清霜の戦艦代理日記   作:すたりむ

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三:その理由(前)

「……納得いかない」

 むくり、と清霜は身を起こした。

 時刻はもう夜中である。とりあえずあのあと解散して部屋に戻り、ご飯を食べて寝たものの、不信感はぬぐえない。

 なんで、みんな砲が撃てないのか?

 いやまあ、空母である葛城が砲が撃てないのはいいとして。(艦載機も飛ばせないらしいが、まあその謎はいったん置いとく)

「他のみんなは、どうして……?」

 今日見た人間をリストアップする。

 青葉、あきつ丸、漣、満潮。

 四人が四人とも、砲撃ができるはずの艦である――できないというのは、なんなんだろう?

「直接聞くしかないかな……」

 よっ、と身を起こす。

 もう寝ている可能性もあるが、こういうのは早いほうがいいだろう。

 

 

 というわけで、満潮の部屋までやってきた清霜なのだが。

「満潮ちゃん……起きてる?」

 と、小さく声をかけても、返事は返らず。

 余談だが、この鎮守府、ものすごく敷地が広い上に、建物もえらくでかい。

 100人くらいで共同で生活しようとしてもできるレベルなんじゃなかろうか。いや、お手伝いさんとかは普通に雇っているみたいなので、艦娘以外の人間も住んでいるのだが、それでも無駄に部屋は余っている。

 なので、多少大きな声を出しても満潮以外を起こしてしまう可能性は少ない。……のだが、肝心の満潮が寝てたら起こしてしまうので、小声。

 部屋に明かりはついているのだが寝落ちの可能性もあるし……と清霜が思っていると、

「……青葉、見ちゃいましたがるるるきしゃー」

「ひぎゃっ……むぐう!?」

 悲鳴を上げかけた清霜の口がふさがれる。

「はいはい夜中の悲鳴は迷惑なんで止めておきましょうね。どうしたんですか、清霜ちゃん?」

「あ、青葉さん! びっくりしたあ!」

 ていうか、なぜこのひとはホラー調で出てくるのか。あと、なぜメモを常に片手に持っているのか。

 いろいろ聞きたい疑問はあったが、とりあえず清霜は飲み込むことにした。

「えっと……満潮ちゃんに会いに来たんだけど」

「んー、あの子が電気消さないで寝落ちってのはあまり考えにくいので、いないかもしれないですねえ」

「あ、そうなんだ」

「ところで清霜ちゃんは満潮ちゃんになんのご用です?」

「いや、昼間のことを聞きにきたんですけど……

 そう、というか青葉さんはなんで砲撃てないの?」

「おおう、いきなり核心ですねえ」

 笑いながら、青葉は廊下の奥を指さし、

「とりあえず、食堂行きましょうか?」

 と言った。

 

 

「……で、なんで私が夜食を作らされてるの?」

「いいじゃないですかー。どうせ起きてたんだから」

 ぶつくさ言いながらフライパンを華麗に操作する葛城に、手を振る青葉。

 なんだか悪いなあ、と思いつつも清霜は本題を忘れない。

「それで、どうなんです。青葉さん。なんでみんな砲撃できないんですか?」

「んー、そうですねぇ。なにから話したものか……

 とりあえず、青葉の話からにしましょうか」

 青葉は言って、こほん、とひとつ咳。

「ときに清霜ちゃん、あなた艤装の適性試験何個通りました?」

「ええと、みっつ。全部駆逐艦で、巻雲と朝霜は今年もういるからってことで清霜に」

 すらすら答える。

 艤装の適性試験は艦娘にとって最も重要なファクターである。清霜のみっつというのは悪くないスコアだが、めちゃくちゃいいわけでもない。

 適性の高い子になると10くらいでてきて、その中に軽巡が混じっていたりする。もちろん、艦種は重いほど重要なので、その子は軽巡を選ぶのが普通だ。

「そうですか……私は――」

 青葉はそこでいったん言葉を切り、

「ゼロ、だったんです」

 と言った。

「ゼロ……?」

 清霜は固まる。

 そんなはずがないのだ。

 艦娘の専門教育を受けるためには、まず一次審査として、なにかの適性があるかどうかという審査を受ける。

 そこでまったく音沙汰がなかった場合、たとえ他にどんな能力があったとしても、まず学校に入ることができない。

 だとすれば――

「あ、いえいえ。一次審査は通りましたよ?」

 苦笑して、青葉。

「ただねえ、適性がある艦が特殊でして。

 天城だったんですけど」

「え……空母の?」

「あ、いえ。そっちじゃなくて。

 古い、計画だけあった戦艦の天城ですね」

 聞いたことはあった。

 条約の影響で戦艦として建造できなくなり、空母への転換が企画されるも、関東大震災で大破して中止した艦。

「でもそれ、艦娘にできるの?

 艦と共に戦った戦士の魂を呼べないなら、艦娘システムは起動できないはずじゃあ……」

「できなくはなかったんですけどね。やっぱ出力がろくになくて。

 このままじゃ出力不足で港から遠く離れるのすら危なっかしいっていうんで、仕方なくあてがわれたのが、本来なら適性はないけど、ぎりぎり動かせる、青葉だったんです」

「他の適性は?」

「なしですね。

 駆逐艦のひとにはわかりにくいと思うんですけど、重い艦に適性がある艦娘って、たいていそれ以外の適性ほぼゼロですよ」

「そ、そうなんだ」

「ふだんの私の一人称が『青葉』なのも、そうしないと適性不足でいつ動かせなくなるかわからなかったからだったりするんですよ?」

「ええと……その、聞いていいかどうかわからないんだけど」

「どうぞ」

「なんで、そこまでして艦娘してるの?」

 聞いた。

「適性なしでやっていくにはいろいろ厳しいし、危ない仕事だし、あんまりいいことないんじゃあ……」

「あはは、そうですね。でも」

 青葉は言った。

「本来、青葉は艦娘になりたかったわけじゃなくて、ジャーナリストになりたかったんですよ」

「ジャーナリストに?」

「はい。

 それで、艦娘の取材とかってかなり難しいし、前線となればさらに難しいじゃないですか。自分も艦娘ならその条件をクリアできるんで、それで」

「なるほど……」

 清霜はうなずいたが、

「でも、それで雇われた島に砲撃できる艦娘がひとりもいないんじゃ、なかなかまずいんじゃないの?」

「清霜ちゃんに期待してますよー」

「……しょうがないなあ」

 苦笑する。

「で、他のひとたちの話は?」

「それなんですけどねー、やっぱ青葉から話すのはやめにしときます」

 青葉は言った。

「青葉の話を聞いてわかったと思いますけど、事情ってみんなけっこうややっこしいんで。勝手にぺらぺら話されたくないってひとも多いでしょうから」

「意外と理性的なのねー。ほれ、ポテトとソーセージおまたせ」

 ごとっと皿が置かれた。

「うわーすごいよ葛城さんありがとう! ……カロリー気になるけど」

「作ったんだからちゃんと食べなさいよ?」

「あ、それじゃあ葛城さんはなんで艦載機飛ばせないの?」

「……またえぐるように攻めてくるわね、この新入り」

「いいじゃないですかー。教えちゃえば」

「ま、私は隠すこと、特にないからね」

 葛城は言って、ため息をついた。

「簡単に言えば、訓練不足。これに尽きるわ」

「え……でも学校の訓練は?」

 成績が悪いと艦娘学校は普通に退学になるし、その率は普通の学校よりはるかに高い。

 と思ったのだが。

「それが詐欺に遭ってね。正規の学校と同じ教育を受けられます! っていう」

「…………」

「どん引きしないでよ! 私だってなんかおかしいなーって思ってたけど、お、親がどうしてもって言って!」

「で……どうなったんですか?」

「艤装適性試験がいつまで経っても行われないからって、業を煮やして試験会場の艤装置き場に忍び込んだのよ」

「普通に超違法行為!」

「しょうがないでしょ! その頃は学生証見せればどうにかなると思ってたのよ!」

「で、で、どうなったの?」

「捕まりかけたところで偶然手に取った葛城の艤装がぴっかー、って光って」

「奇跡過ぎる!」

 訓練受けてないでそんなことが起きるのは、万に一つの可能性以下じゃなかろうか。

「それでまあ、私をきっかけに詐欺連中はみんな逮捕されたんだけど、私の処遇にものすごくみんな困ったらしくて。とりあえず才能あるなら艦娘にしようってことでこう、なったんだけど……」

「訓練してませんもんねー……」

「い、いまも必死でやってはいるのよ! 機銃くらいなら動かせるようになったし!」

 むきになって言う葛城。

「まあそんなわけで食堂のおばさんの話はこの辺でいいとして」

「おばさん言うな! ていうか青葉のほうが年上だし!」

「残りはどうします? もう夜遅いし、これ食べたら寝た方がいいじゃないかと思いますけど」

「ううん! わたし、寝たらたぶん聞くの忘れちゃうから!」

「あ、そですか」

「というわけで、いまから満潮ちゃん探しに行ってくる!」

「あ、ちょっ……」

 青葉がなにか言う暇もなく。

 清霜はばびゅーんと風のようにいなくなった。

「やれやれ。若い子はエネルギッシュですねえ」

 苦笑しながら、青葉はソーセージをぱくり、と一口。

「で、このカロリーを青葉ひとりに消費しろと言うのですか。夜に」

「食い残しは死あるのみよ」

「うううううー……せめてもう一本食べていって欲しかったですよ、清霜ちゃん……」

 明日からの減量を思って泣きながら青葉は言った。

 

 

 そして出て行った清霜はというと。

「わっ!」

「おお、驚いたであります」

 あきつ丸と出くわしていた。

「あきつ丸さん、満潮ちゃん知らない? あとなんで砲撃てないの?」

「ふたつもいっぺんに質問されると自分は処理できないであります」

「じゃあなんで砲撃てないの?」

「……そっちを残すでありますかー」

 苦笑ぎみに、あきつ丸。

「まあ、べつに話してもいいでありますが。あんまりおもしろくないでありますよ?」

「わくわく。わくわく!」

「やりづらいでありますなー……」

 言って、おほん、とあきつ丸はひとつ咳。

「本当にたいした内容じゃなくて……天性の、無才能なのであります」

「っていうと?」

「なぜか砲撃した弾が横の同僚に直撃したりするであります」

「…………」

 斜め上の話だった。

「自分、愛宕と名取の適性もあったでありますが……この状況で通常の水上艦艇やったら、いつ人を殺すかわからなかったでありますよ。だからあきつ丸に」

「うん……なるほど。そりゃそうだね……」

 あきつ丸なら、砲を撃てなくても制空とかでかろうじて活躍のめどはある。

「じゃあ、あきつ丸さんは砲撃ができないんじゃなくて、砲撃が下手なだけなんだね」

「まあ、とは言っても数年やってないでありますからなー。カ号と烈風以外が使える気がしないであります」

「なるほど……で、満潮ちゃんどこにいるか知らない?」

「例の訓練施設跡で黄昏れてるでありますよ」

「わかった! ありがとー!」

 言って去ろうとする清霜だが。

「そうそう。これは忠告であります」

「?」

「他の艦はともかく……漣殿が砲を撃てない理由は、聞かないほうがいいでありますよ。清霜殿」

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