香澄ィ!マジで時間なくて一文字も書いてなかった...許して...ひまわりの日とかいうラブコメ向きの日だったのにね。
代わりといってはなんですが、こころは本編を差し置いてでもガチで書く。お蔵入りにしたこころルート。それを再構築した物の一部を書こう。
取り戻したいと願うのは、慣性の法則めいた、日常の変化を嫌う心からなのか。はたまた別の何かなのか。その答えは一向に出ない。...いや、もしかしたらもう出す必要すらないのかもしれない。ただ帰って来て欲しい。真実はたった1つ。必要なのはそれだけでいい。そう思ったから...
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まだまだ残暑の残る九月の半ば
朝6時に起床して、朝ご飯をお母さんと一緒に作って純と紗南を起こして、お父さんを呼びに行く。
数年前まではこれが当たり前の一連の行動だったはずなのに、違和感が凄まじい。まるで残りの1ピースがない未完成なパズルのようでなんとなくモヤモヤする。その残りのピースが何なのかはもう言うまでもないだろう。
夏休み後半から姿を消した私の友人。大切なもう1人、私たちの家族に近い存在と言っても差し支えない人が今ここにいない。
夏休みはどこかへ行っていたらしいと巴から聞いた。目的とか、なんで突然誰にも何も言わずに行ったのかについては一切口を割らない。それどころか避けられているらしい。
私に対してだって電話もLIMEも出てくれない。精々、朝の2時間程度とたまの休みに純と紗南を連れて遊びに行く程度の付き合いだが、今までほぼ毎日顔を合わせてたから、いざいなくなると不安になって仕方がない。いなくなってから気付くのでは遅すぎるのだが。こんなにも私の日常に染み着いていたことを改めて実感した。
「おはよう沙綾。今そっちへ行くよ」
工房に来て最初に聞くのが父親の声であることも違和感ばかりで仕方がない。
「...うん」
いけない。みんなを心配させてはいけない。私はお姉ちゃんなんだから。今日もこれから学校だし、切り替えなければならない。
「すまない...」
「お父さん何か言った?」
「いや。なんでもないよ」
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5人での朝食を食べる。朝だが、純と紗南は元気いっぱいだ。慌ただしくも幸せな時間だ。ありふれた日常だけど、暁斗が突然いつか壊れてしまうかもしれないものなのだから噛み締めていかなければ...
「...沙綾。湯呑みが1つ多いわ」
「え?...あ...」
私と、純と紗南と、お父さんと、お母さん。全部で5つでいいのに。気がついたら6つ出していた。完全に無意識での行動だった。もう一ヶ月近くこの家にあいつは来ていないというのに、まだ慣れない。
「...沙綾」
「...あはは。ごめんごめん」
「「...」」
少々気まずい沈黙が流れる。両親は何も言ってこない。気を遣ってくれているのがありありと見て取れて、物凄く居た堪れない。
「ねー。にーちゃんぜんぜん来ないねー」
「いつ来るのー?」
そう聞いてくる純と紗南に本当はなんて答えればいいのかわからない。もう二度とここには来ないかもしれないのだ。
「暁斗にも家族がいてこの時間はきっと忙しいんだよ。きっとまた暫くしたら来てくれるよ」
「ほんと?」
「うん。だからいい子にして待っていようね」
かなり白々しく痛々しい嘘だ。大人になるってきっとこういうことなんだろう。この場で2人を納得させるためについた嘘は果たして誰の為のものなのか。それは意図的に考えないようにしていた。
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学校の道を1人で歩く。1人で歩くと2人でいる時より長く感じる。会話が弾む。という訳ではないがいつも話を聞いてくれて、適度に相槌を打って、リアクションをしてくれる相手がいないのはやはり寂しくなる。
花咲川女子の正門に着いた。何か人だかりが出来ている。
「沙綾〜おはよー!」
「おはよう香澄。この人だかりって何?」
「『抜打ちで持ち物検査』だって」
時たまある風紀委員の催しだ。特に怪しいものは持っていない筈だから大丈夫だろう。
「香澄?変なもの持ってきてないよね」
「多分...大丈夫!」
...これはあれだ。逆に必要なものを持っていないパターンだ。
「あー!!学生証忘れた!」
あらら。よりによって面倒なものを...こうなったらその辺りのことに優しい風紀委員が検査してくれることを祈るしかない。
「次の方どうぞ...あっ」
...薄浅葱色の髪の毛に暁斗と同じ緑色の目の風紀委員──氷川紗夜。暁斗の姉だ。
正直なところ元々あまり良い印象は持っていなかったが、今は更にその印象が悪くなってる。暁斗が家に来なくなったのは氷川家で何かあったからではないかと勘繰らずにはいられない。恐らくそれが顔に出ていたのだろう。思わず睨んでしまっていたようだ。向こうも気まずそうな顔をしている。ここが人前でなかったら文句の一つや二つを言いたくなっていたかもしれない。
「あの、山吹さん。今日の放課後に予定はありますか?」
「...え?な、なんでですか?」
あまりにも唐突だった。接点なんて精々CiRCLEで、暁斗がいなくなる直前に行われたCiRCLEで、そのライブの共演者。その程度のものしかない筈だ。
「あの...、その、暁斗のことで少し話を...」
どういうことだろうか?意味がわからない。わからないが、なんとなく行かなければ後悔しそうな気がしたから
「わかりました。場所は?」
「ありがとうございます。羽沢珈琲店でよろしいですか?」
家のすぐ目の前だし別にこちらは問題ない。そう伝えてその場を後にした。
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「...もう一度言ってくれませんか?」
所変わって羽沢珈琲店。目に優しい内装と、香ばしいコーヒーの香りによる癒しの空間。その場にはあまりにも似つかわしくない冷たい声。自分でもびっくりだ。だが、内容の方がよっぽど衝撃的だった。
「...暁斗は自殺未遂をしていました。巴さんが止めていなければ今頃は...」
この世にいなかった?──いや、何だそれは?ふざけているなら今すぐやめて欲しい。
「...沙綾の信じたくないって気持ちはよくわかるけど本当だよ」
巴が申し訳なさそうに告げる。つぐみも神妙に頷いている。なら紗夜さんが私を悪戯に揶揄っているというわけではないと考えていいだろう。
...そういえば、巴と暁斗が知り合った経緯ってあまり気にしたことがなかった。最初に会った時に深く聞かなかったから聞くタイミングを逃していた。だから、嘘ではないのかもしれない。
でも、もしそうだとしたら──
「凄いね...全然気が付かなかったよ」
全く気付けなかった自分に腹が立ってきた。2年間私は何をしていたんだろうか。
「そうだな。アタシもその場で実際に見てなかったらわからなかったかもしれない」
「私も気付けなかったから沙綾ちゃんと同じだね」
教えてくれなかった巴に多少言いたいことはあるけれど、気づかない私が悪い。ただ、それでもそんな素振りをまるで見せない暁斗は一体どこまで溜め込んでたのだろうか?というか今大丈夫なのだろうか?悠長にこんなところでお喋りに興じている場合じゃないだろう。
「私はこれから暁斗と話をしようと思います。...もしかしたらこれが最後になるかもしれません」
「...」
「まず私がしたことを謝ります。もう取り返しはつきませんが、やはりケジメは付けるべきだと思いますから。その後は暁斗から何を言われるかはわかりません。けれど、きちんと受け止めたいと思います。」
「...その結果二度と分かり合えないとしても?」
「...それが暁斗の救いになるのなら」
相当悩んだのだろう。だが、覚悟を決めた様子が顔つきからわかる。
巴は少々不承不承と言った感じではあるが、一応の納得はしているらしい。
「なら、なんで私を呼んだんですか?」
家族の問題なら、私に伝える理由がわからない。
「...暁斗は毎朝貴女の家に行ってたんですよね?」
「はい」
「私が言えることではないのですが、その...今までありがとうございました」
追い込まれて逃げ込んだ場所が私の家と考えたら、本当にどの口が言ってるんだと言いたくなる。しかし、今気にするべきなのはそこではない。
「今までってどういうことですか?」
それじゃあまるで...
「沙綾ちゃんを呼んだのはそのことなんだけど...」
「暁斗が私たちも遠ざけたってことは...」
...やめて。それ以上は言わなくていいから。本当は薄々勘付いていたよ。文化祭の裏側で暁斗が何をしようとしたか父さんから聞いた時から何となく気がついていたんだ。
────多分
「...それで恐縮なんですけど、今からウチに来てもらえませんか?」
「本当は私と日菜と暁斗の3人で話したいんですけど、逃げたくなりそうなんで、どうか私が逃げないように見ていて欲しいんです。」
私たちも暁斗と話をしたいのも山々だが、流石に5対1はひどいと思う。世の中には同調圧力というものがあるのだから。
「...確かにそうですよね。軽率でした」
目に見えてしょんぼりしている紗夜さん。なんか思ってたより感情表現が豊かな人だ。
「...よし!紗夜さん。今から行きましょう!家の外で待ってますから、終わったら私たちのところへ来てください」
こういう時のつぐみの前向きさは本当に頼りになるなと思う。巷ではAfterglowの道標であり裏のリーダーであると言われているだけのことはある。
「...ありがとうございます。家で日菜も待っています」
戦場に赴く兵士のような堅い雰囲気を纏いながらお会計をして、店を出て氷川家へ向かう。
「巴ちゃん。なんで紗夜さんのこと止めなかったの?てっきり...」
「そりゃ出来ればそっとしておいてやりたいけど...この間言ったろ?『暁斗はシスコンだ』って」
「うん」
「このままだとあいつ絶対姉のために動くぞ。そうなったら今度こそ...」
姉を縛る己など生きる価値などカケラもない。そう言ってまた自殺しかねない。そう告げられた。
「ちょっとそれどういうこと?」
それじゃあまるで...暁斗は────「あれ?紗夜姉どうしたの?随分と珍しい組合わせだね」
一ヶ月ぶりの懐かしい声がした。
「...暁斗」
「あれ、山吹さんどうしたの?随分暗い顔をしてるけど」
山吹さん、か。話には聞いていたけどこれはちょっと堪えるな。
「大丈夫だから。心配要らないよ」
とりあえず今日の目的を果たそう。それに、今の暁斗に心配されてもあまり嬉しくない気がする。
「暁斗。貴方に話があるの。少し時間を貰えないかしら」
「構わないよ」
深呼吸を数回繰り返し、意を決して部屋に入る紗夜さん。そして外で待つ私たち。正直この場にいるのは暑いのでどこか涼しいところにいたい。
「折角だから上がって行ったらどうですか?お茶ぐらいなら出しますよ?それに外で待たせるのも悪いですし。何より外は暑いですよ?」
遠慮しないで。、このタイミングで暁斗にそれを言われるとすごく断りづらい。3人で顔を見合わせた後、お邪魔することにした。
暁斗に氷川姉妹に私とつぐみと巴の計6人が席に着く。
「それで紗夜姉。話って何?」
まるで私たちのことを視野に入れていないような気がする。
「その、今までのこととか...」
その言葉を皮切りに紗夜さんの悔恨と罪悪感、それにより謝罪の念が溢れ出す。己の心の醜さ。そして己のせいで追い詰めてしまったことへの懺悔。。
「あたしも!暁斗にひどいことしちゃった...」
そして続いて日菜さんの謝罪。自身の隔絶した才能が故に生じた軋轢。その埋め難い差をようやく認識した。無知故にどれほど負担を掛けたのかを自覚した。と、それは傲慢でありながら謙虚でもあった。
2人の言葉を人によってはただの自己満足だと言うのかもしれない。それでも謝意は伝わってくるし、言われてる暁斗の判断が全てだろう。当の暁斗の表情に変化はない。真剣に聞いているのはわかるが何を思っているのかは読み取れない
2人の言葉が終わり数秒の沈黙。
「...うん。わかった。許すよ」
「「「......」」」
...いくらなんでもあっさりしすぎじゃない?
「暁斗はそれでいいのか!?」
「いいのか?ってなんですか?」
自殺を考えるぐらいまで追い込まれてたのにそこまで軽いノリで大丈夫なわけないでしょ...流石の姉2人もいくらなんでもおかしいと思い出したようで
「暁斗?無理しなくていいのよ?思ってることを話して」
「そーだよ!全部聞くから話してよ...」
端から見たら謝ったところで許してもらったけど、あまりにあっさり許されて物足りず、自ら罰を求めてる。といった感じなのだろうか。
「いや、そもそもさ...」
何故こんな単純なことをわからないのか?と心底不思議そうに思っているかのように言葉を続けた。
────「なんで俺が怒ってるって思ってるのかがわからないんだけど...」
...「全部自分が悪いのに」言葉にはしなかったが、恐らく後ろに続いていた言葉はこれだ。幾ら何でもあんまりだ。確かに暁斗に日菜さん達と同じものがあればこうなることは無かっただろう。でもだからって暁斗が全部悪いなんてことあるのだろうか?あまりに理不尽過ぎる。ここまで追い込んだ人たちへの怒りと悲しみではちきれそうだ。なぜかこっちが泣きたくなってくる。
「第一俺がそんなこと言ってい「いい加減にしてよ...!」
「いくら暁斗が悪かったとしても、暁斗だって人間なんだから怒ったり悲しんだりしていいんだよ。わがままだって言っていいんだよ!」
「なんで暁斗だけこんなに我慢しなきゃいけないの!?おかしいよ...」
「何を言って...」
「そもそも暁斗前に言ったよね?『私だけが我慢する必要なんてない』って。なんで自分にはそう思えないの?」
「もう少し自分を大事にしてよ...お願いだから」
多分泣きそうになっていた。でも伝えなきゃいけなかったと思うから。大事なことだと思うから。きっとみんなそう思ってたから止めなかった。
「クックック……」
「...暁斗?」
様子がおかしい。今までの暁斗と何かが、大事な何かが違う。
「フハハハハ」
これは何かまずい。理屈抜きで、直感でそう感じた。
「アタシ、これ見たことある...あの時の暁斗だ」
あの時って...まさか
「ハーッハッハッハ!!」
「最初に会った時の...」
すなわち、非常にまずいということだ。
「...何が自分を大事にしろだ。ふざけるなよ」
「...暁斗?」
「姉の劣化物でしかないのに?出来損ないなのに?出涸らしなのに?結局姉ありきなのに?そんな自分を大事にできる要素がどこにあるんだよ答えてみろよ。ないだろ?ないよな?ないに決まってんだよ。事実だからな」
「そもそも始まりから姉の為なんだから、俺は元々そういう《物》なんだよ」
「え?どういう...こと?」
「そんなに聞きたいなら話してやるよ...もうなんかどうでもいいわ」
狂喜と絶望。自嘲と哄笑。薄ら笑いを浮かべた道化が遂に其の真の姿を現した。謳い上げるは
長い。そして沙綾が特大の地雷を踏みました。
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