずに勝ち逃げを選んだ。それはつまり、辛い、苦しい、死にたいという自壊衝動に他ならない

 

──でも、それもこれで終わりだ。やっと...楽になれるよ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──次の瞬間、時間が巻き戻ったかのように急速に引き上げられた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

過ぎ去った電車はどうやら前髪を掠っただけらしい。わが身に突然起きた訳の分からない状況に混乱していると、そのまま乗り場を離れ、駅の外にまで引きずられた。

 

そこまで来て急速に状況を理解した。どうやら自分は死に損なったようだ。

 

 

「馬鹿野郎...!何考えてんだ!?」

 

...羽丘の中等部の制服か。赤い短髪。男かと思ったがスカート。まあ、なんとイケメンでいらっしゃること。きっと女子にモテるタイプだな。

 

「...自殺だけど何か?」

 

邪魔されて興が削がれた気分だ。なんとも素晴らしい正義感だ。鬱陶しいことこの上ない。帰っていいかな?そう思った直後

 

──頭部を中心に1回転しながら吹き飛ばされた。突然のことで受け身をとれず、背中から地面に叩きつけられる。

...どうやら殴られたらしい。なんて力だ。とても女子とは思えない。

 

 

「馬鹿野郎!」

 

なんで見ず知らずの他人に自殺を止められ、怒鳴り散らされ、挙げ句の果てにはぶん殴られなきゃならんのか。

 

「死んだら何にも残らないだろ!」

 

...それはない。そもそも何もないのだから。いい加減的外れすぎてイライラする。ああ、どうして安らかに死なせてくれんのか。

 

「...なんで助けた?どこかへ行くつもりだったから、電車が止まったら困る。とかか?」

 

「いや、それもあるけど。普通止めるだろ。自殺なんて」

 

...は?そんなどうでもいい理由で死に損なったの?これじゃあ何度やっても邪魔される。

 

「あは、アハハハ...アハハハハハアハアハハッ...!」

 

...クソッタレが。アホらしい。

...なんか萎えたわ。意外と自殺って行動力がいるんだな。

鬱の人が自殺をしないのは、その気力すら湧かない。と話に聞いていたが、こういう心理か。納得した。

 

「...大丈夫か?」

 

「おう...なんかアホらしくなった」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

•••随分懐かしい夢を見た。あの時あいつに会ってなかったらきっと楽に逝けたに違いない。

 

「あっ...起こしちゃいましたか?」

 

「...!?ごめん!もしかして寝坊した?」

 

•••やばい。昨日と今日の労働力とこの子の勉強を見ることを対価に一晩泊めてもらったのだから、寝坊とか洒落にならない。

 

「いえ、まだ夜ですよ。それより少し魘されてましたけど•••」

どうやら蚊取り線香を付けに来てくれたらしい。

 

「いや、ちょっとね、知り合いに初めて会った時のことが夢に出てきた」

 

「知り合いってもしかして...ポピパさんですか!?」

 

身を乗り出して目を輝かせる。...近い。鼻が触れそう。この1日で偶々知り合ってポピパのメンバー全員と知り合いだわという話をしたらグイグイ色んなことを聞かれた。東京からかなり離れているが、随分と熱心なファンだ。

 

「ステイステイ...ポピパじゃないよ。別のバンドの奴」

 

──そいつはな、宇田川巴って奴でな。AfterglowってバンドでドラムやっててRoseliaのドラムの姉なんだよ...

 

 

そんな昔話に花を咲かせた丑三つ時。暁斗が失踪して、3日目のある日の光景。




実に前向きな自殺(勝ち逃げ)でしたね。止めた巴は暁斗的には大戦犯。

なお、巴に止められなかった場合、両親は賠償金を支払うけどほぼノーダメージ。さよひなのメンタルはズタボロになるだろうけど、互いの傷を舐め合うように仲直りするだろうし、悲しみを乗り越えられた場合、両親は大した影響ないし、さよひなは下手したら今作よりハッピーな模様。
マジで疫病神か何かかこいつ

自殺未遂、それを止めて殴った直後に突然笑い出す奴と遭遇した巴の心境は如何に。

あっ最後の子は察して。


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