イキれクソ音!   作:ふかし芋

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幼馴染(後編)

「やあ、緑谷少年」

「んっ!?!? お、オールマイトぉ!?」

 

 当然だけど、困惑した。目の前に憧れの人物が現れて、気軽に挨拶してきたのだから、それも当たり前だろう。

 

「し、静かに静かに」

 

 焦ったように口元に人差し指を当てたオールマイト。その身体は骸骨のようにやせ細っている。

 

 オールマイト。平和の象徴と言われる彼はその拳で数々の凶悪なヴィランたちを倒してきた。

 でも数年前に凶悪なヴィランと戦った結果、胃を全摘出しなければならないほどの大怪我を置い、活動出来る時間も減っているのだという。

 それで、さっきの僕を見て僕に後継者にならないかと問いかけてきた。

 正直、夢のようだった。即座に頷こうとして──すぐに思い直す。

 

「ことちゃん、えっと……僕と一緒に怒られていた女の子でもいいんじゃないでしょうか?」

「あの少女は、何か違うな」

「違う……?」

「うん。悪い子ではないだろうが……」

「……?」

 

 やけに歯切れが悪くなったオールマイト。不思議に思いながらも、僕は彼に向き合う。

 

「ことちゃん、ヒーローになりたいって言ってました。あなたみたいなヒーローになりたいって」   

 

 そうか、それは嬉しいね。オールマイトは、先程よりも柔らかい表情を浮かべてそう話した。

 

「そうだとしても、私があのときに誰よりもヒーローだと感じたのは君なんだ」

 

 

「君は──ヒーローになれる」

「……!」

 

 お医者さんも母さんも、みんながくれなかった言葉。それを聞いて、僕は確かに救われた。

 

 

 

 

 

 オールマイトの個性は、人から人に受け継がれる個性らしい。そして、その個性を使えるようになるためには、それに耐えられるだけの器……身体を作らなければならない、らしい。

 だからオールマイト主導のもと、特訓が始まった。

 

 それは、僕が予想していたものとは違ったものだったけど、それでもたくさんの人を救えるヒーローになれるのならやり遂げてみせよう。

 

 

「……」

 

 教室ではたまに、ことちゃんがこっちをみてくる。

 今までかっちゃん以外には興味がないとでも言うかのように、周りのに目を向けいなかったのに、それが違和感でしかない。

 

「ことちゃん……?」

「何ですか?出久くん」

 

 彼女はいつも通り、人の良い笑顔を浮かべている。

 

「えっ、いやその……こっち見てるから何か用なのかなぁって思って」

「私はほら、ちょっと出久くんの後ろにある窓を見ていただけですよ。今日は良い天気ですしね」

「あー……うん、そうだね」

 

 曇天は彼女にとって良い天気らしい。何かをはぐらかしていることは分かるものの、踏み込んだ質問をするのもおかしいように感じられ、僕は彼女との会話を終わりにした。

 

 たまに海岸にはことちゃんも現れるようになった。そもそもジョギングコースの一つだったらしい。

 

「なあ出久。知らないおじさんにはついていったら危険だ」

「あ、ああ。あの人は知り合いだから大丈夫だよ」

「そう」

「ことちゃんこそ、知らない人について行っちゃだめだよ」

「……そんなこと、一回しかしたことないし」

 

 興味なさげに返事をすると、彼女は視線を外す。それでもしばらく経つと、気もそぞろといった感じで僕の方を見てくる……ような気がする。

 ……自意識過剰なのかもしれない。気にしない方がいいだろう。 

 

 

 僕は今までよりいっそう雄英入学に向けて動いた。オールマイトの渡してくるメニューをこなし、学業に力を注ぎ、ただ海岸の清掃に力を入れた。そして、そこはゴミ一つない本来の姿を取り戻した。

 

 

 ──運命の日がやってきた。

 

 

 雄英での受験。オールマイトの個性を譲渡してもらい、その後にことちゃんと合流し、僕たちは雄英の試験会場へと足を踏み入れるところだった。

 

 雄英への第一歩を踏み入れ……ようとして見事につまづいた。しかし、僕は転ばなかった。転びそうな体制で、宙に浮かんだままだった。

 

 

「転んじゃったら縁起悪いもんね」

 

 茶色い髪の女の子がいた。女の子が僕に笑いかけてきた。

 一瞬にして、顔が熱くなる。

 

「緊張するよね。お互い頑張ろう」

 

「……お、おお……!」

 

 女の子と喋っちゃった。中学時代なんて全くそんなことはなかったのに奇跡なんじゃないか。

 僕は天にも登る気持ちでことちゃんの方を見た。ことちゃんは笑みを浮かべている。

 

「……良かったですね、出久くん……あっ! かっちゃんが近くにいる気配を知覚しました! おーいかっちゃーん!!」

 

 彼女は気にも止めない様子でかっちゃんの方へと突進していった。

 ことちゃんの接近に気付いたらしいかっちゃんは、嫌そうな表情で後ずさった。

 

「死ねやクソ音!!」

「すげーよかっちゃん! このヒーローの巣窟である雄英でそんな発言するなんて並の精神で出来ることじゃないよ!」

 

 かっちゃんは目を吊り上げている。

 そんなかっちゃんを見てか、それともはしゃいでいることちゃんを見てか、かっちゃんたちの周りからは人がいなくなっていた。

 

「かっちゃーん! 私たち隣同士だね! これって運命だとは思わないかいかっちゃん!」

 

 説明会場についた後、席に座ったことちゃんはそう告げた。

 

「……試験前にうるせえ。静かにしろ」

「もしかしてかっちゃんは緊張とかしちゃってるのかな? 大丈夫大丈夫っ、かっちゃんならなんとかなるって!」

「耳が聞こえてないみてえだな。ぶっ殺す」

「あはは! 分かった分かった! 試験の説明開始するころには黙るよ! でも私って喋るのが生きがいってところあるし急には黙れないなあ!」

 

 かっちゃんの肩を力強く叩くことちゃん。最近、彼女は怖いもの知らずなのだろうかと思うようになってきた。

 

「始まるから黙れ」

「はいはい」

 

 ひらひらと手を振り、笑いながらではあるが、確かにその言葉を聞く気はあるようで、静かになった。

 

「……“この試験において私は負けない。絶対に雄英に受かる”」

 

 小さな声が隣から聴こえた。祈るように切実な声。それが少し意外で、僕はことちゃんの顔をまじまじと見てしまった。

 

「……出久くん、どうかしましたか?」

「い、いや、何でもないよ」

 

 否定するために首を横に振り、前へと向き直る。

 試験の説明をするために現れたのは、プロヒーローであるプレゼントマイクだった。

 

「プレゼントマイクだ……!」

「“うっさいだまらっしゃい”」

 

 理不尽だとは感じたけど、確かに話していた僕も悪かったので黙ってプレゼントマイクの説明を聞く。

 仮想(ヴィラン)を行動不能にすることで、ポイントを得ることが出来、そのポイントが多い人が雄英に入学する権利を得られる。

 仮想敵には種類があり、1ポイントから3ポイントの敵まで存在するらしい。そして、0ポイントの仮想敵も存在するが、それは倒しても撃退ポイントを手に入れることは出来ない。

 

「……ぇ」

 

 どこからか、か細い声が聴こえてきた。

 だけど、その声の主を心配している余裕なんてなかった。僕は、オールマイトの期待に応えられるように、聞き逃さないように、説明に耳を傾ける。

 説明が終わると、周囲は騒がしくなった。その声にまぎれてことちゃんの声が聴こえる。

 

「……大丈夫、私は、私はやれる」

 

 自分を励ますように告げたことちゃんは、すぐにかっちゃんの方へと顔を向ける。

 

「……じゃあねかっちゃん、ぐっどらっく!」

 

 親指を下へと向けてそう笑うと、ことちゃんはすぐさま会場へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 会場に移動したのち、試験は唐突に始まった。僕は出遅れてしまって、最後に0ポイントの仮想敵しか倒せなかった。ことちゃんは……どうだろう、その表情からして、あまり良くなかったんじゃないだろうか。

 

「ことちゃん、一緒に帰ろう」

「私は……少し寄り道をしたい気分だから、ひとりで帰るよ」

 

 ことちゃんは苦笑いをして、目を細めた。

 

「……きっと、出久なら大丈夫だ。雄英以外でもやってける」

 

 もろに態度に出ていたようだ。らしくない気休めの言葉をかけて、彼女は手を振って駅とは違う方向に足を向けた。

 

 

 

 そして月日は流れ──

 内定の合格発表まで、僕はお通夜モードだった。そしてことちゃんも明らかに気は落ちていた。

 

 そして、オールマイトの激励の言葉とともに合格通知が送られてきた。

 僕はヒーロー科に受かった。ことちゃんは落ちた。

 

 それだけで、僕たちの間には大きな壁が出来たようだった。

 

 

 結果発表がされた次の日の放課後、僕とかっちゃんは担任の先生に呼び出しをされた。

 折寺中学で、雄英のヒーロー科に入学した生徒は僕らが初めてだったため、快挙だという話だ。かっちゃんは……それが気に食わないようだった。

 

「デク! なんで無個性のお前も受かっとんだ!」

「そ、それは……」

「折寺史上初の雄英進学者! それをてめェら邪魔しやがって……!」

 

 職員室から出てから、僕はかっちゃんに人気のない場所に連れていかれた。そして、こうして怒鳴られている。

 

「不正なんてしてない。それに……僕は、ヒーローになれるって、言ってもらったんだ! だから僕は……行くよ……!」

 

 かっちゃんの顔は見ずに、僕はその場から抜け出した。かっちゃんは追っては来なかった。

 

 ……心は荒んでいた。でも、カバンを教室に置いて行ったままだったから、それを持ち帰らずに帰ることは出来ない。自分の教室へと足を進める。

 

「……他の学……ヒーロー……受か……もしれ………」 

「…ゆ………なけ…ば……意味……」

 

 教室の中から、ことちゃんと先生の声がした。思わず、自分の足が止まる。面談でもしているのだろうか。そうだとしたら、このまま入るのは避けたほうがいいだろう。

 どうするべきかと悩んでいる間にも、先生とことちゃんの話は進んでいる。

 

「……魂月の学力なら、雄英に受かるだろうとは思っていたが……残念だったな」

「同情しないでください。俺に対する普段の態度が悪いからヒーロー科落ちたんだし猛省してろとでも言っておけばいいんですよ」

「そこまで分かっているなら改めろよ」

「あはは、これは性分ですから」

 

 壁越しに聴こえる彼女の声は、飄々(ひょうひょう)としている。

 

「……爆豪くんも、緑谷くんも、ヒーロー科に受かったんですよね」

「ああ。爆豪ならもしかしてとは思っていたが、緑谷が受かるなんて奇跡だな」

「……へえ、やっぱり」

 

 淡々とした声でそう言った彼女は、間をおいたあとに言葉を発してきた。

 

「出久、本当におめでとう。心から祝福するよ」

 

 先程まで先生に向けての声量だったが、わざとこちらに聞かせるような一際大きな声で話しかけてきた。

 心臓がわしづかみされるような感覚に(おちい)る。

 

「魂月、お前なにを……」

「君はさっきからなにを盗み聞きしているんだい? いるのは分かってるよ、出久」

 

 ……とにかく、すぐに出ないとマズイ。教室の前扉を開け、すぐさま頭を下げる。

 

「本当ごめんなさい! 盗み聞きする気はなかったんです!!」

 

 先生は僕とことちゃんを交互に見て、そして気づいたらしく、気まずそうに口を開く。

 

「あー……魂月と話し込んだ俺の落ち度か」

「まあまあ、別に聞かれてマズイ内容じゃないですし」

「とは言うが、進路の話なんだから学年室ですりゃあ良かった話だしな」

「“大丈夫ですよ、私がいいって言っているんですからいいんです”」

「……まあ、魂月がそういうならいいんだが」

 

⠀先生がそう言ったから、僕は慌ててことちゃんの顔を見る。怒ってはいなそうだ。ただ、いつものように笑っている。

 

「先生、今日はありがとうございました。さようなら」

「気をつけて帰れよ」

「はい」

 

 先生に手を振って教室を出たことちゃんに続いて、僕もカバンを手に取り、慌てて教室を出た。

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 帰り道が同じなせいで自然と隣で歩く形となってしまったが、すごく気まずい。しかも歩くスピードを遅めようとすると、彼女も同じスピードで歩く。なんだか逃げ道がないように感じられる。

 

「ことちゃん。どうして僕が聞いているって分かったの?」

「静かだと廊下の足音はすごく響くんだ。足音が私のいる教室で止まったことくらいすぐ分かるさ」

「た、確かにそうだったね」

 

 そもそも学校なんて、音楽室以外は防音性皆無だろう。完全に忘れていた。

 己の迂闊(うかつ)さを呪いたくなったが、そもそも聞き耳を立てるべきじゃなかったのかもしれない。

 

「でも、それだけじゃ僕だって分からないじゃないかな?」

「……髪が窓から見えたから。そんなボサボサの緑髪なんてこの学校でお前くらいだし」

「そっか」

「そんなことよりも聞きたいことがある」

 

 断ち切るようにそう告げると、ことちゃんは眉をひそめた。

 

「ねえ、単純な疑問なんだけどさ、君はどうして試験受かったんだ」

 

 いつものように光のない目が、僕を見ている。

 

「考えてみたけど、やっぱりおかしいと思うんだ。どうして、どうして私が落ちてお前が受かったんだ?」

「そ、それは身体を鍛えて……」

「お前が努力していたのは知っている。それでも、やっぱりおかしいと思うんだ。どうして、どうして私が落ちてお前が受かったんだ?」

 

 このままでは、彼女は納得しないだろう。僕が……真実を言わない限りは。

 オールマイトから、あの話を誰かにすることが危険であると忠告されている。

 

 でも、それを踏まえてひとつ思うことがある。

 正直なところ、僕がどんなに頑張ったところで、彼女が僕の個性を知るのは彼女の個性を使えば造作もないことだと思うんだ。それでも彼女は個性を使わずに聞いてきた。

 僕は、ことちゃんを危険に巻きこみたくない。でもその誠実さには応えたいと思った。

 

「個性が奇跡的に現れたんだ。ちょうど、ヘドロ事件の後くらいに」

 

 そう告げると、ことちゃんは目を見開いた。

 

「……そっか、そうなんだ。おめでとう」

「……あ、ありがとう」

 

 案外あっさりと納得してくれたことに、なんとも言えない気持ちになる。

 

「そんな変な顔をするなよ。やましいことがあるって丸わかりだ、バカ」

 

 心にくる言葉を放つと、ことちゃんは寄るところがあるからと手を振って別の道を歩き始めた。

 

 

 

 

 その日以降、ことちゃんは明らかに僕を避けるようになった。かっちゃんにはいつものように突進しているが、僕が声をかけるたびに少し目尻を下げて声のトーンも下がるのだ。理由は分かっているし、それに僕だってことちゃんのことばかりを考えてはいられない。

 雄英に入学が決まったからって気は抜けない。オールマイトのようなヒーローになるためには、もっと頑張らなければならない。

 

 

 春休み中、僕はことちゃんと会うことは一回もなかった。だから、中学卒業後にことちゃんと会ったのは、高校始めの日だった。

 普通に声をかけようと思っていたが、いつもの笑顔が鳴りをひそめて雄英の校門を見て睨んでいる彼女を見て、声をかけてもいいものかと迷ってしまう。しかし、この機会を逃してしまえばずっと話しかけられないような気がする。……それなら、腹をくくったほうがいいだろう。

 

「お、おはよう。ことちゃん」

 

 笑顔でいようとはしたが、どうも笑顔が引きつってしまう。それに、挨拶した途端にピリつくような雰囲気がその場を包んだから、その表情すらも浮かべられなくなってしまったのが分かる。

 

「……ああ、おはよう。

花は咲き、空は晴れ渡っている。今日は絶好の入学日和だね、出久」

 

 咲きほこっている桜の木を眺め、手を広げて笑っているが圧を感じる。

 

「……ご、ごめんね」

「なぜ謝る。君は何を謝るようなことをしていないだろう?それとも何だ、実は私に謝らなければいけないことがあるってのか?ああ?」

 

 ことちゃんはいつも通りの笑顔を浮かべてそう言ったが……僕は首を振った。

 

「……な、何もないよ!」

「ならいいじゃないか。君は今日という日を謳歌すればいい、君はな」

 

 ことちゃんはいつも通りに笑ってはいるが、どうもこれ以上会話するのは良くないように見える。

 

「ことちゃん。お互い、頑張ろうね」

「……ああ、そうだな。お互い頑張ろう」

 

 ことちゃんは自嘲気味に笑うと、こちらから目を離した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほーかっちゃーん!! 愛しのことちゃんが遊びに来ましたよー!!」

「邪魔だどけクソ音!!」

 

 なお、彼女はそこまで長くない間隔の末、A組に突撃してくるようになったため、別にそこまで気にする必要はなかったのかもしれない。

 

 

 




エタってて草
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