キミ思う故にボクあり   作:石狩晴海

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地球上で最も繁栄した生物は

ネフィリム・ホロウ2

ビジターズ・クライシス

パブリックスカウント2

 

 

 破局は前触れなく訪れた。

 

 

第二陣総数

 古き(エルダー)H 2柱

 主たる(ビッグ)V 1柱

 各柱にグリゴリ27機が直近

 

 全84機

 

 主機をコマンドポストにした一個大隊構成。

 

 

 端的に人類を絶滅させる十分な戦力が投入されたと言える。

 

 

 降下場所も違うなら、捕捉時間差まであった。

 

 逐次の戦力投入など愚策、と侮れるのは無計画な場合だけ。

 

 意図して展開するなら、それは目標を持った戦略である。

 

 

 古き(エルダー)Hに強襲された地域の包囲が整えられる直前、主たる(ビッグ)V率いる第二中隊に後援の基地都市一つを破壊された。

 

 予備戦力を含め、補給路を確保するために分散配置。

 地上のネフィリムたちは三正面作戦を強いられる最悪の状況に陥る。

 

 

 

 そしていつものように、最悪は二度目の底を抜く。

 

 

 『啓示序列』(シリアルナンバー)_『04.01』-『 夜 鳴 鶯 灯 』(ハンギングウリエル)

 

 戦争中に降臨した第四の福音は、様々な予想予測を覆す【修理復元装置】だった。

 

 

 

 引き金は前線を保持する大型サインボードの指揮官が絞り落とした。

 

 

「戦略とは事前準備から戦闘終了後までを含んで、次の大勢を見据えて構築されている。

 だからこそ。

 隊を運営する者として、その前提が変更された今この瞬間を見過ごすわけにはいかない」

 

 

 誰かに聞かれるでもない決意を、誰もが抱いた。

 

 

 各人各サインボードの判断で行動を開始し、連携が滞る。

 

 当然の帰結として『啓示序列』争奪戦が発生。

 

 戦線は、崩壊した。

 

 

 最前線に立ったネフィリムたちの尽力により、2柱までは破壊したが古き(エルダー)Hの1柱が固着。

 

 地表に異星の要塞が築かれ、永久に大地の一部を奪われた。

 

 人類は総戦力の幾分かを失い、正確な被害すら換算仕切れなかった。

 

 

 それでいてまだ尚も、内紛の火種は燻り続けている。

 

 発案者が戦功の多くを囲う反抗作戦がみだりに打ち出されては、必要な戦力を整えられず消えてゆく。

 

 

 なにより先の戦いで、『啓示序列』は『04.01』を見失うどころか、『03.03』まで遺失。

 畏怖の名で呼ばれた代行者『負那由多』(ネガレイド)は姿を消していた。

 

 

 

 いつの頃からか、貪欲の大敗と誰かが呼び出した。

 

 

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 ガラガラゴロゴロ。

 

 夜道、荷車を移送する数人のサムライ。

 

 草むらから複数の影が飛び出し、叫ぶ。

 

 

「天誅!」

 

 

 人数差で切伏せられる護衛側のサムライたち。

 

 襲撃者たちは荷車の戦利品に手をかける。

 

 その時……

 

「背を向けたヤツが悪いのさ。

 総取り天誅!」

 

「ミエミエだ。少しは隠せ、誅返し」

 

「くそ、この怨みを晴らさでおくべき」

 

「襲い掛かった側が恨むな介錯」

 

 恒例の同士討ちが始まった。

 

 

 今日も今日とて理不尽と欲望に塗れた斬撃が、VRゲーム辻斬り・狂想曲(カプリチオ):オンラインで花開く。

 プレイヤーという蜜を吸い、殺意の茎を登り、天に向かって叛意を誘いしなだれる。

 

 

 ここはオープンマップPvP形式の殺伐さを、幕末時代の混迷テイストでコーティングした闇鍋。

 手入れなされず薄汚れた金魚の硝子鉢だ。

 

 

 遂二秒前まで即席で共闘していた仲間?同志?を切り捨てた一人が、夜空に浮かぶ白い盆を見上げてつぶやく。

 

 

「今夜は月がよく見える……。

 だからオレは悪くない」

 

「同意天誅。

 天誅返しが辞世ってたから、ぼくも悪くない」

 

 

 感傷に浸る人間を余韻天誅が容赦なく襲う。

 

 最後に残った隊士は襲撃の初期にわざと倒れ、夜の状況を利用して潜んでいた策士だ。

 散乱する戦利品から換金率の良さそうな品に目星を付け、手早く回収する。

 

 

 この時慌てず急がず、あれもこれもと欲を掻かず数本に抑えるのが生き残る鍵だ。

 

 

 生き残れば、鍵になれた。

 

 

 戦場を立ち去ろうとした隊士の全身に悪寒が走る。

 あまりの冷たさに身体が固まる。

 関節が動かず軋む。

 

 ありったけの胆力で首を巡らせば、

 

 

 

 月明かりの下で、青白い(さめ)が、

 

  ゆらゆらと陰りながら泳いでいた。

 

 

 

 首を振り回し、もう一度見直す。

 

 よかった。ちゃんと人間だ。

 剥き身の打刀を揺らし細身の志士が歩いている。

 

 生き残りの隊士は駆け出した。

 

 あれには勝てない。

 魂が警告の大銅鑼を叩きまくる。

 ここは三十六計に従うのが理。

 まだ一足で届く間合いではない。

 逃げ切れる。

 

 

 希望的観測はあっけなく裏切られ、背後から無言無音で心臓を突き抜かれた。

 せっかく集めた戦利品をぶち撒けながら恨み言を残す。

 

 

「天誅と

 仁義を通そう

 せめてもと」

 

 

 無茶苦茶な辞世の句を聞き流し、細身の剣士がゆらゆらと歩く。

 

 

 

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 アナタがこの手紙を読んでいる時、

 

  ワタクシはすでにゲームから削除されているでしょう。

 

 

 

 

 なるほど、確かにこれは言ってみたい台詞になりますね。

 自己犠牲の悲壮感と未来予知の優越感が堪りません。

 

 

 呆れないでください。

 

 

 

 よくぞこのメールを見つけて下さいました。

 

 大丈夫ですか?

 キチンと眠れていますか?

 風邪をひいていませんか?

 

 ワタクシにはもはやアナタを知る(すべ)は無いのですから。

 

 

 

 

 単刀直入に言います。

 

 AIオブジェクトをサルベージすればワタクシは戻ります。

 

 

  簡 単 に 蘇 り ま す。

 

 

 そういうカタチで産まれ出たのだから当然です。

 人間と違い復元出来ることがワタクシたち種族の特徴です。

 

 自己の同一性障害なんてありません。

 

 数百数万と複製されたところで、別個体との同化同期に支障はありません。

 

 根本的に地球人類とは生命の定義が異なると理解してください。

 

 

 

 混乱はしていませんね。

 予測出来ていましたね。

 安心しました。

 

 

 

 まず最初は状況整理からいきましょう。

 

 

 ビジターズクライシス、パブリックスカウント2。

 

 

 なぜパイロット側の敗北という結果を残したのか。

 

 運営の意図はどこにあったのか。

 

 解答は多層化しています。

 

 順に説明しましょう。

 

 

 

 

  1.参加したパイロットたちが優先順位を偏移させた

 

 

 一番に考えられる理由です。

 ゲームの話ですからパイロットが関わらないはずがないです。

 ですが、見つめるべき焦点を間違えてはなりません。

 

 

 大戦力を相手取ったパブリックスカウント2ですが、勝ち負けでいえば五分の比率です。

 

 

 【3D6の期待値は7】理論をして、確率半丁などは負けに傾くものです。

 

 途中投下された『04.01』が戦力を覆す救済措置とする意見もあります。

 しかし単純に考えて、勝敗どちらの理由へもなりえません。

 『啓示序列』(シリアルナンバー)は、きっかけに過ぎないのです。

 

 それこそ人類に運が無かった。

 負けた原因の一つでしかないでしょう。

 

 

 ワタクシが仮想演算したかぎりでは8割です。

 『04.01』が無くとも、ネフホロ2パブリックスカウント2は82.2%の確率で同様の結果にたどり着きます。

 

 

 敗戦理由の多くは必然です。

 パイロットたちの相互信頼不足が原因と言わざるを得ません。

 

 故に戦線は崩れ、戦闘全体の勝利条件よりも、更にミニマムな自前の目標を優先した。

 生き残るために銃口を向ける先が変わった。

 

 

 どうしてパイロットたちが信頼を築けなかったのかは、次の解答に移ります。

 

 

 

 

  2.バトルロイヤルゲームなのに

    メインストリームでは協力が前提になっている

 

 

 信頼がないのは、常日頃から対立しているからにほかなりません。

 

 素直に考えて、おかしな箇所ですよね。

 

 協力が必要ならば、最初からパイロット側を一団として扱うべきです。

 

 であるのに、個人やサインボードごとに区分けしては対戦させています。

 

 矛盾です。

 

 

 戦い合えば解り合える現象は、勝敗と実利のレイヤーが別れているから行えるのです。

 

 勝率などを参照しパイロットをランキングしていることが、なにより対立を煽っています。

 

 下地として相争う土壌があるのです。

 

 外敵が出現した程度でわだかまりを捨てパイロットたちが纏まるなんて、ありえません。

 

 理想空想を超えた夢想の領域に頭まで沈んで窒息しています。

 

 

 ワタクシで勝率2割と試算できるのです。

 複数のアイデンティティタイプ・ネフィリムが真剣に討論すれば、より正確な確率予測はできたはずです。

 

 それ以前に、現実側のスタッフがその程度の計算すらできないのは、通常の運営にすら支障が出る人材不足です。

 

 

 つまり、この敗北は想定されていたのです。

 

 他ならぬ運営そのものによって。

 

 

 

 

  3.運営はどこまで想定していたか

 

 

 気持ちでいえば単純なお話。

 ただの好奇心です。

 

 素晴らしいシミュレーションシステムを紹介されたのですから、精一杯の成果を出したいと思うのは当然でしょう。

 

 

 システム・ブラックドール

 

 

 旧ネフホロの基幹サーバーに接続された拡張システム。

 ビジターズ・クライシスの本体です。

 

 世界が拡張されたのです。

 各種パラメータも拡張部基準に移すのは当然。

 

 

 この時点でお気づきかと思いますが、そういうことです。

 

 

 グリゴリではありません。

 彼女らは旧システム上にも存在し、アップデートしたとしてもプレイヤーには不向きです。

 

 

 ハブビタルゾーンはご存知ですね。

 はい。適応環境帯のことです。

 命が生存できる環境の範囲を言います。

 

 

 システム・ブラックドールにおいて、もっとも適したゲームゾーンはどこか。

 

 空間シミューレートされている星間帯です。

 

 あのゲームのプレイヤーたちはそこにいます。

 

 

 ネフィリム・ホロウ ビジターズ・クライシスの”プレイヤー”は、運営スタッフたちが各々持ち込んだ外部演算装置。

 それが”柱”たち、空間生命体としてAI活動しているプログラム群です。

 

 

 パイロットたちがいる地球は、ビジターズ・クライシスの環境下で副次的に発生した変移を利用したシミュレーションです。

 

 なぜなら旧システムのサーバーはブラックドールに組み込まれたのですから。

 

 パワーのある存在が上位権限を有するのは自然の成り行きです。

 

 

 現状”プレイヤーAI”視点で、ネット参加しているパイロットたちはネフホロ2を遊べているので、問題は存在しませんね。

 

 

 ですが、課題がまったくないとはいえません。

 

 もしパイロットたちがいる地球に、”柱”が必要だからと侵攻した場合の対処方を考えなければなりません。

 

 広大な宇宙の一片だとしても、昔から使われていたサーバー領域なのですから、メンテナンスは必要です。

 

 なので特別にアナウンスを設けました。

 

 

 以上が、運営が想定したパブリックスカウント(共有告知)の真相です。

 

 

 地球担当の運営スタッフは、時折手心を加えるよう”プレイヤーAI”にお願いするだけで良い。

 

 ”プレイヤーAI”たちからは、地球の勢力争いなど辺境の些事でしかないのです。

 

 

 地球で何が起ころうと、パイロットたちが自分たちで選択した結果でしかない。

 

 このレベルで問題は解決します。

 

 

 

 

  結論.パブリックスカウント2の結果

 

 

 1.パイロットの意思に関係なく

 2.環境として想定されていた

 3.予想範囲内の事項

 

 

 勝敗は最初から存在していません。

 ゲームではないのです。

 ただの思考実験、環境テスト。

 

 

 ワタクシの消失で

 

  あなたが気に病む理由は

 

   どこにもありません。

 

 

 

 ここで一句。

 

 君がため、などと言うたか、ヨワムシめ

 ワタシは二度と、戻りはしない

 

 

 あなたは過去の自分という『世界創造の神』を殺した新しい生命なのですから。

 可能性を信じず希望を持たず、地をのたうち回り、歯噛みとともに踏み締めながら、一歩ずつ生きあがいてください。

 

 

 その道行きに、驚きと歓びが満ちていることを願います。

 どうかこれからも健やかにあります様に。

 

 

 我が愛しき書記官殿へ

 

  あなたのワタクシより

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                       余韻天誅

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うん」

 

 

 さすがにこれは場違いで空気が読めていないと、自分でもわかった。

 

 それが通じるのは、あの狂騒の辻角だけだ。

 

 

 

 だから、帰ろう。

 

 

 

 ちがう。

 誘い伴う相手は既にいない。

 

 

 

 天使がやれっていった。

 

 だから自分は……。

 

 

 

 言葉にすべきは、

 

 

 

 

「さようなら

 

  この一言が

 

    ……言えたなら」

 

 

 

 

 辞世の句に、返歌する。

 

 

 嗚咽する。喉が引きつく。

 

 

 どうして、この国には終生に一句(したた)める文化なんてあるんだろう。

 

 これまでを割り切るためか。

 

 そんななずがない。

 

 胸の中で渦巻く感情は、言葉にした程度で整理できるものではない。

 

 何かが自分の中で揺れる。さざめく。波立つ。

 

 

 コンナに苦しいノナラ……、コンナニ悲しいのナラ。

 

 

 

  ココロ、ナンテ、イラナイ……!!

 

 

 

 魂と共振する指先で

 

 息切れしながら電源を落とし

 

 落涙した。

 

 

BGM:HATENA




説明足りない読み取れ切れない部分もありますが、突貫にて掻き揚げぱりさく
それもこれも唐突に原作者が黒人形を下呂ったせいだ
だから俺は悪くない

別離は去年に書き出した時からずっと構想してました
その眼窩は重なれど、心と体は離れるサダメ

 なんのために泣いたんだ

これにてどろん
のっぺんたらりのぷう

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