清霜の戦艦代理日記   作:すたりむ

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二:離島にて(後)

「はー……さて、荷ほどきしないとなー」

 さんざん満潮とはしゃぎ合った(in清霜view)あと、清霜は自室に案内されてきていた。

 本土から送った段ボールはすごいことになっている。

 一日二日程度でどうにかなる量じゃないので、ゆっくりやってくのはいいとして。

「まあ、人間関係的には割とうまくいきそうかな。悪いひとはいなさそうだし」

 ちらりと、机の上の写真を見る。

 最初にほどいた荷の中に入っていたそれは、夕雲型のみんなと撮った写真だ。

(朝霜あたりはどうしてるのかな……)

 ささっと地方に就職を決めてささっと引っ越してしまった盟友を思い出して、考える。

 早霜ともあれから連絡は取ってない。

 メールでも打とうかな……と考えていると、

「……青葉、見ちゃいました」

「わああああ!?」

 いきなり耳元でつぶやかれて飛び上がる。

「ああああ青葉さん!? なんでここに?」

「いやあ、扉が開けっ放しだったもので。……それが今期の夕雲型のみなさんですか?」

「あ、うん。そうだよ。中央にいるのが夕雲姉さん」

「へえ……思ったより大人びてますねえ。最近の若い子は、ってやつでしょうか」

 しげしげと見る青葉。

 ……ちなみに。

 駆逐艦と違って、軽巡や重巡、戦艦などは、艤装との適合訓練に遙かに長い期間を費やす。

 だから総じて、駆逐艦よりもそれらの艦種の方が、着任時の年齢は上なのである。

 もちろん、この法則は着任時限定であって、ベテランの年齢はいろいろなのだが。

(まあ、だいたい小さい船のほうが引退も早めらしいから、その意味でも駆逐艦のほうが若いんだけど)

 すでに大人の女性と呼べる年齢だと思われる青葉をチラ見しながら、清霜は思う。

「ああ、それと清霜ちゃん。司令官から命令です」

「え? な、なにかな」

「30分後に支度して訓練場へ。

 実力をみんなに見てもらうんだそうです」

 

 

「じゃあまず回避行動からねー」

「は、はい」

 緊張した面持ちで、清霜はうなずいた。

(うわあ、みんな見てる)

 司令官だけじゃない。青葉も、あきつ丸も、漣も、葛城も、満潮も来ている。

 青葉はにっこにっこしながらカメラを構え、あきつ丸は泰然と腕を組み、漣は謎のポーズを取り、葛城は普通に興味深そうに、そして満潮はふてくされたように、こっちを見ている。

 ちなみに当然ながら、司令官の表情はマスクにさえぎられて見えない。

 ……地味に不気味である。

(っと、集中、集中!)

「よっと……」

 艦娘が水上をスキーみたいに走るのは有名だが、これは慣れないとけっこうたいへんなのだ。

 足の動きだけでなく、艤装の動きを連動させないとなかなか前に進んでくれない。

 その訓練をクリアすればとりあえず前後には運動できるのだが、今度は方向転換というさらに強大な敵が待ち構えている。

 特に、左右の切り返しがとても難しい。この点ではスキーというより、スケートに近いかもしれない。

 そこで清霜が……というより、艦娘が一般に使うのが、伊勢日向メソッドと呼ばれる回避法だ。

 つまり、取り舵(左)と面舵(右)、どっちか片方しか使わないという方法である。

(基本はこれで。慣れたら満潮ちゃんみたいな華麗なステップが刻めるのかもしれないけど……実力見せろって言われて挑戦する内容じゃないし!)

「清霜ちゃん、もう始まってるよ!」

「わわっ!」

 漣の指摘した通り、魚雷の航跡があるのを見てあわてて走り出す。

 とにかく、タイミングを見て面舵、面舵、面舵!

 ひたすらこれ。臨機応変なんて夢のまた夢。まずはうまくなくてもよけなきゃ始まらない!

「よっ! とおっ! たああっ!」

「おー。訓練校上がりにしてはなかなか」

「ふん……」

 しばらくして、無事漁船に手をついて戻ってきた清霜は、港を見てふんぞり返った。

「どーんなもんです!」

「うん、見事見事」

 ぱちぱちぱち、と拍手が降ってきて、清霜は照れくさそうに笑った。

「そんじゃまあ、次は砲撃訓練、行こうか?」

「え、いいんですか?」

「いいっていいって。訓練弾への換装はもうしてるんだろう? 遠隔操作で的出すから、狙ってやってくれよ」

「はい! じゃあ行きます!」

 ういーん、と音がして、漁船の船体にいくつもの的が出てくる。

「狙え!」

「了解!」

「てー!」

「てー!」

 ばすん、と清霜の撃った弾は、的のひとつを惜しい感じでかすめて――

 ばごん、と音がして、漁船の船体上部をぶっ飛ばした。

「はい?」

 …………

 ………………

 ……………………

 沈黙。

「いやあ……アレだね。漁船を改造して、なんとか的になるかと思っていたが……」

 司令官が言った。

「案外モロかったなぁ……訓練弾でここまで壊れるとは」

「いやいやいやいやいやおかしいでしょ!?」

 清霜は叫んだ。

「ていうか、え、いまのわたしの撃ったの、ホントに訓練弾ですか!?」

「弾薬庫担当の葛城くん、どうだい?」

「間違えるわけないでしょ。そんなの。

 ていうか、艦娘の実弾が当たったらあんな漁船、マジで木っ端みじんになってるわよ」

「というわけで間違いないらしい」

「いや。でも」

 清霜は言った。

「だったら、いままでの訓練でなんであの漁船は無事……」

「あっははははははは」

 司令官は笑って、

「さ、実力は見たから帰ろうかみんな」

「待って! ちょっと待った! 質問に答えて!」

 清霜は食い下がった。

「ねえ! なんであの漁船、無事だったの!?」

「清霜くん……」

「撃てなかったからよ」

 答えたのは、満潮だった。

「撃てない……?」

 予想外の答えに沈黙する、清霜。

「そうよ。ここにいる連中みんな。わたしも、漣も、青葉も、あきつ丸も、葛城も――誰ひとり、砲を撃てないのよ。それが原因」

「え、そんな……なんで?」

「理由なんて人それぞれでしょ」

「でも……満潮ちゃん、あんな操船うまいのに。なんで?」

「っ。なんでもいいでしょ!」

「よくないよ! 納得できない!」

「ああそう。じゃあやってやるわよ!」

 言うなり、満潮は海面に降りた。

「ほら、どいたどいた!」

「わ、わわっ……」

 滑るように、凄まじい勢いで満潮は漁船に向かい、

「ちょ、ま、待った満潮くん! 早まるな――」

「発射!」

 次の瞬間、漁船は跡形もなく爆発四散した。

「うあああああああああっ!」

 司令官が号泣。

「漁船が……乏しい資材の中をやりくりして必死で譲ってもらった、大切な訓練施設がああああああっ」

「……そういやあの子、訓練弾に換装してませんでしたねー」

 漣があきれたように言った。

 清霜ももちろんそれは気になったが、それより。

「ちょっと、満潮ちゃん、大丈夫!?」

 ふらりと海上でうずくまる彼女に、慌てて寄っていく。

「ねえ! 満潮ちゃん、大丈夫!?」

「う……」

「う?」

「うげええええええええ……」

「吐いたー!?」

 

 

 これが。

 清霜が鎮守府に着任して、最初の日に起きた大騒動であった。





おまけ:ジェイソン鎮守府、所属艦の装備

清霜
1)12.7cm連装高角砲(後期型)
2)93式水中聴音機

青葉
1)増設バルジ(中型艦)
2)増設バルジ(中型艦)
3)増設バルジ(中型艦)
4)零式水上偵察機


1)新型高温高圧缶
2)新型高温高圧缶
3)ドラム缶(輸送用)

あきつ丸
1)烈風改
2)烈風
3)カ号観測機

満潮
1)12.7cm連装砲
2)61cm四連装(酸素)魚雷
3)93式水中聴音機

葛城
1)25mm三連装機銃集中配備
2)毘式40mm連装機銃
3)21号対空電探改
4)なし
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