清霜の戦艦代理日記   作:すたりむ

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七:戦艦の心(後)

 ところで。

 作戦が全部終わったあと、艦娘達がどうやって帰るのかというと、これはもう羅針盤に従って安全に帰れるのが確定している。

 羅針盤システムは深海棲艦の位置をかなり確実に探知するので、戦いを避けようと思った場合、艦娘側はほぼ確実に実行できるのである。

 まあ、実際にはみんなボロボロだったし、雨まで降ってきたので、名取たちのところの母船に合流させてもらって、いったん彼女たちの鎮守府に寄ることにしたのだが。

 大きくダメージを負った艦娘が第一にすることと言えば――そう、風呂である。

「いやー、働いたあとのお風呂は最高よねー」

 湯船に肩まで浸かって言う清霜に、身体を洗っていた満潮はジト目を向けた。

「……あんたマジどういう精神してんのよ。船で帰るときも含めて、ずっとケロッとしてたわよね」

「満潮ちゃんはずっとゲロっとしてたよね」

「そこで無駄に韻踏まなくていいわよ! ていうか今回はそんな吐いてない!」

「……あれで?」

「だ、ダメコンの反動に、攻撃までしたんだから、あのくらいは軽いうちでしょ!」

 わたわた言う満潮。

「ていうか、だからダメコンのアレよアレ。あんたも見たのになんかえらくわたしと反応違うじゃない。どういう精神してんの?」

「いやあ。だってわたしまで吐いたら満潮ちゃんのアイデンティティ奪っちゃいそうでなんか悪くて」

「あんたいい加減そのゲロ属性押しやめないとマジで泣かすわよ!?」

 ぎゃいのぎゃいの、と言う満潮をよそに、清霜はざぱーと風呂から上がって、満潮の後ろに椅子を置いて座った。

「えへへー。お背中洗いまーす」

「な、なによ。気持ち悪いわね急に」

「だって満潮ちゃんは、「大切な友達」だからねー」

「なにそれ!? 意味わかんない!」

「だって満潮ちゃんが言ったんじゃなかったっけ? 大昔の人間が死んだことより、「大切な友達」が死ぬののほうがずっと嫌だー、って」

「言ってない言ってない言ってない言ってない!」

「そんなこと言っても清霜ぶれいんにはあの超かっこいい啖呵は永遠に記載されてるよ?」

「デリートしてやるっ!」

「わ、ちょっと、石けんある場所で暴れたら危ないっ――!?」

 どがっしゃーん、とふたりが転んだところで。

「あおばっ、あおばっ、見ちゃいましたーっと……」

「おおー、富士山でありますなー。ここの浴場はなかなかに……」

「他の鎮守府だと覗かれる心配しなくていいのは気楽だわー。あの提督なんか怪しいし……」

 がらがらがら、と、扉を開けて三人ほどの乱入者が現れ。

「……おや?」

「……ふむ?」

「……ええ?」

 裸の満潮が清霜を押し倒している謎光景を見て、全員が固まった。

「あ、いや、これは、その……」

「いたた、腰打った……」

 次の瞬間。

「青葉! 見ちゃいましたあああああ! か、カメラカメラ!」

「これはお邪魔でありましたなー。退散であります」

「あ、あんたたちその若さでそこまで進んでるとかなにやってんのよ!?」

「誤解じゃーーーーーー! き、清霜、あんたフォローしなさい!」

「え? あれ、そういえばなんで満潮ちゃんわたしを押し倒してるの?」

「そっちも清霜ぶれいんに記載しときなさいよ!」

 

 

 そんな感じで愉快騒動が起こっている間。

「まさかこんなところでまた縁ができるとはねえ。漣」

「ですねー。お久しぶりです、陸奥提督」

 名取たちの所属する鎮守府の提督……その初老の女性は、そう呼ばれてほほえんだ。

「その名前で私を呼ぶ者は、もうほとんどいなくなってしまったわ」

「まあ、いまの艦娘の陸奥さんとはなにも関係ありませんからね……ここでは、本名のほうで?」

「自分から名乗るには気恥ずかしいもの。艦娘システムの最初の被験者なんて、言いふらすことでもないし」

 かつて、彼女は恐山のイタコの一人だった。

 適任と言うことで、地元と縁のある名前の艦娘を選び、試してみたのだが……あまりうまくはいかず、戦果を大きく挙げるということもなく、引退することになった。

 そのときは知られていなかったが、艦娘は基本的に若いほうが適性が高いので、彼女の年齢が問題だったのだろう。

「若いのの命を張らせるのは、私としても、気が進まないのだけれどねえ」

「適切に処置すれば、艦娘はまず死にませんよ」

「それでも、今回みたいなこともあるわ」

「…………」

 陸奥提督は、ふう、とため息をついた。

「包囲されて逃げられない状況で、大破防御状態が切れるまで撃たれ続ければ艦娘でも死ぬ。べつに捨て艦だけじゃないわ。滅多にないとはいえ、危険な状況はないわけじゃない」

「今回は、判断が甘かったんじゃないですか?」

「否定はできないわね。……母船をかばおうとして必要以上にがんばった結果、磯波が肉体にまで浸食するダメージを受けてしまった。最初から船を見捨てる判断をしていれば逃げられたはずよ。これは今後、指導事項にする必要があるわね」

「……そうですね」

「それより問題なのが、あなたのところの判断よ。

 正直、さっき帰ってきた子達から聞き取りをして、ぎょっとしたわよ。最後の戦いであの清霜ちゃんという子には、普通に死ぬ危険性があったわ。どうして止めなかったの?」

 陸奥提督に言われ、漣は考えた。

 形式上は、上官である清霜の判断に従った。でもそれは、漣のメンタリティからすれば、どうでもいいことだった。

 本気で相手を止めたいのなら、上官だろうと容赦しない。それは、彼女がかつて実行したことであり、いまも変わらぬ決意だ。

 だから。

「たぶん……夢に、魅せられたんでしょう」

「夢?」

「全員生還の夢です」

「…………」

「あの状況で漣が清霜ちゃんを止めたら、確実にそちらの艦娘が死んでいた――清霜ちゃんが説明した通りです。誰も死なない可能性があるのは、今回の方向だけだった」

「清霜ちゃんが死んで、彼女たちも助けられない。その可能性は?」

「ええ。だから合理的と言う気はないです。

 しょせん、どの可能性もギャンブルでした。だから漣は、いちばんいい結果があるものにbetした。……そういうことです」

 その結果、最悪の可能性だってあり得た。

 だけど、最良の可能性もあった。

 だからそれに賭けた。――愚かだったかもしれない。だけど結果として、最良の可能性が実現した。

 今回は。

「今回と同じことを続けたら、たぶん数回であの子は死ぬわ」

「その辺は今後の運用次第ですねー」

「……やはり思うに、あの総力砲システムは危険すぎないかしら。

 今回もうちの艦娘達には箝口令を敷いておいたけど、明るみに出た場合、あなたが告発した「捨て艦」に使われる危険性があるのよ?」

 陸奥提督は言った。

 漣はそれにうなずいたが、

「まあ、大丈夫ですよ」

「根拠は?」

「あの特許うちのご主人様が持ってますから。切れるまでは他は使えません」

「…………」

「そして、切れるまでの間に、法整備を進めればいいんです。捨て艦戦法を禁止する方向で。

 それまでには漣も、被選挙権もらえる年齢になってますしね?」

「なるほど。そこまで考えているのね」

「だから、いまのところ危険なのは清霜ちゃんだけですよ。

 そして、……まあ、今後は、無茶は避けさせます。まずは練度を上げて、ああいう邪道に頼らなくても、そこそこ活躍できるようにしないと」

「ダメコンも使ってしまったものね」

「あはは……頭が痛いです」

 漣は頭を掻いた。

 陸奥提督はふう、とため息をついて、

「あなたも詰めが甘いわねえ」

「……? はて、なにかありました?」

「いえ。さっきから、助けてもらったお礼っていうことでお風呂はあなたたちの艦隊に先に使ってもらって、その間に妙高たちから事情聴取をしていたのだけれど」

「はあ。それは知ってますけど」

「漁船からの依頼で人命救助に当たることになったという話だったわよね?」

「そうですね」

「そのときに、オプショナル契約は結んだかしら? 人命救助に成功したらいくら、という」

「…………」

 漣は沈黙した。

「清霜ちゃん……経験が少ないから、彼女がリーダーを張っているならほぼ間違いないと思ったのよ。契約はしてないでしょう?」

「……はい」

「つまり、今回あなたたちはこれだけ危険かつ損害の多い戦いをしながら、漁船護衛の報酬しか得られないということになるのだけれど」

「ああああああああああああ」

 漣は頭を抱えた。

 陸奥提督は、くすっとほほえんで、

「――まあ、仕方ないので、艤装の修理代はこちらが肩代わりするわ。

 それと総力砲で失った連装砲も補填しておく。こちらの財務状況は悪くないからね。あのジェイソン気取りの甲斐性なしじゃ、今後困るでしょうから」

「すいません……お願いします」

「それでも、ダメコンを失った以上、そちらには痛手でしょうけどね。

 まあ、精進なさい?」

「はい……」

 結局このひとには頭が上がらないなあ、と、漣は頬をかいた。

「……ところで、さっきから浴場のほうであなたの仲間達が大騒ぎしてるけれど、なにかあったのかしらね?」

「あ、そうですね。……まあおおかた、満潮ちゃんがなにかやらかしたのではないかと」

「止めてきなさい。騒がれると困るわ」

「いえ、でもちょっと漣には荷が重いというか……」

「いいから」

「…………。

 すいません、行きます」

「よろしい」

 陸奥提督はそう言って、ほほえんだ。

(ホント、かなわないなあ)

 おまえも報告を優先なんてしてないで風呂に入れ――そう、目で語る陸奥提督を見て。

 漣は本当に珍しく――作り物ではない、笑みを浮かべた。

 

 

「あああ青葉のカメラがー! 耐水性能に優れて艦娘の隠し撮りに最適なマイカメラがひどいことに!」

「自業自得よこの馬鹿青葉! ていうかあのスケベ深海棲艦にカメラ渡したのもあんただったわよね!?」

「あ、葛城さんそっちのボディソープ切れてるよ。こっち使いなよ」

「さんきゅー清霜。頼りになるわね」

「ていうか清霜あんたなに他人事の顔してんのよ!」

「ほほー、もう他人じゃないというわけでありますか。ふむ」

「やっぱあんたら全員泣かす!」

「……いやー。でもやっぱこれを漣に止めろっていうのは、無茶振りじゃねーのっていう……」

 

 

 とまあ、これが。

 清霜が戦艦代理として活躍をして解決をした――最初の、戦いだった。




おまけ:ジェイソン鎮守府、各艦娘のプロフィール


1)清霜
年齢:13
練度:6
戦艦指数:86%(自称)
戦歴:新任駆逐艦としてジェイソン鎮守府に着任。まだ着任から一ヶ月未満。
ポジション:みんなの妹、兼、メイン火力


2)満潮
年齢:14
練度:86
艤装適合度指数:1450(通常は100程度)
戦歴:貴重サンプルとして研究所送りにされそうになっていたところをジェイソン提督に拾われ着任。鎮守府で一年ほど過ごす。
ポジション:反骨精神の塊にして熱血系ゲロイン。無茶するのはやめろとかときどき言うけどたぶん彼女が一番無茶。


3)漣
年齢:19
練度:138
運:49
戦歴:違う鎮守府で歴戦の駆逐艦として武勲を挙げるも、捨て艦戦法について告発したことをきっかけに提督を失い各所に睨まれ、裁判所に攻撃艤装の使用を禁止されて職を失ったところを旧知のジェイソン提督に拾われる。いまの鎮守府歴は半年ほど。
ポジション:ご意見番、兼、参謀。頼れるみんなのサポーター。


4)あきつ丸
年齢:18
練度:41
集めた刀剣:31本
戦歴:ごくまっとうに揚陸艦としてのキャリアを積むも砲戦適性のなさであまり活躍できず、転々としたあげくにジェイソン提督に拾われる。鎮守府歴は満潮と同じ。
ポジション:烈風剣であります! 近接戦特化。色物。


5)青葉
年齢:23
練度:67
艤装適合度指数:39
戦歴:本来の法律的には艦娘と言えるぎりぎりの下限より下。そのため最初からジェイソン提督が後ろ盾になってくれないと艦娘にすらなれなかった。ジェイソン提督が鎮守府を作る以前からの助手で、事実上の初期艦。
ポジション:秘書官、兼、頼れるメイン盾。政治担当でもある。


6)葛城
年齢:21
練度:13
料理の腕:三つ星
戦歴:艦娘学校詐欺に騙されていたが、奇跡的なほどの艤装適性を発揮して訓練なしで葛城の艤装を動かしたため、いろいろあってジェイソン提督の政治的手腕で艦娘として認められいまに至る。鎮守府歴は満潮と同じ。
ポジション:一歩引いた立場ながら影の努力人。当人は気づいていないがジェイソン鎮守府の間宮でもある。


7)伊58
年齢:17
練度:83
オリョクル経験:プライスレス
戦歴:わりと珍しい潜水艦艦娘だったが、すっかり酷使されて疲れ果てていたところをジェイソン提督に拾われる。前の職場よりはずっと楽な環境になったが、トラウマのために未だに働きたくない病を発症することが。
ポジション:ひみつ隊員一号。みんなのサポーター。


8)呂500
年齢:15
練度:71
でっち好感度:100
戦歴:珍しいドイツ人の潜水艦艦娘だったが、研究所の不手際で艤装が破損して危うく職を失いそうになったところをジェイソン提督の口利きで助けられ、そのまま鎮守府へ。
ポジション:ひみつ隊員二号。でっちの付き人。



(明日、外伝を投稿してこの話を閉じます)
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