清霜の戦艦代理日記   作:すたりむ

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六:沈メ沈メ(前)

「結局、全員で来ちゃったね……あはは」

「クライアントの判断だもの。べつにいいでしょ」

 苦笑して言う清霜に、満潮は平然と言った。

 義侠心を発揮した船長が「こっちはいいから人命救助を優先してくれ」と言い出したので、全員総出で来ることになったのだが。

「でもなんか変な場所だよね。えーっと、沖ノ島沖だっけ?」

「うん。そういう名前」

 清霜の言葉に、漣が答えた。

 救援に行く場所である。当然ながら立派な危険領域――深海棲艦と艦娘の、主戦場のひとつだ。

 とはいえ。

「政府の、定期哨戒対象海域だよね。そんなに危険かな?」

「普通ならだいたい掃討されてるけどねー」

 そういう場所は、所々にある。

 主に、そこに深海棲艦を定着されると、安全な航路まで脅かされかねないところとかが指定され、大きな鎮守府の艦娘が定期的に哨戒して、敵を掃討する。

 ということは。

「いま救難信号出してる相手、哨戒中になにかあった大きな鎮守府の艦隊かなあ?」

「だったら勘弁して欲しいわね……」

 満潮が言ったので、清霜は首をかしげた。

「なんで?」

「いや。だって大きな鎮守府でしょ? あんたが大好きな戦艦を含む艦隊の可能性高いじゃない。それが救難信号出すレベルだと、わたしたちじゃどうにもならないわよ」

「あー……まあ、それはそうかもね」

 言いながら清霜は、手の中の連装砲を見た。

 12.7cm連装砲。ただし、これはさっきまで持ってたものではない。

 さきほど使った「使い捨て41cm連装砲システム」のせいで、清霜の砲は壊れてしまった。だからいま持っているのは、葛城が持っていた予備だ。

 本来空母が使える装備ではないそれを、空いているスペースがあるからという理由で無理矢理持ってきてもらったのだが。

「とりあえずあと何発撃てるか、ちょっとわからないからなぁ」

「二発撃てるかどうかの試験すらやってないですからねえ。最大でも満潮ちゃんの連装砲もらって三発、このへんが限界ですよね」

「それでなんとかなる戦力だったらいいんだけど……ね」

「前提として、なんともならない戦力だってわかったら、こちらは撤退しますよ。すでに通信で大規模支援を要請してます。我々のすべきことは、最低限それらが来るまで時間稼ぎをすることだと思ってください」

 青葉の言葉に、清霜がうなずいた直後。

「羅針盤に異常! 敵襲来であります!」

「!」

「青葉、偵察機出します! 各艦戦闘準備!」

「「「「了解!」」」」

 あきつ丸の言葉に反応して、全員が動き出す。

「……っ、敵情報リンクします!」

「潜水艦なし、反航戦! 各艦は単縦陣で……」

「待って。これ……雷巡チ級の、flagshipが、それも二隻!?」

 漣が言う。

 深海棲艦の中には、級の平均と比べて飛び抜けた力を持った個体がよく生まれる。それらはeliteと呼ばれ、さらに上のものはflagshipという呼ばれ方をする。

「まずいの?」

「雷撃に持ち込まれたらひどいことになるよ! なんとかして無力化しないと!」

 珍しく慌てた漣の言葉。

 雷撃――魚雷の撃ち合いは、戦闘が長引くと深海棲艦が積極的に行ってくる。いまは反航戦、つまり彼我がすれ違いながら戦う状態なので、さっさとすれ違って逃げてしまえばいいのだが、それでも一発くらいは覚悟しなければならない。

「右側がちょっと傷ついているでありますな……あとは、やはり傷ついた軽巡flagshipでありますか。こちらは中破状態でありますな」

 あきつ丸が言う。

 中破状態になると、艦娘も深海棲艦も、行動がかなり制限される。

 具体的に言うと、魚雷の制御がままならなくなるのだ。普通の状態だと発射も無理。

 つまり。

「なんとかして二隻の雷巡flagshipの片方だけでも速やかに中破させないと、やばい……!?」

 清霜の言葉に、全員が顔を見合わせた。

 そんなことを言ったって……という感じである。

 現状、まともに攻撃手段を持っているのが、清霜だけなのだ。

 二隻同時に相手は、無理。射程が短い駆逐艦だと、雷撃を浴びるまでに二回以上砲撃するのも難しい。

 しかも、これは明らかに前哨戦である――まだこちらは、救難信号を出している艦隊と通信できる位置にすら、近づけていないのだ。

 使い捨て砲の使用は、無理。

「攻撃一回くらい食らっても大丈夫、だったりは?」

「雷巡チ級flagshipの雷撃は、駆逐艦どころか重巡クラスでも一発大破の危険性が少なくないよ」

「……っ。じゃあ……」

 清霜は考える。

 考えて考えて考えて。

「漣ちゃんさ」

「ほいさ。なに?」

 返した漣に、清霜は尋ねた。

「たしか裁判所命令で、攻撃艤装は使えないんだよね?」

「うん。そうだよ?」

「素手でぶん殴ったらダメージ与えられないかな?」

「…………」

 漣が笑顔のまま硬直する。

 

 

 策は決まった。

 

 

「ここまで野蛮な作戦、戦歴長い漣でも初めてだっつーの!」

 ぶつくさ言いながらも、漣は先陣を切って突っ込んでいく。

 ただでさえ快速の駆逐艦の、それもケッコン艦のスピードだ。あっという間に近接して、

「うりゃあああ!」

(深海棲艦と艦娘の戦いは物理というより呪術的なもの。攻撃威力だけでなく、攻撃したという「意味」のほうが重要になることもあるのであります)

 先ほどのアイデアを聞いたあきつ丸が、言った言葉だ。

 元は、いっちゃんが満潮に殴られて痛がっていたのを思い出しての提案だったのだが。

(したがって、非常に固い深海棲艦に対しても、自分のような揚陸艦の砲撃が一定のダメージを与える場合があるのであります。この理論からすれば、素手でもおそらくは……)

 駆け抜け、相手に雷撃準備をさせる間もなく、ぶん殴って離脱する。

 すぐあとに続いたのは青葉である。

「青葉、こういうの実は嫌いじゃないです!」

 言いながらやはり近づく。軽巡や雷巡の砲撃をものともせずに近接し、

「えいやっ」

 と言ってぱんち。敵雷巡の装甲が爆音を上げ、思わず後ずさった。

「一隻目中破! 残るは一隻よ!」

「よし、では自分の出番で……」

「わたしが先手よッ!」

「あ、ちょっ……!」

 満潮が飛び出し、無傷の敵雷巡に向けて

「ウザいのよッ!」

 罵倒しながら、回し蹴りをたたき込む。

 けっこうな爆発が起き、雷巡がたたらを踏む。

 そこに、

「順序はちょっと違いましたが……真剣必殺ー! であります!」

 あきつ丸の刀がたたき込まれる。

 相手にかなりの傷がつく。最低でも小破状態。

 お膳立ては整った。

「いまよ、清霜! やっちゃいなさい!」

「うん、任せて!」

 清霜は言って砲を構え、

「てー!」

 

 

 というわけで、戦闘は終わった。

「まさかあの状態から、砲を外すとは……」

「えへへー……ごめんなさい」

「ごめんなさいじゃないわよこの馬鹿……」

 満潮がげんなりして言った。

 それでも、なんとか戦闘海域から離脱はできたのだが……

「ま、いいじゃないの。雷撃受けたのが戦力外の私だったのは、幸運だったって言っていいでしょ」

 中破しながらも、葛城は明るく言った。

 満潮はなおも言おうとしたが、しかし言葉を止めた。

「……まあ、しょうがないわよね。初陣なんだし」

「えへへー……練度不足でごめんなさい」

「次は頼むわよ。特に使い捨て砲を外したらシャレにならないんだから」

「はーい」

 と、そこで清霜の通信機が鳴った。

 とりあえず、スピーカーをオンにして、通話スイッチを押す。

「はい?」

『えっと……あの、そちらはどの艦隊ですか……?』

 言葉に、清霜たちは顔を見合わせる。

「近場で漁船護衛してたグループなんだけど。……救難信号出してるのは、そっち?」

『あ、はい。そうです! わたしは軽巡の名取です』

 うれしそうな声。

 と、満潮が割り込んだ。

「まずそっちの構成と被害状況をお願い」

『えっと……構成は妙高、名取、磯波、敷波、初春、舞風です。磯波ちゃんの傷が一番ひどくて、いま母船に乗せて休ませてるんですけど……』

「他は?」

『妙高さんは大破、敷波ちゃんは中破、初春さん大破、舞風ちゃん中破です。あの、わたしはいちおう小破止まりなんですけど……』

「あたりの深海棲艦は?」

『羅針盤ぐるぐるなんです……』

 つまり、囲まれてるということだ。

『いままでの経験則なら、指揮取ってる親玉さえつぶせば突破できるはずなんですけど……』

「そちらに他の救援の見込みは?」

『あったらここまで困ってないです……これが初めて通じた通信ですし』

「突破の見込みは? そちらの母船に艦娘以外いないなら、投棄できると思うけど」

 満潮は言う。

 あり得ない話ではない。艦娘は船とリンクしているので、自動的に船舶の操縦免許を与えられる。だから母船を持っている鎮守府でも操縦は艦娘がやっている場合が少なくない。

 乗組員がいないなら、捨てて逃げちゃえばいい――そう、満潮は言っているのだ。

『たしかに、投棄は可能です。操縦士はわたしですし』

「なら……」

『ただ、磯波ちゃんの傷の状態が本当に無理で……動ける艦娘だけだったら抜けられるんですけど、母船込みで抜けるとなると、たぶん、無理です』

「……そう。残念ね」

 満潮はうなった。

 と、漣が横から

「あ、もしもし。こっちに敵艦隊のわかる限りの状況って送れる?」

『リンクですね。では転送しますから……この距離だと2、3分ですね。待っててください』

 名取は言った。

「うっし。じゃあ敵艦隊の情報がわかり次第、旗艦にカチコミしてぶっ倒してハッピーエンドってわけなのね」

「待って漣ちゃん。空の色、なんかおかしくない?」

「え?」

 確かに。

 それまで日がさんさんと照っていた海の上が、どんどん暗くなっていく。

「夜戦結界……やばい! 奇襲されてる!?」

 満潮が叫んだ。

 夜戦結界――その言葉には、清霜も覚えがあった。

 深海棲艦の本気形態。呪術的な威力を増す夜のフィールドを一時的に用意し、彼我の攻撃能力を大幅上昇させる。

 やっかいなのは、能力だけでなく痛覚なども大幅増幅させてしまうことで、中破程度なら通常では撃てないはずの魚雷が撃てるなどのメリットがある一方で、大破まで追い詰められていると、痛みでたいていの場合動けなくなってしまう。

「青葉、索敵!」

「もう目視できる距離です! あそこ!」

 青葉が慌てて言った、そのとき。

 いきなり相手から、砲撃の洗礼があった。

「う……わあああっ!」

 遠かったので当たらなかったが、近くの水面に激突した相手砲撃は、その威力と爆風で近くの艦娘を揺るがす。

 至近弾。

 と呼ばれる現象だ。これは元々、太平洋戦争の頃にもあった用語で、直撃しなくても至近距離に着弾した砲弾は、それだけで艦にダメージを与えてくるのである。

 小さい船ならば、それだけで沈んでしまうこともあり得るほどの。

「くそ、なによあいつら――」

「あの青い重巡なに!? 図鑑でも見たことないよ!?」

「え――」

 清霜の言葉に、満潮が振り向く。

 青白い、炎のようなオーラをまとった重巡が、そこにいた。

 艦娘としての直感が告げる。あれは、やばい。

 あんなものに攻撃されたら、どんな船だって――

「……やるしかないか」

 清霜が横でつぶやいたのに、満潮は気がついた。

「ちょっと待ってよ。使い捨て砲は切り札で――」

「いま切らなきゃどこで切るってのよ!」

 清霜は叫び、砲を水平に構え、

「戦艦の砲撃を、食らえっ!」

 放った。

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