清霜の戦艦代理日記   作:すたりむ

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一:戦艦代理(後)

 そういうわけで、面接当日である。

「うー……緊張するわね」

 控え室の長いすで、清霜はひとり武者震いしていた。

 泣いても笑ってもこれが今期のラストチャンス。これ以外のつては思いつかない。

「がんばらないと……がんばらないと……」

「どもー。お待たせしました」

「うひゃっ!?」

 いきなり真正面から声をかけられてへんな声が出た。

 相手――いつの間にか立っていたそのひとは、にっこり笑った。

「清霜さんですよね? どうぞ」

「は、はい……」

 ――あれ。

 清霜は、そこで気づいた。

「あの……あなた、艦娘……ですよね?」

「あ、わかります? 青葉です。よろしくー」

 青葉……ということは、重巡洋艦である。

「なんで重巡の方が、面接の呼び出し嬢なんてやってるんです?」

「うちの鎮守府、人手ほとんどないんで。しょうがないんですよー」

「…………。

 いや。でも、せめて駆逐艦にやらせれば」

「清霜ちゃんが入ってくれたら任せられるんですけどねー」

「…………」

 というか、もうちゃん付けである。距離が超近い。

「ま、ともかくどうぞどうぞ。中に」

「あ、はい。では……」

 言われるままに部屋に入る。

 そこに、その人物がいた。

「やあやあよく来たね。まあかけたまえよ」

「ってぎゃーーーーーーー!?」

 清霜は絶叫した。

 せざるを得ない。

 なにしろ相手、なぜか意味もなくホッケーマスクをかぶってるのだ。

「な、なに!? コスプレ!? 趣味!? 変態!?」

「あっはっは。素敵に失礼だな君は」

 まったく気にしてなさそうにホッケーマスク男は言った。

「ああ、自己紹介が遅れたが、私がこの鎮守府の司令官だ。遠慮なくジェイソン提督と呼ぶといい」

「そのまんまな名前!」

「すみませんねーホント。うちの司令官、頭がちょっとこう、こうで」

 青葉が苦笑しつつフォロー(?)を入れる。

「まあまあ、とりあえず席につきたまえよ。リラックスして話そうじゃないか」

「は、はあ……」

「まず最初の質問だけど、きのこの山とたけのこの里のどっちが好き?」

「明らかにオールオアナッシングの質問やめてください!」

 面接で宗教戦争はごめんである。

「あはは、ジョークジョーク。大丈夫大丈夫」

「心臓に悪いジョークはやめてください……」

「んで本題だけど。目玉焼きにかける調味料は――」

「いいかげんにしなさい」

「あいてっ」

 ぴこりっ、と、青葉がぴこぴこハンマーでジェイソン提督を叩いた。

「仕方ない。じゃあ自己PRから始めてもらおうか」

「あ、はい」

 気を取り直して。

「駆逐艦、清霜です! 浦賀生まれです!

 将来は戦艦になりたいです! 以上!」

「……なかなか豪快な自己PRだ」

 さすがのジェイソン提督も、ワンテンポ反応が遅れた。

 そして、こくん、と首をかしげる。

「戦艦……戦艦か」

「?」

「なんで戦艦なの? 空母じゃダメなの?」

 ジェイソン提督はそう言った。

 清霜は、

(あれ、無理って言われなかった……?)

 と、なんだか若干戸惑いながらも、

「それはですね……かっこいいからです! 戦艦のほうが!」

「頭にきました」

「え、えええ!? すいません!」

「と、僕の知り合いの加賀が言いそうだねえ」

「…………」

 口まねだったんかい。と、清霜はすこしがっくりした。

「そ、それと……」

「?」

「戦艦の方が、装甲が厚いです。これは大きいですよ!」

「装甲が厚い?」

「はい、そうです!」

「火力のほうは魅力じゃないと?」

「そ、それもかっこいいですけど、でもどんな攻撃も受け止めるってほうがすごいじゃないですかっ」

「清霜ちゃん、プロレスとか好き?」

「あ、汗臭いのは、ちょっと……」

「あらそう」

 ちょっと残念そうに、ジェイソン提督。

(実は好きだったのかな、プロレス……)

 もうちょっと愛想よく答えるべきだったかなと思いつつも、

「いえ。艦娘っていちばんの特徴、沈まないことじゃないですか」

「……ん?」

「いや。ですから。

 なんか調べたんですけど、中破ストッパーとか言われる現象があって、注意深く運用していれば艦娘はほぼ沈まないって。だから……」

 途中で、相手の様子がおかしい気がして、清霜は言葉を切る。

 ……不自然な沈黙が降りた。

(わたし、なんか悪いこと言ったっけ?)

「……だから?」

「だ、だから、現行の軍用艦艇の代わりに艦娘がもっぱら運用される最大の理由は、沈まないことだって……その、えと」

「授業で習ったのかい?」

「いえ。自分で調べて、考えた結果です」

 清霜は素直に言った。

 人的被害をほぼ、ゼロにできること。

 これこそが実は、艦娘システムの最大の特徴なのである。

 深海棲艦の身体が小さくて攻撃を当てにくいことを考慮に入れたとしても。それでもやっぱり、軍事用の艦艇を使って戦った方が、艦娘よりずっと強い。

 現代的な兵器は武器を撃つためのコストが非常に高いというのがよく取りざたされるが、最近ではその対策に、コストを抑えた対深海棲艦用通常兵器も実用化されつつある。

 それでも――深海棲艦への第一の対策は依然として、艦娘なのだ。

 それはなぜか。

 清霜の出した結論は、『とにかく沈まないこと』だったのである――

「それで、えっと、あの」

「……待遇なんだがね」

「はい?」

「これでどうかね?」

 すっ、と、ジェイソン提督は一枚の紙を差し出してきた。

 清霜はそれを見て、

「え、なにこれ、ちょ……」

「不満かね」

「いえ。でもちょっと初任給にしては高めというか……」

「よし、ではこうしよう」

 ジェイソン提督は紙をひっこめ、ペンでなにかを書き加えたあと、改めて差し出してきた。

「これでどうだい」

「……え、え?」

 契約書のほとんどのところは変わっていないのだが。

 ひとつだけ。

 駆逐艦という艦種が書いてあったところに二重線が引かれ、代わりに「戦艦代理」と書いてあった。

「そのうち戦艦になるつもりなんだろう?

 まあ、うちでなれるという保証はできないがね。だがそのつもりなら――その日までは、代理だ。戦艦代理としての雇用とする」

「…………」

「返事は?」

 ジェイソン提督の言葉に、清霜は

「はいっ」

 と、笑顔で答えた。

 

 

「あれ、よかったんですかね?」

「なにがだね、青葉くん」

「いえ。清霜ちゃんの扱いですけど」

「なにか不満かね? 私からすれば破格だったよ。あとで足柄にカツでもおごってやらんといかんな」

 ジェイソン提督は上機嫌でそう言った。

「……まあ、うちのいまの状況じゃあ、雇用しないって方向はなかったと思うんですけど。

 でも戦艦代理なんて。監査法人あたりから変な難癖つけられませんかね?」

「給与的には普通の駆逐艦を大幅に超える待遇を与えてるんだ。裁判で負けることはないよ。

 それに、清霜ちゃんはああ見えて存外、頭が回るじゃないか」

「それ、司令官の持論と一致したからですよね?」

「まあな」

 ジェイソン提督はうなずいた。

「――私が普段から周りに言っていることを、まさか相手から言われるとはな。さすがに予想外だったよ」

「艦娘は沈まない……でも、それは理想的運用の元で、ですよね?」

「ああ、そうだ」

「そして、司令官の持ってきた『あのシステム』は、それを壊しかねないものですよね?」

「『使い捨て35.6cm連装砲』」

「は?」

「『使い捨て35.6cm連装砲』だ。いま名前を決めた」

「……戦艦っぽさを出すためにですよね?」

「いいネーミングだろう?」

「ノーコメントで。……というか、どっちにしても危険にさらすことは変わりないですよね?」

「まあ、な」

「だったら――」

「だからダメコンを併用すればいい」

「…………。

 まあ、それならそれでいいですけど」

 青葉は口を閉ざす。

 ジェイソン提督は笑った。

「大丈夫だよ、青葉くん。私を信じろ。

 誰も不幸にならないさ。私も、君も、――清霜ちゃんも。みんな、幸せになることができるはずだ」

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