「夜戦に突入開始!」
「敵、こちらに回頭中! 来るよ!」
作戦は――ここに来て、もう、ほとんどなにもなかった。
とにかく清霜が撃つ。他は守る。これしかない!
「ほいさっさ、いくよー!」
だから、このタイミングで漣が無傷だったのは、僥倖としか言いようがない。
回頭して狙いを定めようとする深海棲艦の間を、ジグザグに、ものすごい複雑な航跡をたどって駆け抜け、相手を惑わせる。
「夜戦も青葉におまかせっ!」
そのあとを青葉が突っ切り、突っ切りざまにラリアットの要領で駆逐艦にぶちかまし。
排水量の違いが効いたのだろう。駆逐艦は一撃で爆発四散した。
「まず一匹!」
「威勢がいいでありますなー……自分も、大破してなければ参加したいのでありますが……おわっと!」
敵重巡からの射撃があきつ丸にぶつかるが、大破状態での艦娘の無限の耐久力によって、無傷。
「ほら、ぼーっとしてないであきつ丸も目立つ目立つ!」
「いや葛城殿、そうは言うでありますがな……これマジで激痛でありますよ。夜戦の大破状態ってこんなに厳しいんでありますなー」
「ああもうしょうがないわね! ほら、こっちよこっち! かかってこい深海棲艦!」
葛城は挑発するが、焦りが隠しきれない。
理由は、未だ小破すらしていない、戦艦ル級eliteの存在だ。
敵の重巡以下や、旗艦でない戦艦ル級flagshipは小破~中破しているのだが、その一隻だけが無傷で残っているのである。
あれに旗艦をかばわれたら、すべてが台無しになってしまう。だからそうならないためには、なんとかあれを小破させて、沈黙させる必要があるのだが。
「清霜ちゃん、どう? 撃てない?」
「ま、まだ……この距離じゃ、確実に当てる自信が……!」
清霜は申し訳なさそうに言った。
このために、本来は攻撃要員である漣は攻撃よりも攪乱に専念せざるを得ず、結果として戦艦ル級eliteは残ったまま。
かといって、
「わ、ちょ、やめ、あー!」
「あ、青葉がやられた」
「みたいでありますな」
もうひとりの攻撃要員は、flagshipの方のル級に捕まり、あえなく大破。
清霜の頬を、汗が伝う。
「もうやっちゃうしかないかな……?」
「焦っちゃダメだって! もうちょっとだけ我慢を――うわ!?」
漣が、本来の攻撃対象である戦艦タ級flagshipに捕まった。
狙うべき旗艦だと言っても、もちろん無力な補給艦というわけではない。というか、戦艦だ。
侮れる相手どころか、最も警戒しなければいけない敵ですらある。攻撃を受けた漣は吹っ飛ばされ、数十メートルも飛ばされて海面にたたきつけられた。
「漣ちゃんっ!?」
「……大丈夫! セーフ、セーフだから!」
叫んでいる漣だが、明らかに中破以上の打撃を受けている。
(やれる距離までは、来たけど……!)
清霜はちらりと、無傷に近い戦艦ル級eliteの方を見る。
あちらが旗艦をかばったら、それで終わりだ。
だけどもう、攻撃のアテはない。それどころか、使い捨て砲を使っている清霜はいま、いつ殺されてもおかしくない状況なのだ。
どうする。
どうする……!?
考えていた清霜は、反応が遅れた。
(あ……っ)
気がつけば。
その戦艦ル級eliteの砲塔が、こちらを向いている。
やばい、とどっと汗が、清霜の身体から吹き上がる。
回避行動は――できるような余裕がない!
「うわ、待って……!」
ぐおぅ、という、吠え声のような音。
深海棲艦の咆哮と共に発せられたその弾丸に、清霜は目をつむり、
「だからだらしないっつってんのよ!」
――という一言と共に、その砲弾が途中で誰かの身体に当たり、爆発四散した。
「…………え?」
清霜は目を疑った。
決してこの場にいないはずの彼女が、そこにいた。
……目を回して大破状態になった漣を盾代わりに構えながらという、アレな姿ではあったが。
「満潮ちゃん……なんで……?」
「馬鹿じゃないの? なんで勝手に置いてこうとしてんのよ。わたしのいない間に艦隊全滅とか、ホント冗談じゃないからやめてよね」
うん、このしゃべりは間違いなく満潮だ。
思った清霜だが、疑問は残る。
「だって、あんなボロボロになるようなフィードバックを見て……なんでまだ戦えるの?」
「勝手にわたしをあんたの下に置くな!」
「!」
「おんなじものを見たあんたが戦ってるってのに、わたしがしっぽ巻いて逃げ出すわけがないでしょうが! あんな「死」なんて見慣れてるっつってんのよ馬鹿! この馬鹿!」
「満潮ちゃん……」
満潮はギラギラした目で敵戦艦を見やり、漣をポイ捨てすると、
「……酸素魚雷、発射用意!」
「そんな、満潮ちゃん!」
清霜は、満潮に叫んだ。
「無理しないでよ! わたしが、わたしがなんとかするから!」
すると満潮は、――意外なことに。
怒鳴りつけるわけでもなく、いらだつわけでもなく。
ただ――ほほえんだのだ。
「勘違いしないでよ。わたしがいくら慣れてるからって、逆流化はつらいし、「死」の幻影は怖いし、本当はこんなことやってないで逃げちゃいたいわよ」
言って、膝をかがめる。
「だけど――そんなもの、しょせん大昔に死んだ連中の話じゃない!」
叫んで、満潮は飛び出した。
ロケットスタート。普段の彼女の、優雅な動きからは想像もできないほど荒々しく、一気に距離を詰める。
「どっちが嫌かなんてわかりきってるじゃない! わたしは! 現実の! いま! 生きてる大切な友達を! 自分の怠慢で死なせるなんて、絶対に、嫌だッ!」
戦艦ル級が何度も砲撃をするが、満潮の動きが速すぎるせいで、当たらない。
満潮はその戦艦をあざ笑って、
「馬鹿ね――この先にあるのは、地獄よッッ!」
魚雷を、――相手にたたき込む!
大爆発が生じた。
間違いなく、大破――戦艦ル級eliteは、この時点で、攻撃手段を完全に封じられた。
「いまよ、清霜!」
「わかってる! 行くよっ……!」
清霜は砲を構えて、
その瞬間。
あってはならないことが起こった。
爆音。
戦艦ル級のもうひとりの片割れが、サンドバッグ状態で叩いていた青葉を突如として振り捨て、こちらに攻撃してきたのだ。
清霜は爆発に、吹っ飛ばされ――
「せ、せん、かんが――」
そうになった身体を、ぎりぎりのところで、立て直し、
「至近弾ごときで、沈むかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
叫びながら、撃った。
大爆発が、起こった。
戦艦タ級、flagship。現行の知られている深海棲艦の中でも、決して侮れない難敵と言われるその船は。
使い捨て砲の一撃を、真正面から受け、
ゆっくりと、倒れ――
なかった。
「……やばい!」
中破状態でなお残る敵旗艦に、思わず満潮は声を上げる。
相手は怒りに燃える目で、清霜のほうをにらみつけ、ゆっくりと砲を持ち上げ――
「大丈夫だよ、満潮ちゃん」
次の瞬間。
同時に放っていた清霜の酸素魚雷が敵旗艦に突き刺さり、相手は今度こそ爆散した。
「わたしの兵器は、砲だけじゃないんだから」
この瞬間、全員が勝利を確信していた。
だから、誰も気づかなかった。
敵の中で唯一マークを外されていた駆逐ニ級の沈んでないほうが、ゆっくりと清霜に照準を定めて――
そして次の瞬間、謎の爆発によって、誰にも気づかれることなく沈んでいたことに。
「はー、まったく新人はこれだから世話が焼ける……やれやれでち」
「? でっち、なにをぶつぶつ言ってるのって。あとなんでジョジョ立ちしてるのって」
「でっちって呼ぶなでち。ていうかジョジョとかどこで覚えたんでちか」
「はっちゃんが読んでたって」
「あいつあんな文学少女風吹かせといて読んでるのマンガなんでちか!?」
驚愕の事実。
「それにー、今回はみんなよくやったって。最後のフォローはともかく、みんながいなければあの敵はさすがにどうにもならなかったとろーちゃんは思うって」
「……まあ、ガッツは認めないでもないでち」
「じゃあ上がって、みんなで打ち上げに間宮さん行こうって!」
「あ、馬鹿やめろでち! ゴーヤたち潜水艦が鎮守府のメンバーなのは秘密だし、いまさら上がって名乗り上げとか格好悪いにも程があるでち!」
「えー」
「えーじゃないでち!」
「そんなこと言ってでっち、実際は自分のおごりにさせられそうなのが嫌なだけなんじゃないのって」
「おまえ泣かすでち!」