イキれクソ音!   作:ふかし芋

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タイトル変更。前のは長かったので個人的にしっくり来たものに変えました。


春休み(後編)

 見知らぬ人こと耳郎響香に名前を告げてしまった。

 なんたる危機感の欠如。私は自分が情けなくて情けなくて仕方ありません。私ともあろう人間が雰囲気に呑まれてそう告げてしまったのです。

 

 

「言音ちゃんにお友達が出来るなんて……」

 

 お手洗いから戻ってきた母親は感極まったようにそう告げてどこかに行った。失礼な人だと思います。

 私にだって同性の学友くらいいますからね? ほら……えっと、田中さんとか中田さんとか。高橋さんとか山田さんとか……なんかそんな感じの名前の人とか。

 

 

 そんなこんなで友達がいないと嘘の暴露をされてしまった私は、死んだ魚のような目をしていたことでしょう。

 

「……」

 

 後で迎えに来てほしいとだけ母親に携帯で連絡をして、そのあとに彼女を見やる。

 

 正直、私にはここで時間を潰す理由が薄いように感じられます。いくら母親に生温かい視線を向けられているからと言っても、やはり理由が薄いのです。

 やっぱり爆豪を追い抜くためにはこんなところで(くすぶ)っているわけには行きませんし。

 

 

「どうして私に声をかけてきたんですか?」

「あ、押しつけがましかった?」

 

 押し付けがましいかで言ったら、確かに押し付けがましいと思う。

 

「それは確かにそうですが、どうして、会ってすぐの赤の他人にそう……えっと、話しかけられるんですか?」

「普段なら話しかけたりはしないよ。ただ、アンタが相当参っているように見えたからさ」

「……まいる?」

「歌ってるときは気づかなかったけど、顔色悪いし」

 

 そんな顔色が悪かったのだろうか。分からない。

 

「アンタのことは放っておけなかった。余計なお世話だったかもしれないけど、見てみぬふりはしたくなかった」

 

 真っ直ぐな言葉だった。純粋な目だった。

 ヒーローを目指している緑髪の少年と同じような雰囲気だった。

 困っている人を救けるのがヒーロー。

 ヴィランと戦うのは、その延長線でしかない。

 ヒーローを目指すのなら、彼女みたいな心構えの方がいい。そうじゃなかったら私は落ちた? 分からない。私には分からないけど、“爆豪よりも優れたヒーローとなるために”……その情報をもう一度頭に入れ直した。

 

「納得いってなさそうな顔。ならさ、ウチが困ったときは救けてよ。それでお互い様だし、トントンでしょ?」

「そうなのでしょうか?」

「うん、そうそう」

 

 借りを作るのは好きではありません。

 

「顔色良くなってきた」

 

 笑いかけてきた少女に、私はただ頷きました。

 

 自分の体調を整えるのは重要なことです。今日はそれらしい動きをするのではなく、暇をつぶすのもいいのかもしれません。何も身動きがとれないので、本当に仕方がないことなのですが。

 

「……どこかでお茶でもしないですか? 少しくらいならお金持ってきてますし」

 

 雰囲気を変えようとしてそう告げると、耳郎響香は笑って頷いた。

 

 

 

 

 それから耳郎響香についていき、建物の中へと足を踏み入れた。元気な女の店員の声がする。

 

「これがふぁみりーれすとらんですか」

「来たことないの?」

「記憶には新しくありませんね……基本的に外食というものをしないので」

 

 基本的には自炊ですし、来る理由がないんです。そう答えつつ、きょろきょろと周囲を見渡す。ここには人の目があるし、多分大丈夫でしょう。

 

 そう思い、耳郎響香について行き、店員に案内された場所に着席しました。

 

 

「ドリンクバー2つ」

「なら私もそれでお願いします」

「……店員さん。2つで」

 

 注文も完璧にこなして、ドリンクバーのある場所に足を向けました。これくらい私も知っていますよ。炭酸飲料とかは身体によろしくないので、まあリンゴジュースとかでいいでしょうか。

 コップをセットして1回ボタンを押すが、少しだけしか出てこない。長押しすると出てくる仕組み。なるほど、完全に理解しました。

 

 私は浮足立っているのを自分でも自覚しつつ、耳郎響香のいる席へと座りました。

 

 ……しかし話とはなにをするべきなのでしょう。彼女と私の共通点なんて、のど自慢大会に出たことくらいなのですが、そこから話を広げられるとは思えませんし。

 

「今日は良い天気ですね」

「曇天だけど」

「曇天は私にとっては心地よい気候なんですー」

 

 私が口をとがらせてそう告げると、耳郎響香は予想外と言わんばかりの表情でこちらを見ている。

 

「晴れのほうがよくない?」

「日が出ないですし、雨も降っていないから最高の天気じゃないですか」

「雨の匂い好きだけどな」

「どこがですか? 雨のときって泥臭くてたまりませんし嫌なことづくめじゃないですか」

「ああ、それは分かる」

「だいたい雨なんて視界が悪くて動きづらいですし、服も汚れてろくなことがないですし」

「ウチも服濡れるのは嫌だけど、雨音聴くの好きなんだ」

「……雨音?」

「うん。雨音聴いてると、気持ち落ち着くし……音楽奏でているみたいじゃない?」

 

 ……? そうなのだろうか。

 

「ロマンチストですね、良いと思いますよ」

「いやいや、ロマンチストなんかじゃないからね」

 

 強く否定されると、むしろ浮き彫りになるものなんですよね。耳郎響香は気づいていないようですけど、私は気をつけなければなりません。

 

「あ、敬語とか気を遣わせてるみたいで悪いし、タメで良いよ」

「行きずりの人にタメ口になるわけにはいきませんから」

「名前をお互いに分かったし、もう赤の他人じゃないでしょ?」

 

 ……。

 

「いえ、名前分かっただけで赤の他人ではないと言い張るのはどうかと思いますよ」

「マジレス! でもそれもそうか」

 

 耳郎さんはツッコミを入れたあとにゴニョゴニョとなにかを呟いています。

 

「困らせてしまいましたね。私基本的にこういう口調なんです。親にも同級生にもこんな感じですよ」

「あ、そう」

 

 ならいいと、彼女はあっけらかんとした様子で告げた。

 

「そういや、ウチは今年高校に入るんだけど、アンタはどう?」

「奇遇ですね、私も次高校生です」

「えっ、同学年?」

「どうかしました?」

「同い年なの? てっきり歳下かと思ってた」

「……」

 

 最近は、顔の評価なんて母親と父親以外にされていない。でも、言音ちゃんはかわいいねぇなんて言われてるってことは私はべっぴんさんに違いない。年下に間違えられるのはなんとなく腹が立ちます。

 私はやれやれと肩をすくめた。

 

「耳郎さんには私の大人の魅力が分かりませんか……私って大人からモテモテなんですけどねぇ。ないすばでーですし、幼馴染も私にめろめろのはずです。告白される日も間近ですね」

「……」

「なんですかその憐れみの目は! あなたにはモテる秘訣を教えてあげませんよ!」

 

 軽くいなされている感じがまた腹が立つ。

 

「はいはい、そうだね。今日はお疲れ様」

 

 本当に適当に流されてません? しかしまあ、強く突っ込んでしまえば気にしていると言っているも同然なので、私もサラリと受け流します。私は出来る大人なのです。

 

「はい。耳郎さんもお疲れ様です」

「記念になにか食べようか。デザートとか」

「あっ、じゃあこのいちごパフェ頼みますね!」

 

 季節限定と書かれたそれを見つめ、呼び鈴を鳴らすと、店員が笑顔で私を見ている。私も笑顔で見つめつつ、パフェを頼みました。耳郎響香もアイスみたいなものを注文したようです。

 リンゴジュースを飲み終わり、紅茶を入れてきて、耳郎響香と談笑しつつ、しばらく経つと注文したものが届きました。

 

「……うまっ」

 

 ついつい口元が緩むのを感じながら、耳郎響香との会話に戻る。

 えっと、なんの話……ってそうでした。のど自慢の話でした。共通の話題がそれくらいしかないので仕方ないですね。

 

「私が参加したのは別に歌手になりたいだとかの願望があるわけではないので、本当にただの気晴らしでして。ああでも……耳郎さんは歌手になりたいんですか?」

「……ウチは、ヒーローになりたい」

「……ヒーローに?」

 

「こうやって歌うのは好きだし、楽器を弾くのも好き。でも、将来の夢はヒーローになることなんだよ」

「そうなんですねぇ。まあ、皆さんヒーロー好きですよね」

「魂月は違うの?」

「あ、私のことは言音と呼んでいただいて構わないです」

「言音、ね。分かった」

 

 彼女が頷いたのを見届けて、私は口を開く。

 

「私は……私の将来の夢も、プロヒーローになることです」

 

「幼馴染がヒーローになるからヒーローになりたいんです。幼馴染がプロヒーローとして輝かしい人生を送ることは私の中で既定路線です。いえ、幼馴染がプロヒーローにならなかったとしても、私はちょーゆーしゅーなプロヒーローになりたいと思っています」

「……え、どうして?」

「理由はいっぱいありますよ。金がたくさん手に入るからとか、個性を活かした仕事が出来るからとか、脚光を浴びることが出来るからとかもっと強くなりたいとか金がほしいとか」

「……そっか。まあ理由は人それぞれだもんね、応援するよ」

「ありがとうございます! 耳郎さんはなぜヒーローになりたいんです?」

「人を身体張って救けるヒーローって、かっこいいじゃん」

「……かっこ、いい? そういえば、昔幼馴染も似たようなことを言ってましたね。そうですか、かっこいー……」

 

 ヒーローはかっこいい。そうなのでしょう。言われてみれば確かにそうかもしれません。既存のプロヒーローには興味がないので気づきませんでした。

 

「あとは……みんなを笑顔にしたくて」

「……笑顔?」

「ヴィランが悪さする限り、真の意味で平和は訪れないし。少しでも、平和でみんなが楽しめる世の中になればなぁって思って」

 

 ……おお、凄い。凄いヒーローっぽい答えです。今後から私もそう答えるとしましょう。

 

「言音もふくれっ面だったじゃん。もっと楽しんでほしいなと思って話しかけたのもあるんだ」

「私、めっちゃ笑顔ですよ」

「ああ、確かにパフェ食べてるときは幸せそうな顔してる」

「……甘味は美味しいので!」

 

 致し方なし。甘味は世界を平和へと導くのです。

 

「しかしまあ、ヒーローなんて危険じゃないですか。目指すべきではないのでは? 特に、耳郎さんは他に素晴らしい才がありますし」

「褒めてくれてありがとう。でも、この道を進みたいんだ。まあ……悩んだところではあるよ」

 

 耳郎さんの言葉に相槌を打ち、紅茶を口に運びます。……うーん、あんまり美味しくありません。砂糖とフレッシュでも入れておきましょう。

 

「ウチはヒーローになりたいんだけど。でも、それはそれとして、このままでいいのかって思いもあってさ。楽器も歌も、親から教わったのに。父さんと母さんからは応援してもらって、だから行こうって思えたんだけど……」

 

 いい親御さんじゃないですか。そう思いつつ、ケーキを口に運ぶ。それと同時に紅茶を流し込むと、ちょっと合う気がしてきました。

 ええと、思考がそれました。耳郎さんの話ですね。

 

「私はですねー、趣味は趣味のままにしておくのが良いかと思います。趣味を仕事にしてしまえば、夢と現実の違いに悩まされることになるでしょうから。ですから、耳郎さんの方向性は間違っていないと思いますよ。二足のわらじを履くってのも一興かもしれませんけどね。ヒーローってそういう人多いですし。ただ、どっちにせよ最初から両立させるなんて、土台無理な話ですよ。ヒーロー活動をするのなら、最初はそちらに専念すべきです。オールマイトも副業なんてやっていないわけですし。副業なんてそれから考えればいいんですよ。将来のことを考えるのならば印象を残すために歌ったりギター弾いたりするのは普通にあり……なんですか耳郎さん?」

 

 黙って話を聞かれていることに気がついて、思わずそう問いかけました。

 

「思ったよりは考えているんだなと思ってた」

「耳郎さんは失礼極まりないですね。私は思慮深くおしとやかな女性として知られていますのに」

「それはどうかな」

 

 耳郎響香はニヤニヤと笑いながら私を見ている。心外です、私ほど愛らしくて思慮深いことで知られている人はいないというのに!

 

「そういえば、言音はなにか楽器やってる?」

「幼馴染が少しドラムを嗜んでいたので、私も負けまいとドラムと、あとピアノ弾いてました。どちらかというとピアノの方が得意でしたかね」

「ピアノか……、弾けなくもないけどちょっと専門外かな」

「では何が得意なんですか?」

「ギター」

「はぇ~、ロック」

 

 彼女は嬉々とした表情で、ロックの何たるかを伝えてくれましたが、私には内容の半分も理解出来ませんでした。あんまり興味も分からないのです。爆豪がロックについて興味を示しているのなら、私も興味を惹かれるのですが、そういった兆候はないので気にしなくてよいでしょう。

 

 

 

「ま、理由は違えどもヒーローを目指すもの同士、お互い頑張ろう」

「おー」

 

 掛け声を出したあと、パフェのいちごを口に運びます。

 

 

「アンタはなにか趣味はある?」

「私は、幼馴染の観察が趣味です」

「……」

「幼馴染のことを知るのが好きです。幼馴染と仲良くなりたいと思っています。幼馴染がプロヒーローになりたいのなら、私もなりたいんです。ですから、最近の趣味は個性の強化と筋トレでしょうか」

「……幼馴染、ねえ。そんなに気にしなくていいんじゃない?」

「そんな訳には行きません。彼は私の全てですから」

「……えっ」

「私は彼のことがダイスキですから。彼はこの世で自分の次に大切な存在です。ずっとそばにいたいって思ってます」

「そ、そっか」

 

 顔を真っ赤にして、彼女は相槌を打った。

 何やら勘違いをされている気がしないでもないが、別に訂正するほどのことでもなさそうなので、笑って受け流した。

 

 

 

 

 

 

 それからも私は耳郎響香と話しました。

 私から個人情報を話そうとは全く思えないので、本当に当たり障りない話です。それと、軽く爆豪の話もしてみました。

 

「幼馴染は素敵なんです。クソ野郎ですがそういうところも素敵なんですよね」

 

 耳郎響香は少し気難しげな表情だった。

 

「その幼馴染の話、もう少し聞かせてよ」

「……む、響香さんも私の幼馴染が気になったとか!?」

「いや、それはどうでもいい」

 

 彼女はバッサリと言い切ると、私の目を見たあとに口を開いた。

 

「そこそこ会話して思ったけど、言音は他の話題に比べて、幼馴染の話をしているときは生き生きしているように見えたからさ」

「違いないですが、いやぁやっぱり分かっちゃいますかー」

 

 私がそういうと、耳郎響香は笑った。

 

「では、彼と出会ったときの話でもしましょうか」

 

 

 ♢

 

 幼いときの私は仲の良い存在を作っていませんでした。

 砂場で遊び、本を読んで知識を蓄える。それだけで、私は満ちていました。

 でも、あの時から私の人生には亀裂が入ったんです。

 

「おい出久ゥ!そいつだれだ!」

 

 もしかしたらお気づきかもしれせんが、そう言ったのは幼馴染です。いずく、というのは私のもう一人の古馴染みです。その日は一緒にいたので、私に矛先が向けられたのでしょう。

 

「ことちゃんだよ。ことちゃんは、僕の隣の家に住んでるともだちなんだ」

「出久のダチらしく、インキだな!」

「カツキ、インキって?」

「暗くてジメジメしてるってことだ!」

「おー、そんなこと知ってるなんてカツキすげー!」

 

 子どもの時分でしたので、幼馴染を持ち上げる取り巻きの言動に、そして幼馴染になる少年にもいらついてしまったのです。

 当たり前ですが、今ならそんなことはありません。ですが、当時の私は幼かったから、ジロジロと不快な視線を向けられることが嫌だったんです。

 

「……うざい。きえろ」

 

 私がそう告げると、幼馴染……かっちゃんは目を丸めました。

 

 

 

 ♢

 

 

 

「これがファーストコンタクトです」

 

 鮮明に覚えているその日の出来事を、耳郎響香に向かって話した。

 彼女は微妙そうな、腑に落ちないような、そんな曖昧な表情でジュースを飲んでいた。

 

「……それからかっちゃんとやらを見直せる出来事に繋がるの?」

 

 あえて言うのなら、その後に男女平等パンチをしたことは称賛に値するかと思います。普通そんなことやらないですよね? やっぱりかっちゃんはすごい。

 

「ええ、かっちゃんはすごいですからね」

 

 胸を張ってそう言うと、それ答えになってないからと呆れ顔で言われた。

 

「かっちゃんは凄いんです。超優秀です。器用で何でもこなせますし。運動神経も抜群です。対人戦においても目を見張るものがあり……私にとってはたどり着かなければならない域にいる相手でもあります」

 

「ライバルってやつ?」

「当たらずも遠からず、ですね!」

 

 まだその地点にはたどり着けていないけど、絶対にのし上がります。なぜならば……私はちょーゆーしゅーなので!

 

「響香さん、話を聞いていれてありがとうございました」

「いいよ気にしないで。他人だからこそ話しやすいってのもあるし」

「やっぱり赤の他人じゃないですか」

「あっ、待って今のは言葉の綾というか……」

「分かってますよ」 

 

 私は少し笑った。

 

「あなたは話したいことはないんですか。私で良ければ聞きますよ」

「と、特にない」

 

 言葉とは裏腹に、耳郎響香の顔は何か言いたげに見える。ははーん、悩みごとがあるな。私はすぐに察しました。

 

「“悩みごとがあるなら、話して見てください”」

 

 私はそう聞いた瞬間、少し後悔した。今のは油断だった。無意識に発動してしまったらしい。

 これが私の個性の弱点のひとつ。私はたまにコントロールが出来ていないのだ。過激な言葉は爆豪以外には発さないようにしているので、日常生活には支障はないのですが、たまにやってしまいまいます。気を引き締めていたらこんなことは起こらないのですが、つい気が緩んでしまったのでしょうか。今後は気をつけなければなりません。

 

「実は昔からヒーローになりたくて、趣味のロックだって封印して勉強に取り組んで……そして志望校のヒーロー科に受かったの」

「ほう、それは良かったじゃないですか!」

「言音の言う通り良かったのは間違いないんだけどさ、馴染めるか不安なんだよね」

 

 人間関係の悩みなんて、私には全く分からない。でも、そういうもんなのだろうとは思っている。

 

「気持ちは分かりませんが、見ず知らずの私にも話しかけられたんですし、同級生ともすぐに仲良くなれますよ」

「言音の場合は心配だったって気持ちが勝っただけ。それに……授業に着いて行けるかも不安でね。もちろん受かった以上は雄英で一番になるって気持ちでやりはするけど……」

「……は」

 

 血の気が引いた。

 

「雄英、ですか?」

「そうだよ」

 

 その女は、そう言って少し照れたような顔をした。でも、私にとってはそんなことはどうでもよかった。私にとって大切だったのは、耳郎響香という同年齢の少女が雄英のヒーロー科に受かったことだけなんだ。それだけなんです。

 

「──ああ、そうか」

 

 だから私は、なんだか少し悲しくなってしまいました。

 私が落ちたのに、受かった彼女は上から目線で話を進めていたのです。『私は受かったけどな』なんて腹の底で思い、あまつさえ同情だってされながら話を聞かれてきたのです。それに気づかずに私は仲良くなれた気でいました。……ああ、なんて間抜けだ。

 

 

 心の奥底では、彼女のことを信じたいって思っていたんだ。いや、今でも思っている。でも、感情はそれを拒んでいる。なんか、胸が締め付けられるようでした。

 

「耳郎さん、今日はありがとうございました」

「私こそありがとう」

「そろそろ帰らないと、怖いヴィランに襲われちゃいますよ」

「そんな子供だましみたいな言葉……」

「あはは、近ごろは危ないですからね。ヒーロー志望の雄英の入学生だからと言って油断は禁物ですよ。明日からは学校が始まります。“あなたは真っ直ぐに自分の家に帰ればいい”」

「……うん」

「さよなら」

 

 にっこりと笑顔を浮かべてそう言うと、耳郎響香は振り返ることなく歩みを進めた。そして、店外へと出ていきました。つまり、結局のところ、私の個性に敵うやつなんて爆豪以外にいないわけです。

 

 雄英なんて名門校に入るような実力者であっても、私に敵うことはない。その事実は、私に途方もない自信を与えてくれます。

 

 つまり、私はすごい。容姿端麗頭脳明晰文武両道個性優秀質実剛健精金良玉焼肉定食……

 

「……ヨシ! やっぱり私はちょーゆーしゅー! ですね!」

 

 二人分の会計をし、高笑いをしながら家へと帰ることにしました。

 

 明日からは学校が始まる。寄り道をしている暇はない。私は、私が私であるために一番にならなければなりません。

 

 とにかく楽しく心を穏やかに、これからも頑張っていきましょう!

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