清霜の戦艦代理日記   作:すたりむ

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四:深海棲艦(前)

(曙……曙や……聞こえますか……)

「う……うう……ん?」

 曙は目を開けた。

 目の前にはきらめくような星々が見える。

「え……ここ……どこ?」

(曙……曙! あなたの力が必要なのです……お願いです……力を……!)

「え、ええと、わかったわよ。どうすればいいの?」

(では。まずはこれから言うわたしの言葉に、「はい」か「イエス」でお答えください)

「ちょっ……!?」

(そして我が世界に来たりて、なんかもー日々のイベントにちょっとしたスパイスのノリで繰り返される世界の危機に立ち向かったり、どー見ても刀や大砲にしか見えないブツを箒と言い張ったり、文学者の名前を叫びながら光線を放ったりしておもしろ愉快な毎日を過ごすのです。むにゃむにゃ)

「こら待てぇーーーーーーーー!」

(問答無用ですわうふふ。さあ我が世界に……!?)

「危ない、曙!」

「朧!?」

 どんっ、と突き飛ばされる。

 朧は静かに目の前の謎存在を見つめ、

「見ての通りよ! 曙を誘拐なんてさせやしない!」

(あら困りましたねぇ。まあべつにあなたでもいいんですが)

「そう……ならこれでお別れね。曙」

「ちょ……ちょっと待ってよ朧! あなたどうして……」

「さようなら曙。あたしの艤装のカニに、ちゃんと餌あげといてね……」

「朧ぉーーーーー!?」

 

 

「っていう夢見たんだけど、どう思う?」

「どう……と言われてもなあ……」

 曙の言葉に、時津風は困ったように苦笑した。

 食事処「鳳翔」。ここは世にも珍しい、艦娘による艦娘のための料理店である。

 朧は曙の言葉に小首をかしげて、

「しかし妙な夢だね。細部がえらく具体的というか」

「そうよね。なによ文学者の名前の光線って。わたしをなんだと思ってるのかしら」

「だよね……あたしもイブセマスジーはさすがに出せない」

「…………。ちょっと待った。なんでその名前にしたの?」

「それはカニだけが知ってる秘密の名前……ふふふ」

「やめなさいよ不気味だから!」

 ぎゃいのぎゃいの、とやっていると。

「……前よりずいぶん元気になったわね、曙さん」

「あら早霜。今日はもう店に出てるわけ? 大変ね、そっちも」

「ええ。……わたしは夜勤のほうが好みなのだけれども」

 早霜はそう言って、ことんと注文のアジフライを曙の前のテーブルに置く。

「珍しいわよね、こういう場所に配属されるのって。妖精見えるんだっけ?」

「そう。だから雇われたの」

 早霜は答える。

 この食事処はたしかに珍しい店だが、本業ではない。本業はこの店の隣にあるビルにある、艦娘艤装研究所だ。

 ここでは、艦娘の特性、特に「妖精さん」と呼ばれる英霊の魂とコンタクトを取れる者が雇われており、日々、艦娘システムの改良のための研究に勤しんでいる。

 そして種類の異なる妖精さんをいろいろ見るために艦娘用に開放しているのが、この出先施設である食事処、なのだが。

「……まあ、正確に言えば、就活に大失敗しかけてダメ元で前のバイト先にかけあったら、なんとか雇ってもらえたというところなのだけれど」

「あんたバイトだったの!?」

「正式な雇用はほんの二日前」

「まさかの後輩!?」

 曙がショックを受けて立ち上がった。

「か、貫禄からてっきり年上かと……ていうかここ、夜は酒も出してたわよね!?」

「ええ。まあ、見よう見まねでカクテルとか作ったら、なぜか好評で」

「思いっきり未成年よね……法律どうなってるの?」

「その辺は艦娘だから曖昧なんじゃないのかしら」

 早霜はそっけなく言う。

「ねえねえ! そんなことよりさーはやはや。あんた妖精さん見えるだけじゃなくて、霊感とかすげー強いんでしょ?」

「ええ。そうね……いまもいろいろ見えるわ。ふふふ……」

 早霜は時津風の言葉に答えながら、謎めいた含み笑い(本人無自覚)をした。

「じゃあ占いとかもできるの!?」

「占い? ……ええ、なんとかできるわね」

「ええー? 占い?なんかうさんくさいわね……」

 曙が疑わしげに言うが、早霜は胸を張って、

「大丈夫よ。占いと言っても、なんかそのへんにただよっている残虐時空皇帝デメトトキン二世の影からちょっと未来を聞くだけだから」

「すごいやっつけな名前に聞こえるんだけど!?」

「ちなみに当人は皇帝を自称してるけど、実際は兄のデメトトカンに帝位を奪われて暗殺されそうになって対抗して自分の存在を宇宙レベルで希釈した結果、元に戻れなくなって宇宙全体に漂っているらしいわ」

「あー、まあ、うん。その設定はどうでもいいんだけど、占い自体には興味があるな。あたしの未来とかわかるの?」

 朧の言葉に早霜はしばし黙考し、

「次のセッションは安泰……ただPLのプラーナ残量に留意、だそうよ」

「なるほど……わかった」

「ちょっと!? なんかよくわからない専門用語がいっぱい出てきたんだけどどういう意味!?」

「わからないならわからなくていいのよ……ふふふ」

「そうそう。ふふふ」

「あんたらムカつく!」

 曙はぎしゃーと叫んで、

「じゃ、じゃあわたしは!? わたしの未来は!?」

「それも大丈夫。潮ちゃんともうまくやっていけるし、提督との仲も急接近するでしょう……」

「なんであのクソ提督とわたしが急接近しなきゃいけないのよ!?」

「おー、曙ちゃんやるぅー」

「ひゅーひゅー」

「拍手すんな!」

 ぱちぱちと手をたたく時津風と朧にかみつく曙。

「じゃあこいつはどうなのよ! 時津風の未来は!?」

「時津風さんは……たくさんの女の子に囲まれてモテモテの未来が待ち受けてるわ」

「えーマジー? 人気者は困るなーあはははは」

「そして……」

「そして?」

「王国に依頼されて塔を建造し、オヤカタの称号を得て伝説になるわ」

「なにその超展開!?」

「あはははは。いいじゃない時津風オヤカタ。語呂もいいし」

「嫌だよどう見てもお相撲さんじゃん!」

 本気でいやがる時津風をここぞとばかりにいじる曙。

 その光景を見ていた朧だったが、ふと、

「……早霜? どうかした?」

「いえ……」

 あいまいに答える、早霜。

 おぼろげに見えた未来を反芻して、

(清霜が深海棲艦の群れに囲まれるというのが見えたけど……大丈夫なのかしら、あの子)

 と、心の中だけでつぶやいた。

 

 

 そんな話が行われている頃。

「満潮ちゃん、意外とインドア派?」

「はあっ、はあっ……い、インドアとか……関係ないでしょ……この山は」

 清霜と満潮は、山の中にいた。

「ったく、なんで艦娘が山登りさせられてるのよ! おかげで普段使ってない筋肉を無理矢理使わされて、明日は筋肉痛確定じゃない!」

「でも筋肉はまんべんなく育てないと。艦娘なんていつ裸になるかわからないんだし」

「なんでわたしたちが露出狂みたいになってんのよ!?」

「長門さんはいつも割れた腹筋誇示してるし、わたしもいつか見せないとダメかなって」

「そこはなんか別の艦参考にしなさいよ!」

「でもいまの武蔵さんも基本サラシだけだよ?」

「大和! 大和でいいから!」

「あのひとおっぱい徹甲弾で水増ししてるから隠してるだけでしょ?」

「隠してるほうが普通なのよ! ていうかそんな情報初めて聞いたわ!」

 叫んだ満潮は、その場で仰向けにぶっ倒れた。

「あーもう歩けない! なによこの山! 離島の分際で生意気なのよ!」

「離島ってわりと山持ってるとこ多いんじゃないの?」

「そういう突っ込みはいいから水!」

「はーい」

 清霜が渡した水筒から、満潮は水をごっきゅごっきゅと飲む。

「ぶはーっ! ああー、やってらんねーわよもう」

「しょうがないじゃん。昨日の罰則って言われちゃったんだし」

 清霜は言った。

 執務室を漁った罰と言われては、満潮もさすがに反論しづらい。いけないことなのは確かなのだし。

「でもこんな山奥になにがあるっていうのよ。わたし一年以上いるけど、なにも聞いてないのよ?」

「なんか湖があるって言ってたよね」

「いつになったら到着できるのかしら……ていうか、いま地図の上でどこなの?」

「まっすぐ道なりだからこの道のどこかじゃない? ほら」

「うー、ゴールが見えないのがいらつくわね……」

 満潮は憮然とつぶやいた。

「ともかく歩こうよ。歩かないと終わらないよ?」

「わかったわよ。ったく」

 言って満潮が立ち上がった、そのとき。

 がさがさがさ! と音がして、周囲の森から道にそれが現れた。

 イノシシ。

 めちゃくちゃでかいそいつは、こちらをじろりとにらみつけた。

「ひ――」

「逃げるよ!」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 ふたりは、一目散に逃げ出した。

「ていうかなによあれ! こんな離島にあんな化け物みたいな野生生物がいるなんて聞いてないんだけど!」

「リュックに艤装ちゃんと入れて持ってけって言われたのはこのためかー。いざとなったら撃てってことよねたぶん」

「あんたあんな重いの持って山登ってたの!?」

「え、満潮ちゃん艤装持ってきてないの?」

「どういう体力してんのよこいつ!」

 ぎゃいのぎゃいの言いながら走りまくって、しばし。

「ぜえ、ぜえっ……タンマ。清霜、タンマ……」

「ん……もう大丈夫かな。追ってこなかったみたいだし」

「も、もう、ダメ……もう走れない……」

「大丈夫だよ満潮ちゃん。なんかもう湖、見えてるから」

 清霜はのんびり言って、そちらを見た。

 つられて満潮も顔をそちらに向けると。

「うわ、きれい……」

「だねー。水すごい透き通ってる」

 こんなところにこんなきれいな湖があるなんて、誰も思わないだろう。

 うちの鎮守府がなければ観光地になってたんじゃないかこの離島……と、満潮が考えていると。

「よし、泳ごう!」

「ええ!?」

 ばっさばっさといきなり服を脱ぎ始める清霜に、うろたえる満潮。

「ちょ、あんたなにやってんの!?」

「さっき言ったじゃんいつか脱ぐときに備えないとって! 今でしょ!」

「馬鹿最低でもパンツ残しときなさいっ……!?」

 言い終わる前に満潮にばしゃーんと水がぶっかけられた。

「…………」

「へっへー。どうだっ」

「やったなあっ……」

 わなわなわなと震えた満潮は。

 服も脱がずにいきなり湖に飛び込んで、清霜に水をかけ始めた。

「ちょ、脱がないと後ひどいんじゃ……わぷぷっ!?」

「うるさい覚悟しろこのちんちくりんがーっ!」

「え、ええーい、負けないぞっ!」

 かくして。

 湖は壮絶な修羅場と化した。

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