もし氷川姉妹に弟がいたら   作:タクティくす

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遅くなりました。お盆は忙しかったので...

先日のこころ√はいかがでしたでしょうか。


尋問開始

物語の始まりと同時にどこかで誰かの物語が終わっていて、何かが生まれるのと同時に何かが死ぬ。創造と破壊は常に同時に起こっている。

 

なら、氷川暁斗の始まりと終わりはどこにあったのだろうか?生まれ落ちたその時から確かに、断崖に疾走し続けるしかないことはほぼ決まっていた。だが、その選択を選んだのは紛れもなく氷川暁斗自身だ。道を外れる選択もあったはずなのに、どうして彼はそのレールの上を走り続けていたのだろうか。たしかに愚鈍だが、身の丈をわきまえることは出来ていたはずなのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが彼が壊れた元凶であり、今もなお折れずに残り続ける道標。

 

 

 

 

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「お父さん...何を、知ってるの...?」

 

本当は怖い。知りたくない。知ってしまったら、受け入れてしまったら戻れない。そう思いながらも聞かずにはいられない。このままだときっと前には進めない。そんな予感があった。

 

数瞬の沈黙、表情から何かを吟味している様子が伺える。私に対して言葉を選んでいるのか、或いは...暁斗と何かしらの約束。巴との約束を考えると、暁斗は意外と見栄っ張りというか、弱味を見せたがらない。きっと「みんなには内緒にしていて欲しい」と言われていたに違いない。

 

「...本当は沙綾には言わないつもりだったんだ。暁斗君は多分こんなことを望んではいないからね」

 

そう言われると少し躊躇しそうになる。流石にそろそろ暁斗の好きなようにさせてあげたいと思う気持ちがあることは否めない。でも、私は暁斗を捨て置けない。これからもずっと一緒だ。離れていくとしても双方笑ってまた会おうって約束できる終わりじゃないと認められない。

それに、今動かないとだめだ。このままだと手遅れになってしまう。根拠はないがそう感じているから──

 

「暁斗君が最後にウチに来たのは夏休みの最初だ。確か、ちょうど沙綾がライブハウスでライブをやるって話していた頃だね」

 

つまりCiRCLEでのライブが決まった直後ということになる。

...あれ?待ってよ。それだと何かがおかしい。

 

「沙綾、不思議に思わなかったかい?何故私が知っているのか。と

 

いや、正確には────」

 

──そんなに前から知っていながら何故暁斗を引き止めなかったのか。そして、どうしてそれを私に教えてくれなかったのか。

一応ある程度の予測はしているが、はっきりとはわからない。

 

「暁斗君がここに来ないのは暁斗君自身で決めたことなんだ」

 

まずお父さんやお母さんがもう来なくていいと伝えたわけではないことを明確にした。それは無いとは思っていたが、実際にそう言われると安心する。だが、同時に残った可能性は────

 

「凄く言いにくいんだけどね、暁斗君は自分の意思でここに来ないことを選んだよ。止めるに止められなかった」

 

...そうだ。私はその場にいなかったが、暁斗は以前にもフェードアウト。いなくなるという選択肢を取ろうとしていた。文化祭、私が悩んでいる理由が暁斗にある。とお父さんから告げられた時にそれを逡巡なく選ぼうとした。と聞いている。でも、今回は違う。お父さんが暁斗を止めなかった。その意味は

 

「暁斗君は自分の意思で、()()()()()()()()()選んだんだよ」

 

だから止められなかった。止めた

 

それが暁斗自身が選んだ答え。私たちのことを考慮しない暁斗自身の身勝手とも思える決断で、でも同時に本当に珍しい暁斗自身のための願いだった。

 

多分何かがあって、この場所にいることも、Afterglowのみんなやはぐみ達といることも暁斗にとっては苦痛になってしまったのだろう。

暁斗の身に何があったのか、全容はまだわからない。これはただの直感とも言えるけど、間違っていないと思う。

だって暁斗は事実だけしか話していなかったから。そこで暁斗自信がどう思っていたのか。何に対して失望したり絶望したのかまだ本人の口から聞いていない。

 

 

 

 

本当はこの選択を、現実を尊重すべきなのかもしれない。

でも私は嫌だ。認めたくない。そんな終わりなんて以ての外だ。そもそも何の説明もなしにいなくなるとかフザケンナって言わせて欲しい。とんでもなく我儘で身勝手なことを考えているのはわかっている。

でも私に「我儘になっていい」と言ったのは暁斗だ。加えて、あの日以降で暁斗に甘えたことはまだ一度もないのだから。最低でも別れの挨拶ぐらいはしなくちゃ受け入れられそうにない。だから、迷惑がられようが、一度2人で話がしたい。

 

 

 

 

「...うん。沙綾、私や千紘や、純と紗南の分も頼んだよ」

 

どうやらこちらの考えていることなんて父親にはお見通しらしい。少し気恥ずかしいけど背中を押してもらえたのは心強い。

 

 

決意を新たに、内に秘めるのは覚悟。暁斗を傷つけかねないことも、恐らくぶつけられるであろう憎悪を百も承知で我を通す。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

沙綾と遭遇したのは不味かった。他の奴らなら煙に巻くことができるけど、現状沙綾だけは難しい。以前交わした約束が残っている。それを盾に何かしらのアクションを要求してくる可能性が残っている。

 

鬱陶しい。煩わしい。もう放っておいて欲しい。見たくない。知りたくない。嫌だ。怖い。

もう変わっちゃったんだから、姉達に取られてしまったんだから、態々それを突きつけに来なくたっていいじゃないか。もうずっと前からわかりきってたことを改めて教えられても苛立ちしか残らないだろうから。

 

だからこのままでいい。このままでいたい。

 

 

 

 

 

辛いとは思わない。むしろ今までが都合の良過ぎる奇跡だったと思うから。こっちの方が収まりがいいとすら感じている自分がいる。

 

悲しくもない。姉が凄い人なのは、世界中の誰よりも俺が一番理解しているから。俺が霞むのも仕方がない。

 

 

ほら、誰も傷つかないハッピーエンドがそこにあるじゃないか。俺は元の場所に戻り、あいつらには俺よりすげー姉達がいるんだから。その方がきっと良いんだろうと確信している。

俺に出来ることで姉にできないことなんて何一つありはしない。完全上位互換がいるなら誰だってそっちを取る。俺だって第三者ならそうするだろう。

 

 

だから1人でいい。1人になりたい。だというのに────

 

 

「何か用ですか?...山吹さん」

 

普段は過剰過ぎるぐらいに他人に気を遣うお前が、どうして今ここに、俺の目の前にいるんだよ...沙綾。珍しすぎて思わず反応しちゃったじゃないか。

 

 

...でも、何故か心のどこかでなんとなくそんな気はしていたよ。

そして、それこそが俺が間違っていないことの証明に他ならないから、今ここに沙綾がいることを鬱陶しいと思うと同時にこの上なく嬉しいと思っているよ。人から肯定なんざされ慣れていないから、間違ってないと保証されるだけでも嬉しい。なんて、少々歪みすぎてるような気がしないでもないが。

 

 

さて、どうやって片付けるか。本当はガン無視するのが最善だったんだけど...後が面倒なことになるし、沙綾ひとりを相手にする方が気楽な気がするな。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

なんとか追いついた。商店街内の土地勘はこっちに分がある。近道やショートカットを駆使して数分の差を埋めることができた。少々蜘蛛の巣とか掛かっているような気がするが、今はそれより重要な問題がある。女の子としては少々はしたないが

 

「せめて、ちゃんと話がしたいなってさ」

 

「...」

沈黙と静寂が訪れる。全てが停止した中虫のさざめきだけが時の流れが存在することを知らせてくれる。

 

やがて暁斗が口を開いた。

 

「...蜘蛛の巣とか色々ついてるぞ」

 

淡々とした様子で、少し前とは明らかにそこに籠る温かさは異なっているけれど、決してこちらを邪険にするわけではない不思議な声音。...それはただこちらに対して無関心なだけなんじゃないかと思うと胸が痛い。

 

「...あはは。急いだからね」

 

うまく笑えてるかはわからない。

 

「...ほらじっとしてて。取るから」

 

「ありがと」

 

...こんなやり取りすら最早懐かしくて、どことなく感慨深いものがある。

 

どうせ暁斗のことだ。多分私がこうすることもなんとなくわかっていたのだろう。現に所々汚れている私の様子に多少驚いてはいるものの、ここにいること自体にはさほど驚いていないように感じる。

 

「よし、全部取れた...それで?俺に話したいことって?こっちにはそんなの無いんだけど」

 

「教えて欲しい。なんでうちやつぐの家に来なくなったの?」

 

本当は皆から...なんだけど、今知りたいのは正直自分のことだったからこの場ではこの形になる。

 

「説明しても沙綾じゃ理解できないからパス」

 

 

「パスなし。説明しないと何度でもこうするよ?」

 

そう、何度だって。いくらなんでもあのままでは誰も納得なんてしないことぐらい暁斗ならわかるはずだ。今ここで洗いざらい話すか、もっと面倒くさい状況で巴やつぐみに捕まるかどっちがいいか天秤にかけているに違いない。自慢にはならないが、暁斗にとって一番相手にするのが楽なのは私だって自信がある。はぐみや巴は少々脳筋なところあるし、つぐみは別のある部分で暁斗とは相性が悪い。だから...

やがて、呆れた顔をしながらため息をついた。...ごめんね。これだけは譲れないから。

 

 

 

 

 

「わかったわかった。何が聞きたい?」

 

とりあえず第一関門突破って感じだ。ここで逃げられなかったのは大きい。

 

「ん〜...色々聞きたいんだけど」

 

...さて、果たして何から聞くべきなのか。どうしてうちに来なくなったのか?いや、多分はぐらかされるし、根っこの問題があるからこれじゃダメだ。夏休み何をしてたの?これも多分「自分探し」って返してくる。タチが悪いのが恐らくこれが嘘ではないこと。本当だけど、全部は語らない。それは今この場では避けねばならない。普段から暁斗が各所にかなり気を回していたのは知っているから、建前とか方便とかで逃げられないように聞かなくちゃいけない。

 

「...特に無いなら帰っていい?」

 

本当は私がとっかかりを掴みかねていることなんてわかってるくせになんて白々しいんだ。とはいえ、そろそろ話を切り出さなければならない。

 

 

 

「...えっとね」

 

それは、きっと暁斗にとってのタブー。恐らく一番聞かれたくないこと。だからこそ私たちの前から姿を消したんでしょ?

 

 

「お姉さんたちと何があったの?」

 

「何か」じゃなくて、「何が」。確証はないけど確信はある。

 

「......」

 

暁斗の表情が固まった。いや、能面のような顔になりながらも瞳だけは揺れている。

 

「...暁斗?」

 

 

 

「うん。そうそう。そんな感じ」

 

「うちの姉さん凄いからさ...」

 

それは知ってる。このあいだのガールズバンドパーティでまじまじと見たし、風の噂でもそんな話を耳にすることがある。

 

「本当になんでも出来てさ」

 

「うん」

 

「一方で俺はダメダメでさ、何をやってもあの2人より時間がかかるし結果も月とスッポン」

 

 

何も言えない。あの才覚を目の当たりにしてしまったから暁斗の言ってることがなんとなくわかってしまう。

 

「...そ。なんとなく理解できちゃうだろ?」

 

「...」

 

「沈黙は肯定と受け取るぞ?そんでさ、どうやったって勝ち目なんてなくてさ、どうにかあの2人がいないところでコソコソと生き延びるしかなくて...」

 

...嫌でも理解できてしまった。そしてこれはもう。

 

「...みんな、姉と関わりを持っちゃった」

 

 

CiRCLEでライブをする。となった瞬間から、こうなるって暁斗の中では決めていたことだということになる。

 

「俺にできて2人に出来ない事なんてないから」

 

「全部全部全部...俺より出来がいいから」

 

「持ってかれちゃったよ。ぜんぶ」

 

「...」

 

 

「違うって言いたいんだろうけどさ、俺邪魔なんだよね」

 

「え?いや、そんなこと...」

 

ない。絶対にそれは有り得ない。

 

「この間...っていってももう数カ月前か。つぐが過労になったのは元を辿ると俺のせい。沙綾がポピパに入るかで最後に悩んだのは...」

 

たしかに暁斗のことだ。でも、それの何が悪いのだろうか?大事な存在だし切り捨てることができないから悩むのだ。

 

「それは...」

 

「それにさ、俺いなくても問題ないじゃん」

 

突然何を言いだすんだ。大問題だ。

 

「沙綾には香澄がいるだろ?」

 

「あいつが全部俺以上のことしてくれるよ。同性だしそっちの方が良いだろ」

 

「だから俺いらないじゃん?」

 

 

...さっきから訳がわからない。これが暁斗なりに考えた結果なのはわかる。けど、そこへ至った経緯が全然わからない。本当にらしくない。

 

「誤魔化さないでちゃんと話してよ。何があったの?」

 

少し間が空き苦笑いが表に出てきた。

 

「...やっぱ言わなきゃだめ?」

 

「だめです」

 

「まあ、そうだよな」

 

「全部話して。じゃなきゃ納得できない」

 

というか、暁斗ならそれぐらいわかってただろうに。

 

「...はぁ。わかったわかった。話せる範囲で話すよ」

 

妙に引っかかる言い方だな。とりあえずはここいらで手を打とう。

 

「でも、その前に」

 

「?」

 

「もう夕方だし一回帰りなよ。みんな心配してるぞ」

 

「逃げないよね?」

 

「逃げたら余計面倒なことになるだろ?」

 

「そうだね。つぐみや巴と一緒に家まで行くかな」

 

「うわぁ...それは嫌だな。適当に飯食った後またここに来るから」

 

そういえば御飯時だった。

 

「まさかとは思うけどお腹空いてたから...」

 

「...ノーコメント」

 

 

「もう...それじゃあ、後でね?」

 

「おー」

 

急速に弛緩していった空気、少し前の普通のやりとりに限りなく近かった。

 

それが暁斗の最後の未練を絞り出して振り払うためのものだったと知るのはもう少し後のことだった。

 

 

日は沈んだ。柔らかく温かい時間は終わりを迎える。




次回遂に暁斗視点で独白

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