もし氷川姉妹に弟がいたら   作:タクティくす

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美咲で死ネタ使ったから本編では暁斗の逃げ道はなくなりました。
彼には不退転の決意で頑張って欲しいですね。

この小説って懐古厨(ガールズ)が古いもの(暁斗)への愛着を捨てきれないって見方すると印象変わるよね。今回は割とそんなノリ。
紗夜さんマジ紗夜さん



裏側

どこにも行かないで。置いていかないで。俺はとても遅いから、駆け抜けるあなたたちに追いつけない。

 

ああ、だから待ってほしい。独りにしないで。2人と並べる未来の形をこの遥かな旅路の果てに掴めると祈信じたいから。

それが限りなく虚無だとしても、可能性だけは捨てたくない。

 

 

俺は地べたを這いずり回る。天を見て、空を見て、あの高みに届きたいと恋焦がれながら沈んでいく。

 

あれが欲しいあれが欲しい。けれど悲しい届かない。

 

 

だから祈ろう。氷川暁斗という存在の全てをかけてあの星に届く手が欲しい。どこまでも届く手。”力”が欲しい。

 

2人とも俺を置き去り先を行く。追いすがりたいが追いつけず、見える世界も過ごしている時間も異なってしまっている。その差を埋めなければならないから

 

追いつけないなら止めてしまえ。足を引け。天上の星を奈落の底へと引き摺り下ろせ。天の零落を願うのだ。

 

 

 

 

並び立ちたいと願えば願うほど、それを貶めていくという矛盾。天上の星が地へと落ちてきたら、それは最早路傍の石と変わらないというのに、流れ星だって宇宙から見てしまうとただの星くずであるのと同じことのように近づけば近づく程に価値がなくなっていくのなら、この願いは無意識のうちに尊い光の破滅を祈っていることに他ならない。

 

絢爛たる輝きなど滅びてしまえ。正しきものを蹂躙したいという敗者の僻みや妬み。

 

 

これが氷川暁斗の願いの別側面。決して満たされてはいけない悪を孕んだ醜い欲望。

 

 

こんな腐ったものをそばに置いちゃいけないよ。美しいものはやっぱり美しいままでいて欲しいから。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「あれ?おねーちゃん、暁斗知らない?お風呂空いたんだけど 」

 

「さっき出かけたわ。コンビニだって」

 

「んー?暁斗って帰りに買い食いするとかはあってもこの時間から買い物ってしないよね?」

 

 

 

「 ...そうね。多分嘘じゃないかしら」

 

まあ、ここ最近のパターンからの予想でしかないから自信はないけれど、何を買いに行くか言わなかったのが怪しいと思う。

 

「えー!?じゃあ暁斗はどこいっちゃったの?」

 

「わからないわ ...無理には聞けないから」

 

正直なところ聞くのが怖いのだ。暁斗は“許してしまう”から。それに甘えてしまいそうだから、きっと遠慮なく聞いてしまう。暁斗自身がどんなに傷付くのかを慮外に置いてしまいそうになる自分がいる。

そんな醜い自分を暁斗を通じて突きつけられるのが怖くて怖くて堪らない。

 

勿論、何処かでまた話をしなければならないのはわかってはいることだけれど、どうしても億劫になってしまう。

 

私は自分自身の弱さをあっさり認められるほど強くない。暁斗みたいに認めた上で先のことを考えたり、仕方ないと受け入れることも出来ない。

 

日菜や暁斗がどう思っているのかは定かではないけれど、私はそう大した人間じゃない。現に今実の弟とすら向き合えない臆病者だ。

 

「 ...そっか、今日は帰ってこないのかな」

 

明らかに気落ちした様子だ。ここのところの日菜は大分沈んでいる。日菜も罪悪感や責任を感じているのだろう。

彼女が秘めたその暴力的なまでの可能性は遅咲きの花ごと根こそぎ吹き飛ばしてしまう。その嵐が過ぎ去った後にふと振り返ったら、氷川日菜は多大な戦果を上げている。その際に轢殺してきた者の中に暁斗がいた。

 

正直日菜は謝ったところでどうにもならないと思う。もちろん申し訳なく思う必要がないというわけではない。ただ、“これからどうするのか”という点においてはどうにも出来ない部分が存在する。

 

考えてみてほしい。暁斗を守るためにこれから先日菜がありとあらゆる面で才能を発揮しないなんてことになるとしたら、勿論日菜の居場所も無くなるが、それ以上に暁斗が糾弾されるだろう。『お前のせいで氷川日菜が』『世の損失』『存在が悪』おおよそこのような心ない言葉が暁斗に今まで以上に向けられることになるだろう。それは恐らく多くの人が認め、寧ろ正しいとまで論じる笑顔の人権侵略。

 

『氷川日菜を輝かせるためなら是非もなし。寧ろ身に余るその大役を任されたことに咽び泣け』

 

それが現実だったと暁斗から突きつけられた。

 

氷川暁斗は姉の踏み台として生かされている。そう告げていた暁斗の言葉は成る程、今まで気づかなかったが、全く的外れというわけではないのだろう。

残酷だが、他の大多数から見れば暁斗はこうなって然るべきってことなんだと思う。勿論当事者である私が言っていいことではないが、私が何をしてしまったのかは改めて自覚はするべきことだ。

 

現状の打開策はあるにはある。『日菜や私や暁斗が全力を出してる上で拮抗すること』。それも1つや2つではなく恐らくは多くの面で。三者三様の同格が成すトリニティ、それさえあれば何の問題もない。

方向性が違えど、絶対値が等しければきっと共存できるだろうから。

しかし、これは実現不可能な理想論でしかない。そもそも出来ているなら事態はこんなに拗れてなんかいない。

 

ならば、必要なのはその妥協。何かを諦めるというありふれた処世術なのだが、どう足掻いても暁斗だけが割を食う羽目になる。というよりかは、暁斗だけが嫌な思いをするというのが正しい。このままでいることも、再起することも、あるいは ...いずれにせよ私からすればどれであっても贖罪(すくい)にしかならない。そして、恐らく日菜も同じだ。

だから暁斗がどう思うかに全てがかかっているのだが、どれを選んでも暁斗は苦しむだろうということが眼に浮かぶ。あの子はどこか自分自身を軽く見ている節があるから、どう選んでもその際に自己嫌悪に苛まれることは想像に難くない。

 

 

一体私はどうすればいいのだろうか。何をするべきなのか。

 

 

「おねーちゃん?」

 

日菜が不安そうな顔をしながらこちらを覗き込んでくる。

 

「 ...考え事をしていたの。暁斗とどう向き合えばいいのかって」

「う〜ん、わかんない!」

 

...は?

 

「日菜?どういうつもり?」

 

事と次第によっては本気で怒らねばならない。流石の私でもこれは看過していいことではない。

 

そんな私の剣幕を感じ取ったのか慌てた様子で日菜は告げる。

 

「だ、だって、暁斗が何を考えているのか全然わからなくて ...」

 

「 ...」

 

「ほらあたし全然人の気持ちなんてわからないじゃん?だから、どんな言葉が暁斗にとってるんってくるのか、るんってこないのかわからなくて、頭の中グチャグチャで ... 」

 

「 ...そうね。私もよ」

 

そう、私も暁斗のことがよくわからなくなっている。ここ最近で一気に色々なことを知ったけれども、大半は『何があったか』という事実とばかりで、暁斗本人がどう思っていたのかはあまりわかっていない。

 

やはり、まずは知ることから始めるべきだろうか。けれど、どうやって?

 

 

 

そんな風に悩んでいた折に一通の着信が来た。

 

「あれ?さーやちゃんからだ」

 

山吹さん?もしかして家に忘れ物でもしたのだろうか?

 

 

 

 

「 ...私にも来たわ」

 

 

『LIME:山吹沙綾が位置情報を送信しました』

 

 

位置情報?どうしてだろうか?SOSを出すならPoppin’Party のメンバーに出すのが筋のはずでは?

 

『山吹沙綾:今暁斗と2人でいます』

 

...この時間から?あまり関心はしませんね。不純異性交遊かしら?

 

『山吹沙綾:今から“色々と”話を聞きます』

 

...やっぱり私や日菜よりそっちの方が信用できるのかしら。当然と言えば当然なのだが、姉としてどこか釈然としない。

私と同様に日菜も浮かない様子だ。

 

『山吹沙綾:もしかしたら、これが最後かもしれません。後悔のないよう考えて行動してください』

 

『山吹沙綾:今の暁斗はあくまで“私と一対一だから”対話に応じてくれています』

 

 

最後。その言葉が重くのしかかってくる。それが終わったら暁斗は一体どうなってしまうのだろうか。

 

 

「おねーちゃん、どうしよっか」

 

そんなの行くに決まっている。行くしかない。ただ、山吹さんの言葉通りなら行っても直接介入することは無理だろう。

 

「そうね。山吹さんが何を考えているのかはわからないけれど、行くわよ」

 

なんとなく姉としての役割を彼女に取られたような気がして癪だけど、今更家族面していいものなのかと言われると口を噤むしかない。

けれど、ここで何もしないのもそれはそれで駄目だ。ここで逃げるわけにはいかない。わかっている。わかっているけど...

 

「...おねーちゃん?」

 

「日菜は怖くないの?暁斗と会うのが」

 

日菜の場合は自覚した上でではなく、無意識だった部分があるからもしかしたら私より軽傷なのかもしれない。

 

「えー?そりゃ怖くないって言ったら嘘になるけど...()()()()()より暁斗がどっか行っちゃう方が嫌かなー」

 

 

 

 

「...そうね。その、通りだわ」

 

たしかにそっちの方が嫌だ。ちょっと私のことも一緒に蔑ろにされているような気がしたけれど、今は些細なことでしかない。ひとまず動こう。

 

結局私は自分のことしか考えていない。所詮人なんてそんなものだと言ってしまえば確かにその通りかもしれないが、一度自覚してしまったら気持ちの良いものではない。

私の咎から、暁斗から目を逸らし続けたツケが今になって回ってきているのに、まだ逃げ腰なのが良い証拠ではないか。

 

 

「うん!だから一緒に行こう」

 

2人で行けば怖くない。か

ああ、なんて強くてなんて眩しい。双子なのにどうしてこうも差がついてしまったのだろう。一体追いつくにはどれほどの時間がかかるのか、先は見えそうにない。

 

けれど、私は“おねーちゃん”なんだから。ここは頑張らねば。

自己を否定されること、それは暁斗が今までずっと味わってきた痛みなのだから、私も耐えなきゃダメだ。

 

「ええ。ありがとう、日菜」

 

今こそ過去と向き合う時だ

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「長くなるから、飽きたら帰っていいよ」

 

その日私たちは真実を知ることになる。

 




姉が頂点に狂い咲くなら弟は(氷川家基準の)底辺で狂い哭く。
...似た者姉弟で実になによりです。

暁斗の業が加速していく告白パートはいよいよ後半戦。

アンケはメンツで察して。あくまで参考程度ですけど

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