もし氷川姉妹に弟がいたら   作:タクティくす

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この話はある意味で私の二次創作観が出ているのかもしれませんね。


繋がり

果てしなく続くこの道で、一つだけ決めたことがある。

輝かしい明日(ミライ)のためにたった1人で進み続けること。

 

 

諦めない。いつか必ずあの日へ帰ってみせる。その為に炉心(ココロ)燃料(オモイ)をくべ続ける。

 

 

まだまだ闇の中で踠いているだけで、先など一切見えないけれど、こんなところで終わらないし終われない。

 

 

だって俺はあの2人の弟だから、そうでなければならないのだ。

 

何度だって立ち上がろう。なに、俺自身も含めて誰もすぐに結果が出るなんて思ってはいまい。一度や二度の失敗がなんだ。そんなもの織り込み済みだし、そもそも当たり前だ。

 

舐めてかかるな...俺の(憧れ)は安くない。第一俺風情がそんな簡単に追い抜いてしまえる物なんて、到底憧れと呼べる代物ではないだろう。当然目指すべき場所は遠く険しい。我は求道を行く()なり。

 

 

走り続けよう。例え亀でもまずは走らなければ何の意味もないのだから。それを成し遂げるまでは倒れるわけにも折れてやるわけにもいかないのだ。

 

 

挑み続けろ。止まってしまったら、もう二度とその差が埋まることはない。一度でも止まったらそこで俺は俺でなくなってしまうから...

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

氷川暁斗の存在意義は自身の敬愛する姉と、沙綾を救い出した戸山香澄により簒奪された。沙綾の慮外にある無情な現実。さっきから意味のわからない展開が続いている。

 

 

「さて、そんな訳で香澄や姉さん達へとその場を譲り渡した訳ですが...それはそうと、俺と姉を同時に見てどう思った?」

 

 

「...」

 

山吹沙綾はその質問に答えられない。意図が全く掴めないからだ。会話の連続性が一切ない。先ほどまで自分たちへの想いを赤裸々に告白していた暁斗に対して胸からこみ上げてくるものがあったのだが、突然一気に冷や水をぶっかけられたような唐突で奇妙なBy the way。まるで空腹時のおたえのような荒唐無稽な現象と、それと同時に重力が増したような重苦しい空気を前にして、思わず息を呑んでしまった。

 

「正直あんまり似てないとか、本当にこの人が暁斗のお姉さん?とか思わなかった?」

 

「それは...うん。最初に聞いたときは驚いたよ」

 

戸惑いながら問いに答える。特に変哲のない質問であるはずなのに、嫌な予感がするのは何故なのだろう。そんな疑問を浮かべた数瞬後...

 

「だよねー。うちの親もそれを疑っててさー。いや、その方が嬉しかったんじゃないかな?」

 

さらりと看過してはいけない発言が飛び出した。

 

「ちょっ...え?どういうこと?」

 

正直嘘だろうと思いたい。もう役満クラスで色々悲惨なのにこれ以上一体何を増やすというんだ。まさか血の繋がりがないとか托卵だったとか言うんじゃないだろうか。

 

「簡単な話、自分の子だと思いたくないってだけだ。なにせ姉に比べてあまりにお粗末なんだ。寧ろ思わない方が人としてどうかしてるよ」

 

そもそも姉たちの為に捧げる生贄だったから仕方なく産んだだけであって本来は産みたくもなかった存在だ。追い出せる口実があるなら喜んで追い出すだろう。というか、何故今追い出されていないのか正直わからないとせせら笑う。大方搾取でもするつもりなんだろうが。

 

 

「どんな理由が欲しかったのかはわからない。父親だけじゃなくて母親もだったから托卵じゃなくて取り違えとかかな?」

 

義務教育を終わらせたら家から追い出す。実際家などの手続きさえ行ってしまえば後は子供の自主性云々で対外的には問題ない。

 

「まあいずれにせよ、実子じゃなければいいのにって思われてたのは確かだよ。似てないし割に合わないから気持ちはわからないでもない」

 

「そんでさ、DNA鑑定したんだよ」

 

「あの時の親の顔は傑作だったね。まるでこの世の終わりみたいな顔してたよ...残念ながら親子関係があることが証明されましたとさ」

 

その血の繋がりこそが忌々しいと感じていた両親にとっては最悪の結果だった。

 

────本当に自分たちの子だなんて信じたくはなかったと。

 

「いやー泣かれたよ。『血の繋がりがあることがショックだ』とか『あんたなんか産みたくなかったのに、なんで死んでくれないんだろう』とかさー別に思うのは構わないけど態々直接俺に言うなよ子供かよってね」

 

それは混じりっけのない本音で、虚飾なんて一切ない真心であった。

彼らは聖人君子ではなく人である。自分以外の全ては己のための道具であると言って憚らない下衆でもなければ、始まりから愛せる要因のかけらもない存在に無償の愛を注ごうとするアガペーに偏った怪物でもない。現実はこのような体をなす。寧ろこの混沌さこそが人である。

 

とはいえ、

 

「まあ、冷めたよね。色々と」

 

頭では彼らはどうしようもないくらい人として純粋なんだと分かってはいるが、心は不快感を催す。そんな当たり前の人間らしさがどうしようもなく沙綾を安堵させている。それすらなくなっていたなら暁斗はもう手遅れだった。

 

「そんでさー親とは険悪だし?ぶっちゃけCiRCLEのライブ終わった後って暇でさ?前からいつかは行かなきゃって思ってた爺ちゃんの家に行ったんだわ」

 

暇だから、という言葉をどこまで信用していいのか沙綾達は判断することができなかった。当たり前の話であるが、暁斗は結構強がりだし見栄っ張りだ。今までだって限界ギリギリだったくせに自分全然平気ですって顔していたのだから、精神崩壊一歩手前ぐらいにはやせ我慢をすると考えておくべきかもしれない。それと同時に今この場では沙綾に対して()()本音を曝け出していると考えるべきなのか。

 

 

沙綾の天秤は揺れている。

 

「爺ちゃん?お金持ちなんだっけ?」

 

「そうそう。その爺ちゃん。なんかド田舎に隠居してるらしくてさ、家探すの苦労したよ」

 

たははと笑う。久しぶりにそんな表情を見せる。はぐみやあこに振り回されている時はよくそんな顔をしていたっけ。

 

「正確な住所がわからなかったから近辺探し歩いたんだ。...そうそう、ポピパの大ファンだって女の子に会ってさ。その子すごいよ?態々岐阜からSPACE最後のライブ見にきてたみたいでさ?

俺もなんとなく覚えていたから道聞くついでに世間話として話題に出したらすげー食いついてきてさ、そのままその家に一日厄介になったりした」

 

「...」

 

さらっとその日会った女の子の家に泊まっているとか言い出したけど、暁斗だし特に間違いを犯したりはしないだろう。.実際巴やつぐや私の家に泊まったりした時は何もなかったし。

モカが前に言っていたが、やっぱり暁斗は枯れてるんじゃないだろうか?

 

「その子本当にポピパのこと大好きみたいでさ。なんか嬉しかったし、沙綾にとってもポピパって大きな存在なんだなってあらためて実感してさ」

 

「やっぱ間違ってなかったんだなって」

 

不幸にもPoppin’Party の大ファンという少女が暁斗の決意を固めてしまっていた。自身の選択が正しい物であると突きつけられた。

 

「いやー。あんまり褒められたことないから柄にもなく照れちゃったよ」

 

...そんな冗談ちっとも笑えない。いや多分本当のことなんだろう。暁斗の歩んできた道のりはそれを有り得ないと切って捨てることが出来ない代物だ。だからこそ、想定外の肯定に弱い...のかもしれない。

 

 

「と、まあ紆余曲折ありまして、とうとう爺ちゃんの家に行ったわけですよ」

 

ここまでで既にお腹一杯なのだが、まだまだ続くのだ。

 

氷川暁斗の慟哭(さけび)はこんなものでは終わらない。暁斗の心はこんな程度で折れるはずが無いのだから。

 

遂に夏休みの真相が幕開く。そこにあるのはただ悲しい現実ばかり。それら全てが氷川暁斗という1人の背中にのしかかっていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

鬱蒼とした木々をかき分け、辿り着いた場所は一軒家だった。あの爺さんどうしてこんなど田舎に居を構えているんだ?金は持ってるんだからもっと住み良いところとか選べたろうに...

ここまで来るのに、暑いし、ヒッチハイクや農作業の手伝いやらで凄い時間がかかってしまったのだから悪態も1つや2つ言いたくなるというもの。

あの爺さんどうして自分の住所を明記せずに年賀状やら何やら送ってくるんだよ...

 

まず、目にした率直な感想は「思っていたより小さい」だった。よく考えたら1人しか住んでいないのなら大きさなんてあるだけ手間だし無駄なのだが、金持ちだと聞いていたからお手伝いさんでも雇って悠々自適に暮らしているものだと思っていた。

実際のところは小さな畑で土いじりをしながら自然とともに呑気に過ごしているようだ。

 

 

爺さんは俺を可愛がってくれていた。女の子である紗夜姉や日菜姉に物凄いデレデレしていたのと比べるとちょっと微妙なところはあるが、孫バカだったし父や母よりは全然マシだった。実際のところは配偶者を失った悲しみを孫を可愛がることで埋めていただけなのかもしれないが、それでも良くしてもらったことは確かだ。

爺さんは姉が生まれる少し前に早めの定年退職...というか、社長の座を母の兄、つまり俺の叔父にあたる人に譲って隠居を始めたから会う機会はあまりなかった。

 

こうして会うのは何年ぶりだったか。最後に会ったのは大分前だが今でも呵呵と笑う好々爺なんだろうか?

 

呼び鈴が無いため扉を叩く。

 

 

「ごめんくださーい!」

 

そういえばアポなしできたし、今日は居ないのかな?この時期だから風邪を引くことはないけれど、蚊に刺されるし野宿するのは御免だ。

はてさてどうしたもんかねと勘案し、とりあえず寝床を探そうとその場を立ち去ろうとした刹那...

 

 

「見慣れない顔じゃがうちに何か用かな?」

 

しわがれた懐かしい声が聞こえた。鍬を担いで麦わら帽子を被っているし、土いじりに外に出ていたのか。

 

「おいおい、自分の孫の顔すら忘れたのか?随分と耄碌したな爺さん」

 

「...む?随分と生意気な口をきくが、お主もしや暁斗か?...えらく大きくなったのお...上がっていくといい」

 

「悪いね。突然だけど、お邪魔します」

 

「何もありはせんがゆっくりしていきなさい」

 

「ありがと」

 

 

 

 

久しぶりに来たけれど、やっぱり長閑な場所だ。東京と違って落ち着いている。

 

 

 

 

「ところで...何用じゃ?」

 

「ん?久しぶりに爺さんに会いたいなってさ。嬉しいだろう?」

 

「...戯け。そんな殊勝なこと抜かすな小僧。そんな柄じゃなかろう」

 

「まあ成長したしたまには敬老と洒落込もうってね」

 

「そのためにここを態々探し当てたりするほど暇じゃなかろう」

 

「ここには儂しかおらん。それに儂は言ってしまえばお前とは”血の繋がりがあるだけの他人”じゃよ。遠慮なぞせずに言ってみい」

 

...相変わらず爺さんらしい物言いだ。仰る通りここに来たのは自分のためだ。せっかくだしお言葉に甘えてしまおうか、爺さんとは会うのはこれが最後になるだろうしな。

 

 

「んじゃお言葉に甘えて...大した話じゃないし酒の肴にでもしてくれよ」

 

「おー孫に酌をして貰うのも悪くないのぉ」

 

「ありあわせでツマミでも作るからちょっと待っててな」

 

思えば前にここに来た時は料理どころか包丁を持ったことすらなかった。この家は記憶にある通りなのに、自分は随分と変わってしまったものだ。いぐさと土と木の混じった匂いや、爺さんの見た目はまるで変わっちゃいないというのに、まるで両者に流れている時間が違うかのようだ。

変わらずに残るもの...か、確かにあるにはあるんだよな。姉と俺の絶対的な性能差は()()()()()()()()()()変わることはないだろう。

 

 

そんなことを考えながらも手は動いているのだから、本当に身に染みついているのだろう。

 

思い起こすのは特に付き合いの長い4人のうちの2人だ。俺が自活する上での必要最低限のものを叩き込んでくれたのだ。

 

つぐ...沙綾...いや、もう()()()()()()のか。どうせ同じものなど帰ってこないのだから。そもそも俺が執着していいはずがないんだし。

 

「おまたせ。大したもんじゃないけど」

 

「なかなか旨そうじゃな。紗夜ちゃんと日菜ちゃんが作ってくれてお酌もしてくれてたならもっと嬉しいんじゃが」

 

だろうな。男なら誰だってそう言う。俺だってそう言う。

 

「野郎の料理で悪かったな。でも今のところは俺の方が料理できるし我慢してくれよ」

 

尤も、所詮姉がまだ手をつけていない領域だからそうであるだけで、人に誇れるものじゃない。おこぼれにあやかってるコバンザメやハイエナみたいなものだ。

 

「そうじゃの...孫が料理作ってくれたんじゃ、美味しく頂こうかの。お前も飲むか?」

 

「アホぬかすな。未成年だぞ?あと五年ぐらい待てよ」

 

「ふむ...紗夜ちゃんと日菜ちゃんの結婚式まで長そうじゃな...儂は婆さんほど強くはないからのぉ案外ぽっくり逝くかもしれん」

 

「どういうこと?確か婆さんって俺が生まれる前に...」

 

「そうじゃの。だが婆さんはいつ倒れてもおかしくないと思っておった。元々身体は丈夫ではなかったからのぉ。紗夜ちゃんと日菜ちゃんが産まれたあたりから体調を崩すことが多かったんじゃ」

 

「確か急性心不全って聞いていたけど、あくまで直接的な死因ってことか?」

 

「そうじゃよ。婆さんはお前が産まれるまで『跡継ぎが産まれるまでは死ねない』という理由で生きておった。主治医からも本当ならとっくに死んでてもおかしくないのに訳が分からないと苦笑いされておったわい」

 

なんだよそれ...じゃあ別に俺が産まれなくても...何の問題も無かったってことか?よくわからん精神力だけで生き延びていたんだから放っておいてもそのうち死んでたってことだろう?

 

贄としてでもまだ意味があったとどうにか割り切ってきたんだが、その根本から崩れ去ってしまった。

 

「...どうした?顔色が悪いぞ?」

 

 

「あはは...いやー参ったねこりゃ」

 

もう笑うしかない。マジでサンドバッグ要員として育ててたとか俺の両親頭おかしいだろ。ここまで追い詰められると最早どうしようもないね。

 

「泊まってくんじゃろう?今日はもう寝るといい」

 

「...ごめん。そうするわ」

 

少しだけ整理したい。本当は少しだけ何も考えたくない。心身の休息の為にこっちに来たのに寧ろダメージが増えるあたり、流石としか言いようがない。

 

意味などなく、大義もなく、産まれ落ちた忌み子。自身の正体は紛れもなくそれであるという現実を受け止めるにはやっぱり少しだけ時間が欲しかった。

 

 

 

 

風呂を借り、寝床につく。もう今は思考を放棄してしまおう。これからのことは明日の自分に任せればいいのだから。

 

 

 

 




祖父金持ち父親高給取りで美人の姉2人がいるのにどうしてだろうか。ちっとも羨ましくないぞ。

大丈夫。暁斗はメンタルお化けだから。

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