イキれクソ音!   作:ふかし芋

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同級生

 学校が始まってから数ヶ月経ちました。

 

 その間に記者がセキュリティーを突破して学校敷地内に入り込んだりヴィランが雄英敷地内で暴れたりしていましたが私は元気です。

 

 事の顛末は、そんな要約で終わります。

 

 でも、私は思います。

 

 どうせならば! 私もヴィランと応戦したかったです!!

 だってヴィランですよ? 魑魅魍魎(ちみもうりょう)跋扈(ばっこ)する感じのアレですよ。そんなの自分のよい経験にしかなりませんし。しかも聞くにほとんど雑魚だったらしいじゃないですか。雑魚専と名高い私としては是非とも行きたかったものです。

 まあ……私普通科なんで個性の使用許可降りてないんですけどね。ままならないです。

 私は爆豪と同じ経験がしたかっただけなのにな、悲しいです。本当に悲しい。涙出そう。

 

 

 ……あ、そんなことよりも少し気になることがあるんですよ。その有象無象のヴィランどもはヴィラン連合? とか名乗って活動しているらしいんですけど、首謀者は死柄木弔……死柄木弔って名前らしいんですよね。

 

 ……知っている名前のような気がしないでもないですけどやっぱり勘違いでしょう。ほら、死柄木弔なんてよくある名前ですしね。

 

 そうそうそうだから私はなにも知りません知りませんって。

 

 

 ……なにかしら情報提供するべきなのだろうか。でも私、死柄木弔がゲーム好きってことと手で人殺せるってことしか知らないですし、弱点とか知りませんよ。癇癪持ちってことしか知りませんし。アジトの場所も知らないですし遭遇する場所もまとまりがない。そもそも私が知っている死柄木弔がヴィランって証拠はありませんし。

 ……下手に刺激したくない。答えは沈黙? それがいいんじゃないか……? それに死柄木弔は……

 

「魂月、今いいか?」

「はい、構いませんよ」

 

 煮詰まってしまった思考を投げ捨てて、話しかけてきた人物に笑いかける。

 そう、私は品行方正で接しやすいタイプの雄英生になろうとしているので、気をつけなくてはなりません。

 

「あんた、ヒーロー志望だよな?」

「そういうあなたは……」

 

 私のひとつ前の席。えーっと……あー、確か……

 

「須藤くんでしたっけ?」

「心操」

 

 真顔で即答された。どうやら間違っていたらしい。

 学友の名前なんてどうでもいいので覚えていませんでしたが……もしかしてそれって優等生っぽくない、ですかね?

 どちらかというのならばA組とB組の名前と個性が知りたいですが、最初は同じ教室の生徒から覚えるべきですよね。そうに違いありません。

 私は品行方正な生徒にならなければなりませんから、意識から変えていきましょう。

 

「ああ、すみません心操くん。ご用件はなんでしょうか?」

「魂月もヒーロー科に入りたいなら、お互い協力しないか」

「私、ヒーロー科に入りたいと言いましたか?」

「先生から聞いた」

「情報漏洩甚だしいですね」

 

 おっと口が滑った。

 

「そのくらい、尋ねられたなら答えましたのに」

「悪かった。確かに本人に聞くべきだったね」

 

 反省しているのかしていないのか分からないですね。まあ、別に良いんですけども。知られたとしても、なんの問題もない話ですし。

 

「あなたと協力することにメリットはあるのでしょうか?」

「一人よりは二人の方が心強い」

「そう、ですかね?」

 

 そうでもないと思うのですが。

 

「ヒーロー科は手強いだろう。だから、俺たちに必要なのは団結力さ」

 

 そうでもないと思うのですが。

 

「あの、佐藤くん」

「心操だ。覚えてくれ」

「……すみません、心操くん」

 

 心操。心操人使。今一度心に名前を刻んで、笑みを浮かべました。

 

「状況に、個性によると思うのですが……すみません、私の個性はあなたと連携するのに向いているものだとは思えませんので」

 

 とても申し訳なさそうな態度を心がけて、口を開きます。

 

「協力したほうがいい盤面が来るのならば、あなたと協力したいですが……」

「……」

 

 不躾な視線を感じます。

 私は言葉をこれ以上となく選んでいるつもりなのですが、それでも足りないんですか? もー、嫌になっちゃいますよ!

 

「私には、あなたと敵対しようとする意思はありません。同じ教室で生活する学友同士、仲良くしましょうね」

 

 手を差し出すと、見られただけで終わりました。悲しいです。

 

「個性を聞かないのか?」

「聞いてほしいんですか?」

「いや、別に」

 

 すぐに否定されました。

 

「ただ、協力しようというのなら、知っておいたほうが得なんじゃないか? 魂月だってただで知れるなら知りたいだろう?」

 

 え、別に知りたくなんてないですけど。

 私に敵うような個性を持っている生徒なんて、C組の中じゃいないでしょうし? 

 

「個性の情報について……私からは聞かないようにしているんです。言いたいのなら自分から告げるでしょうし……言いたくないことだって、あるでしょうから」

「素晴らしい心がけだね。心が洗われそうだ」

 

 素晴らしいだって! 私にぴったりな言葉をもらえてきょーえつしごくです!

 

「それでも、体育祭の話を振ってきたのは俺の方だ。それで個性について知られたくないなんてことはないだろう。好きに聞いてくれて良かった」

「あら、そうですか?」

 

「あなたも少なからず、その個性に劣等感を抱いているように見えたのですが」

「……? どうしてそんなことを?」

 

「話せばわかりますよ。個性に(やま)しさや後ろめたさを感じてるんだって、伝わってきますから」

 

 ヴィランのように。

 

 ヴィランはクソみたいな存在です。

 でも、彼らだって最初からクソなわけではないと思うんです。

 家庭環境や学校や仕事の環境、そして個性。

 様々な内的要因や外的要因が重なってクソへと変わっていってしまうのです。かわいそうですね。

 

 ……まっ、私は全てが素晴らしいので、全く心配することはないんですけどね! 私は思う存分あいつらを哀れんでやりますよ!

 

 あれ、これって心操人使をヴィラン予備軍と言っているようなものでしょうか。そんなつもりは毛頭なかったんですよ。ええ、当たり前じゃないですか。

 

 

「もし、それが本当だったとして、今みたいに告げるのは良くないだろうね。相手の逆鱗に触れかねない。君、これからは気をつけたほうがいいよ」

「……出過ぎた真似を致しましたね。申し訳ありませんでした」

 

 深々と頭を下げる。

 

「俺に謝る必要はないよ。じゃあね」

 

 心操人使はそう言い、その場を去りました。

 だから私は帰りの準備をし直し……

 

 それで私と心操人使のファーストコンタクトは終わりました。……あれ、入学式のときにはもう既に顔を合わせていたのでしたっけ? まあ、今日初めて存在を認識したので、ファーストコンタクトってことでいいでしょう!

 心操人使。同じくヒーロー科を目指す人物として、一応覚えておきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雄英だなんて大層な学校に通えることになりましたが、やっていることはそう珍しいことではありません。経営科やサポート科、そしてヒーロー科ならば特別なことを行なうのでしょうが、私は普通科なので座学を行なうだけなのです。

 

 まあ、ここを卒業出来ればそれだけで輝かしい未来が待っているのでしょうが、私はそんなものに興味はありませんし。

 

 

 そんなことよりも聞いてほしいことがあるんです。

 みんな口が軽すぎるんです。私は別に聞いていないのに、私の優秀な耳は当然のように音を拾ってしまったんですよ。

 

 

 

 ──クラスの子の個性で、特徴的な個性は……

 

 

 ──皆には内緒だけど、心操の個性って……

 

 

 悪気はないのでしょうが、それでもどうかと思いますよ。心操人使の個性は、催眠……あ、違いました。《洗脳》というらしいです。

 似た系統の個性を持つ人物と会うのは初めてで、私のテンションがガラにもなく下がってしまいそうです!

 

 

「しんそーくん」

 

 放課後。教室の周囲に人影がないことを確認し、私は彼に話しかけました。

 彼は、不機嫌そうな顔を隠そうともしませんでした。でも、いいんです。そんなことはどうでもいいですし。

 

「なんだい魂月」

「私の個性とあなたの個性は瓜ふたつじゃないですか」

「初めて聞いたよ。君、他人の個性を詮索しないんじゃなかったの」

「詮索はしないつもりでしたよ? ですが、うっかり耳に入ってしまったものはどうしようもないといいますか……」

 

 会話に混ざったりしたわけではないので許してほしいものです。

 

「まあ、君と同じ精神掌握系の個性なのですが、ちょっと気になることがあって」

「あなたに私の個性をかけたらどうなるのでしょうか? 逆に、君の個性に私がかかった場合も気になります」

「その実験に魅力を感じない」

「私は感じちゃいます。ジュース奢るので付き合ってくれません?」

「……」

 

 心操人使は、嫌そうな表情を向けてきました。

 

「あ、そうだ。この前猫に付きまとわれていたのですがその写真でもあげるので付き合ってください」

「……流石に、そんなことでは協力しようと思わないよ」

「えー、そりゃあ残念です」

 

 肩をすぼめて、遺憾の意を示しました。

 

「なら、体育祭では協力しないこともないです。もちろん協力出来る場合は、ですけどね」

「……」

 

 その言葉で、やる気を出してくれたのでしょう。心操人使はようやっと腰を上げました。

 

「これからすることがあるわけではないし、いいよ。ここでやるかい?」

「いえ、個性を使うことなので勝手に行なうのは良くないでしょう。一応先生方に許可取りましょうか」

「普通科の俺らに、個性の使用許可が取れるか?」

「え、大丈夫でしょう。体育祭のときにはどうせ使うんですし、そのときにトラブルが起こるよりも今ことを起こした方がいいですよ」

「……先生相手に脅しかい? 本当嫌な性格してるね、君」

「はは、何か嫌なこと言われた気がしますが空耳でしょうね」

 

 私は教員と話すことに少し不安があるので、心操人使にまかせておきました。

 

 

 普通科の生徒ということもあってなのか、教師ひとりの監視の目がありつつ行動することにしました。

 今回派手に動き回るわけではないので、小さな個室ひとつですけどね。

 

 私たちは机越しに立って、睨み合いました。

 

「“右手を上げてください”」

「……」

 

 個性の発動を念じ、心を込めてそう告げました。

 が、数秒経てども心操人使は思うように行動しない。

 

「……」

 

 ドキドキします。でも、なにも起こりませんでした。

 

「実験は終わった?」

「……私の個性にかかった人は、私が告げた命令をこなすことが当たり前だと感じるようになるんですよね」

「俺はそんなこと思ってないよ」

「うん、だから失敗です。しんそーくんは個性には引っかかっていないようです」

 

 落胆しつつ、私は椅子に座りました。

 

「それでは、しんそーくんの個性を私にかけてください」

 

 心操人使はちらりと教師の方を見た。教師は、真顔で心操人使を見返している。

 

「……魂月。俺の言葉に返事して」

「はい」

 

 またドキドキとしつつ待っています。そして待つこと数分、心操人使は何もしてこない。

 

「……どうしたんですか?」

「これは、駄目みたいだね」

「もしや、もう個性を使っているんですか?」

「そうだよ」

 

 問いかけをしたあとは言葉を発する必要はないらしい。これが心操人使の個性か。

 私と似ているようで違うような。いえ、全く違いますね。だって発動条件からなにまで違うんですもの。だから違います。私の個性はナンバーワンのオンリーワンじゃなければなりませんから!

 

 どうにも面白くない結果で終わってしまいました。

 でもトライアンドエラーに意味があるのですよね。分かっています。

 

「先生、おかげ様で有意義な時間を送れました。お忙しい時間をありがとうございました。今日の実験を糧に頑張っていきます」

「……ありがとうございました」

 

 個室を出て、大きく伸びをする。

 そして自販機で適当なスポーツドリンクを買って心操人使に渡しました。私はそれなりに約束を守る女の子なのでね!

 私も乾いてしまった喉を潤すために、ホットココアを買いました。

 

「今回分かったことは、お互いの個性が効かないということですねー」

「脳の問題とか?」

「個性因子が反発しあってとか、ですかね」

「そんなことある?」

「さあ? 私には分かりかねます」

 

 笑って、ホットココアに口をつけました。

 

「まあ、今回は多少警戒した状態ですし、無防備な状態なら結果が変わるかもしれませんね」

 

 お互いに不意打ちならそうなるのかもしれない。

 でもまあ、体育祭でこいつに不意をつかれることはないでしょうし……

 今なら不意をつけるのでしょうか。

 

 ……ま、やめておきます。だって、試したって良いことないですしね。

 

「しんそーくん」

「……なに、魂月」

「私は心操くんに負けていませんよ」

「勝手に対抗意識持たないでくれるかい?」

「……持ってませんよ!」

 

 この私が、なんでそんなものを持たなければならないのか、理解に苦しみますね!

 

「それに、私とあなたの個性は似ているようで、全然違うようですしね。全く別物と言っても過言ではありません!」

 

 いえ、全くの別物です。だって私と同じ個性だなんていてほしくないですし。

 心操人使も同意見なのか、呆れた様子で息を吐いて、口を開きました。

 

「魂月には一応説明しておくよ。俺の個性は、俺の声に答えた相手を洗脳することが出来るって個性だよ」

「なるほどー」

 

 

「それならやはり私の方が上位互換ですね! なぜならば、私は相手の応答がなくとも強制的に個性をかけられるのでね!」

 

 ふんぞり返ってそう告げると、心操人使は胡乱な視線をこちらに向けてきました。なんでしょうか。私に惚れたんですかね。

 

「君、性格悪いってよく言われない?」

「えっ、なんで知ってるんですか? 中学の学友によく言われてました。もしやしんそーくんはエスパーなのでしょうか」

「いや、さっきも言った通りの個性だけど」

「でもこうして心の声が聴こえているってことはつまり、エスパーなのでは?」

「君、結構思っていること顔に出ているよ。気をつけた方がいいね」

 

 なんと。

 

 

「私の個性は私の声を聞いた相手に発動するものです。しんそーくんと違って相手に聴こえさえすれば勝手にかかってくれます」

「本当に一言多いよ、君」

 

 心操人使はニコニコと笑っています。だから私も笑いました。

 

「あははっ、ごめんなさい。おしゃべりなものでして!」

 

 あまり私の話を聞いてくれる相手はいないので、貴重な機会なのですよね。

 出久は私の話を聞こうとしますがあれは駄目です。なんかこっちの情報をむしり取ってきそうで気色悪いですし。

 ……あ、そうだ。

 

「同系統の個性を持っている人がいたら、聞きたいことがあったんです」

「……なに?」

「あなたは、その個性のことをどう思っていますか?」

 

 心操人使は少し考えた様子のち、口を開きました。

 

「これが俺の個性である以上は、これでのし上がってみせる」

「……野心家!」

 

 それってとっても素晴らしいです! 向上心は人をめまぐるしい速度で成長させてくれますからね!

 

「そういう魂月は?」

「ふふっ、聞いちゃいますかー」

 

 こういうときのための個性です。

 私は呵々と笑って、口を開きます。

 

「私はこの個性が自分の個性で“本当に良かったと思っています”。“この個性はとてもゆーしゅーです”。“とてもすばらしーものです”。だから、感情は違えども、私も心操くんのようにこの個性を使って勝ってみせます」

「……そうかい」

 

 興味なさげ!

 

 

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