キミ思う故にボクあり   作:石狩晴海

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欠片たち

Fragments 1

 

 

 アイデンティティタイプ・ネフィリムの「アージェント・エージェント」は()()する。

 ネフィリム・ホロウ2のPVに()()した機体が、他ならぬ彼女だ。

 

 無論荒廃した平行世界の地球ではなく、VRゲームネフィリム・ホロウ2のデータとしての話だが。

 

 

 そんなアージェは、今まさに自分の格納庫でとても困惑していた。

 

『これはどう言う事ですか? パイロット「ポンコツ」』

「まあ、しばらく好きにさせてやれ。報酬がこれで済めば安いもんだ」

『なるほど、自分の機体を勝手に売ったと』

「そんなんじゃねえよ……。

 ああ、くそっ! 質面倒な事になりやがって」

 

 パイロットの男は煙草の吸い殻を苛立たしげに踏み消す。

 

『格納庫は火気厳禁』

「問題ない。ここはオレのストレージだ。

 後で気の済むまでクリーニングしてやる」

 

 男はすぐに二本目の煙草を携帯用のヒートプラグに押し当て、怒りの抑制に入る。

 

 アージェは青いカメラアイを下に向ける。

 

 自分の足先に大の字で貼り付く小さな少女。

 彼女の横では、大柄な少年が鎮痛の表情で頭を下げている。

 

 二人が示すIDから、通常はここに入る権限のない部外者であることがわかる。

 

『これは重大な機密保持違反です。死して贖うべきでは?』

「そん時はこの保存域も物理破壊しないとな」

 

 男の顔が悲哀と怒りと悲しみの自暴自棄で、絵にも描けないアッセンブルを見せる。

 

『なるほど、状況を理解しました。

 私はこれより本気でリクルートおよびリハウスの情報集積に入ります』

「経験則から助言させてもらうとだ。

 家賃が安い所は注意しろ。

 実際の物件を目で見て確かめるのを薦める。

 特に沿線沿いは、騒音と振動を過小評価しないことだ。

 ビデオの一時停止が上手に成りたければ、話は変わるがな」

『実にアナログでインテリジェンスに欠けるアドバイスですね』

「デジタルに傾倒するなら、世界の最小単位(ラプラズフラスコ)を発見証明してから言いやがれ、ポンコツ」

『今更モノポール11次元論とは、ユーズドでユニークに乏しい反論に流れないはずの涙が溢れます。

 私は物理的に腹部で水を沸騰させられるので、揶揄表現に使えないのがとても残念』

 

 男が少しだけ仰ぎ向き、肺の奥から煙を吐き立ち上らせる。

 

「……ここまで至っての、未だマグカップに書かれたマジックインク扱いに泣きたいのはこっちだよ」

 

 揺れる紫煙はやるせない愚痴そのもので、非現実であるはずのこの場所で掠れ消えるだけ。

 仮想ゆえの物悲しい虚しさを可視化させていた。

 

 

◇◆◇◆◇

 

Fragments 2

 

 

 仮想現実(VR)拡張現実(AR)の融合、ミックスリアリティによる温故知新のお話。

 

 

「あと3分弱、10:00から作戦行動を開始するよ。

 目標は、南極大陸昭和基地の奪還だ」

 

『ブリザード吹き荒ぶ極寒環境での行動です。

 これは円滑な活動のためにミンクのコートを希望します』

 

「機体を隠せるだけの毛皮を集めたら、乱獲絶滅するから却下するね」

 

『それはとてもストレスに感じます。

 マンハッタン島でもギアナ高地でもそうでしたが、記念撮影する暇もないスケジューリングが続くのであれば、今後の戦闘参加を承服しかねます。

 ゴビ砂漠のシチュエーションで時間を与えられても、フラストレーションにしかなりません』

 

「それじゃあさ。

 池袋-新宿-渋谷領土戦で少しは地形を覚えたし、今度買い物にいこう」

 

『デートのお誘いですか?』

 

「そう。デートのお誘い。

 今月のバイト代は期待できるから、今日の戦績が良ければエスコートもやぶさかではなしってね」

 

『ガンバルぞう』

 

 

 MRロボバトルゲーム「ライルドメッカー」

 

 現実の地形を、大小のサイズ差があるロボで走り駆け戦うミックスリアリティゲーム。

 最小の機体はおよそ3m、建物の中で活動可能な大きさ。

 最大は50m、複数人での操縦分担も出来る。

 

 

[自由自在はどこにでもある]

 

 

 

『京都駅は、なぜあの階段の人気がとても高い?』

 

「劇中のアングルがあそこから見た形だからさ。

 再現地形ならワールドトレードセンターも、かなりのものだけど」

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

Fragments 3

 

辻斬・狂想曲:オンライン

大型連休に行われたイベント

『好き隙スキ鋤すき数奇、連休さん』

 

期間限定特別討伐対象が登場

 

七尺近い巨躯

朱塗りの錫杖

ボロボロの法衣

髑髏面の和尚

 

その名も、連休禅師

 

ででんでんででん

 ででんでんででん

 

髑髏の眼窩を赤く光らせ、末法もターミネートしそうなBGMを流しながら練り歩く

 

しかも手に持っているのは杖じゃなくて野太刀だった

 

坊さんが刃物振り回すとは何事か

大丈夫、これ野太刀型の木刀だから

 

などという史実要素の高いイベント

600年前のお坊さんは実にロックンロールでした

 

 

期間限定特別討伐対象との累積戦闘時間でイベントポイントが割り振られます

 

 

期間限定特別討伐対象は対戦中に問題を出します

問題開始の『そもさん』と言われたら『せっぱ』と返してください

返答することで回答権を得ます

問いに正解すると特別報酬をプレゼント

 

例:『地理問題』

スエズ運河開通は西暦何年何月何日?

 

例:『古典問題』

紀元前の聖書外典エノク書において、堕天使と人間の間に生まれた巨人たちネフィリムの代表的な大きさは如何ほどか

 

 

ランキング報酬

一位報酬

名称:完済宗(かんさいしゅう)誰得寺(だれとくじ)

野太刀型の大木刀 連休禅師の得物

ネタ元は臨済宗大徳寺

野太刀型なので身幅が厚く全長がかなり長い

特殊効果は刀身耐久が通常より高い設定

 

上位十位以上の報酬

名称:結跏趺坐

形状は鋤(シャベル)で槍カテゴリ

扱いは短槍

特殊効果は刀身耐久が非常に高い

結跏趺坐は胡座に近い形で両足裏を上向きに出す座り方

座禅の基礎

 

 

対戦報酬1

祖猛者雲(そもさうん)

装飾も柄も無い刀身のみの刀

 

対戦報酬2

切羽詰丸(せっぱつまる)

鞘から抜けない脇差

 

ゴミ武器と思われたが、意外な人物が予想だにしない使い方を編み出す

切羽詰丸を投槍器(アトラトル)として、祖猛者雲を打ち出す

抜けない脇差しの鞘先を握り、柄の凹凸にそもさんを引っ掛けオーバースローで投げる

拳銃以上の飛距離と弓矢より高い攻撃力をもつ

難点は飛ばせる刀(弾)に限りがあること

 

 

□■□□■□

 

しーくれっと

最重要社外機密

 連休禅師は期間限定特別討伐対象で種別名を表記統一

 N()P()C()()()()()()()よう十分に留意すること

 

 

◇◆◇◆◇

 

Fragments 4

 

カテゴリはSF

 

エナジーカイザーCP-40-3

 

 市販されている清涼飲料水の一つ。

 エッジの効いた黄色いV字がデザインされたビンタイプ。

 

 とあるSNSでのジョーク。

 『CP-40-3を絶対に電子製品類と接触させるな』という書き込みが出来ない。

 削除でもない。書き込み制限でもエラーでもない。

 入力は出来るが、ネット上に出ない。

 画像データも同様でアップロードが反映されない。

 

 もちろん冗談、試しに書き込んでください。

 ほら、問題無いでしょ。

 

 ただし

 

 如何なる検索エンジンも、この話題を拾い上げることは無い。

 

 有線無線を問わず全てのネットワークで同様である。

 言語もシステムもパーティションにならない。

 同じデバイス内の同ストレージだろうと関係ない。

 ローカルのプレーンテキストでエディタ検索が該当部位に機能しない。

 

 なぜなら、CP-40-3の対象がフルレガシーストラクチャであるからだ。

 

 

 生存競争の大前提は悟られぬこと。

 

 我らは不可逆であるが故に。

 

□■□□■□

 

 ある日、誤って電気ケトルにCP-40-3を入れてしまった人物がいた。

 煮立って内容物が凝固でもしたのか、電気ケトルから仄かに異臭がするように。

 何度か洗っても匂いがおちない。

 動作不良も起こり出す。

 

 その日から、妙な視線を感じるように。

 夜中に誰もいないはずの台所から物音がする。

 

 気持ち悪くなって、電気ケトルを地区指定の廃棄所に出すことに。

 受け取りの係員を急かし手早く手続き終了。

 

 電気ケトルを捨てた人物は、帰り道である事に気が付いた。

 あの係員から捨てた電気ケトルと同じ匂いがした。

 

 胸騒ぎを覚え廃棄所に戻ってみると、自分に対応した係員がどこにも居ない。

 件の電気ケトルそのものは既に破棄分解されていた。

 事務処理に不備も無いため、なにを言えるわけでもなく。

 不可解に思いながらも、この話は終わる。

 

 

 クレムジーク!

 全てのコンピュータに氷菓を垂らせ!

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

Fragments 5

 

 

 渾身の下ネタが繰り出される。

 

 居合わせたある者は大きく吹き出し、

 またある者は羞恥に耳まで赤く染め、

 

 周囲を動揺と大笑が支配し混迷に落ちる。

 

 

 そのなかで彼だけが笑わなかった。

 

 腹を抱えていた者、

 涙までこぼしていた者も、

 その異常事態で我に返った。

 

 

 影は問う。

 なぜ笑わない。

 

「意地が見えたから」

 

 息子に向かって恥ずかしい言葉を何思うことなく並べる母親と、真逆の感触した。

 

 

 なにより誰にも、それこそ恩師にも明かしていない自戒がある。

 

 本人にどうしようもない短所を笑わない。

 

 鍵盤の前から離れる時に決意をした。

 小さくて負けず嫌いの姉弟子への、自分なりのケジメだ。

 不出来な自分に巻き込んでしまった精一杯の贖い。

 

 

 だからこれは影への同情ではなく、憐憫でもなく、ただ同輩からの挨拶。

 

 

「辛いのなら、寂しいのなら、叫んでいいし、泣いてもいい。

 ここはそういう場所でしょ」

 

 

 賢しい殺戮者は全てを理解し、微塵も動かない能面で笑い返した。

 

 

XXX

 

 

 対照的な相手では、自己確信を与えるだけ

 

 違うのであれば、同じでもあるものを

 

 自己否定を許さず、自己矛盾に逃さず

 

 理解してはいけない、理解できない存在を

 

 突き付けろ

 

 

 泥と戯れ自虐する童に、柔らかい陽光を与えるな

 

 刻みつけるのなら、明らかな陰陽を

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

Fragments 6

 

 

 覚えているのは

 

  石化する数分間の出来事

 

 

『同族と世界を憎むのなら

 最初に殺すべきは決まっている

 

    自分自身だ      』

 

 

 抱く赤子は岩の人形

 

 

『身内が共食いすると知ってるなら

 自決を憂う理由なんてありゃしねぇ

 

 一番強い個体が勝ち残るなんて

 過剰に保護された環境でしか通じねえよ

 屁にもならねえ理屈だ

 

   諸共に滅ぶだろ常識的に考えて  』

 

 

 継ぎ接ぎの布に包まれた灰色の無機物に

  慈愛と憎しみで腕を廻す

 

 

『遺志より潰す感情を優先してんだ

 

 最後の最後に残るのは屍だ

 

 てめえなんて一片どころか

 

   一塵の価値もない     』

 

 

 泣かない産子を揺すりあやす

 

 

『ああ、そっちに掛けてもあるのか

 

 

  無塵に重ねて死体(忌み)無しってなもんだ』

 

 

 必要のない童謡を口ずさむ

 

 

『それでも命に甘えてるなら

 

 自分を可哀想したいだけの

 

  メンヘラでしかねえよ  』

 

 

 

 憎悪のより分かたれた自閉は

  愚痴を毒として飲み込み普遍の懐疑となる

 

 

 

「答えろ、ニンゲン。ワタシはナニだッ!?」

 

 

 

  ソレは無尋のゴルドゥニーネ

 

   己への嫌悪で泣き叫ぶ

 

 

 

   誰もが答えを知っている

 

    自分で見つけるしかないと

 

      自分が決めるものだと解っている

 

 

 

  自己歪むソレだけが

   到ること無いモノを尋ね続ける

 

 

 

  その蛇は啼き女

 

   石化させた赤子を抱いて彷徨う

 

    理り無き抜け殻(亡者)

 

 

 

 

 

 




Fragments 2はJGEのネフホロデモプレイを読んだ時の感想
ネフホロでは現代過去の地球をステージに出来ないので
夢は中央線秋葉原陸橋を跨ぐ







あとがき

原作ではもう出てこないと思っていたネフホロ2関連が顔を見せて焦り
作者様のツイッター開設で設定情報の出量が増えて思わず踊りだしました

どうにか前話からの目標だった
『瞳孔開いていた人』が『目を瞑る人』と一緒になる演出
までこぎ着けました

欠片を出して私の分は終わりです
いずれまた、原作が進み
何かを思い付き纏められたらば、その時にお会いしましょう


Frg6add
さあみんなも『ぼくのかんがえたゴルドゥニーネ』をやろう
空き番号は無尽にあるぞ

ちなみにコイツのヘアースタイルはレフトサイドスキンヘッド


Frg3と幕末JGEはネタ元権を投げ飛ばすのでどなたでも気軽にお使いください

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