ゆうの妖怪退治目録   作:みかんでない

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第二話 武闘派道士と伝説の卵 ~上~

とある屋敷の廊下を、一人の男が音もたてずに歩いていた。この男は俗に言う忍びであった。彼は朝廷からの秘密の命を受けて、その邸を探っていたのだ。そして、何かを見つけたかのように、男は一つの部屋の前で立ち止まった。

「この部屋の奥だ……こっから怪しい臭いがしやがるな」

そうして、その男は引き戸を開けた。その中にいる、見てはいけないものを、見てしまった。

「うじゅうるるるる……」

男が見たのはおぞましい怪物だった。奇声を発し、それはのろのろと這いずっていた。

「うわあっ!なんだこれはァーッ!!」

その時。ガオンという何かを削ったような音がして、妖艶な女性が男の背後に出現した。

「見ましたね?」

男はとても驚いた。彼は廊下方面にはかなりの気を配って、何時でも逃走できる体勢を整えていたからだ。まさか背後に何者かが突然現れるとは、考えもしていなかった。

「お、お、お前ッ!この怪物め!絶対にばらしてやる!この事実をーッ!!」

そうやって逃げようとしたが、腰が抜けたのだろうか、男は糸の切れたように崩れ落ちた。女はしずしずとゆっくり男の方に歩いてきた。

「な、何故だ!足に力が入らない!なんでぇーっ!?」

「うふふ、貴殿もこちらがわにして差し上げますわ」

そう言って、その女はぞっとするような笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日。退治屋になったものの、実務が殆どやってこない優のもとに、一通の厳重に封をした手紙が届いた。宛名は朝廷のある身分が高い人間の名義となっていた。

「遂に仕事がやって来たみたいね」

紫はそう言って、中身にざっと目を通した。ふんふんと読む紫の顔が、段々面倒臭そうな表情に変わっていく。

「紫さん、何が書いてあるのですか?私も見たいです」

紫から手紙を返してもらうと、優は一生懸命に読み始めた。

「前略、と……。本日は一つ、そちらに依頼したい事がある。都のとある場所に、大層な美人が暮らしているのだが、そのものの家で厄介な事件が起きている。会いに行った男どもが誰一人として帰ってこないのだ。既にこちらからも調査の者を何人も向かわせたが、大した成果は得られなかった。」

ふうん、私にくるってことは、その女妖怪なのかしら、と考えながら、優は続きを読んだ。

「我々はこれが妖怪の仕業による可能性が非常に大きいと考えている。そこで、我々の傭兵と共に、この事の調査を依頼する。草々……」

なんだ、至って普通の依頼の手紙じゃないか、と優は思う。この文章の何処に面倒を感じるのか、彼女にはわからなかった。

「紫さん……?」

紫は相変わらず渋い顔をしていた。

「優、このヒト、とてもやばい臭いがするわ」

紫は深刻そうに優に言った。

「確かに、妖怪だとしたら厄介そうですね。まあ、退治屋の案件にまわったことですし、私達で責任を持って退治しましょう」

優がそう言うと、紫はひらひらと手を振った。

「違う、違う。まあ、この元凶の女もよくわからない奴ではあるけど。私が言いたいのは、この『傭兵』よ」

「傭兵?」

「なんか、物凄ーく嫌な予感がするのよね。私らの勘はかなり鋭いからね……。異様な思惑を感じるわ」

私らと紫は言ったが、優は余り勘が鋭いタイプではなかった。退治屋を続けていれば、そういう方面にも鍛えられるのかと優は感心する。

「凄いですね。私もそのように鋭い勘が欲しいです」

「おっと。ま、まあ、努力すればなれるんじゃないかしら?」

紫は少し慌てた様子だったが、優にはなんの事かわからなかった。

 

 

その時である。

玄関の呼び鈴がりーんと鳴って、頼もう!という大きな声が聞こえてきた。

慌てて二人が玄関を開けると、そこには長い黒髪を風に靡かせる長身の少女がいた。その少女は優の事をじろっと見て、ぼそりと呟いた。

「なんだ、まだ赤んぼじゃねえか」

「聞こえてるわよ」

そう返したのは紫だった。そして、彼女はこの奇妙な客人に向かってまくし立てた。

「あんたもゆうて童顔じゃない。もう少し、言葉遣いには気をつけて下さる?しかも、うちは道場じゃありませんけど?殴り込みならお帰り願えます?」

その少女は、ちらりと紫の方も見ると、にやにや笑った。

「胡散臭いのはお互い様だろ?ま、何でもいいや。取り敢えず、俺は一星。遠路遥々中国から来てやった、お前らの師匠だ。宜しくな」

「し、師匠ですって〜!?ああ……」

紫は素っ頓狂な声をあげ、ふらりと部屋の方に戻っていってしまった。紫ほど驚きはしなかったものの、突然のこの俺っ娘中国人の来訪に優もかなりびっくりしていた。

「手紙では、師匠がやってくるとは一言も仰っていませんでした。それで、貴女は何の師匠なんですか?」

そう優が言うと、一星はわかってねぇなというように、ため息をついた。

「そんなん決まってんだろ。武術だよ武術。俺は剣やら薙刀やら弓やら、大体のことは一通り教えられる『武術の達人』さ。何でも、今回のはそうとう厄介な野郎らしいから、お前らは俺の足手まといにならねえようにもっと強くなる必要があるってこった。」

優は更に衝撃を受けた。自分と年があまり違わないような少女が、これから彼女たちの師匠となるのだ。

「武術の達人って、もっと大男みたいなのを想像していました……」

一星はふんと鼻を鳴らした。

「人を見かけで判断するなって事だな」

そして、彼女はそのまま、ずかずかと屋敷の中に入ってしまった。慌てて優も後を追った。 

 

 

 

「ははあ、退治屋は薙刀ね。でそっちのは刀と。ほうほうほう」

「そっちのって何よ」

優と何とか機嫌を直した紫は、軽い自己紹介を終えたあと一星の初めての授業を受けていた。

「ま、お二方の模造品主義については俺は何もいわんよ。達人なら棒切れでも人斬れるしな。刀なら刀、薙刀なら薙刀を使いこなせるようになる。それが肝心だ。という訳で、優には薙刀の素振りをそうだな……手始めに百本やってもらおうか。その位で恐らく十分だろう」

何を持って十分と彼女が判断するのかわからなかったが、取り敢えずいうとおりにしてみようと優は縁側に出て、素振りを初めた。

「それから、紫は少々腕が立つようだから、俺と実践訓練でもしてみるか」

「ええぇ……」

一星はフッと笑った。

「まあ、お前さんには稽古はあまり必要ないと思ってる。本当に必要なのは、自分の身の安全をそれにしか頼れないあいつのほうだ」

紫はそっぽを向いたまま呟いた。

「……わかってるわよ。ちゃんと稽古をつけてあげて頂戴」

「お?なんだ?『私も美人の一星さんに稽古をつけてもらいたいです♡』って言えねーのか?全くこれだから紫は」

「……コロス」

「おいまて、お前さんが言うと洒落にならんって、まてって!」

優はあの二人は何をやっているのだろうと呆れながらも自身の鍛錬に励むことにした。

 

 

 

 

そうこうするうちに一週間が過ぎた。優は素振りだけでなく、如何に技を相手にかけるかなど、座学まじりの練習もこなしてきた。ある程度のセンスが備わっていたので、わりと吞みこむのは早かった。その日の朝も同じように素振りを初めた優だったが、二十五本いくかいかない内に一星にやめろと止められた。

「優、お前はほぼ完成だ。先祖譲りのその力があれば、自分の身ぐらいは容易く守れるだろう。ついては渡しておくものがある」

そう言って一星は、持ってきた一振の薙刀を取り出した。

「お前は型は綺麗だが、スタミナが無くバテやすい。そこで、お前にあった薙刀を用意した。持ってみな」

彼女はその薙刀を優に渡した。優はそれを振ってみて驚いた。

「軽い……」

「だろ?そいつは軽いがしっかりした木を使っているんだ。しかも、俺らの国の技術で中身を空洞にくり抜いてある。刃も交換ができる仕組みになっているから、大事に使うといい。俺からの手向けだ」

優は、この人は言葉こそ乱暴なものの、根はいい人だとあらためて思った。

「ありがとうございます!大切にしますね」

一星は照れて赤くなり、ぷいとそっぽを向いた。

「ま、まあとにかくよぉ、例の屋敷に乗り込むの、今日の夜だから。しっかり準備しとけよ」

そう言って、一星は用があるといって去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。件の屋敷の前に三人は立っていた。

「凄い軍勢ですね……」

優と紫は驚いていた。何しろ、100人程の兵士が、ぐるりと屋敷の周りを見張っているのだ。

「夜討ちとは少し卑怯だが、このぐらいしないと不安なもんでな」

一星の用事は、朝廷から兵士を借りてくることであったようだった。優はこんな軍勢を見たことがなかったので、不謹慎にもすこしわくわくしていた。

「うへっ……おぞましい臭いがするわ、間違いない」

紫は鼻をつまんで青い顔をしている。優も、この屋敷の気持ち悪さは先程から感じていた。

「へたってんじゃねえぞ。よし、今から突入する!俺が扉を開けるから、しっかり構えとけよ!」

その場にいる人間にぴりりと緊張が走ったのが、優にもわかった。そして彼女は屋敷の門に手をかけ、ゆっくりと開けた。

「……あれ?何もいねえな」

皆の予想とは裏腹に、そこには何もいなかった。ところが一星がすこし気を抜いた、その瞬間、青い一筋の煙がが溢れ出し、瞬く間に広がって青い霧と化し、屋敷の周りを覆った。

「不味いッ!攻撃だっ!」

彼女がそう叫んだと同時に、味方の兵士たちは次々に白目を向いて絶叫し、自らの仲間に斬りかかった。

「これはっ!?」

紫は刀の鞘で、振りかぶって近づいてきた兵士を殴り飛ばした。

「呪縛系の妖術だな……お前ら、取り敢えず逃げるぞ!」

「ぐおぉおおん!」

「うごああぁぁ」

人間とも思えぬ声をあげ、霧に操られてしまった部下に追われ、一星と紫たちは慌てて逃げ出した。優は走りながら紫に聞いた。

「何故彼らはああなって、私達には何の変化もないのでしょう?」

「恐らく、ある程度の強さをもつ人間は操れないようになってるんじゃないかしら。ああいう強力な術には、ある程度の制約があるものよ、普通」

「そら、くっちゃべってねーで扉抑えっぞ!」

三人は屋敷の内側に逃げ込み、扉をすごい勢いで閉めて閂をかけた。ドンドンという扉を叩く鈍い音が響く。優たちは必死で扉を押し返すが、木製の扉は負荷がかかりすぎて今にも壊れそうだった。一星は覚悟を決めた。

「もうもたねーぜッ!お前らは先に行け!こいつ等は俺に任せろ!」

躊躇する優に、彼女はきざに笑って、言った。

「お前らにゃ人間は斬れねーよ。こいつは『達人』の俺にまかせろって。それより、屋敷(なか)にいる元凶を倒してきてくれよ!」

優はそれでも躊躇っていたが、紫にいくわ、と手を引っ張られ、走り出す。

「どうか戻ってきて、一星さん!!」

屋敷に入る直前にちらりと優に見えたのは、何人もの武士に斬りかかられる一星の姿だった。

 

 

 

〈to be continued〉

 

 

 

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